軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第631話 輪廻の魔石

ハイラは一生懸命、記憶を手繰りよせながら話を続けていた。光柱に一番関係性が高いという観点から、ハイラに話を聞きたいと切り出したのは俺だ。ケイナも後押ししてくれたので、とにかく話を聞きに来たのだ。

だったのだが‥

ハイラとの話の途中で気づいた、この世界に来た時の環境によって、選択肢が限られてくるという事実が俺の頭の中を廻っていた。

《そうだよなあ…》

俺は魔人の子として生まれ人間の貴族として育った。エミルはエルフとして生まれ捕虜としてサナリアで強制労働していた。オージェは龍の子として人間の姿で生まれ、単身海を渡って大陸に来た。グレースは卵から孵ったあげく、奴隷として生きてバルギウスの2番大隊長に上り詰めた。転生した4人の境遇は全く違う。違いすぎるのだが、俺達4人は前世で大人だった事と、この世界に来て赤ん坊のころからの助走期間があるという共通点があった。いわゆる少しづつ心の準備ができて来たという環境がある。

だが少年はどうだろう?

いきなり飛ばされた訳の分からない世界で、非力だった中学生が膨大な魔力を身につける。それを使って見たくなるのは心情だろう。俺の部下を殺したことは許せないが、力をふるってみたくなる気持ちは分からなくもない。

ハイラと一緒に来た他の奴らも魔力を好き勝手に操っていた。だが彼らがあの少年と違うのは、魔導士から少しずつ教わったと言っていた事。彼らにも多少の助走期間があったという事になる。

《どうするかな…》

俺達やハイラと来た日本人らは元々大人で、アイツは中二…。やったことを考えれば、この世界のルールならどちらも無条件で処刑だが、日本人中学生という事だけで俺はそれを決断できなくなってしまった。将来的に一国の長を務める自分の立場を考えれば、それは甘すぎるとしか言いようがない。少年が悪い事は間違いないのだ。いかに違う世界に来たからといって、自分の常識で人の国の国民を、無差別にぶっ殺しまくってはいけない。ゲームとは違うのだ。

モーリス先生が当たり前のように「処分はせんのか?」と聞いて来たのはこの世界ではあたりまえの事だからだ。優しいお爺さんでもそう思うのだ。

《困った…》

それが分かっていても処刑など出来ない。彼は少し前まで日本という平和な国で、中学生だったのだ。俺やオージェ、エミルやグレースだって平和な中学生時代があった。そう考えると軽々しく処刑など出来ない。

正直なところ…、俺には彼が可哀想だという感情があるのだ。それは恐らくエミルも同じ気持ちだろうと思う。

《だが部下をやられて許せないという気持ちもあるし、罪を憎んで人を憎まずと言ったところだろうか?でも魔人達が…》

俺は魔人達の心情も考慮しなければならない。少年は自分たちの仲間を無条件で殺したのだ。デモンと何が違うだろうって話だ。全く違わない。魔人達からすれば目の前で同僚を殺害した犯人なのだ。

もちろん俺の系譜下にいる以上、俺の決断に逆らう者はいないだろうが、それでも何らかの歪が生まれかねない。

どうするのが一番いいのか?

いくら考えても答えが出てこない。とにかく少年を保護するべき、という日本人的な感覚は残っている。自分の仲間を殺した相手を保護というのも複雑だが、間違いなく俺の心にはそういう気持ちがあった。だからいろいろと話を聞いて解決策を練ろうと思ったのだ。

だが少年が全く喋らなくなってしまった。

《心閉ざしちゃったなあ…》

捕獲した戦闘の現場で、脅して話を聞いたのがいけなかったのだろうか。もしかするとシャーミリアがサーフィンのように上に乗りながら、中機関銃をおでこにつきつけたのが良く無かったのかもしれない。もしくは肺を潰しそうになったのがいけなかったのか…俺が足を撃ったのが悪かったのか…

《だがあの少年をメンテナンスしている時間なんてないぞ》

さっきからハイラが一生懸命喋ってるのに、頭に入ってこない。詳しく聞きたいと俺から言っておきながら、思考の迷路に迷い込んでいる。

「どうじゃなラウル?」

先生の言葉がいきなり飛び込んで来た。モーリス先生は人に言葉を聞かせる力がある。俺の反応がないので気になっただけかもしれないが…

「そうですね…」

全く聞いていなかった。せっかくハイラが一生懸命に話してくれたのに、ところどころしか耳に残ってない。

「やはり、幼少の頃の体験が原因なのでしょうか?」

カトリーヌが言う。

《えっと、幼少の頃ハイラに何があったんだろう?》

「そうかもしれないな…」

俺が適当に答える。

「先生も幼少の頃に起きた出来事が、きっかけになるとおっしゃってましたものね?」

マリアが納得したように言う。

「そうだよね…やはり幼少の頃のあれだよね…」

俺の答えが更に適当になる。

「うむ。じゃがあれは、あくまでも魔法に対しての想像力と言う意味じゃ」

「魔法の…」

なんとなく話している内容が分かりかけて来た。魔法の出現は、幼少期の体験や潜在意識がきっかけになっているという話は覚えている。そのあたりをうっすら思い出した時、俺はふとエミルの顔を見た。

‥‥。

エミルは間違いなく、お前…いま話聞いてなかったろ?の表情を浮かべている。長い付き合いなので、俺の表情から読み取ってくれたようだ。逆に俺がじっとエミルを見ていると、察したように口を開いた。

「あれですね先生。ハイラさんの夢の話を要約すると、人よりも先に分かってしまう力がハイラさんにはある。誰も答えが分からない答えを一人だけ分かってしまったり、遊んでいても危険を察知してみんなに教えてあげれたり。でも先に分かってしまうからこそ、友達の輪からはみ出てしまう。先生達も気味悪がっていたふしがあり、父親はそれが原因で出て行った。それは幼少の頃から大きくなるまで続き、孤立した人生を送って来た。結果こっちに呼ばれた連中とも確執が生まれ、見知らぬ地でも孤立してしまう事になる。それがゆえに幼少期からの孤立している夢を見るようになった。もしかすると巨大魔石に閉じ込められていた時にも、そういった夢を見ていたんじゃないかと、そう言う事ですね?」

エミルの長文乙の台詞が終わった。

「要約…というか全てじゃの」

「あ、すみません」

エミルが俺をチラリと見た。

サンキュ。心の友よ。良かった…これがアニメやゲームだったなら長いハイラの回想シーンとなって、本編とは関係のない展開になっている所だったよ。

「そこなんですよね!」

エミルの説明を聞いて俺の中で、点がつながった。

「なんじゃ?」

「ハイラが魔石に閉じ込められていた時にも、夢を見ていたと仮定しましょう。魔石の中でも、孤立していく事を悲しんだとは考えられませんかね?サイナス枢機卿も聖女リシェルも、魔石粒は涙じゃないかと言っていましたし」

「確かに言っておったの」

「異世界に呼ばれた不安がハイラにその過去を思い出させ、魔石の中でも夢を見させた。上手く言えませんが、時が止まった魔石の中で流した涙が、行き場をなくして出てきた。そんなところではないかと思うのです」

「ふむ…言うなれば、魂の螺旋に運ばれて生まれ出た結晶と言ったところじゃろうか?」

「魂の螺旋に運ばれた結晶…」

何という神秘的な響きなんだろう。俺はアナミスの力をフィルターにして、自分の魂の根源を見た感覚がある。なんとなくその感覚が分からないでもなかった。

「物悲しく情緒的なお話ですわね」

カトリーヌが言う。ハイラもマリアもしんみりとした表情で聞いていた。

「魔石粒はハイラさんの記憶が紡いだ、心のかけらと言う事でしょうか?」

マリアは先生が言った事を更にかみ砕いで言う。

「ですが、そのかけらを人が飲むと何故あんな光柱が出るんでしょう?」

ケイナが言う。

「先生。そこで私が少し想像がつく部分があるのですが?」

俺の気が付いた事を話してみる。

「なにかの?」

「私が、フラスリアでケイシー神父に始めて出会った時に、強制的に砂漠に転移させられたのですが、あれも体内に何らかの仕掛けがあったと思うのです」

「ケイシーは死ななかったようじゃが?」

「まあ恐らくは全く違うものなのでしょう。アヴドゥルの仕掛ける転移罠や、インフェルノは1回発動すると消えます。発動と同時にケイシーの体内で、それが消滅したのではないでしょうか?」

「…ふむ」

先生が考え込んでいる。

「かなり核心をついているような気もするがのう」

「そのあたりまでしか想像は出来ていないですが」

「いや、良いぞ。それほど遠くはないじゃろう。敵さんのあれは魔法陣を記した何かを、対象に飲ませ発動させたもので合っていると思うのじゃ。それは敵がハイラ嬢の魔石粒を知って手掛かりを得て、真似てやってみた事のような気がするのじゃ」

「手法を真似たという事ですよね?」

「そう言う事なのかもしれん…じゃが彼奴らは、その後の効果まで確認できていなかったという事じゃろうよ。もしくは人間に飲ませて試験をしている最中に、我々に攻めこまれて結果を見ずに逃げたのかもしれんの」

「人間に実験的に飲ませていたと?」

「そう言う事じゃ」

そう考えるのが一番道筋が通っている気がする。敵が魔石粒をどれだけ回収していったのかは分からないが、もしかすると逃げた先でも同様の実験をしている可能性は高い。

「先生とラウルの説が正しいとすれば、今回あの少年が異世界から呼び出された事が結果ってことですか??」

エミルが言った。

「そうなのじゃろうなぁ…」

「なぜ、異世界の子がこちらに?」

「うむ。ちょっと聞きたいことがあるのじゃが、ハイラ嬢とあの少年の国は全く一緒かの?」

「一緒です。日本とう国の学生の服を着ております」

ハイラが言う。

「ハイラ嬢は学生の頃に、もっと周りの子達と仲良くしたかったのでないかのう?」

「はい。私はいつもカヤの外でしたから。でも浮きたくて浮いたんじゃないんです。良かれと思って自分が気が付いた事を指摘したり、気がついたらすぐに口に出していただけなんです。それがあまりにも的中するので、皆が白い目で見始めて‥‥。じつは私が歌に没頭するようになったのも、それが原因なのです」

「歌なら一人でも出来るからか?」

俺が訪ねる。

「はい」

「どことなくもの悲し気な旋律なのは、そのせいなのですね」

カトリーヌが言う。

「すみません。陰気で」

「そんなことはないわ。とても素敵な魂が揺さぶられるような…。魂が?」

「ふむ、どうやらあの歌の力の要因はそんなところにありそうじゃな」

どうやら歌も彼女の螺旋に関係しているようだった。

「ハイラの夢はいつも、いつ頃の夢を見るんだい? 」

「周りから浮き始めるのが顕著になった、中学2年生ぐらいから大学までの夢です」

「小学校ぐらいまでは?」

「小学校のころは、周りも無頓着でそれほど浮く事はありませんでした。少し引っ込み思案なのもありましたし。ですが保育園の時には何かあったような気がするのです」

「何が?」

「恐らく嫌な記憶で忘れてしまったようです」

「そうか」

「いつも無視されたり、陰口を叩かれたり。言ってみればイジメのような夢ですね」

「ラウル」

「ああ」

エミルと俺は目を見合わせる。

「ラウルは今の答えから、どう答えを導いたのじゃ?」

「ハイラさんの気持ちが同じような境遇の子を呼んだ。そう結論づけました」

「少年の話を聞いたのじゃな?」

「捕縛する時に少し聞きました。どうやら前の世界でハイラさんと似たような事をされていたようです」

「なるほどのう。向こうの世界を知っておる、おぬしらだからこそ気が付けるものなのじゃろうな?」

「恐らくはそうです」

もしかするとグレースあたりが特に共感する話かもしれない。あいつも学生の頃からずば抜けていたらしいから、ハイラと似たような気持ちを抱えている。

「きっかけはハイラ嬢の螺旋が開いてしまった事なのかもしれんのう」

「螺旋が開く?」

「ハイラ嬢は、皆に気を許してラシュタルで歌を歌ってくれたのじゃ。それが何かハイラ嬢の魂の雪解けを生んだのやもしれん」

先生の言う事で思い出したことがある。

「ハイラさんはオーディションでダメだったんですもんね…」

「はい」

「なるほどです」

彼女の歌は魂を震わせるような美しさだった。俺達はその歌声に聞き惚れて絶賛した。だが恐らく前世の商業ベースに乗るような歌声ではないかもしれない。ありきたりな歌ではなく、新たなジャンルが生まれそうな歌だった。オーディションはもちろん売れる歌手を探す場所だから、彼女の歌は前世では受け入れられなかったのかもしれない。

言って見れば、俺達に認められたことで心の何かが変わったのだろう。

「先生。少年の事は、それが原因でしょうか?」

「発動のきっかけにはなりえるかもしれんのう」

「えっと…」

「なに?」

「分かりやすく言うとどんな感じですか?」

どうやらケイナは分からなくなってしまったらしい。

「子供の頃から寂しかったハイラ嬢が、こっちの世界でも同じ目にあって更に心を閉ざしてしまったのじゃ。じゃがラウルらと一緒に行動するうちに、その能力が発動して光柱が本来の力を示し出したといったところかの」

「なんとなく、わかりました」

「話を戻すようじゃが、螺旋の魔石とあえて呼ばせてもらうがの、あれはハイラ嬢の螺旋をなぞっているという事じゃ。そして死んだ者の螺旋を媒介にして、あの少年と繋がりこちらに呼び寄せたという解釈が一番近いように思うのじゃ。ハイラ嬢の螺旋の扉が開く事によっての」

「ああ…」

「なるほど」

「わかりやすいですわ」

「そうなのでしょうね」

俺、エミル、カトリーヌ、マリアがうんうんと頷いている。生粋のエルフであるケイナには、少々わかりづらいようだった。エルフは元々長寿だし、輪廻を感じるには相当の長い歴史を辿らないといけないだろう。この際ケイナの事は置いておこう。

「と言うか…先生」

「まずいのう…」

「まずいですね」

「そうですね。大変な事だ…」

俺とモーリス先生とエミルが事の重大さに気が付いた。

「どうしたのです?」

「カティ…ファートリアに光柱はどのくらいあったと思う?」

「あ!」

今の言葉でこの場の全員が気が付いてしまった。ファートリア神聖国には数えきれない多数の光柱が立っている。

「す、すみません!」

ハイラもそれに気がついて謝ってくる。

「いやハイラさんが悪いわけじゃないさ」

「そうじゃよ。元々こちらに呼んだ奴らが悪いのじゃ、ハイラ嬢が気に病むことは無い。そして、これはまだ予測の範疇じゃ、実際に確証が取れているわけじゃないのじゃよ」

「は、はい」

「だけど、あの少年を処刑してはならない理由が出来ました。彼は光柱を体現した生き証人です。彼を生かしておかねば、謎も解けませんし解決の糸口も見えないと思います」

「それは間違いないじゃろうな」

「はい」

ここでの話はまだ仮説の域を出ないが、可能性がある以上は検証する必要がある。慎重に事を運ばねばならないだろう。すべての要因を集めると、ここで話したような結果になる可能性は高い。

間違ってあの少年が死ななくて本当によかった。