軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第630話 沈黙

少年と捕虜をトラックに乗せ、ひとまず俺達はドラグの待つ中央の拠点に向かう事にした。雨上がりの道には水たまりがあちこちに出来ており、それを避けるように走る。揺れるトラックの中で、俺とシャーミリア達が少年を囲って見張っていた。少年は俺達を見る事もなく項垂れたままだった。

《ドラグ》

《は!》

《犯人は捕らえた。とにかく皆に休息と食事を与えたい》

《準備させます》

《頼む》

念話で拠点にいるドラグに、人間の仲間達の休息について指示を出す。もちろん到着と同時に休んでもらう事にする為だ。俺達魔人と違って、人間の活動できる時間は長くない。

そして改めて少年を見る。日本のどこにでもいるような、短い黒髪の純朴そうな顔をした少年だった。さっきからずっとふさぎ込んだままで身動き一つしない。少年の処分はまだ決まっておらず、向こうについたら事情聴取をして、その内容次第でどうするかを決める。最高指導者である俺が決める事になるだろうが、日本人の中学生と言うこともあり気分はかなり重かった。

「君。名前は?」

俺が少年に聞いてみる。

「……」

「貴様!」

シャーミリアが返事をしない少年に手を出そうとするが、俺はそれを制止した。

《ミリア。申し訳ないが、この件は全て俺に任せてくれるか?》

《差し出がましい真似をいたしまして、申し訳ございませんでした》

《いや、いい》

仲間をやられているのだから、シャーミリアの気持ちも良く分かる。

「答えたくなかったらいいよ。ただ何もしゃべらなければ、君はずっと囚われの身だ。俺達を信用できないのかもしれないが、話す気になったら話してくれればいい」

少年は下を向いたままだ。

「ラウル様…」

アナミスが何か言いかけたが、俺はそれも制した。恐らくは精神系統の能力で強制的に吐かせてはどうか、と言いかけたのだろう。

「むしろ君が聞きたいことは無いか?」

「……」

少年はピクリともしなかった。どうやら何も話す気は無いらしい。きっと俺達がバケモノで、話せば殺されると思っているのかもしれない。念のためこのトラックには、シャーミリア、ファントム、アナミス、マキーナと俺が乗っている。運転しているのはエミルだ。万が一を考えての配置なのだが、ファントムが乗っているだけで委縮してしまっているのかもしれない。

《ファントム、トラメルが用意してくれたクッキーと果実水を出してくれ》

《……》

ファントムの中は時間が止まっているため、作った直後のような状態で保存する事が出来る。俺のドラ〇〇んのポケットだ。ファントムのマントの下に手を差し込んで、フラスリア領で作られた果実水とクッキーを少年の前に出してやる。

「腹が減ったろ?とりあえず基地に飯を用意してあるけど、それまでこのクッキーと果実水でしのげ」

「……」

少年は手を付ける気配もなかった。あんなことがあったから食欲を無くしているのかもしれない、もしくは出血していて具合でも悪いのだろうか?

「毒とか入ってないぞ」

俺は一つ、つまんで口に入れた。ポリポリと咀嚼音を立てながら食うと、グーと少年の腹の虫が鳴った。

「ほら」

更にクッキーを前に差し出す。しばらくクッキーを見つめていたが、少年の手が伸びて一つ口に入れる。

「美味いだろ?知り合いが作ったんだ」

すると少年は堰を切ったように、ぼりぼりとクッキーを食べ始めた。相当腹が減っていたようで一気にかっこんでいる。

「んぐっ」

少年がクッキーを喉に詰まらせてしまったらしい。俺は盃に入った果実水を渡す。

「ごくっごくっごくっ」

少年が一気に飲み干した。

「慌てなくていい」

「……」

そしてまた少年が下を向いてしまった。

「まあいいさ。話したくなったり聞きたくなったら何か言ってくれ」

そして俺も黙った。これ以上少年を刺激しても殻を閉ざしてしまうだけだろう。

「ラウル。基地が見えて来たぞ」

運転しているエミルが言う。

「ああ、そのまま中に入ってくれ」

「了解」

トラックの一団はそのまま基地に入っていく。基地の中では魔人達が、いつでも出撃できる体制をとっていたようだった。俺達のトラック集団を出迎えてくれる。

「じゃ、降りようか?」

俺が、少年に言うが立ち上がる気配もない。

「ミリア、マキーナ。連れて行け」

「「かしこまりました」」

俺が先に降りて、シャーミリアとマキーナが少年を連れて降りて来た。その後ろからアナミスが降りて来る。最後にファントムが降りるとトラックが少し浮き上がった。

「ラウル様」

ドラグが駆け寄って来た。

「ドラグ。遅くなったな」

「いえ」

ドラグが少年をじっと見ていた。

「とりあえず彼は俺が預る」

「は!」

「先生とみんなに食事と休息を」

モーリス先生とカトリーヌ、マリア、ハイラは、徹夜での強行軍だ。人間の彼らは、かなり疲労がたまっているに違いない。

「先生。食事とお休みの準備が出来ております」

「わしはまだ大丈夫じゃぞい」

「ご無理をなさらずにお願いします」

俺が言う。

「まあ…そうじゃな。まずは甘えるとするかのう」

「では先生」

マリアに連れられて、モーリス先生はドラグが用意した建屋へと入っていく。

「ラウル様、私は」

「カティはハイラさんを頼む。ハイラさんも疲れたろ?」

「すみません」

「エミルとケイナも休んでくれ」

「俺は大丈夫だ。ケイナは休んだらいい」

「私も何にもしてないから問題ないわ」

「まあ、無理はしないように」

少年はまだ下を向いて、シャーミリアとマキーナにぶら下げられるようにしている。よほどのショックで、身動きすらとる事が出来ないのかもしれない。

「ドラグ」

「は!」

「後方のトラックにいる囚人たちを頼む」

「御意」

ドラグは基地の進化魔人達と、他の建屋へ捕虜たちを連れて行った。

「じゃあ俺達も行くか」

俺がシャーミリアに言う。俺達は先生達が行った建屋とは別の、堅牢な石造りの建造物へと入っていく。捕虜を収監するための、留置場のような場所だった。少年は抵抗する気配もなく、黙ってされるがままになっている。

「よし。そこのベッドに寝せろ」

部屋の中には人が寝る為のベッドがあった。木で出来ておりマットも何も敷いていない硬いベッドだ。少年は力なくその木のベッドに横になった。少年の他には、俺、シャーミリア、ファントム、アナミス、マキーナ、エミル、ケイナがいた。

《ドラグ、こっちにも一食分たのむ》

《は!》

念話で少年の食事を頼む。

「さてと…」

少年は俺達に背を向けて壁に向かい寝っ転がってしまった。顔が見えなくなりその表情を見る事は出来ない。もしかしたら具合が悪くて、ただ目を瞑っているだけかもしれない。

「悪いけど、俺達がずっと監視で張り付く事になってるよ。君の力は未知数だからね、とにかく何もしないでいてもらえるとありがたい」

「……」

「まあそのまま聞いてくれたらいいよ」

「……」

「この世界は君の居たような世界じゃない。この世界には剣士や魔法使いがいるんだ。そして君は魔法使いと言われる特殊な能力を持った人だ。だけどこの世界じゃ魔法使いは珍しくないし、魔法使いは万能でもない」

俺が言うと少年がピクリと動いたような気がした。何に反応したのか分からないが、俺が言った内容に気になる事があったのかもしれない。そして俺は話を続けた。

「そして、君のように向こうの世界から、こちらに飛ばされた人は他にも居るんだよ」

すると、少年の頭がわずかに回るように動く。

「まあ、いきなりだったからびっくりしたろう?そしてその力の事だけど、どうやら渡って来た人間は魔力が強いらしいんだよ。君も多分に漏れずそのようだ。俺達のようにこっちの世界で生まれた人間とは違うらしい」

《ご主人様。少年の心拍数がかなり上がっております。どうやらかなり興味を示しているようです》

《俺もそのつもりで話しているからね》

《さすがはご主人様。人心掌握に長けていらっしゃるのですね》

いやいや、シャーミリアが人の心を分からなすぎだと思うけど。てか俺や先生、カトリーヌ、マリアの心はとっても良く分かってくれるのに、なんでそれ以外の他人になると全く分からなくなるのか不思議。

「失礼します!」

進化魔人が肉のスープと肉焼きと水瓶を持ってきてくれたようだ。相変わらず野菜の類は一切ないらしい。だが匂いはそこそこ良いし食欲がそそられる。

「ご苦労さん!美味そうだね!」

「ありがとうございます」

「下がっていいよ」

「は!」

進化魔人は料理を置いて部屋を出て行った。部屋の中にはうまそうな肉の焼けた匂いとスープの湯気が充満する。

「これ全部食っていいよ」

しかし少年は反応しなかった。

「うーん。意外に絶品なんだぜ…」

反応しない…

「じゃあ俺が食おうかな」

俺がそう言うと、グーッ!少年の腹が豪快になった。失血してるし動いたしで、絶対腹が減っているはずだから、そりゃ豪快に腹も鳴るだろう。

「いいか少年。どんな状況でも飯が食えるようじゃなきゃ、こっちの世界は生きてはいけないぞ。どうにかしたいと思うなら食えよ」

すると少年がおもむろに起き、目の前の料理を見てジッと固まっている。そしてそのスペアリブのような料理に生唾を飲み、ゆっくりと手を伸ばして骨の部分を掴んだ。

「さあ」

少年は一口、肉を食った。

「美味いだろ?」

堰を切ったようにがむしゃらに肉にかぶりつく。恐らく魔人が持ってきたのは、ビックホーンディアの肉だろう。牛肉よりうまみがあって絶品の肉だった。

「ほら水だ」

俺は盃に、水瓶から水を注いでやる。

「ゴクゴクゴクゴク」

一気に飲み干した。

「とにかく食わないとダメだ。君はかなり出血したから血が足りてない」

あとは何も言わず、少年がとにかく料理を食らいつくすのを見ていた。全部の料理を食って少年がまたうなだれる。

「でもよかったな少年」

今度はエミルが声をかけた。

「こいつが駆けつけなきゃ、むしろ君死んでたぜ」

エミルの声に、少年がゆっくりと俺を見上げる。

「少しは落ち着いたか?」

俺が声をかけると少年がまたうつむいてしまった。

「じゃ、寝ろ」

「……」

「休まなきゃ体は回復しないぞ。とにかく寝ろ。安心できるかわからんが部下がここにいてやる」

むしろ…俺達がここにいた方が安心できないのかもしれないが、やられた魔人の仲間の中にいるよりは安全だろう。まあ俺の系譜の下にいる奴らが、勝手に手を出す事はないが。

「さあ、ご主人様がそう言ってくださっているのです。横になりなさい」

シャーミリアが優しく言うが、少年は動かない。もしかしたら反抗しているのかもしれない。

《アナ》

《はい》

アナミスが眠りを誘う薄紫のモヤを出して少年を包み込む。するとコテン、とひっくり返り寝息をたてはじめた。

「じゃあ、エミル。俺達は先生の所に行こう。シャーミリア達はここで見張っててくれ」

「かしこまりました」

念のためシャーミリアとファントム、マキーナ、アナミスを少年の見張りにつけて、俺とエミルとケイナが部屋を出ていく。シャーミリア達に任せておけば万が一も無いだろう。

「あの少年も災難だな」

俺が言う。

「だな。よりによってゲーム世代というかなんというか、ゴブリンやオークを見てスイッチ入っちゃったんだろうな。きっと勝手に殺して良いとでも思ったんじゃないか?」

「…まあそうだろう。うちの国民を殺した事は許せないが、あいつが生きて来た背景を考えると無理もないかもな」

とはいえ酷い話だ。何もしていないのに、突然人間に殺されるとか不条理極まりない。

「ラウルも災難だな」

「まったくだ」

「なんでか知らんけど、お前の隣にいると不思議な出来事に事欠かないというかなんというか」

「エミル、面白いとか言うなよ?俺の民が死んだんだ」

「もちろん言うつもりはないよ。そういうつもりで言ったんじゃない」

「まあ、そうだな」

だがエミルの言うとおりだった。この世界に来てから平凡な日々は幼少の頃だけ。あとはめちゃくちゃ波乱万丈な日々を送っている。

「しかしなんで彼はこっちに呼ばれちゃったんだろうな?」

「それに関しては全く分からない」

「だよなぁ…」

俺とエミルが黙る。

「あのう、ラウル様?」

するとケイナが口を挟んで来た。

「なんだいケイナ?」

「あの光の柱ですが、ハイラさんが閉じ込められていた、巨大魔石から生み出されたものですよね?」

「ああ。魔石が産んだ魔石粒を飲んだ人間が死ぬとああなる」

「ハイラさんやキリヤやカナデも向こうの世界の人間ですよね?ということは、少年が来た事に何か関係があるのではないでしょうか?」

「うん、それも考えた。だけど何が関係しているかがわからない」

「ならばハイラさんに、もっと話を聞いてみた方が良いのかもしれません」

「ハイラにか…」

「はい。何か原因があるような気がしてならないのです」

「わかった。少し話をしてみよう」

そして俺達は、モーリス先生たちが食事をしている部屋へと入った。先生達の食事はあらかた終わり、そろそろ休みに入ろうかというところだった。

「おお、ラウルよ。少年はどうじゃった?」

「食べて寝ました」

「それは何よりじゃ。話を聞くにせよ体力がいるからのう」

「はい」

「ラウルも、これから食事かの?」

「ええ。そうしようかと思います」

「ならばちょっとだけ、わしらも混ざろうかの」

先生とカトリーヌ、マリア、ハイラが席に座っている。俺達が空いた席に腰を掛けると、魔人達が料理を運んできた。さっき少年が食べた料理と全く一緒だった。

「それで、何か聞けたかの?」

「それが全く口を開きません」

「うーむ。いろいろと刺激が強かったのかもしれんのう」

「はい。平和な世界から、いきなり死と隣り合わせの世界ですからね。数日は無理な気がします」

「あと、少年の体が心配じゃの。昨日まで全く魔法を知らんかった奴が、膨大な魔力を放出しておるからのう。体に何も無ければ良いのじゃが」

「やはり負担がかかるのでしょうか?」

「少しずつ順応させていくもんじゃからのう。薄氷ような器で暴力的な魔力を放出し続けたらどうなるか、わしにもよう分からん」

「今はシャーミリア達が押さえてます」

「なにも無いといいがのう」

「ふぅ…そうですね」

思わずため息が出る。

「作戦があるのじゃから、悠長なことも言ってられんじゃろうしの」

「はい。いっそのこと二カルス大森林基地にでも、預けてしまおうかとも思っています。あそこならティラだけでなく、数回進化した魔人もいると思いますので、少年を制御するのは可能かと」

「処分はせんのか?」

「私なりの勝手な言い分ですが彼は同郷です。私の民を殺したとはいえ、訳も分からずこの世界に放り込まれてパニックになったというのも事実。まあだからと言って、無差別に仲間を殺した人間を無罪放免にも出来ませんけど」

「まったく、よりにもよってラウルの民に手をだすとはのう」

「エミルにも言われました」

「うーむ」

先生も考え込んでしまった。

「あの!」

「なんだい?」

ハイラが話し出す。

「私と一緒に転移して来た人間達も身勝手で、自分の価値観でこちらの世界で暴れていたのです」

「そのとおり。彼らはハイラさんのように、訳も分からない相手の言う事を拒絶しなかった。奴らの言いなりになって力を貸したんです」

「ですが、もし力を貸さなかったとすればどうなっていたでしょう?」

「もしかしたら、アヴドゥルから殺されてしまったかも」

「だとすれば選択肢は無かったのかもしれません」

「…放り込まれた環境によって違う…か」

「私と一緒に来た人たちも仕方がなかったのかもしれません」

「まあ、そうは思います。でもハイラさんは奴らの言う事を断った。100パーセント自分の意志で考えて、自分の命を顧みずね」

「はい…私はそういう性格ですから」

「結果。いいように操られる事もなく、アトム神に救われ最終的に俺達に救われた」

「はい」

「まあ…日本の中学生に自分の意志で考えて、判断までしろって言うのも酷ですけどね」

「確かに、まあ私は中学の時から変わってましたけど」

うん、なんとなくそう思う。彼女は自分の信念を貫いて、周りとの協調性を欠くタイプかもしれない。だがそのおかげで一緒に呼ばれた馬鹿どものように、俺達から魂核を触られなくて済んだ。ロボットのように一生従うしかない彼らとは違う。

「俺の方からも、ハイラさんに聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「ハイラさんは魔石に取り込まれている時の記憶は全くないですか?」

「…どうなのでしょう?実はあれから見る夢があるのです」

「どんな?」

「みんなと協調性が取れずに一人ぼっちになる…小学生ころの夢です」

「それは詳しく聞きたいですね」

「わかりました」

ハイラは自分の記憶を手繰り寄せるように話をし始めるのだった。ケイナが言ったようにハイラを包んでいた巨大魔石が生み出した、魔石粒が光柱を生み出したとなると、今回の件に何らかの関係性があるのかもしれなかった。