軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第424話 ゴーレム遁走

ドスドスドスドス

髭の盗賊とてっぺん禿げの盗賊を先頭にゴーレム7体が草原を疾走していた。馬が走るよりも速い速度で街から離れて行く。

バガン!

バシュゥ!

パパン

パパン

ドゴン!

脱出して来た街の方角から魔法の炸裂音が聞こえているが、魔法に混ざって2発の手榴弾の音が聞こえた。俺はもちろんM26手榴弾の爆発音だけを、魔法の炸裂音の中から確実に聞き分けることができる。

《もう一体やられたか。》

《残り一体でございますね。》

手榴弾は最後の手段として使うようにゴーレムに指示していたので、手榴弾の爆発音で2体目が破壊されてしまった事を知る事ができた。

ということは最後のゴーレム一体がどこまで粘れるかで、こちらが逃走しているのが悟られるのを遅くすることができる。とにかくその間に遮蔽物の多い森林地帯まで一目散に走るしかない。

ドスドスドスドス

《ファントムならあんな魔法の攻撃びくともしないんだけどな。》

《もうしわけございません。素体も養分もカスでしたのでご主人様のお手を煩わせることに。》

《いやいや使い捨てのつもりだから、これでも十分すぎるけどな。》

《これではウスノロどころの騒ぎではございませんね。》

シャーミリアが言うウスノロとはファントムの事だ。

《ウスノロって…俺、ファントムの動きを目で追うのがやっとだし。》

《あのような物でも、ご主人様のお役に立っているのであれば何よりでございます。》

いやファントムはもちろん凄いが、この盗賊ハイグールだって大量の手榴弾をぶら下げて、馬並み以上に走っているから十分だとは思うけど。

《まだ距離があるな。》

《はい。》

山岳地帯の麓に広がる森林地帯までおよそ2キロに近づいた。シャーミリアならコンマ1秒を切る距離だが、盗賊グールアバターはシャーミリアでも思うようにはいかないらしかった。

とにかくあの森の中なら、ある程度は敵の動きを阻害できるかもしれない。

バグゥ!

ドズゥン!

パパン

パパン

バガーン!

だいぶ距離が離れて小さくなった魔法の爆発音の中に、またM26手榴弾の炸裂音が混ざって聞こえて来た。

《最後の1体がやられた。》

《ご主人様、すでに敵がこちらに近づいてきております。速度はだいぶ早いようで森に入る前に追いつかれるかと。》

《気づくの早いな。》

《あの敵と平地で交戦すれば、あっというまに消される可能性があります。》

それはいかん!

「全体止まれ!」

一旦ゴーレム部隊を止める。

「お前!後戻りして今来た街の方角へと走れ!」

俺は一体のゴーレムに指示を出した。

ドスドスドスドス

くるりと後ろを振り向いて走り出す。

「そして、お前はあのゴーレムが攻撃を受けたら続いて突進しろ。」

もう1体に指示を出すと、くるりと走り去っていったゴーレムの方向を向く。俺はさらに2体を犠牲にして敵を足止めする事にしたのだった。

「おそらくあまりもたない。残りは俺達についてこい。」

俺の泥棒髭とシャーミリアの河童が走っていくと残り5体のゴーレムがついて来る。森林地帯までの距離は約1.5キロほど、敵が2体のゴーレムの始末している間にたどり着くことができるだろう。

《しかし、あんな頑丈なゴーレムを半分も失ってしまった。》

《間違いなくデモン級の敵であると思われます。》

シャーミリアの言う通りだ。敵の火力は人間の魔法とは比べ物にならなかった。もしかしたら攻撃は魔法じゃないのかもしれないし、とにかく敵はかなり強いと推測される。

ドスドスドスドス

《森に入った!》

先頭の俺たちが先に森林に到達し、次々と追いついて来るゴーレムたち。敵の姿は見えないが既におとりに使ったゴーレムの姿は無かった。

ボゥ

すると何も無かった空から火球が降り注いでいくる。

「あぶな!もっと奥へ!」

ドスドスドスドス

森の中に走っていくと森の入り口辺りが燃えているのが見えた。

「このまま山に登れ!」

バスーン

ドスーン

相手は魔法を撃ってきているらしいが、高い木々があるおかげで直撃を免れる。しかし俺が振り向いて確認すると森が焼けていた。

「山火事になるだろ!」

俺が叫んだところで相手の攻撃は止まない。しかしこちらの正確な位置が分からないからのか、あたりに火球が降り注ぐものの、致命傷になるような攻撃は届かなかった。

《ご主人様。10時の方向に魔獣の反応があります。》

シャーミリアはすっかり時計の見方を覚え方角の伝え方も分かっている。どうやら左斜め前方に魔獣がいるらしい。

《何体いる?》

《3体のレッドベアーです。》

それ何か打開策にならないだろうか?

もしかしたら燃やされておしまいって事もあり得るけど。上からは火の玉が降り注いで来るし、俺は咄嗟の判断でレッドベアーがいる方向に走り出す。後ろを炎で燃やされながら走っていると、視界の先にレッドベアーが現れた。6メートル級と4メートルと2メートルの親子とみられるレッドベアーだ。

俺達に気が付いて一目散に逃げだした。

《やっぱり逃げるよな。》

《よほど慌てているのではないでしょうか?》

レッドベアー3匹が走り、泥棒髭と河童が続き、ゴーレムが5体後ろについて来る。そしてその後ろに絨毯爆撃のように火球が降り注いで来ると言った状況だった。

すると不意にレッドベアーが岩陰に消えるように曲がっていく。

《消えた?》

《いえ気配はあります。》

そして俺達が岩陰を曲がると、そこには大きな口を開けた洞窟があった。どうやらレッドベアーたちは避難するため洞窟へと入って行ったらしい。

《俺達も続け!》

泥棒髭と河童と5体のゴーレムは一目散に巨大な洞窟へと入っていく。

ドスドスドスドス

洞窟の奥へと進んでいくと、ようやく魔法の攻撃が止んだようだった。レッドベアーはもっと奥に進んだようで見当たらない。

《敵は?》

《入っては来ないようです。》

《レッドベアーはどこいった?》

《さらに奥へ入って行ったようです。》

《進もう。》

俺達は洞窟をさらに奥へと進んでいくのだった。洞窟の中は真っ暗なはずだが、ハイグールの視界は変わらずセピアの感じである程度は見えていた。

《さすがシャーミリア作のハイグールは凄いな。》

暗視能力があるグールに感動しシャーミリアに言う。

《そ、そんな…はあはあ。》

あ、やべぇ!シャーミリアを褒めちゃった。

《とにかく集中だ!》

《は、はい!》

さらに歩みを進めて俺達の視界に飛び込んできたのは、先ほどのレッドベアーの親子だった。

グルルルルル

一番大きい親熊と思われるのが威嚇して来る。子供を守ろうとしているのかもしれない。

《俺達に攻撃する気はないんだがな。》

《はい。》

ズドン!

俺達がクマと対面している時に入り口の方から音がした。何か攻撃されたような音に聞こえたが…

その音に驚いたレッドベアーがさらに洞窟の奥へと逃げて行った。

《さてどうするか?》

《入り口を見てまいりますか?》

《いや、無駄に河童を消滅させても仕方がない。》

《はい。》

《とりあえず静観しよう。》

「お前達!とりあえずここに待機。」

ゴーレムに指示を出すと、すでにそこに突っ立っている5体のゴーレムはそのまま動かなくなった。

《侵入してきたら1匹くらい捕まえられないかな?》

《この2体で抑え込むのは不可能かもしれません。》

《だよなあ。》

確かにあんな火球を降らしてくるデモンだし、きっと凄く強いに違いない。たが姿も見えないのでどんな奴かも分からず対応のしようがない。

なんて考えているうちにちょっとした異変が起こる。

《シャーミリア。なんか視界が悪いと思わないか?》

暗闇の中でどうも見えずらくなっているように感じる。もしかしたら何か阻害する魔法でもかけられているのだろうか?

《これは、煙にございます!》

《煙?》

《恐らく入り口で何かが燃やされているのかと。》

《火責めって事かな?》

《どういうことなのでしょうか?》

洞窟ごと燃やしてしまおうって事かな?にしても煙だけがどんどん流れて来るし、いったいどういう事だ?

《ちょっと俺が行って見て来る。》

《それでしたら私が。》

《いや、河童にはこの頭陀袋を見張っていてもらいたい。》

《かしこまりました。》

俺が操る泥棒髭は河童のシャーミリアに、手榴弾の入った頭陀袋を預けて入り口に戻っていく。

入り口に行った泥棒髭の目に飛び込んできたのは、洞窟の入り口から30メートル四方に散乱する大木と、その上でゴウゴウと燃え盛る炎だった。そして入り口は岩で塞がれており外に出る事が出来なくなっているようだった。

《シャーミリア。こちら入り口なんだが、どうやら敵は俺達を燻製にしたいようだ。》

《く、燻製でございますか?》

《入り口をふさがれて、炎がメラメラと燃え上がっているよ。》

《それはどうして…。》

俺は泥棒髭をひとまず河童とゴーレムがいる場所まで戻す。

《一旦意識を放そう。》

《かしこまりました。》

ふっ

俺は集中していたため、実際の俺の周りがあまり見えていなかった。泥棒髭から意識を戻すとふらふらとしてしまう。なんか車酔いのような気分だ。

きょろきょろ

俺が周りを見回すと、目の前にカトリーヌ、左手には今まで遠隔で一緒に戦っていたシャーミリア、そしてカトリーヌの隣にはマリア、さらに右隣りにはカララとルフラとセイラがいた。広いテントではあるが、これだけ集まればだいぶ手狭だ。

「みんな。どうしたんだ?」

俺が聞くとカララが言う。

「念話でしか聞こえておりませんが、だいぶ苦戦しておいででしたので、何か支援が出来ないかと集まっておりました。」

「そうか、ありがとう。詳細は既に知っていると思うけど、南方の中央付近にある街でデモンらしき敵と遭遇した。そして逃げて洞窟に入ったところで不思議な攻撃をされているところだ。」

「ええ、燻製とか聞こえましたが。」

「そうなんだよ。洞窟に閉じ込められてさらに入り口でボウボウと火が焚かれているんだ。」

俺の言葉に魔人達は首を傾げるだけで何かは分からないようだった。

「あの。」

マリアが言う。

「なんだ?」

「以前モーリス先生からの冒険談を聞いた時がございまして。」

「冒険談?」

「はい。森で魔獣を退治する時の手法として、そんな方法があると聞いた事があります。」

「魔獣を退治する時の手法?」

「はい。レッドベアーやさらに強力な魔獣を洞窟に追い詰めて、入り口をふさいでしまい何日も魔法で火を焚き続けるのだそうです。」

「それ、今やられてるけど。」

「そうする事によっていつしか火が消えて、中の生き物は息が吸えなくなり死んでしまうのだそうです。」

そういうことか!蓋をして火を焚く事により、洞窟内の酸素を無くして窒息させようとしてるってことだ。それならばわざわざ自分の身を危険にさらして魔獣を倒さなくてもいい。

「凄いな。なんていう魔獣の倒し方を考えたんだろう。」

「はい。それによって怪我人を出さずに魔獣が狩れるそうです。」

「原理は分かる。」

「「「「「おお!」」」」」

俺が理解を示したことで、皆が尊敬のまなざしで見る。

そうか。皆は”化学”を知らないのか。

とにかく敵が何をしようとしているのかを知る事が出来たのだった。