作品タイトル不明
第345話 敵の作戦が発動
なぜか俺は、敵が送り込んで来た難民たちにドローンで人道支援をしている。トラメルの指示で作らせた料理をせっせと難民たちに送っているのだが、そんなことをしている間にも難民はどんどん増えていた。
こちらとしても、これ以上国境沿いに人が増えるのを看過できない。さらに人間がこんなに増えれば、本来ならここに魔獣が寄ってきそうなものだが1匹もこなかった。この一帯から魔獣が消えてしまったようだ。
メリュージュが言っていた通りなら、ここに龍神がいるおかげだろう。恐らくここを中心としたかなりの広範囲で魔獣は寄り付かないはずだ。そのおかげでここの難民たちが魔獣に襲われる事はなさそうだが、向こうの国境沿いの拠点には彼がいない。疲弊したリュート王国の民たちが魔獣に食い殺されるのも時間の問題だろう。
「さてどうしたものか?」
「なんか物凄い数の人が増えてんぞ。」
「な。」
「ああ。」
俺とオージェが話している。
俺達が食料を細々と送るくらいでは、到底足りないであろう人数が集まっている。通信で確認すると、どうやらファートリアとバルギウスとユークリットの三国国境にも、どんどん人間が増えているようだった。
「街ごと送られて来たんじゃないのか?」
「まさか…でもあれ以上増えたら収拾がつかないな。」
「食料だって足りてるんだろうか?」
「足りてないだろうよ。」
相手の状況を見ているとリュート民への補給部隊が来るには来るのだが、人数から想定しても到底足りる物じゃなさそうだった。
「フラスリアにて、もっと用意させましょうか!」
トラメルが言うが俺はそれを止める。
「いえ、それではフラスリアの負担が大きい。」
「それでも支援すると決めています。」
「トラメルさんにお願いしたのは我々魔人軍の支援であって、敵地から来た難民に物資を届ける為ではないです。まあでも見殺しにするわけでもありません。あれは恐らく人間の盾じゃないかと思うんです。」
「人間の盾?」
「あのようにすれば、我々が敵地に侵攻する事が出来ないと思っているんでしょう。」
「なるほど、一般の人に危害を加えるわけにはいきませんからね。」
「はい。ただこのまま続けていても仕方がないですよね。」
「確かに。」
「逃げて来た方々なのか、送り込まれた方々なのかでも違います。ただ逃げてきたのなら国境を越えてこちら側に来るはず。何か国境を超えない理由があるように思うのです。」
「国境を超えない理由…。」
「まあ、それがなにか分からないんですがね。」
なぜ敵はリュートの民をこんなに大量に送って来たのか。
「ラウルの言う通りなら、これから軍隊が来て彼らを盾にして戦うんじゃないのか?」
エミルが言う。
「その可能性もあるだろうと思う。」
「なら本隊が来てしまう前にケリをつけないと、あの人たちに大きな被害が出るぞ。」
「せめてドローンでファートリア内地の状況が見れればいいんだが。」
「やはり見えなくなるのか。」
「飛ばしたドローンは10機。そのどれもが墜落したか消えたか何らかの障害に阻止された、今回飛ばした1機も既に映像は無くコントロールも効かなくなった。」
「敵にジャマーでもあるんですかね?」
「現代兵器が?」
「ええ、ラウルさんだけが現代兵器を召喚できるとは限らないかもしれないですよ。」
そう言われてみるとそうだ。俺達4人は向こうの世界から呼ばれて来たが、俺達と同じように召喚されて来た人間が敵にもいる可能性がある。
「確かにその可能性も否定できないな。」
「そう思います。」
グレースが言う。
「もう一つは。」
オージェが何か思いついたようだ。
「なんだオージェ?」
「空中に転移魔法が仕掛けられているとしたら?」
「…オージェ!おそらくその推測が一番近いんじゃないだろうか?」
「その可能性ありますね。」
「今までの事から考えると、それが一番可能性が高いか。」
俺とグレース、エミルもオージェの推測に納得する。
「転移罠なら厄介だ。航空機で侵入するのは危険と言う事になる。」
俺が言う。
「だな。飛べる魔人達も飛んで行くのはやめた方が良さそうだ。」
「オージェの言う通りだな。」
この山岳地帯から見えるファートリアの上空には何も見えないが、地面に壁に人間にといろんなところに転移罠を仕掛けてくる相手だ、空中にも仕掛けられるかもしれないと考えていいだろう。
そんな会話をしているところに念話が繋がる。
《ラウル様。》
《どうしたルピア。》
ハルピュイアのルピアだった。
《何者かがこの山に登ってきます。》
《なに?森の中をか?》
《いえ街道をです。2人の人間が…どちらも町人風ですが一人は帯刀しています。》
《能力的には。》
《全く問題を感じません。》
《わかった引き続き監視を続けろ。発砲はするな。》
《はい。》
ルピアからの念話で誰かがこちらに向かって歩いて来たと報告が入った。
「誰か来るそうです。」
俺がトラメルに言う。
「どこから?」
「ファートリア側から街道を上がって人が二人。」
「どうなさいます?」
「トラメル伯は万が一があるといけないからここに残ってください。カララはトラメル伯から離れないように。」
「分かりました。」
「かしこまりました。」
「では俺とマリア、シャーミリアとセイラとギレザムで行こう。」
「分かりました。」
「かしこまりました。」
「はい!」
「は!」
魔人としての雰囲気を悟られれば怯えるだろうが、この4人なら見た目で怯えさせることはない。俺とマリア以外は、いささか人間離れした美しさの美女とイケメンだが、より人間に近づいた彼女らなら問題ないだろう。
「えっとグレース、預けた魔石を3個くれ。」
「了解です。」
グレースの手の上に3粒の魔石が出てきた。
「ありがとう。」
俺はグレースから3粒の魔石を受け取ってポケットにしまう。
「じゃ行って来る。」
「お気をつけて。」
「くれぐれも。」
カトリーヌとトラメルが俺に声をかけてくれる。
「はい。」
俺達5人は森を抜けて街道に出た。見通しの良いところまで歩いて街道から下を眺めていると、遠方に人影が現れたようだった。更にその奥にはリュートの民の麓のテント村が見渡せた。
俺はマリアに使い慣れている、マクミラン TAC-50スナイパーライフルを渡していた。マリアがスコープを覗きながら相手を見ている。
「どんな奴だ?」
「帯刀している者は男です。そしてもう一人は恐らく尼のようです。」
「尼さんか。」
「はい。もしくはその格好をしているだけかもしれませんが。」
「万が一がある、いつでも撃てるようにしておけ。」
「かしこまりました。」
ガシャン
マリアがボルトを操作して装弾した。この距離なら彼女は絶対に外さないだろう。
俺は魔石をポケットから取り出して、すでに魔力がたまっている魔石にわずかに魔力をそそいだ。すると3粒の魔石が紫色に輝きだした。
暫く待っていると200メートル先くらいに二人の人影が見えてきた。
「きました。」
シャーミリアが言う。転移罠で俺が飛ばされたのを見ているだけに、二人が近づいてくるのを緊張して見ているようだ。
「ミリア。大丈夫だよ今回はその対策をしようと思う。」
「はいご主人様。万が一飛ぶのなら私奴もご一緒させていただきます。」
「私も。」
「我も。」
セイラもギレザムもどうやら俺を一人で転移させないようにしてくれるらしい。彼らとならどこに飛ばされても余裕で生還できるだろうが、今回俺は同じ罠にかかるつもりはない。
暫く待っていると、100メートル先くらいで俺達に気が付いたらしい。相手の歩みが遅くなったようだ。どうやら警戒しているらしい。
「止まれ!」
50メートルほど先に来たため、俺が大声を出して相手を止めた。
「手を上げてこちらへ来い!」
俺が言うと二人が素直に手を上げてこちらに歩いて来る。20メートルほどの距離になった。
「止まれ!」
二人が手を上げたままそこに止まった。
「どこから来た!」
「はい、リュート王国からまいりました。」
帯刀した男が話し出す。思わず声が若くて驚いた。
「あの後ろに見える集団もお前たちの仲間か!」
「はい!その通りです。」
「あそこに集まって何をしている?」
「それが…強制的に送られました。」
《エミルの念話で聞いていた通りだな。強制的に連れてこられたらしい。》
「なんの目的で?」
「それが分からないのです。我々は既に人質を取られています、ここに抜け出してきたことがバレてしまえば、国に残して来た者に危害が加えられるかもしれません。」
「それなのにわざわざ、たった二人で国境を越えてまでこちらに来た理由は?」
「この数日間、私たちの子供たちにお恵みを授けてくださったのは、あなた方でしょうか?」
「菓子の事か?」
「ああ、やはりそうでしたか!」
男が微笑みを返してくる。
「あれはフラスリア辺境伯領主様からのありがたいお恵みである!それを知ってどうするつもりだ?」
すると二人が地面に膝をついて頭を下げた。
「あの集落では神のお恵みと信じられておりました。しかし我々はあれは人がやっている事だと確信していたのです。そして今それがフラスリア領主様の思し召しであると分かりました。ここにそのお礼を申し上げたいと思います。」
二人は頭の前で両手を組んでお祈りを捧げるようにしていた。
「我らは、フラスリア領主の代理でここにいる!だがファートリアとユークリットが戦時であることを知ってここに来たのか?」
「戦争を?」
「そうだ。ファートリアが仕掛けた戦争で北の大陸が総力を挙げて戦っている。」
二人は顔を見合わせている。
「どうした?」
「申し訳ございません。それであれば恐らくリュート王国も本来はそちら側の軍と、同じ境遇にあると思っています。」
「どういうことだ?」
「リュート王国の王族も貴族もみな殺されました。」
どうやらリュート王国でも多分に漏れず王族や貴族殺しが行われたようだ。
「我らがその話を信じるとでも?」
「いえ、いきなり来てそれが信じてもらえるとは思いません。」
二人はまだ頭を下げたまま俺達に膝をついていた。攻撃の意志が無い事は間違いないが、一つの疑惑を晴らさねば近づく事は出来ない。
「これからお前たちの足元にある物を投げる!それを拾い上げて握りしめろ!」
二人が頭を上げる。
「なんのことでしょう?」
「いいから言われたとおりにやればいい。」
「わかりました。とにかく仰せに従います。」
俺は二つの魔石を20メートル先の二人の前にそっと放り投げる。魔石は二人の眼前に落ちて輝きを放っていた。
「魔石?ですか…?」
「そうだ。それをただ握るだけでいい!」
二人が俺に言われるがままに魔石を拾い上げて握りしめた。俺はそのまま魔力のつながりを辿り、離れたままその魔石に魔力を注ぎ込んでみる。
魔石が更に明るく輝いた。
「まぶしいですね。」
男が言う。
「なんともないか?」
「まぶしいだけです。」
「女!お前はどうだ?」
「私も特に何もありません。」
どうやら二人に転移魔法やインフェルノの類は仕掛けられていないようだった。
「それをもってこっちへ来い。下手な真似はするな!」
二人がそのまま立ち上がりこちらに向かってそろりそろりと歩いて来る。
5メートルほど先に来た。
「止まれ。」
二人をよく見ると、だいぶ若いようだった。俺達とあまり年が変わらないように見える。青年と言うにはまだ若い二人だった。
「名前は?」
「私はゼダと申します。」
「私はリズです。」
この二人は思いの外、身のこなしが上品だ。
「そうか。これからお前たちを拘束するがいいか?」
「はい、かまいません。」
ゼダが言う。リズは黙ってうなずくだけだった。
そして俺がシャーミリアとセイラに二人の拘束を命じようとした時だった、遠くの山の麓にあるリュート王国のテント村に何かしらの異変を感じた。
「ん?」
俺が彼らから目を背けて拠点を眺めると、リュート王国の二人もつられて自分たちが居たであろう拠点を見る。
「あ、あれは…。」
ゼダが言う。
リュートの民たちが居る場所に光がたちこめていた。民たちが居る場所の真上が光り輝いているのだった。
「おい!あれはどういう事だ?」
俺が二人に詰問する。
「いえ、分かりません!あ、あれはいったい…。」
「そ、そんな…。」
リュートの民の上空の空間が光り輝き、更にその中に巨大な魔法陣が何個も浮かび上がって来たのだった。
「ま、魔法陣!!」
その魔法陣は光輝き、円を描き幾何学的に行く重にも重なっている。
俺は急いでドローンを召喚してその場所に向けて飛ばした。
《カララ!ルフラ!そこから見えているか?》
念話で森林の拠点にいる魔人に言う。
《はいラウル様!はっきりと。》
《あの光は?なんでしょう?》
《全軍を連れて退け!出来るだけ急いでここを離れるんだ!異世界組にも伝えろ!》
《かしこまりました!》
《はい!》
「ギレザム!シャーミリア!急いで二人を拘束しろ!」
「はい!」
「かしこまりました!」
《ルピア!すぐに俺の元に戻れ!》
《はい!》
先行しているルピアを早急に俺の元に戻す。
「そんな!兄さん!」
「なんだ…あれは…。」
ゼダとリズはどうやら兄妹の様だった。魔人達になすがままに拘束されながらも、自分たちが居た拠点に起きた現象を呆然と見ていた。巨大魔法陣は更に巨大になり、強く輝きを増しているようだった。
《ラウル様!》
《どうしたウルド!》
サナリアから国境の拠点に差し向けていた、ダークエルフのウルドから念話が入った。
《いまサナリアから指定された拠点に到着しました!そしてラウル様!》
《どうした?》
《巨大な魔法陣が見えます!あれはいったい…》
《ウルド!一旦全軍を率いてサナリアに退け!事態は急を要する!とにかく急げ!》
《御意。》
同時に同じ現象が起きた。間違いなくこれが敵の狙いだろう。
ただしその立体的な魔法陣が一体何を意味するものなのか、俺も俺の配下にも知っている者はいなかった。いきなり起動された魔法陣を俺は呆然と見つめていた。
俺が飛ばしたドローンが1機その魔法陣に向かって飛ぶのだった。