軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第518話 ダンジョン攻略

アグラニ迷宮に侵入してから10時間が経過した。下層に行くほど魔物は強力になっていくものの、正直俺達の敵にはなりえなかった。さらに魔人達は兵器を使わずとも一掃することが出来るのに、俺の兵器を使う事によって時間が短縮された。

「先生!この階層で地下28層ですよ!」

28階層の攻略を終えて俺は先生に言う。

「人類最高到達点の一つ前じゃな‥‥」

「やはり深層は思うようにいきませんね?大変です!」

「は?ラウルは何を言うておるのじゃ?」

「なんです?」

「こんなところまで到達できるものは、そうそうおらんのじゃぞ。相当な力量の剣士と魔術師、斥候能力に秀でた者、もちろん荷物運びも大量に連れて歩かんといかん」

「かなりの力量が必要とされるわけですね…本当は時間がかかるという事ですか?」

「もちろん、こんなところまでは一カ月はかかるじゃろうな」

「えっ!一カ月!?そんなにですか!?」

「そりゃそうじゃろう!さらに魔物の暴走までおこしておるではないか、この状態なら人間など1層も突破できんわい!」

「知りませんでした。なんかダンジョン攻略っぽくなくてすみません」

「いやいや何を言っておるのじゃ?わしゃうれしいぞい!未踏の深層へ足を踏み入れた初めての人間となりそうじゃしのう!」

先生が言うには通常時のアグラニ迷宮でも、達人たちで1カ月かかるらしい。それなのに俺達は10時間ほどで降りてきてしまった。確かに毒をもつものが多かったり巨大な虫や蛇は厄介だった気がするが、俺の武器が通用する以上はなんの問題も無かった。しかもデモンを討伐する時より俺の魔力消費が少ない。入り口の結界除去で多少魔力を消費したもののまだまだ余力がありそうだ。

「とにかく、最高到達点の前のここで休息をとる事にします」

俺達は28層と29層の間の通路にある、大きめの窪みに身を寄せ合って休憩をとる事にしたのだ。その窪みも巨大な何かがすれ違うためのものなのかだいぶ大きい。俺はヴァルキリーを脱いで先生と話をしていたのだった。

「ファントム!入り口の警護を頼むぞ」

「……」

ズンズン

俺の指示を聞いて、ファントムはM61バルカンを担いで行ってしまった。

「キリヤ君!」

「はい!」

「魔力はどのくらいあるかね?」

「すみません。あまり余力はなさそうです」

それもそのはずキリヤはここに来るまで、モーリス先生やマリア達の為に防御壁を何度も作って来たのだ。そろそろ魔力も枯渇する頃だろう。

「わかった!」

俺はスッと召喚ポーズをとる。

「よ!」

ズン

俺は米軍のM939 5tガントラックを召喚した。荷台が装甲で覆われており人が乗る事が出来るものだ。天上は無いが周りからの攻撃は防ぐことができる。

「先生とマリアとカティ―、キリヤはこの中で休んでください」

「まったく…便利すぎるのう」

モーリス先生がしみじみと言う。

「その前にみんなで食事をとります。みんな集まってくれ!」

ファントムを除く全員が俺の周りに集まって来た。

「よ!」

俺は大量の戦闘糧食Ⅱ型を呼び出した。何だかんだと自衛隊のレーションが美味いという事になって落ち着いている。

「これもまた…普通は大量に食料を持ち込まねばならんというのに…」

「…そう言えばそうですね。治療薬もファントムにいっぱい入ってますし、物資で困る事は無さそうです。もっと地上から持ってきた方が良かった気もしますが…」

「いや!こんなダンジョン攻略は、ラウルやファントムがいなければなりたたんじゃろ!」

「いや、グレースもいろいろと出せます」

「そう言えばそうじゃった…。あれもとてつもない能力じゃ」

「私自身がイメージしていたダンジョン攻略とかけ離れています!」

「ああ、ラウルが幼少の頃に話してやったダンジョン攻略はこうではないがの」

「ですよね」

食事が必要な人は各自、俺が出した戦闘糧食Ⅱを食べ始めている。ゴーグも我先にとがっついているようだ。

「ご主人様。私は必要ございませんので見張りにたちましょう」

「ああ、ミリア!すまないがそうしてくれるか?」

「は!」

「あの…ラウル様、私も必要ないですわ」

「私も」

カララもルフラも言う。アラクネのカララとスライムのルフラも、この層に降りるまで旨そうな魔物を見つけては食っていたらしい。どうやら食べ物は必要ないようだった。

「じゃあ二人は適当にしてくれていいぞ」

「では私は周辺の警戒のために、糸を流す事に致しましょう」

カララが入り口の方に向かって歩いて行く。

「じゃあ…私はマリアを綺麗にします」

ルフラが言う。

「綺麗に?」

マリアが聞いた。

「そう、カトリーヌが私を纏うと汗や汚れは全て私が吸収しちゃうのよ」

そう言えば…マリアとカトリーヌを見比べると、マリアは汗で汚れているように見えるのに対してカトリーヌはサラサラだ。

「あ、私は大丈夫です…」

マリアが俺をチラッと見る。

「マリア!人間の女性はそう言うの気にするんでしょう?私がいるんだから!」

ルフラが強引にもっていく。

「じゃ、じゃあ!ルフラ!出来ればあのトラックの中でやってくれない?」

「えっ?わかった別にいいわよ」

「じゃあ行きましょう」

マリアがルフラを連れてガントラックの荷台に入って行った。

「なんか大変なんですねえ」

キリヤが言う。

「えっと、私はマリアの気持ちが分かります!」

カトリーヌが頬を赤らめた。

あっ…それは俺も分からんでもない。そう言えばルフラを纏う時って体の穴という穴に何かが侵入してくるんだ。あれを人前でやられるとなんか変な声がでるから恥ずかしい。

「あまり人前では、って感じかもね」

「はい」

入り口付近にはファントムとシャーミリアが立っているので、万が一にも魔獣が入り込んでくることはないだろう。ここなら人間達も安心して眠る事が出来そうだ。マリアとルフラが洗浄が終わってトラックの中から出て来た。

「よ!」

俺は先生とマリア、カトリーヌ、キリヤの為に自衛隊の冬用のシュラフを召喚して渡してやる。

「すまんのう」

「あったかいです」

「安心して眠れそうです」

「助かります!」

「洞窟内はかなり涼しいですからね。車両の上に幌をかけておきます」

ガントラックの上に召喚した幌をかぶせる。

「至れり尽くせりじゃ」

「ではおやすみなさい。ルフラ!ゴーグ!皆の警護を頼む!」

「はい」

「はい!」

《ヴァルキリー!お前もこのトラックを護衛しろ》

《はい我が主》

ガシャン

魔導鎧がトラックの前に仁王立ちした。

俺は入り口付近に待機しているシャーミリアとカララの下に向かった。

「あれ?これはどうした?」

「糸で網を張りました。魔物が入り込むことはありません」

「なるほど、ファントムだけが外で見張りに立っているのか」

「はい」

糸の網の外に透けてファントムが見える。どこか遠くを見つめるようにしてたた突っ立っている、M61バルカンは足元に置いているようだ。

「はは…地上の宿屋より安全だなこりゃ。ここがダンジョンって雰囲気がまるでない」

「恩師様に安心して眠っていただけると思います」

「気遣いすまない」

「いえ!ラウル様の先生がお疲れになってはいけませんので」

ここまでダンジョンを潜ってきて、カララの糸を破れる魔物など存在しなかった。この場所は今ダンジョン内での完全な安全領域となったのだった。

「これならお前たちも休めるんじゃないのか?」

「それではシャーミリアと交代でお休みさせていただきましょう」

「ああ、俺もトラックで寝て来るよ」

「ぜひ」

窪みの入り口にM61バルカンを持ったファントム、その後ろにカララの張った糸の網とシャーミリアの警護、ガントラックの装甲の周りにはルフラとヴァルキリーの護衛。

爆睡できそうだ。

俺がトラックに乗り込むと、4人はまだ話をしていた。

「ラウルよ」

「はい」

「どこまで潜るつもりかの?」

「そうですね…人間が生存しているか、という意味ではもう絶望的ともいえます。だけど…先生…」

「なんじゃ?」

「見たくないですか?」

「やはりそう来ると思ったわい」

「最下層がどのくらいなのか、そしてその先にどんなものが待っているのか知りたいです」

「ふぉっふぉっ!安心したわい。わしゃそろそろ引き返すのかと思うておったのでな」

「私もです」

「私もそう思ってました」

カトリーヌとマリアは言うが、キリヤは特に何も思って無さそうだ。

「前の虹蛇が言う言葉があります」

「どのような物にも意味があるとな。そりゃわしもよくわかる話じゃが」

「兆しがありました」

「偶然のような出来事が必然のように重なるという事じゃな」

「はい、前触れというのでしょうか?かならず何かに繋がります」

「そうじゃな。わしもそれは感じ取る事がある、それに気づかんと機会を逃してしまうのじゃ」

「まさに流れに乗るというものらしいのですが」

「その流れとやらが、アグラニの最深部まで潜るという事なのじゃな?」

「そういうことです」

「じゃがこのダンジョンの最深部が、どのくらいあるかわからんのじゃぞ?」

「そうですよね。何階層まであるのか?」

「うむ」

「とりあえず皆さん休んでください。まだまだ先は長いと思いますので魔力の回復も必要です」

「そうじゃな、皆眠るとしよう」

そして人間達4人には魔力の回復のために睡眠をとらせるのだった。

洞窟の内部にいるため時間の感覚がよくわからないが、時計を見ると朝の9時ごろをさしていた。寝る前に確認したところは深夜の2時頃だったので、十分な休息が取れたはずだ。

「おはようございます」

カトリーヌが俺を起こしてくれる。

「みんなは?」

「既に出立の準備に取り掛かっております」

「あ、俺が一番最後か?」

「よく眠っておいででした」

どうやら俺が一番眠っていたらしい。おかげで膨大な魔力の回復を感じる事が出来る。昨日アグラニ迷宮に入る結界を破るために消耗した、魔力の回復に時間がかかったらしい。

「ありがとう」

俺がトラックから出ると皆が出立の準備をしていた。

「シャーミリア!休息のあいだに魔物は来たか?」

「数匹が迷い出てきましたが、音を立てては皆様の睡眠の邪魔をすると思い武器を使わず対処しました」

「気遣いありがとう」

俺がカララが張った網の所に行くと外が透けて見える。外には数十匹の魔物の残骸が横たわっていた。

「これは上の層に居たやつらだな」

「そのようです」

「よし!カララ!出発する!網をとってくれ」

「はい」

一気に入り口に張り巡らされていた網がなくなった。

「ラウル様」

「どうしたんだキリヤ君?」

「あのトラックはどうするんです?」

「トラック?」

「このくらいの広さがあればあれで進んでもよろしいかと」

「……」

「いや、私が悪かったです。かえって危険かと思います!音とかしますもんね!」

キリヤが慌てて謝ってくる。

「いや、違うんだよ。車で進むと…」

「はい…」

「ダンジョン攻略って感じがしなくない?」

「えっ?」

「ふぉっ?」

「ええっ?」

「なんです?」

キリヤに続いて、モーリス先生とマリアとカトリーヌまで変な声を出す。

《ヤベ!つい本音言っちまった!!》

「ラウル様…あえて車を使わないのでは?」

「ああそうだよマリア。あえて使ってない」

「あえて…の意味が」

そうか…そうだよな。皆の言いたいことは分かる、こんな命がけの事なのに車両を使わない理由なんてないもんな。

「えっと…」

「なんじゃ?」

「子供の頃にグラム父さんやモーリス先生に聞いていた、ダンジョン攻略の雰囲気を存分に味わってみたかったのです!!!すみません!!!!」

「‥‥」

「‥‥」

「‥‥」

「‥‥」

「ぷっ」

「はぁー!はっはっはっはっ!!!」

「ラウル様はこの恐ろしいダンジョンで…遊んでいたのですか?」

「まあ有り体に言えば」

「それならそうと言ってください」

「すまんマリア。だってそう言っちゃったら真剣みも雰囲気もぶち壊しじゃないか」

「いえ…ラウル様の事なので、そうなんじゃないかなと薄々感づいてました」

「マリアに隠し事はできないか」

「まあ良いではないかマリア。ラウルは昔からこういうやつであったろうよ」

「はい」

俺達の周りにはいつしか魔人達が集まっていた。魔人は系譜の繋がりによって分かっているので驚きもしていない。だからあえて内心でも本気で攻略しているふりを貫いてたんだがな。

「でも!ここからは前人未到の領域ですから!」

「わかったのじゃ!気を引き締めていかんとなあ!」

「そうですね!私も思う存分、狙撃訓練をさせていただきます!」

「私はルフラと戦闘訓練を兼ねて実践します!」

あーあ。それじゃあダンジョンって感じしないんだよね。

「キリヤ君、トラックを回してくれ」

「はい」

俺は諦めてキリヤにガントラックの運転を頼むのだった。せっかく人間が到達した最高の領域に達する前に休憩をとったというのに、雰囲気が台無しになってしまった。まあこんな時に遊び心を出した俺が悪いと思いつつ、本音を言った事を後悔するのだった。