軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 マリアの苦悩 ~マリア視点~

私達はサナリア領に向けて出発することになりました。

私がラウル様を見ているとなんだか寂しそう…

きっと先生と離れるのが嫌なんだわ。

王都を出る前にラウル様がモーリス先生に会いたそうにしていたので、私はグラム様とイオナ様に話をしてモーリス様を連れてこれないか尋ねてみることにしました。

モーリス様のお宅に到着したとき、ちょうど私たちをお見送りのため家を出るところに鉢合わせしたのです。いつもと変わらずお優しい立ち姿でした。

「おお、マリアよわざわざ呼びに来てくれたのかの?」

「ラウル様が会いたそうにしておりましたので。」

「そうかそうか」

モーリス様のほうから来てくださるようでした。ちょうどよかったようです。そのまま一緒に歩いていくこととなりました。

「来てくださるところだったのですね。」

「ラウルをひとめ見ておこうと思ってのぅ。」

「ラウル様をですか?」

「そうじゃ、あやつは不思議な子じゃのう。」

「やはり先生もそう思うのですね。」

「じゃな。あの年端で理解できる内容ではないのじゃよ。いま学んでいるものは…」

「実は…数ヶ月前から急に話す内容が大人のようになったのでございます。」

「数ヶ月前からのう….マリアは輪廻転生という言葉を知っとるかの?」

「りんね…いえ存じあげません。」

「そうか…死んだ後で、また何かの生きているものに生まれ出るといったことかの。あやつは何かのひょうしで、死ぬまえの記憶が蘇ったのではないかと思うておる。」

「はい…先生はラウル様のことをそのようにお考えで?」

「ふむあやつは…ことのほか、もの覚えがよく2種の魔力が体内を巡っているようなところもあるようじゃ。ときおり子供らしくない眼差しになることもあるしの。」

「実は….」

「なんじゃ?」

「いえ…やはり…」

「言いかけじゃ言うてみい。」

「こんなことを言うと、不敬にあたるやもしれませんが、ラウル様はグラム様とイオナ様のお子ではないと思うのです。」

とんでもないことを言ってしまいました。私は罰せられるかとも思い、身を縮こませていました。

「何故そのように思うのじゃ?」

「はい、サナリアにいたある日グラム様が家に戻られたのですが、その日の夜呼ばれグラム様とイオナ様に初めて赤ん坊のラウル様を見せられて、こう言われました。この子は私たちに神が授けた子だと。イオナ様は妊娠してはいなかったはずなのです。」

「なるほどの。なれば間違いなく2人の子ではなかろうな。マリアよそれを誰かに言うたことはあるかの?」

「いいえ、私が思い続けていたことで、誰にも。」

「よろしい。それではこの後もだれにも言うでないぞ。おそらくはおぬしのためじゃ。ワシも心に収めておくことにしよう。」

「わかりました。」

そんな会話のあと、モーリス先生は黙り込んでしまいました。なにか深く考えておいでのようでした。するとフォレスト邸の前に停まる馬車が見え始めました。

馬車が3台でまわりには人が集まっていました。

フォレスト家の3人とセルマ、女性騎士のシャンディ様と魔法使いのセレス様、騎士のレナード様とライナス様、あとはクレムとバイスでした。クレムとバイスの2人はイオナ様と一緒に来た護衛で、ナスタリア伯爵領にいたころからの幼馴染です。後の3人は雇った御者でしょうか?

シャンディ様とセレス様はサナリアから来た女性です。シャンディ様は髪を一本に束ね凛々しいお顔立ちをしていらっしゃいます。セレス様はお優しいお顔だちで薄く紫がかった髪色がキラキラ輝いていました。ローブがとてもお似合いでした。

騎士のレナード様とライナス様の幼馴染2人も旅用の皮の鎧に身を包んでいました。

「あ、先生!」

ラウル様がいちはやく気がつきました。

「お待たせしたのう。」

するとグラム様がいいました。

「いえ、モーリス様いま全員集まったところですよ。」

「そうか、ワシも王都の門まで乗せてもらっていいかのぅ?」

「ぜひ!」

モーリス様はフォレスト家の馬車に乗り込みました。

城壁の門で降り、モーリス様はラウル様に声をかけておいででした。

「ラウルよいつでも学びにくるがよい。待っておるぞ。」

「はい!」

ラウル様はとても名残惜しい様子でした。

それから3日夜間は野営をしながらすすみました。

すると村が見えてきました。今日の夜はこの村の宿に泊まるようでした。ベッドとお風呂があってありがたかったです。この村はフシ村という旅人のためにある宿場町でした。次の村までは7日ほどかかるそうなので、みなここで疲れをとることに専念していらっしゃいました。

「次の村までは森もある。装備の手入れはおこたるな。」

グラム様が皆に号令をかけていらっしゃいました。みな引き締まった表情で返事をなさっています。やはり旅行は危険なものです。注意してもしきれるものではありません。私も火魔法が使えますので少しでもお役に立ちたいと思います。

普段はお風呂は朝入るものですが、早朝に出立するため寝る前に入ることになりました。

私はイオナ様とラウル様のお世話のために一緒に入ります。イオナ様の髪を洗いお背中を流して差し上げました。本当にお美しい方です。そしてイオナ様は先にあがられました。

次にラウル様の髪を洗おうとしたとき…手が止まってしまいました。

りんね…

モーリス様のおっしゃっていたことが頭を回ります。まさか…そんなわけはないと思います…思いますが…つい…布で体を隠してしまうのです。

「すみません…」

ラウル様が目を伏せて謝られますが、どう見ても4歳のお子さまです。やはり気のせいなのではないでしょうか?今日も大きくなってしまわれているようです。

「いいえ大丈夫ですよ。母君様には内緒にしてありますから。」

「マリアは優しいですね。」

「そんなことはございません。当然のことなのですよ。」

「すみません。」

またお謝りになられた…。私が気にするような態度をするからいけないのだ。大変申し訳なく思いました。きっとモーリス様がおっしゃっていることはないと思うことにしました。

そしてラウル様を湯船から上げ、私がお風呂に入りました。

私はお風呂から上がりセルマと女性騎士達のいる部屋で寝ました。モーリス様から聞いたラウル様のことは、誰にも話さないようにしないといけません。グラム様とイオナ様の大切な御子息なのですから。

それから数日後、私達は森のなかの街道を抜けていました。

一度魔物のレッドボアがいましたが騎士達が追い払いました。豚より大きくて、イノシシのような鼻とキバをもち全身赤い毛でおおわれた魔物で、倒した一頭は野営の時の食糧のためすぐに解体されました。皮も素材になるらしく、大きな布の袋に入れられ消臭と防腐の薬剤がかけられました。

次の村に着く前に肉は無くなるだろうということでした。肉にはイオナ様がフリーズの魔法をかけて凍らせておりました。

馬を休ませるあいだに、仮眠をとり3人が起きて見張りにたちました。森の街道はそれほど安全ではなく、イオナ様やセルマ、私やメイド、ラウル様と御者など戦えない人がいるため、本格的な野営はできないそうです。

8日ほどで次の村につきました。ヒサ村という村でここも宿場町でした。前回と同じようにゆっくり休息をとる事になりました。食堂では森でとれた肉と畑で採れた新鮮な料理でした。最近は塩気のないレッドボアが主の食事でしたので、とても美味しいものでした。

ここでもお風呂がとてもありがたかったです。

そしてここから4日ほど行った村が、サナリアまでの最後の村になるようで、念のため明日は買い出しをしていくようでした。村では主に乾燥野菜やちょっとした果物を買うとのことでした。久しぶりに甘いものが食べれるのかと、ときめいてしまいました。

それから4日ほど走ったところにある村は森からも遠く、それほど食糧は置いてませんでした。最初の出立の時に持ち出した干し肉や乾燥野菜、塩を溶いて作るスープだけでも、なんとかサナリアまでいけるのですが、万全にするために補充をするのだそうです。

そして、この村を抜けるとルナ山を走らねばなりません。この山にはグレートボアやシルバーウルフ、旅人が事故で亡くなったあとのスカルなどが出る可能性があるため、しっかり休養する必要があり村の滞在日数は2日となるそうです。

そこで私はラウル様に話しかけてみました。

「ラウル様、魔物を見てどう思われました?」

「怖すぎます、襲われたら僕にはなんの手立てもないじゃないですか?」

「そうですね。でも大丈夫です。屈強な騎士が6人もおります。」

「はい。それに父さんは強いですからね。」

「そうです。グラム様は我が国では最高峰の実力をおもちですので。」

「ですよね」

いざとなれば、グラム様とイオナ様の大切なご子息であるラウル様を、私が命に代えても守らねば…

ラウル様を見つめると恥ずかしそうに目線を外しました。

2日が過ぎていよいよルナ山に入山することになりました。ルナ山は抜けるのに10日もかかるそうです。

疲弊しないように休みを多くとりながら進んでおりました。山には馬車が通れるほどの道が開けており、1列で隊列を組んで周りに騎士の方達が配置され、真ん中に魔法使いのセレス様がおられました。セレス様は回復魔法と聖魔法そして土魔法が使える上級魔法使いでいらっしゃいます。騎士様達の保守をされる役割になるようです。

そしてそれは入山後6日が過ぎたときに起きました。

シルバーウルフの群れが襲ってきたのです。銀色の立髪をもつレッドボアよりも小さいオオカミです。小さいとはいえ大きい犬よりひとまわりは大きいのです。しかし騎士様達は一匹ずつ確実に退治していました。

シルバーウルフの恐ろしさは群をなす事です。なかなか減らないシルバーウルフに恐怖を感じます。

私はイオナ様とラウル様、魔法の使えないセルマの乗る馬車の前で火魔法を構えておりましたが、騎士様達の防衛線をシルバーウルフが超えてくることはありませんでした。すると後ろから声がしました。

「あっ!ラウル!待ちなさい!」

後ろを振り向くとラウル様が馬車を飛び出して逃げ出しました。一瞬なにごとかわからず躊躇しましたが、少し遅れて後を追いました。ラウルさまのお姿が岩場の陰に入って視界から外れてしまいました。ラウル様を追うように一匹のシルバーウルフが岩場の陰に飛び込みました。

「しまった!ラウル様!」

私は最悪を想像しました。その瞬間

パンパンパン!

と、何かが破裂するような乾いた音がしました。

岩場の陰に着くとシルバーウルフは倒れていました。ラウル様の手には見慣れぬ四角い茶色ぽいものが握られていました。

「ラウル様!お怪我は!」

と近づくと、

「大丈夫です。」

と答えられました。そして付け加えるようにいいました。

「あのマリア。これは皆に内緒にしてもらえませんか?」

私は何のことかわかりませんでしたが、ラウル様にはなにかあると思い頷きました。ラウル様は四角い何かをショルダーバックにつめこみ私の手をにぎりました。

岩場から馬車に戻ろうとすると、イオナ様とセルマが真っ青な顔でこちらに向かっていました。レナードが横についていましたが、どうやらシルバーウルフの群れを撃退したようでした。

「ラウル!あなた何やってるの!」

イオナ様は飛び込んでラウル様を抱きました。

「すみません。怖くなって逃げました。」

するとレナード様がいいました。

「ラウル様驚かれてしまいましたか?シルバーウルフなど我々の敵ではないのですよ。」

「すみませんでした。」

後ろから他の騎士も数名近づいてきました。

しかし私は知っています。ラウル様は怖くて逃げたのではないことを…おそらくはあの四角い物を試すために外に出たのです。シルバーウルフは死んでいました。魔法でしょうか…私にはわかりませんでした。

幼馴染のバイスが言いました。

「そちらにシルバーウルフが行きませんでしたか?」

「いいえ来ませんでした。」

ラウル様は嘘をつかれました。なにか知られたくないことがあるのだとはっきりわかりました。

もしかすると…モーリス様の言葉が頭をまわります。いずれにせよこのイオナ様の腕に抱かれている少年は特別なものを持っていました。私の目を見て微笑むラウル様を見て少し背筋に寒いものが流れました。

あのバッグに入ってる四角い何か…あれはなんだったのでしょうか…

とりあえずシルバーウルフを退けたあとは死骸が多かったのと、私とセルマではそんなに大量には捌けないため、3匹分の毛皮だけを採り全て集めて油をかけ私の火魔法で点火して燃やしました。そうしないと魔物を引き寄せ他の旅人の妨げになってしまうからです。

その後は順調に山を降りてきました。麓には宿場町がありここでも2日休みをとるようでした。緊張の10日を過ごされた騎士様達は、このあと7日ほどの行程には危険がないとグラム様にいわれ、みなで酒盛りをするようでした。

イオナ様とセルマも一緒にとの事で夜はラウル様と2人きりになってしまいました。

「あのっ」

「あの!」

ラウル様と同時に口をひらきました。

「いえ、ラウル様からどうぞ。」

「いえ、マリアさんから先にいいですよ。」

私は単刀直入に聞いてみることにしました。

「あの、四角い茶色の物を見せてはいただけないでしょうか?」

「はい…これを見せるのはマリアが初めてです。」

「もちろん、これまで通りラウル様との秘密は誰にも言いません。」

「ありがとうございます。」

と言って、ラウル様はショルダーバッグからそれを出して見せてくださいました。鉄?いや…何か複雑なもので人が作ったものであることは間違いありません。

「これは?なんですか?」

「これは武器です。」

ラウル様ははっきりと答えられました。

「これが…武器?」

「そうです。武器です。」

「どこで手に入れたのですか?」

「魔法です。」

「魔法ですか??」

いままで私はそんな魔法を聞いたことがありませんでした。

「そうです。念じたら出てきました。」

「念じたらですか?」

「はい、そうです。」

「私の火のようにですか?」

「そうです。」

魔法で出したという。こんな人が作ったような創造物を魔法で……?

「で、ラウル様はこれが武器であると?」

「はい。」

どう考えてもこんな小さな鉄の塊で戦えるはずがないと思うのですが、しかしシルバーウルフは確実に死んでいたし…

「どうやって使うのですか?」

「こう持って、ここをこう引くとこの穴から弾が飛び出して敵を穿ちます。」

「そんなことが…」

しかし本当なのでしょう、実際にシルバーウルフは脳天から血をながしていたのです。穴は小さかったがラウル様の説明どおりならそうなりそうです。

「武器を出すところを見せていただいても?」

「ええでは。」

ラウル様の前のテーブルに、カカカカカン!と音をたて小さな鉄の塊がおちた…え?私にはラウル様が手をかざしたようにも、念じたようにも見えませんでしたが、突然かたまりが落ちてきました。いきなり…

「これは…」

もう何が起こっているのかわかりません。しかしラウル様はそれを手に取り、手前に立てて並べました。そして私から四角い武器を手に取り、ガチャガチャやり始めました。すると一部分がスッと滑り出しました。

「これが弾でここに入れるものです。そしてこの穴から凄い速さで出てくるのです。」

「私でも出来るものなのですか?」

「はい、誰でも。」

「それでシルバーウルフを?」

「はい。」

「それの使い方はどうして知っているのですか。」

「………」

ラウル様は黙られてしまいました。

「あの、お答えになりたくなければ、私は特には聞きません。」

「いいんです。マリア…僕には生まれる前の記憶があります。」

衝撃でした。モーリス様のおっしゃる通りでした。やはりラウル様は生まれる前の記憶があるのだということです。

「そうなのですね…」

「でもその事はマリアしか知りません。」

「わかっています。」

「そんなに驚かないんですね。」

「モーリス様が予想されておりましたので…」

「先生が…やはり気がついていたのですね。」

「確証はないようでしたが…」

正直、凄く驚いております。そうですとも!だって、だって一緒にお風呂入っちゃってるじゃないですか!

「あの、ラウル様は前世でどういうかただったのですか?」

「あ、あの…子供でした。」

間違いなく嘘をついておられる時のラウル様です。

「でも…マリア。僕はマリアにばれてほっとしています。ずっとひとりで考えてきました。やっと人に話せて安心しました。」

そうか…この子はずっとひとりで悩んできたのか…そう思うと、とても申し訳なく思いました。こんな悩みに気がついてあげれなくて…

「私でよければなんでも言ってください。」

「ありがとうマリア。」

この子はやはり子供だったのだろうと思いました。女性に対して慣れている感じがなく無邪気な部分も残しています。私はこの子を守りたいと心から思いました。ひとりでさぞ孤独だったろうと思います。私だけでも理解してあげねば辛い思いを持ったまま過ごさねばなりません。

私はそっとラウル様を抱きしめました。

そしてその真実を心に秘めておくことにしたのでした。

その村を出て7日がたち、サナリアに帰ってまいりました。

もう夏ももうすぐ終わりをつげる季節で、どこか涼しげな風が吹く日でした。サナリアは農業が盛んで実りの季節を迎えようとしておりました。領民が私達に手を振り出迎えくれました。ここは私の第二の故郷です。

城につくと皆が出迎えてくださいました。グラム様とイオナ様そしてラウル様が馬車を降りて、私達と護衛の騎士、御者は脇に跪きました。城の者たちも全て跪き頭を下げました。

「おかえりなさいませ!!!」

サナリアに帰ってきたのです。