軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第344話 難民にお菓子を

フラスリア領の南に位置する、ファートリア神聖国とユークリット公国の境にある山岳部に、魔人軍の拠点が出来上がった。ファートリア側には続々と人々が集まりテント村が作られている。そのテント村は山の麓にあるため、魔人軍の拠点から見下ろせば全容を見る事ができた。

エミルの精霊を飛ばして彼らの会話を盗聴した結果、やはりリュート王国から強制的に連れてこられた人々のようだった。

最初に彼らを発見してからすでに5日がたっている。どんどん人が増えており、補給が来て食料も供給されているらしい。死んでもらったら困るという事だろう。夕方から夜にかけて一旦、人の流れは無くなるようだが、日中にはまたポロポロと人が増えていくのだ。

「向こうの拠点にもかなり人が増えて来たみたいだ。」

俺はファートリアとバルギウスとユークリット三国の、国境にある川を挟んだ拠点の事を言う。

「それでも敵が侵入してきたりはしてないんだよな?」

オージェが言う。

「ああ、相当な人数になるようなんだが、特にそれらしい動きはないらしい。」

「不気味だ。」

「まるで街でも作ろうって勢いですね。」

グレースも相手が何を考えているのか分からないようだった。

「まったくだ。」

俺たち異世界組の四人は敵の真意が読めずに、方針が決まらないまま日にちだけが過ぎた。

「ドローンからの情報は?」

エミルが聞いてくる。

「ああ、国境を越えてもしばらくは電波が届くみたいだが、ある程度の距離を進むと阻害されて音信不通になる。幌馬車が行ったり来たりしているのくらいは確認できたんだが。」

「となると結界のような物でしょうか?」

カトリーヌが言う。

「わからない、俺の兵器に干渉するものがあるという事だけは確かだ。」

「で、どうするつもりだ?」

「ああオージェ、向こうの拠点もゴーレムが行ったり来たりを続けているが、敵は何もしかけてはこないみたいだしな、どうにかしてあの人たちと接触が出来ればいいんだけど。」

「LRADで語り掛けてみるとかどうでしょうね?」

グレースが言う。

「うーん。」

「それではその役割を辺境伯である私が受け持ちますか?」

トラメルが名乗り出た。

戦時に自分の領のそばに人々が集まっているのだから、それに対し警告を出すのはおかしい事ではないだろうが、敵の狙いが分からない以上それが正解なのかも分からない。

「こちらの領主がここに居るという事も知られたくはないかな。」

「そうですか。」

「ラウルさん。ドローンで食料を投下して攻撃する意思はない、アピールをしてみてはどうでしょう?」

グレースが提案する。

「なるほど、それは良いかもしれない。」

グレースの言う事は効果的かもしれない。あんな山の麓では食料もままならないだろう。

「それでは我が領のお菓子を届けてはいかがでしょう?」

トラメルが提案する。

「良いですね。食料よりもお菓子の方が手に入らないでしょうから、きっと喜ぶと思いますね。」

「では早速、領から運ばせましょう。」

「いや、飛んでこちらからお菓子を取りに戻らせます。」

「わかりました。それでは少々お待ちください。」

トラメルが自分のカバンから羊皮紙と羽ペンを取り出した。更に小さい小瓶を取り出してスラスラと指示書を書く。

「これをお持ちになってください。ローウェルへお渡しいただければ分かると思います。」

「わかりました。」

俺は書簡をトラメルから受け取った。

「マキーナ!」

「はいご主人様。」

「フラスリアのトラメル伯邸に行ってこの書簡を見せろ。そして甘いお菓子を袋に詰めて戻ってこい。」

「かしこまりました。」

ドシュッ

マキーナが凄いスピードで飛んで行った。シャーミリアほどではないがマキーナの飛行速度も恐ろしく早いのだ。普通の人間の目には消えたように映るだろう。

「あとラウルが出す戦闘糧食のチョコレートも良いんじゃないか?」

オージェが言う。

「あれ溶けないように加工されててさ、ちょっと固いんだよな。」

「でもチョコはチョコだ。こちらの世界の人間には珍しいだろう?」

「分かったそれも投下してみよう。」

2時間ほど待っているとあっというまにマキーナが戻って来た。大きめの木箱を持って降りて来る。

「ご主人様。すでにお菓子が用意されておりました。」

「ええ、常に兵士に差し入れをするように作らせていたものですから。」

トラメルが言う。

「至れり尽くせりでありがたいです。ちょっと違う用途に使いますがよろしいですか?」

「かまいません。」

「では。」

俺は両手を前に差し出してデータベースの中から貨物用ドローンを選び召喚する。

「自衛隊の災害用貨物ドローンか?」

オージェが言う。

「50㎏まで輸送できるらしいぞ。」

「凄いな。」

「俺の魔力をそそげばもっとパワーがでるだろうが、あの集落に転移罠が仕掛けてある人間がいたりしたら発動してしまうかもしれない。単純なドローンの能力で届ける事にしよう。」

俺がお菓子の木箱を空ける。

中にはおいしそうなパウンドケーキや焼き菓子が詰まっていた。

「うわ!美味そう!」

つい口からこぼれる。

「ラウル、食うなよ。作戦に使用するヤツだからな。」

「わ、わかってるよ。」

「本当にいい香りですね。」

マリアが目をつぶって嗅いでいる。

「え?マリア食べたい?」

「いえ、そんなわけにはまいりません。」

するとカトリーヌも話に入ってくる。

「そうです…作戦が…。」

どうやら女子は甘いものに弱いらしい。とても欲しそうな顔をしていた。

するとトラメルが言う。

「ラウル殿?レディーお二人にはよろしいのでは?」

「あ、そうですか!トラメルさんすみません。」

俺が言って二人に1個ずつお菓子を渡してやる。俺はマリアやカトリーヌにはすこぶる甘いのだった。

「俺達は良いから、二人で食べればいいよ。」

「そんないけません。」

「いやマリア、トラメルさんが言うんだからいいだろ。」

「そうです。ラウル殿の大切な方達なのですからこのくらい良いではありませんか?」

トラメルが二人に優しく言う。

「な、もらっとけよ。」

「あ、ありがとうございます。ではありがたくいただきます。」

マリアが言う。

「私もすみません。おねだりしてしまったみたいで。」

「ははは、食べてください。」

トラメルに進められてカトリーヌも口に入れた。

「おいしい!」

「本当に!これは美味しいですわ。」

「最近はサナリアから上質の小麦が入ってくるようになったのです。そしてルタンからは上質の糖が入ってくるようになったようで、フラスリアの生活の質がだいぶ上がりましたわ。」

トラメルが嬉しそうに言う。

「トラメルさん。これならあそこにいる市民たちも喜ぶんじゃないかな?」

二人が食べてる脇で俺が戦闘糧食のチョコレートを大量召喚した。

「ラウル。箱だとロープを外した時危険じゃないか?」

オージェが言う。

「確かにそうだな。」

「戦闘服素材布とか召喚出来ないか?」

「そう言えばデータベースにあったような無かったような…。」

俺がデータを見ると、マルチカム迷彩 布 165cm 90cm と言うのがある。

召喚してみた。

すると1枚の迷彩柄の布が目の前に現れる。

「すげえなラウル。何でもありだ。」

「いやそれでも軍用か戦闘用の物じゃないと召喚出来ないんだがな。」

「この布の四つ角に紐を通して地面近くで外せば、人に木箱がぶつかる事も無いだろう。」

オージェはやはり細かいところに気が付く。この配慮は自衛隊の救助活動などで養った物だろう。

「オージェの方がすげえよ。」

俺が言うとエミルとグレースがうんうんと頷いている。

「俺は何もしてない。」

「いや、助かってるって。」

「そうか?とにかく善は急げだ。作業しちまおうぜ。」

「おう。」

俺達はオージェが言っていたように布を加工して、貨物用ドローンにセットした。ボタンを押すと紐が外れる仕掛けになっている。紐が外れれば布が広がってお菓子がすぐに手に取れるだろう。

袋状になっているところにお菓子を全て詰め込んだ。

ディスプレイ付きコントローラーをグレースに渡す。グレースはこういう機械ものにとにかく強い。

「グレース、ドローンを頼む。」

「わかりました。」

フォーーーーー

軽快な音を立ててドローンが空中に飛び立った。

ドローンは直ぐに空高く舞い上がって山の麓のテント村に向かって降りていく。

「エミル。向こうの会話はとれるか?」

「無論だ。風の低級精霊が周囲を舞っている。」

あっというまに山を駆けおりていくドローン。まだ上空なので下にいる民たちはドローンに気がついていないようだった。

「よし、上空につきました。」

「ゆっくり降ろしてくれ。」

「はい。」

ディスプレイに移る映像には人々が右往左往するのが見えている。どうやらドローンが降りてきて何事かと驚いているようだ。だいぶ距離をとって様子をうかがっている。

「袋が地面につきました。」

「ロープを外してくれ。」

「うまくいきました。」

「よし、ドローンを戻せ。」

ドローンはまた山の斜面を昇ってくるのだった。

「どうやらドローンが飛び去った方向を見てるようですね。」

「恐らく向こうには双眼鏡なんかないだろうから、俺達を見つける事は出来ないだろう。」

上手くお菓子を置いてドローンが戻って来た。

「エミル。向こうがどんな様子か分かるか?」

「誰も近寄ってこないぞ。」

《そりゃそうだろうな。怪しい飛行物体が来て、いきなり布が広がって中にお菓子があったところで、誰も近づくわけ無いか…》

「いや!子供が走って来た!」

《お!良いぞ!》

「それで?」

「大人が止めようとしたみたいだが振り切って来たぞ。」

どうやら子供は素直にお菓子に飛びついてくれたらしい。

「それで?」

「他の子供たちも一斉にお菓子に寄って来た!ワーワー言いながらすでに食べてる子もいる。」

「やっぱお菓子は強いな。」

トラメルの言う通りお菓子を飛ばしてやって正解だった。

「でも大人が子供達からお菓子を引きはがし始めた…。」

「まあそうなるだろうな…。」

「いや、でも子供が食べて問題ないのを確認したらしい。もっと大勢の子供たちが詰めかけて来た。てんやわんやだ。」

「そうか!でも一体何だと思って食ってるんだろうな。」

エミルが聞き耳を立てるようなしぐさをする。低級精霊の声を拾っているのだ。

「えっと、こう言ってる。「アトム様だ、アトム様が我慢している僕たちにお菓子を届けてくれたんだ。」って。」

「子供は純粋だな。」

「そのようだ。」

「お菓子作戦は半分成功か。こっちの仕業だとは思ってないらしい。」

「そりゃ天からお菓子が降って来たんだ、神様の仕業って思うよな。」

「だな。」

本来はこちらに攻撃の意志が無い事を伝える為の作戦だったが、目的とは違う伝わり方をしてしまったようだった。

「あきらめずに、何度もやってみてはいかがでしょう?」

トラメルが言う。

「何度も?」

「はい、こちらの山から飛んで来て何度もお菓子を運んでくると分かれば、何かしら気が付くのではないでしょうか?」

なるほど一理ある。

「フラスリアの料理人たちが大変では?」

「いえ、後方支援を徹底するように言っています。喜んで腕を振るうでしょう。」

「分かりました。それではまた明日同じ時間にやってみましょう。」

「はい。」

「マキーナ。明日も頼む。」

「かしこまりました。」

お菓子で平和アピール作戦の第一弾は半分だけ成功した。あそこのテント村には大人だけじゃなく子供や老人がいる。少しでも子供の笑顔を見られるのは俺達としても悪い気はしない。

敵の目的が分からないままだが、俺達はこの方法でリュート王国の民を懐柔してみようと試みるのだった。

そして俺達がドローンの映像で見た者達は、前世で言うところの難民そのものだった。どう考えても着の身着のまま連れてこられたような感じだ。

とにかく明日もやってみよう。彼らを助ける第一歩になると信じて。