軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第397話 退屈な司令官の仕事 ~ゴーグ視点~

拠点づくりは順調に進んでいる。ラウル様の指示により魔人達が大量に補充されたおかげで、施設が迅速に作られるようになったし、銃火器を置く場所やヘリの着陸地点なども整備できた。また街道の反対側の遠く離れた場所には、侵入者が来た場合に投獄できる施設が既に出来上がっている。村の跡地には常に警戒を怠らないように監視を置いた。

「ではゴーグ様。我らは森へ向かいます。」

俺の前で竜人のおっさんが、お辞儀をしている。

「いってらっしゃい。」

年上の魔人にゴーグ様…【様】とか言われるのは、なんだが窮屈だった。進化していない魔人達は俺の事をゴーグ様と呼んだ。なんで俺なんかに様なんてつけて呼ぶのかよくわかんない。

「ゴーグ様もお気をつけて。」

「それはこっちの言葉だし。」

「ははっ!」

二カルス大森林の基地へと向かう部隊長の竜人が笑って礼をする。

竜人は前線基地から二カルス大森林基地に行く予定の、300人の部隊を率いてきた。朝にこの拠点に調味料や塗料などの物資を持ってやって来て、食料などを補給し夕暮れになったので出発するようだった。夜間の方が移動するのに目立たないのでそうしている。300の魔人が俺にお辞儀をしながら、何台ものトラックに乗り込んで拠点を出て行く。

それにしても暇だな…

拠点づくりのための物資回収と建築は大型魔人達とドワーフが、食料や薬草などを回収するのはダークエルフとライカンの部隊が、そして食事の用意や塗装などの細かい作業をゴブリンがやった。空中監視はハルピュイアとサキュバスが交代でやってくれている。

それなのに俺はやる事も無く、ただ日がな一日拠点内をぶらぶらとしているだけだった。俺が物資を運ぶのを手伝うと言っても「ゴーグ様は全体の指揮を!」とかいってやらせてくれない。

ギルは「いざという時に動けばいい、お前は何もしないでぶらぶらしてりゃいいさ。」とか言っていた。ガザムは「ゴーグには退屈だろうな。でもこれもラウル様から与えられた仕事だ、きちんとこなすんだぞ。」とか言われる。だから何もすることが無くなってしまった。

なので暇すぎる俺は飛んでいる蝶を捕まえては逃がして、ファングラビットを捕まえては逃がして、とりあえず暇つぶしをしているのだった。

「ゴーグ様!」

そんなことをしていたら誰かに呼び止められた。

「なに?」

振り向くとドワーフの長がこっちに歩いて来る。

「司令塔が完成しました!ご覧になりますか?」

「見る!」

きた!やっと俺の仕事が!

俺はドワーフについて大きい建物の前に来た。

「ここに指令室があります!では中をご覧ください。」

ドワーフについて建物の中を見て回るけど‥‥

つまんない。

やっぱり建物の確認なんて面白い事はなかった。ドワーフがあれこれと説明してくれるけど、俺はうんうん頷くくらいしかできなかった。

一通り退屈なドワーフの説明が終わった。

「じゃあ引き続き頑張ってね。」

「はい。」

俺はドワーフにそう言って司令塔を後にし、またぶらぶらとし始める。

「ゴーグ様!」

「なに?」

ダークエルフが狩りから帰ってきたようだ。大型のグレートボアを3体とビッグホーンディア2体獲ってきたらしい。

「今日も美味い肉がたらふく食えますよ。」

「やた!」

これは嬉しい!正直1日の中で一番楽しいのが夕食だ。皆で火を囲んで肉を焼いて食う!この時ばかりはみんなが交代で集まるので、みんなの話を聞くのが面白かった。

施設を作っていた魔人達や狩りをする魔人達が火の回りに集まってくる。早速大型の魔人達が肉をさばき始めた。

「大陸の森は本当に獲物が多いですな。」

ダークエルフの長が言う。

「やっぱりそうだよね?魔人国じゃああちこち探してようやく見つけるのに、ここらじゃ森の深部に行けばすぐにおっきな魔獣がいるんだもんね。

「まったくです。それだけ果実や木の実も豊富なのでしょう。」

「果実はあった?」

「ありましたありました!すぐにもってきますよ。」

そしてダークエルフは俺に、茶色くて表面に毛が生えた両手に余るほどの丸い果実を持ってきてくれた。最近はこの果実が良く手に入るらしく、今日も大量に採ってきてくれたようだ。

「皮は食べられませんので。」

そう言ってダークエルフの長が果実の皮をむき始める。茶色い皮をむくと中からは緑色の瑞々しい果肉が出て来る。

「どうぞ。」

俺はその緑色の果実を渡される。

「ありがとう!いただきます。」

パク!

すっごく瑞々しくて少し酸っぱいけど甘味があって美味しかった。なんていう名前の果実かは分からないけど、魔人国にはない物だった。

「うまい!」

「喜んでくれてうれしいです。」

ダークエルフの長が笑っている。

魔人みんなが俺に優しくしてくれる。

俺の父さん母さんは早くに死んでしまい、俺が物心ついた時にはもういなかった。そのためか昔から魔人達には優しくしてもらえた。特にガルドジン様にはずっと親代わりとなってもらい一緒に過ごして来た。

ガルドジン様がルゼミア様に負けて、魔人国を出る事になった時には、俺に優しかった魔人達は残念そうな顔をしていた。しかし今は魔人がみんな一緒に暮らしている。それがとてもうれしかった。

「ゴーグ様!」

今度は俺をオークの長が呼ぶ。

「なに?」

「焼けました!一番最初にどうぞ!」

「ありがとう。」

俺は串にささったグレートボアの肉をガブリと噛みつく。

「うっま!!」

「それは良かった!グレース様からもらった岩塩がとてもいい物で、本当に味付けがよくなりました。」

「ホントだよね!」

ラウル様の友達のグレース様は虹蛇様となり、どこからともなく大きな岩塩を出してくれる。やっぱラウル様の友達と呼ばれる人たちは凄い人ばかりだ。オージェさんは龍神となり、俺達が束になってもとてもかないそうになかった。エミル様は精霊神となりいろんな精霊を呼び出せるし、なんといってもラウル様が呼び出すヘリを動かせる唯一の方らしい。本当に凄い。

「ささ!もう一本!」

俺が食べ終わるとオークはすぐにもう一本の串焼きをさし出してくれる。この時間が一日のうちで一番楽しい時間だった。大勢の魔人達とワイワイと食うのが本当に楽しい。

ただ…。【様】って言うのだけはやめてくんないかな。

そんなことを考えながら俺は肉を食っていた。

「しかしゴーグ様は凄いですよね?」

「なにが?」

「ファングラビットを武器も使わずに、素手で優しく捕まえて逃がしてますよね?」

しまった!遊んでいるのを見られた!なにかいいわけを…

「それは…。」

「あんな戦闘訓練があったとは!」

「えっ?」

「あんなに素早いファングラビットを瞬間的に捕まえては、傷ひとつ付けずに逃がすなんて、そうそうできる事じゃありません。」

「そ、そんなことないだろ?」

「ふははは。”そんなこと”ですか?」

俺の向かいに座って食べていたダークエルフの長が笑う。俺はそんなに大したことはやっていない、暇だから捕まえては逃がしているだけだ。

「我らダークエルフには到底マネができません。」

「わしらオークにも!」

「そうなんだ。へへへ。」

どうやら本気で褒めているらしいので嬉しかった。

「やはり日ごろから鍛錬を怠らないのが秘訣でしょうな。」

秘訣?なんの秘訣かわからないが、みんなが凄く嬉しそうなので喜んでおこう。

いつしかみんなが食事を終えて、数日働いていたやつらは寝るために施設に戻って行った。今日から働いているやつはまた働きにでる。3日に1回寝れば俺達は十分な休息が取れた。そのため夜通し建設作業を続ける事になっている。

でも前にイオナ様やマリアと行動している時は、1日ごとに休みを取らなければならなかった。人間ってちょっと不便だと思う。

俺は特に何もしていないので疲れもしなかった。そのためみんなが寝ている間は周辺の警護のため、寝静まった施設の中を勝手にぶらぶらとしていた。

結局何も起きずに暇だと感じていたころ。

《ゴーグ様!》

航空監視していたサキュバスから念話が入った。

《どうしたの?》

《まだだいぶ先ですが、集団がいます。》

《そうなの?何人くらい?》

《その数30》

《それだけ?》

《はい。》

《どんなやつら?》

《人間の兵士と思われます。》

《わかった。》

辺りはまだ暗くみんなも寝静まっている。夜間作業しているやつらは忙しく働いているようだった。ならやる事は一つだ、俺が1人で相手の正体を聞き出す事。そして敵国の兵ならばあの牢屋に追い込めばいい。

《監視をつづけろ!そして村の跡地そばまで近づいたら俺がやる。》

《わかりました。》

どうやらやっと俺の出番が来たようだった。ラウル様からの指示は村を視察にやってくる奴が必ずいるだろうから、そいつらをあの捕獲用の建物に閉じ込めればいいって事だ。なるべく殺さないようにも言われているし、ここはひとつ俺の力をみんなにも見てもらおうと思う。

そして俺はこっそりサキュバスに言われた地点まで走った。夜が明ける前にそいつらの正体を見極めようと思った。正直俺は他の魔人のように器用にできる自信があるわけじゃなかったが、みんなが忙しくやっているんだから俺も働かなきゃ。

《ついた。》

《お早いですね。》

《そんなことはないよ。どこにいるんだ?》

《あの丘で休息をとっているようです。》

俺もサキュバスも夜はハッキリ見渡せるので、暗闇は特に問題じゃなかったが、遠距離となると小さすぎて見逃してしまう。サキュバスはラウル様が出してくれた、スコープとか言う物がついた銃で見ている。俺には何人いるのかまでは見る事は出来ないが、丘の上に火が灯されているのが確認できた。

《だいぶ遠いな?》

《人間の速度なら昼中すぎ頃にはこのあたりに到着するのではないでしょうか?》

《そうか。ならこの先であいつらを待伏せしよう。》

《わかりました。部隊の者は後から合流されるのですか?》

《いや。誰も来ない。》

《誰も?》

《俺一人でやる。》

《それは危険ではないでしょうか?》

《みんな忙しそうだし、危険そうだったら念話で呼ぶから大丈夫だ。》

《わかりました。それと…武器は?》

《ラウル様からは生かして投獄しろって言われてるしこれだけでいい。》

俺はラウル様から預かったハンドガンと言うやつを1つ持っていた。それをサキュバスにみせる。

《それだけですか?》

《狼になると武器は使えなくなるから、とりあえずはこれでいい。必要なら念話で持ってきてもらう。》

《わかりました。それでは私は上空監視を続けます。》

《頼む。》

俺は丘に向かって草原を走り出した。しばらく走っているとだんだんと空が薄く青くなってきた。どうやら陽が昇って来たようだ。

アイツらはそろそろ動くんだろうか?風は丘の方から吹いてきているな。ならば臭いで分かるから好都合だ。

そう、俺は誰よりも臭いで嗅ぎ分けることができる。どんなに微妙な臭いでもすぐに反応できる。戦闘中は相手の汗や危険な時に出す分泌物、そして持っている薬品の匂いなどもすぐにわかる。

《ただ…臭いで分かんない、あいつらだけは苦手なんだよなぁ…。》

アイツらと言うのは、ヴァンパイアのシャーミリアとマキーナ、そしてあのファントム。奴らからは一切の臭いがしなかった、そのおかげで最初にラウル様をお守りした時の戦闘では、かなり苦戦した。

いや…苦戦どころか殺されると思った。

「あれ反則だよな…。」

俺はぽつりとつぶやく。いや…いまはそんなことはどうでもいい。

とにかくこれからやってくるあいつらを見極めないと。

《もしデモンなら部隊に召集をかけ殲滅する。そして人間の集団であれば、ラウル様の指示通りに監禁施設へと追い込むだけだな。》

俺は草原の草むらに潜みあいつらが来るのを息を殺して待つのだった。