作品タイトル不明
第521話 電気蛇
このダンジョンは本当に危険な場所だった。
まさに人間最高到達点は29階層が限界だったと言っても過言ではない。もしその昔に冒険者が30階層に到達していたとしたら、カオスドラゴンの黒い炎で一瞬にして消え去っていただろう。
そしてその先の59階層までは魔人と現代兵器があるから進めたようなもので、人間には到底到達できるはずが無かった。さらに60階層に到達したとしても地竜が住んでいる…
無理ゲーだ。
その昔の冒険者が29階層で引き返したのは運が良かったとしか言いようがない。相当勘のいい人がパーティーのリーダーをやっていたのだろう。
「こりゃ無理じゃったな」
モーリス先生がポツリという。
「はい、人間には絶対に不可能だったと思います。むしろ人間がここに入ってくることが間違いだったと思えますね」
「うむ。しかも魔物の暴走ときたもんじゃ」
「うんざりするほどいましたね」
そして今、俺達は89階の魔物との戦いに備えていた。ダンジョン進行速度はさらに遅くなり60階層から88階層までは2日かかっている。これまでの倍の時間をかけてようやくここに来たのだった。61層から88層までは信じられないような魔物の連続だった。
「しかし神秘的な光景じゃのう」
「ええ、クリスタルですよね」
「そうじゃな」
俺達がいる88階層はそこら中にクリスタルが生えており、一塊だけもって帰ったとしてもかなりの財産になりそうだった。さらにしこたま倒して来た魔物たちの魔石をファントムが大量に食べているので、地上に戻ったら有効活用するためにドワーフに預けようと思う。
「それで次の層にはどうやら大蛇が数匹いるようなのです」
今は一層ごとに、こうやって慎重に調べながら降りている。直接侵入するのは危険と判断しカララの糸で調べているのだった。
「もちろん、ただの大蛇ではないじゃろうな?」
「ええ、今までの階層の事を考えると間違いなく。おかげでここまで何台もの車両をダメにしました」
「あのトカゲなぞは厄介じゃった」
「はい、まさか車両の足回りが凍るとは思いませんでした」
「そしてどこにいるかわからんかったしのう」
「本当です。魔人達にはしっかり見えていたようですが、ナイトビジョンゴーグルがないと我々には無理でしたね」
「意外に炎に弱いようじゃったがの」
「おかげで火炎放射器で一掃できました」
そう、カメレオン系の魔物は液体窒素のような液を吐いて車の足回りを凍らせたのだった。さらに体が見えない為、どこから攻撃されているのか分からなかった。ナイトビジョンゴーグルENVG-Bがあったおかげで、的確にとらえる事が出来たのだった。
「珍しい魔物の素材も確保してくれて感謝しておるわい」
「先生も見た事ないものばかりなんですね」
「そうじゃな、知らん魔物がたくさんおったのう」
「はい」
俺達がここに来るまでは見た事のない魔物ばかりだった。数日でこの階層まで降りてこれたのは魔人達の力が大きい。俺の兵器が通じない魔物もいたからだ。
「あのハサミのある魔物もやっかいじゃったの」
「はい、あの甲羅が固くて通常弾ではどうにもなりませんでした」
「あの魔獣にも車はおしゃかにされてしもたのう」
「まさか鉄を切断するとは思いませんでしたから。踏み潰して行けるかと思った私の間違いでした」
「でもわしも知らんあれをラウルが食おうと言った時は驚いたのじゃ」
「おいしそうでしたので」
「虫のように見えたが、ラウルの目には違うように映ったようじゃな」
「はい」
大きさとしては1メートルほどの魔獣だったが…その見た目はまんま蟹だったのだ。シャーミリアに調べてもらったところ、肉に毒はないようで俺は早速解体して食べてみた。
そう、蟹だった。
しかもタラバのような身で毛ガニのような濃厚な味わい。なぜか日本人のキリヤだけが俺と一緒にバクバク食い始め、そのうち俺達につられモーリス先生とカトリーヌが食べ始めた。美味い美味いと黙々と食べているうちに、いつの間にかシャーミリアとファントムを除くみんなで食べ始めたのだった。
「あれは美味しかったです」
「本当に。焼いた後でプリプリの身がたまりませんでした」
カトリーヌとマリアが思い出してほっこりしてる。そう…カニという物はそういうものなのだよ。
「あの甲羅は防具にも使えるじゃろな」
「はい、軽いですし強度も申し分ないので、あれも持って帰りたいと思っています」
「うむ」
正直、グレースを連れて来るべきだったと後悔している。大きい物をファントムが飲みこむ事が出来ず、トラックで輸送しなければならなくなりそうだ。分解していけば十分飲み込むことは出来るだろうが、それでは素材の利用価値がなくなってしまう。なので帰りにトラックで回収しようという事になった。
「じゃが怪我もするようになったからのう、油断は禁物ということじゃな」
「はい、それは私のせいです。先を急ごうと思うあまり深層の魔物を舐めてました」
「じゃな。そしてこの先の大蛇じゃが…」
「どんな能力を持っているのでしょう」
「調査の方法が見つからんのう」
「はい」
不用意に89層に侵入する事はしなかった。カララの情報だけでその先の魔獣の確認はしたものの、能力の確認は出来ていない。
「カララの糸で銃を操り、遠隔で攻撃してみるか」
「わかりました」
アグラニ迷宮の深層に入ってからは、ほぼカララだよりになっているように思える。それが皆の安全のためにも一番いいと思えたからだ。とりあえずカララの糸の先にUZIサブマシンガンをだし、一匹の大蛇に向かって銃を乱射してみる。
「どうだ?」
「火力が弱いようです。逃げはしますが損害を与えているようには思えません」
「ならば爆弾でやってみるか」
「はい」
俺はカララの糸の先に大量のTNT火薬を呼び出して、カララが信管の準備をしていると…
ドゴーン
いきなりTNTが爆発してしまった。準備をしている途中だったので俺はカララを見た。
「操作ミスか?」
「いえ、信管はまださしていません」
「信管を使っていないのに…」
「はい」
どうやら何らかの能力が働いたらしい。信管を設置していないのにTNT火薬が爆発する?なんでだろう?
「じゃあ、AT4ロケットランチャーでやってみるか」
「はい」
今度はカララの糸の先にロケットランチャーを召喚した。
ドゴーン
「どうした?」
「ロケットランチャーが爆発しました」
「間違いないな、あの蛇に何かされているぞ」
「いかがなさいましょう?」
「糸で大蛇を捕えられるか?」
「はい」
次の瞬間。カララの身にパシッ!と火花が走り、少し煙を出しながら倒れてしまった。
「カララ!」
「すみません。不覚をとりました」
「ファントム!エリクサー」
スッと出したファントムの手にエリクサーが現れ、俺はそれをカララに振りかけた。
「もう一本」
再び出たエリクサーの瓶をあけカララを起こして、口に含ませる。
コク
シュウシュウ
カララから煙が発して復活してきた。
「ふう、申し訳ございませんでした。糸を切るのが遅かったです」
「電撃か?」
「かもしれません。多少の事では問題ないはずなのですが」
「とりあえず。カララは休め」
「すみません」
「カララ嬢は大丈夫なのじゃな?」
「カララ!大丈夫!」
「念のため私も回復魔法をかけます。」
モーリス先生とマリア、カトリーヌが心配して声をかけた。カトリーヌが回復魔法をかけるとカララはすっかり元に戻る。
「ありがとう」
「よかったわ」
さてと…
どうやら敵の正体は、電気ウナギならぬ電気大蛇だった。しかもカララが倒れるようなとびっきりの電撃を放つらしい。スタンガンが逆流したようにカララが感電したのだった。
「ならば私奴とファントムで行きます。電撃などは問題ございません」
「わかった。ならば俺とマリアが車両で侵入して援護射撃を行う。モーリス先生たちはこの88層に残ってください」
「わかったのじゃ」
「ラウル様。私も電気は通しません」
「ならルフラとカトリーヌも来てくれ、モーリス先生とキリヤ君はカララとゴーグで守ってほしい」
「「はい」」
「装備を変更する」
俺はシャーミリアとファントムの為に、SSK.950 JDJライフルを召喚した。 なんと24.1x75mmの巨大な弾丸を使う、物凄いぶっとい銃身で規格外のパワーの破壊力を持つライフルだ。その分50㎏の重量と物凄い反動を伴うが彼女らであれば全く問題ない。
「いくぞ!」
「は!」
俺達はここまで乗って来た96式装輪装甲車に再び乗り込んだ。シャーミリアとファントムが先行し俺とマリアと、カトリーヌ、ルフラが乗る車が降りていく。89層の入り口に着いた俺達は広いその坑内をみた。ナイトゴーグルでもよく見えなかったので、坑内に向けて120㎜迫撃砲で照明弾を打ち上げた。
パアアア
坑内が明るく照らされると驚いたように大蛇たちが動いた。そのおかげでナイトスコープで位置を掴むことができた。
「マリア、撃てるか?」
「問題ございません」
マリアは天板を開けて、最も得意とするマクミランTAC50に暗視スコープを装着して覗いている。
《こちらもどのくらいの電撃に耐えられるか分からない。マリアが狙撃で敵の気をそらした瞬間にシャーミリア達が一気に近づけ》
《かしこまりました》
《……》
「マリア撃て」
ズドン!
マリアのTAC50から放たれたライフルの徹甲弾は、真っすぐに大蛇の顔めがけて飛んでいく。しかしそれを察したかのように顔をそらした。だがスナイパーライフルの射出スピードから逃れる事は出来ずに、喉のあたりに弾を食らった。あれを避けるとは恐ろしい反射神経と勘を備えた魔物だ。
「おお!怒ってる怒ってる!」
どうやら大蛇は首をやられた事で、攻撃した俺達を見つけたようだった。鎌首をあげて一気に俺達に向かって突進しようとしたとき。
シュッ
一瞬でシャーミリアがその蛇の頭上に現れ、ゼロ距離から脳天に向けてSSK.950 JDJライフルを撃ちこんだ。
ズドン!
バガジュッ
頭蓋を弾けさせ脳漿を飛び散らせながら、頭に思いっきりデカい穴をあけて電気大蛇はその命を散らせた。
「ラウル様。どうやら他のがシャーミリアに気が付いたようです」
「撃て」
ズドン!
マリアの正確無比なスナイプは、シャーミリアに気を取られている電気大蛇の横っ面にあたった。だがそれでは殺す事は出来なかったようだ。再び俺達に向かって鎌首をあげた瞬間に、首の下にいきなり現れたファントムにSSK.950 JDJライフルを撃ちこまれる。
ドゴ!
バシュウウ!
ビカッと一瞬、雷のような物を放ち頭を四散させて倒れ込む。ファントムはそれを回し蹴りで遠くに蹴り飛ばした。
「もう一匹」
「撃て」
どうやら同族がやられている事で、電気大蛇達は怒っているようだった。すぐさまファントムに向かって向かおうとしている一匹がいたが、その横っ面にまたマリアの狙撃が命中する。
クルッ
振り向いた瞬間、再び頭上にシャーミリアが現れてゼロ距離から脳天にライフルを撃ちこむ。
その攻撃をくりかえす事8回。計八匹の電気大蛇を仕留めたのだった。
「よし!」
ボゴォ!
俺がその8匹目の電気大蛇を殺したのを確認した瞬間だった。いきなり目の前の地面から電気大蛇が出てきたのだった。
「前!」
バリバリバリバリ
思いっきり電撃を放たれて俺達の96式が光に包まれた。
「マリア!」
俺は天板の上に待機しているマリアに向かって叫んだ。
そのままマリアは車内に落ちて来る。
《ヤバいぞ!》
「だ、大丈夫です」
「本当か!?」
「ルフラが私をくるんでくれました」
どうやら車内にいたルフラが、一瞬でマリアをくるんでかわしたらしかった。
「ルフラ!助かった!」
「いえ」
ズドン
ズドン
ドサ!
俺達の車の前に大蛇の顔が落ちて来る。
《ご主人様!大丈夫ですか!》
《問題ない。ルフラがマリアを助けてくれた。カトリーヌも無事だ》
《あと1匹です。私奴とファントムで十分です!車両をおさげください!》
《分かった!》
だが96式のエンジンがかからない。どうやら電気系統がやられたらしい。
《ダメだシャーミリア!動けない》
《では車からお出にならないように!》
《わかった!》
しばらくしてシャーミリアから念話が繋がる。
《終わりました。生物の反応はございません!》
《わかった》
どうやら89層の電気大蛇は全て片付けたらしい。
《ゴーグ!みんなを連れて来てくれ》
《はい!》
俺は88層に待機していたみんなを呼んだ。ゴーグとカララがいるので直ぐにやってくるだろう。
しかし危なかった。ルフラの機転が無かったらマリアは死んでいた可能性が高い。電気で焼かれた人間がエリクサーで元に戻るのか分からない為、無事でいてくれた事に胸をなでおろす。これから90層に降りるにあたって、俺達でもかなり危険な場所にいる事を再認識したのだった。