軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第367話 輪廻の起源

ようやく…ようやくだ。

2つ目の村を出てから既に7日がたった。俺の魔力回復を待ち、さらにマキタカ一行の移動速度との兼ね合いなどもあって、2つの村の作業を終わらせてから3つ目の村の作業を始めるまで6日間ほどかかっている。

しかし…

あれだけ憂鬱だった人間の魂への書き込み作業は順調に終わり、すでに3つ目の村の書き込み作業も残すところわずか数名となっていた。野戦病院さながらに運び込まれてくる意識の無い村人達に、アナミスが施術を行う度に俺がごっそり魔力を取られる。それを100人以上くりかえしてようやくゴールが見えてきた。

変わった事はたった一つ。

俺が滅茶苦茶やつれている事だけ。

俺を鼓舞するようにしてくれていたオージェやエミルも、さすがに気の毒そうな顔をするようになった。今は仲間達の俺に対する気遣いがとにかくありがたかった。

「最後だ。」

オージェが最後の村人を担ぎこんで言う。

アナミスが村人の魂に書き込むため、俺から気前よく魔力を奪っていく。しかし最初の村よりも一人に対する疲労度合いは軽減されていた。5人のサキュバス兵の協力や周りの魔人達の援護もあって、俺は意識を失わずにすみそうだ。2つ目の村でも意識を落とさずに終える事が出来たので、どうやら俺も多少はこの作業に慣れて来たらしい。

「じゃあこの人を戻してくる。」

オージェが最後の村人を戻しに行った。

「お、おお、おおお、おおおお。」

ヨレヨレ

ヨボヨボ

俺は自分が干からびているように思えた。

おじいじゃんだ。まるでおじいちゃん。

ふらりと倒れそうに思うが、ルフラをまとっているためにその場に立ち続けていられた。

「ラウル様!おめでとうございます!」

ヒューヒュー

ゼーゼー

カトリーヌがヨボヨボの俺に近づいてきて、手のひらを背中に当てた。どうやらヒールをかけてくれているようだった。魔力の欠乏に効く事はないが気休めでもうれしかった。

「ご主人様!」

シャーミリアが俺をそっと横たえさせる。すると俺からルフラがスルスルと抜け出して行った。ルフラはそのまま人の形になり俺の手を取ってくれる。アナミスが反対の手を握りしめてさすっていた。

ヒョーヒョー

ハフハフ

言葉を発する事が出来ない。とにかく過酷だった。

ただ魂核に書き込む作業が終わった安堵感だけがあった。

「ウスノロ!さっさとご主人様の為に天幕をお出し!」

シャーミリアに言われてファントムがテントを吐き出した。

「ささ、とにかく設置を。」

エミルとガザムとゴーグがてきぱきとテントを組み立ててくれた。

ウウゥ

フガフガ

口から言葉を発する事が出来ない。念話で伝えようにも魔力が無いため念話も出来なかった。

「ウスノロ!何をぼさっとしてる!早く皆の分もおだし!」

ファントムの体から最近使ったばかりの飲み込ませたテントが次々と出てきた。それらを皆で組み上げて簡易のテント村が出来上がる。夜が明ければマキタカとオージェとトライトンが村を出てここに来るだろう。シャーミリアは彼らの分もテントを設置しているようだった。さすが秘書としての仕事がきちんとできている。

「ではご主人様、陽が上がる前に天幕の中でお休みいたしましょう。」

フハッ

フゴフゴ

俺が気にしている事を伝えようとするがうまく喋れない。

「マキタカ様ご一行の事ですね?」

カトリーヌが俺が気にしている事を察してくれた。俺はかすかに頷くようなしぐさをする。

「ラウル。俺がオージェと一緒にマキタカ様達を接待しておくさ。お前はただ休めばいい。」

言ったのはエミルだった。

ハフゥ

「いいって。とにかく目の窪みとくまと頬のこけかたがハンパないな。」

「ではエミル様。あとはよろしくお願いいたします。」

カトリーヌがエミルに言う。

「ああ、ケイナもいるし大丈夫さ。」

「カトリーヌさん。まかせてください!それよりも早くラウル様を休ませてあげてください。」

「はい。」

「ラウル様!警護は我とゴーグとファントムが責任をもって対応します。とにかくお体を休ませることに専念を。」

ガザムが言う。

フハッ

ホホッ

「は!」

彼は俺の返事を理解してくれているようだ。

そしてガザムはゴーグとファントムに何やら言っている。ファントムは俺かシャーミリアじゃないと言う事きかないのに。

「ウスノロ!ガザムの言う事をきけ!」

シャーミリアから怒られて、初めてガザムの言う事が耳に入るようになった様子。

「あなた達は交代で上空からあたりを警戒なさい。」

「「「「「はい!」」」」」

アナミスがサキュバス5人に指示を出す。

「ウスノロ!サキュバス達に武器を出しなさい!」

するとファントムが飲みこんでいたFN SCAR自動小銃を吐き出しサキュバス達に手渡した。俺が指示しなくてもサキュバスが使いやすいような武器を吐き出すあたり、ファントムは俺の影響が色濃く出ている。

武器を手にした二人のサキュバスが夜明け前の空に飛び立っていった。

《我が主。我はテントのそばにおります。緊急時は着てください。》

声をかけてきたのは魔導鎧のヴァルキリーだ。

《どうしてお前とは念話で話せるんだ?》

《魔力は使っていませんので。我は分体ですから。》

魔人達とは系譜のラインが切れているようだが、ヴァルキリーには伝わるようだった。どういう構造か分からないが緊急通信が繋がらない時は使えるかもしれない。

《よかった。緊急時はテントをはいで俺の元へ来い。》

《わかりました緊急時にはそうさせていただきます。とにかくお休みください。》

《ありがとう。》

シャーミリアが周りを見渡して言う。

「ガザム!今はご主人様の回復が最重要です。誰も天幕の中に入れないように!」

「わかった。」

俺はシャーミリアにお姫様抱っこされて大きなテントに担ぎ込まれる。カトリーヌとアナミスとルフラもその後をついて来た。

テントに入ったとたんにルフラがスルスルとスライムになり、床に這うように広がる。その上に俺が横たえさせられた。

「カトリーヌ様。すぐにご主人様のお着物を脱がせます。お手伝いいただけますか?」

「えっ?」

カトリーヌがきょとんとした顔をしている。

「とにかくご主人様を回復させなければなりません。こんな状態でデモンなどに襲撃されてしまえば、大陸全土の魔人達に危険が及ぶ可能性があります。」

「は、はい!」

シャーミリアとアナミスとカトリーヌが俺の服を脱がせ始めた。あまり感覚もないがどうやら全裸にされているらしい。

やだ…見ないで…

「では私たちも全て脱ぎましょう。」

「私達も?」

「カトリーヌ様。ラウル様はかなり疲弊なさっているのです。急を要しますので迷っている暇はありません。」

「わかりました。」

ハラハラと皆が服を脱ぎだした。

俺は自分で体を動かせないようでテントの天井部分しか見えない。

くそ!見たい!見たいぞ!

でもどうしても体は動かなかった。

スルスルと服を脱ぐ衣擦れの音だけが聞こえる。

「ご主人様に寄り添ってください。」

俺の右に誰かが横たわった。

「こうですか?」

声を聴くとどうやらカトリーヌだった。肌に触れた感じからするとカトリーヌも俺も服を着ていないようだ。

ピト

体が密着する。

あったかい。

「失礼します。」

アナミスの声と共に左側に人がくっつく。

ピト

あったか~い。

ふたりとも裸の様だった。

「ルフラお願い。」

シャーミリアが言うとズズズと俺達をルフラが囲っていってるようだった。どうやら俺を中心にカトリーヌとアナミスの、恵方巻のようなものが出来上がっているようだ。おかげで二人と俺との体の密着度合いがハンパない。

熱い。

そしてそのルフラにスマキにされた3人の頭の上にシャーミリアが来る。そっと俺の頭を太ももの高い位置まで乗せる。シャーミリアはヴァンパイアだから体温が低くひんやりと頭が冷やされる。たわわな胸が俺とシャーミリアの顔の間にあった。太ももの感触から下半身もどうやら裸のようだ。

「カトリーヌはご主人様に魔力を注ぐよう想像をしてみて。」

「やってみます。」

「やったことはないでしょうが、とにかく魔力を活性化させるような感じで。」

「はい。」

「アナミスは癒しの吐息を。」

「ええ。」

シャーミリアが今にも泣きそうな顔で俺の瞳を見つめている。

「私奴の微々たる魔力などでは足りぬかと思いますが、わずかでもお役に立てますよう。」

シャーミリアからも淡い光が出て俺を包み込んでいるようだ。

「ご主人様はお眠りになってください。深ーい眠りについていただけるようにいたします。」

両サイドからカトリーヌとアナミスの鼓動と息遣いが聞こえる。とても暖かくて、まるで胎児になり母親の腹の中にでもいるような感覚だった。心音だけがはっきりと聞こえている。

すんごい心地が良い。いい匂いがする、カトリーヌの匂いとアナミスの癒しの匂い。しかし頭は発熱する事が無いようにシャーミリアに冷やされつつ魔力を注がれている。

眠く…なって来た。

裸の美女たちに囲まれ胎児のように暖かく全身をくるまれ、ささやかな魔力を注ぎこまれながら癒しの甘ったるい香りの吐息をかけられていた。

脳内がとろけそうだ。

「ラウル様。ぐっすりお眠りください。」

カトリーヌが言う。

「本当に本当にお疲れ様でございました。もう終わったのです。こんな苦しい思いをすることはやめにいたしましょう。」

アナミスが言う。

すんごい気持ちいい。

カトリーヌとアナミスの胸、お腹、股、太もも、ふくらはぎが俺の体に絡みついているような感覚だ。

あたたかい。

極上のベッドに包まれて俺は次第に意識が遠くなってきた。

みんなには護衛とかさせてもうしわけないな。皆も疲れたろうに…オージェやエミルにも後でお礼を言おう。マキタカ様達も多大な協力をしてもらったし、早くカゲヨシ将軍の所に連れて行ってあげないとな。

前線基地のみんなは大丈夫かな。ゼダとリズは書き込みによってデモンから解き放たれたんだっけ。彼らもリュート王国に帰りたいよな…

トラメルは元気にしてるかな…

モーリス先生は元気かな…イオナ母さん…グラム父さん…騎士のレナード

女騎士のシャンディは何してるかな、魔法使いのセレス…若い騎士…クレムとバイス…

どうやら俺は死んでしまったサナリアの仲間達を思い出しているようだ。次第に幼少の頃にユークリット王都で過ごした頃に戻っていく。

そしてさらに深く深く。

幼児に戻り更に新生児に…ガルドジン父さん…

母さん…

トクン

トクン

トクン

心音だけが何個も重なった。

更に…

前世の家族…

父さん母さん…

魂の奥底までまったりと癒されていくようなまどろみの中、ベビーベッドから見上げると和風の天井に若かりし頃の日本での父さんと母さんが覗き込んでいる。

ふたりは俺をあやしていた。

更に深く深く。

潜っていく。

トクン

トクン

…また胎児に…

心音が聞こえる。

見知らぬ場所。土の天井。

覗き込む二人の異人。

俺を優しく見つめる目、どうやら木の棒に人の顔をかいたおもちゃであやしている。

また眠り…深く深く潜り込む。

トクン

トクン

星空。

俺を抱く未開の土地の人。優しく俺の頬を撫でている。

側らには髭もじゃの猿のような顔の男。しかしコイツも優しそうだ。

またさらに深く深く沈む。

トクン

トクン

俺が見ているのは人ではない者。

しかし微笑んでいるのが分かる。

この世の何よりも愛するものを見る顔。異常に長い手指で俺のおでこを撫でている。

また深く沈む。

この幾度となく繰り返される記憶のようなもの。これは恐らく俺の前世と前前世と前前前世と前前前前世だと思う。

輪廻

という奴だろうか。

まるで無限に沈みこむ心地良い胎盤の底なし沼に沈んでいくようだ。

これは俺の魂核に刻まれた記憶なのかもしれない。俺が覚えたすべての記憶。

そしてブラックホールに沈むようにそして溶けていくように、俺の意識がまるで宇宙の全てに融合するように、どんどん広がっていく。

星か…

明るく光る小さな星のような光の玉が目の前にあった。

「これはなんだ?」

眩くて力に満ち溢れたもの。

俺の手のひらに入るような大きさの…

そう、恒星。

これは恒星だ。

俺はその星をしばらく見つめていた。いくら見ていても飽きなかった。どのくらいの時間それを見ていたのかも分からない。

瞬間なのかそれとも無限なのか。

その恒星が…鼓動を始める。

「これ…生きてんの?」

俺は思わず赤子のような手を差し伸べてその鼓動を始めた恒星を握る。

ブワァァァァァァァァァァァァァァ!

触れた瞬間だった!俺の記憶は一気に時を進めていく。

あっというまに時代は進み、遥か目の前を歩く人間がいた。

その人間は。

ラウル・フォレスト。

俺だった。

あっという間に追いついた。

「スゥ!」

俺は息を吹き返した。

「ご主人様!」

「ラウル様!」

「ラウル様!」

目が覚めると寝た時と変わらぬシャーミリアの泣きそうな顔と、たわわに実った裸の乳房が眼前に広がる。

「シャーミリア。俺はどれだけ寝ていた?」

「3日にございます。」

「え!そんなに?一瞬だと思った!」

「目覚めないのかと思いました。」

カトリーヌが言う。

「カトリーヌ!大丈夫か?三日三晩何も食べてないんじゃないか?」

「栄養はルフラが届けてくれました。」

「そうなのか。ルフラは消耗していないか?」

「ラウル様。私は眠る前にビッグホーンディアの臓物や草木を溶かして蓄えていたのです。」

「そうだったのか…。」

「それにしても立派です。」

「立派??」

ルフラに言われて俺はある事に気が付いた。

俺の足と足の間についている大切な銃が…デザートイーグルのようにキリキリとなっていた。

「ご主人様!完全回復でございますね。」

「そのようではあるけど…あのう…服を着てもいいだろうか?」

「いいえラウル様!もう少しこのまま!」

「すみません私も。」

「ご主人様。配下達の我儘を今しばらく叶えてあげてはいただけませんか?」

普段は俺を独占気味のシャーミリアが言う。

「わかった。じゃあ気のすむまで。」

「ありがとうございます。」

俺がテントを出て外にでたのは目覚めてから半日が過ぎてからだった。

魔力と体力が両方とも眠る前と同じくらい?いや恐らくこの感覚は増えている感じがする。

魔人達の秘術?

彼女らのおかげで、俺は不思議な記憶と共に超回復をとげたのだった。