軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎の女

第二王子の動向と学園終わりに顔を合わせてしまうイレール様との交流に神経を使う日々。

ある日、アンリエッタがニヴェール子爵家が営む商会の人と打ち合わせがあるということで、初めて一人で過ごすことになった。

授業が終わり、帰りの馬車を待つ間、イレール様と二人きりになるのを避けるため図書室へと向かう。

サクサクと落ち葉を踏み、歩きなれない中庭を抜けて、どこの学舎も同じようで見分けがつかないが微かな記憶を頼りに足を進めた。

そして……見事に迷子になった。

「え……」

前の時間、公爵家の教育の一環として習った刺繍は、今では私の趣味の一つとなった。

でも、貧乏子爵では刺繍糸を買うにも躊躇われ、学園の授業で支給される刺繡道具でようやく楽しめるようになった。

記憶に残る刺繡の図案ではちょっと堅苦しいから、図書室で図案集を見ようと思ったのだけど。

「どうしよう。図書室どころか戻る道もわからないわ」

キョロキョロと左右を見回して、窓から外を覗いてみても、ここがどこだかさっぱりわからない。

別に私は方向に弱いわけではないが、いつも一緒に行動しているアンリエッタに頼っていたので、覚えようとする気がなかったせいで迷った。

「あら? どうしたの」

誰も通らない人気のない廊下に、救世主が現れた。

「あの、私、図書室に……」

振り向いた私の目に、キレイな笑みを顔に貼り付けたあの女が立っていた。

バサバサと紙を乱暴に捲る。

第一王子殿下の婚約者であるフルール様とイレール様から、やんわりと第二王子には近づくなと警告された私は、商会の者を使って調べさせていた動きをピタリと止めた。

第二王子に近しいものが注意するほどだ。

きっと、探っていたことが見つかれば、何かしらのペナルティがあるのだろう。

この国ではニヴェール家アルナルディ家も爵位が低く、重要性の乏しい家である。

「下手したら潰されちゃうもの」

私は苦々しく呟くと、また一枚と紙を捲る。

第二王子たちからの調査からは手を引いたが、サミュエル様と結婚したという平民の女、オレリアと、そのオレリアを養女にしたというジョルダン伯爵家のことは調査を続けていた。

昨日、夜遅く届けられた調査書がこれだ。

わざわざ、夜遅くに届けたのなら意味があるのだろうと推測し、今日は学園をサボることにした。

「オレリアについては何もわからないわね」

この国の端っこの貧村で生まれた彼女はすぐに両親に捨てられた、孤児院育ちの少女だったらしい。

だが、幼くしてその聡明さと美しさが話題になり、その村を治める領主預かりとなり、その推薦でもって学園に入学した。

後見している領主も男爵位で、これといって目立つ家でもない。

派閥も寄り親含めて国王派で、第二王子たちとの接点もなさそうだった。

調査書にも、これ以上のことは調査不可能としてきた。

「ただの平民にしては能力が高い。そしてその能力の高さで領主に掬い上げられ、学園に通い高位貴族の目に留まる。……幸運続きね」

実際には高位貴族ではなく、王族の歓心を買っているわけだけど。

「問題はジョルダン伯爵のほうね……」

領地に港があり、交易が盛んな領地である。

問題はその積み荷だわ。

「布や鉱石、珍しいところは発明品? そして……薬草や化粧品ね」

シャルロットはなんと言っていたかしら?

サミュエル様の罪はたしか……薬物の精製だったわよね?

「精神に感応し……常習性がある薬物。それを精製するための資金として横領。毒物の精製もあったわね」

もちろん、交易品はその地の領主であっても調べられる。

禁制品や人、武器などが見つかれば当然厳しく罰せられる。

「でも、領主の持ち船であれば少しは監視が緩くなるわよね」

ジョルダン伯爵は自身が大きな船を何艘か持っていた。

そして、一族には他国の子女を妻若しくは養子として迎え入れている。

それは、他国との結びつきを意味している。

「ジョルダン伯爵なんてたいした権力もない家だから気にしてなかったけど、それもわざとだったのかしら?」

表面上は力のない伯爵として振る舞い、裏では禁止された物品を餌に暗躍していた?

「……ダメね。オレリアっていう女が養女になる家だから、どうも歪んだ目で判断してしまうわ」

でも、それでいいのかも。

だって、シャルロットはその女に嵌められて大事な家族と自身の命を失うのだもの。

「だったら決めつけて動いてもいいわよね」

私にとって、オレリアは敵だ。

そのオレリアを使っている第二王子たちも敵だ。

私は守る。

ギュッと守り袋を握りしめる。

「おばさま。絶対に守ってみせるわ。アルナルディ家を。サミュエル様とシャルロットを」

その誓いを立てたときに渡された、このお守り袋に入っているペンダント。

そのペンダントトップはオレンジ色のバラ。

「あ……」

「見慣れない生徒ね? 淑女科の生徒がなぜここに?」

オレリアの言葉で私は隣の本科の学舎に入ってしまったことがわかった。

「す、すみません。図書室に行こうとして……間違えてしまったみたい」

とりあえず、ここから離れようと踵を返した私に、オレリアは優しい声で呼び止めた。

「あら、図書室なら案内するわ。ついて来て」

「え……」

振り向いた私に、彼女はニッコリと笑いさっさっと歩い行ってしまう。

このまま離れたほうがいいとわかっていても、私はグッと何かを飲み込んで彼女のあとをついていく。

この女の正体を見極めるために。