作品タイトル不明
第410話 冒険者プレゼントする悪役令嬢
過去に西部ラインの村を調査したときデモン召喚魔法陣の設置を確認した。そのため俺はてっきりファートリアの内地にも、デモン召喚魔法陣が設置されていると思っていた。総攻撃を行う前に、無駄に敵を増やす事が無いよう調査に入った結果、この村には魔法陣は無かった。ここまでの道筋には転移魔法陣も設置されておらず、もしかすると最前線でリュート人を生贄とした魔法陣が切り札だったのかもしれないが…
俺はこれまでの事を思考していた。
《更に奥地に進むにあたって何に気を付けるべきなのか。》
そして調査に入ってしまえば国民と触れ合ってしまう。魔人に被害が出るならば論外だが、助けられる命があるなら助けたいと思うのも俺が半分人間だからだろう。戦争するにあたって一般人の被害を想定しているものの、戦後の事も考えると無関係な人的被害は極力避けたかった。
目の前にいる村人たちにそんなことは伝えられないが、彼らの救いになる事が何かを考えた。
その答えが俺の目の前にいる3人のムキムキの元敵兵である。
俺達は再び村長宅に来ており、俺達3人と冒険者もどきの元敵兵3人とペルデレ、アデルフィアとジョーイ、村の中年の男数人と、女が数人集まって話をしていた。
「よくぞいらっしゃいました。」
ペルデレが3人に声をかける。
「ようやく追いついた。」
元敵兵の冒険者もどきが答える。ペルデレと冒険者もどきの会話が続く。
「私達はお嬢様方に命を救われたのです。あなた方の護衛なくこの村にたどり着いたそうですが。」
「まあこの3人であれば、我ら冒険者の力を借りずとも生きているだろうさ。」
「そうなのですね。とにかく追いつかれてよかったです。」
「ああ。しかしこの村も災難だったな。盗賊風情がそんな大それた真似をするなど聞いた事もない。」
「驚かれたでしょう、これがこの国の現実なのです。」
ペルデレが悲しそうに言う。
「この家もだいぶ荒らされてしまったようだ。」
「ええ、村長も殺されました。」
「そいつは酷い。」
「はい…。」
「あの!」
アデルフィアが口を開いた。
「この村までの道のりはいかがでしたでしょうか?」
あれ?ヤバイ!シャーミリアが超高速飛行で連れて来たとか言わないよな?
「危険はあったが何とか。」
おお!無難に答えた。
「でしたら、ペルデレさん!この方たちに護衛を願って村を脱出してはどうでしょう?」
「アデル…あなたは村を捨てて一体どこで生きて行こうというの?」
「それは…。」
アデルフィアが言葉を詰まらせる。
「そうだぞ、アデル。俺達はここで生まれてここで育ったんだ。行くあてなんてどこにもない、ここで生きて行かなきゃならねえのさ。」
一人の男が言う。
「でも、このままでは村がどうなってしまうのか。」
「‥‥。」
「‥‥。」
「‥‥。」
アデルフィアの言葉に、ペルデレを含む村人たちが黙り込んでしまった。
「だけど俺はここに居ても強くなれない。村の人を守りたくても何もできないんだ。」
ジョーイが言う。
「アデル、ジョーイ。西にはバケモノが巣食うと聞くし、内地には盗賊や魔獣が蔓延っているわ。もちろん村も安全とは言えないけれど、本当に行く当てが無いのよ。」
ペルデレの言うとおりだろう。ここを出たからと言ってこの人たちに生きるすべがあるとは思えない。
「あ、あの。冒険者のみなさん!あなた方の国は!あなた方がいた国はどうなのですか?」
いやあ、彼らはルタン町の北で強制労働してた人達だから、そのあたりの記憶はどうなんだろう。
「我々は‥‥バルギウスの出身だが、今はしがない冒険者だ。世界を転々とする我々に国はない。」
おお!無難な答えだ。
「そうですか。」
話が行き詰って沈黙が支配する。
よーしここから仕掛けようかな。
「お嬢様いかがなさいましょう。」
「え、ええ。そうね…」
「すみません。ちょっと俺達6人で相談してもいいですか?」
俺がペルデレに言う。
「ええ、かまいません。」
「ちょっとよろしいこと?」
シャーミリアが冒険者もどきに声をかける。そして俺達と3人の冒険者もどきが部屋の片隅に行く。部屋の片隅で相談しているふりをする。
《どうしような。》
念話で話はじめる。
《はい。ご主人様はこの者たちをここに自然においていきたいのでございますね?》
《そうなんだよ。この3人なら恐らく昨日の盗賊くらいどうってことないぞ。なにせオージェの仕込みに魔人との強制労働経験者だからな。》
《はい。通常の人間の騎士よりはだいぶ強いようですが。》
《あの…。》
《なんだマキーナ?》
《半ば強制的にそういう事になった。と言う感じではいかがでしょうか?》
《強引にか?》
《はい。》
《マキーナ、ご主人様は自然にと言っているのですよ。》
《失礼いたしました!差し出がましい真似を…》
《いや!マキーナ!それで行こう。》
《は、はい。》
《シャーミリア!俺が言う通りに言ってくれるか?》
《かしこまりました。》
言う事は決まった。
「まったく!主を見失うとは何事かしら!本当に使えない冒険者ね!」
シャーミリアが大声を出す。
「す、すまねえ。」
「クビよ!」
シャーミリアがキリリと言う。
「お、お嬢様!それではこの者たちに守ってもらえなくなります。」
俺が言う。
「そんな、私たちの方が切り抜けられるじゃない!この村に到着したのだって私たちの方が早いのよ。」
シャーミリアの口を通して俺が言う。
「そ、それはそうですが…。」
「あなたはどう思うの!」
またシャーミリアの口を通して俺が言う。
「私はお嬢様のご意見に賛成です!」
今度はマキーナの口を通して俺が言う。
いやあ…念話にこんな使い方があったとはね。今回の潜入調査で新たな俺達の連携が生まれたな。俺の自作自演だけど。
「そうよ!あなたはどっちにするの!!」
「そ、それは。」
いきなりキレ始めたシャーミリアに、村人たちは驚いておろおろするばかりだった。
「もしあなたが私の意見を拒絶するならば、あなたもクビにするわよ!」
シャーミリアの口を通して俺がきつい事を言わせているのだが、シャーミリアが涙目になって来た。これ以上シャーミリアにストレスをかけるのは危険だ。
「わかりました!お嬢様のおっしゃる通りでございます。」
「と言うわけよ!あなた方、冒険者3人はここでクビ!いいわね!」
オッケーオッケー。めっちゃ悪役令嬢っぽくていい感じ。これなら冒険者もついて来たくなくなるはず。
「すみませんが、お嬢がこのようにおっしゃっておりますので、今日限りであなた方は俺達の護衛の任を解かれます。約束の金はこれです。」
俺はバックの中から金貨袋を取り出して冒険者もどきに渡す。
《シャーミリアごめんな。嫌だった?》
《大丈夫でございます。》
《あとは彼らが、サキュバスに洗脳されたとおりの動きを取ってくれればいいんだが大丈夫かね?》
《おそらくは。》
「わかった。そこまで言うのならこの金を受け取って、俺達はお前達の護衛を外れる。それで本当にいいんだな。」
「ええ、結構よ。まともに守れない人間を側に置いておくわけにいかないわ。」
キッ
シャーミリアが氷の視線を送る。今のは完全に彼女のアドリブだ。さっき俺に向かって無礼な言葉を発したストレスが、爆発しそうになっているのだろう。俺が言わせてるんだから気にしなきゃいいのに。
「じゃあここまでだ。」
冒険者もどきの一人が言う。
そして俺達は村人たちの元に戻る。
「おさがわせしましたね。私たちは彼らとは別行動になります。」
シャーミリアが言う。
村人たちは俺達の揉め事を見てあっけに取られていた。
「お嬢様はこういったら聞かないんですよ。」
俺の言葉に村人はコクコクと頷いていた。
「それでお嬢様これからどうします?」
「ええ、私達だけで国に帰ります。そのほうが身軽でいいわ。」
「かしこまりました。」
おおよその茶番は終わった。
「あの…本当に大丈夫なのですか?」
アデルフィアが俺達に聞いて来る。
「ああ、アデルフィアさん。あなたは俺の戦いを見ていましたよね?」
「暗くてはっきりとは見えていませんが。」
「あの程度の盗賊なら、お嬢様と私とこのメイドで何とかできます。危なければ逃げる事だってできますから。」
「そうなのですね…。」
「と言うわけで、あなた方は自由にしていいですよ。」
冒険者もどき3人に言う。
「なるほど…」
「わかった。」
「達者でな。」
《どうかな?サキュバスがきちんと仕込んでくれていれば…》
「我々はこの村の現状を放ってはおけない。ここで俺達が引けばこの村は危険だ。もしよければ俺達をここの用心棒として使ってもらえないか?」
冒険者もどきがペルデレに向かって言う。
《よし!》
「そ、その様な…私たちには用心棒を雇うようなお金は…。」
ペルデレが遠慮がちに言う。
「お金なら、そこのお嬢様にたんまりいただきましたから。」
冒険者もどきがニヤリと笑う。
「ええ。しばらくはそのお金で困らないはずよ。そしてこの村は食料に困っていると聞きます。あなた方なら魔獣を狩る事などわけないでしょう?」
シャーミリアに言わせる。
「まあ…そうだな。」
冒険者もどきが言う。
そりゃそうだ。彼らはルタン町の奥の森で嫌なほど魔獣を狩って、北の大陸に流通させているんだからな。その魔人仕込みの狩りを毎日やっている3人だ、魔獣狩りなどたいしたことではないはずだ。
「なら、きっと村の役に立つわ。うまくおやりなさい。」
これはシャーミリアの言葉だ。
「言われなくてもやるさ。お前さんたちも無事に国に帰れるように祈っておくよ。」
「誰に向かって行っているのかしら。」
「ちげえねえ。」
冒険者もどきが言うと、どうやら村人たちが状況を理解できたようだ。
「本当にいいのですか?」
アデルフィアが冒険者もどきに聞く。
「もちろんだ。」
「よ、良かった…。守ってもらえるのですね。」
「そうだ。」
ざわざわざわ
冒険者もどきの声に皆が安堵の息を吐く。
「あの!」
するとジョーイが冒険者もどきにむかって何かを言う。
「なんだ?」
「俺に、俺に剣を教えてほしいんだ!俺は強くなりたいんだ!」
「お前がか?」
「冒険者のみんなにも子供時代はあったろ?俺はこれから強くなる!お願いだ!鍛えてほしい!」
ジョーイが懇願する。
「教えてやりなさいよ。」
シャーミリアが言う。
「少年!剣の道は険しいぞ。」
冒険者もどきが言う。
「やりぬくよ!」
「いいだろう。」
「よかったわね。」
「ああ姉さん。村は俺が守る。」
すると男たちが前に出て来る。
「俺達にも剣を教えてくれ。」
「もちろんだ。まとめて教えてやろう。」
「ありがとう。」
よし。俺の想定していたシナリオ通りに進んだぞ!これで心置きなくこの村を出ることができる。
「みなさん。良かったですね!ではそろそろ我々は出発しようと思います。」
「そうですね。」
「はい。」
シャーミリアと俺とマキーナが言う。
「それじゃあ皆さん!おせわになりました。」
「それじゃあ村の先まで皆でお送りいたしましょう。」
「いえ、ここで。」
シャーミリアが言う。
「そう言うわけにはまいりません。」
そう言ってペルデレたち村人は俺達について来た。村のはずれまで歩いてきて俺達は振り向く。
「では、本当にこれで。」
「本当にありがとうございました。」
ペルデレが言う。
「このご恩は一生忘れません!」
アデルフィアが言う。
「次に会える時までもっと強くなってます!」
ジョーイが言う。
そして村人たちがそれぞれに分かれの言葉を発する。俺達は手を振りながらその場を歩いて村を出て行くのだった。
村が見えなくなったあたりで、俺達は急速に移動を始める。
皆が待つ森に向かって。