軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

近づいて、ぶつかって 3

魔法学園と言えど魔法の授業だけではなく、普通の教科の授業もあれば、身体を動かす授業もある。

そんな中、恐ろしいイベントが開催されようとしていた。

「……し、障害物競走……全員……リレー……?」

手元のプリントを見ながら、わたしは泣き出したくなっていた。そこには恐ろしい競技名がずらりと並んでいる。

なんと2週間後、体育祭が行われるらしい。

「ど、どうして魔法学園で運動神経なんかを競うの……」

「一年生のこの時期は、まだ魔法を使いこなせない生徒が多いから、らしいですよ」

たまたま隣に座っていたクライド様が、そう説明してくださった。今日も爽やかな笑顔が眩しい。

どうやら二年生以降は、魔法を使ったイベントが行われるらしい。けれど一年生に関しては、普通の体育祭。それならば何も開催しなければいいと提案したい。

……そう。わたしは何よりも、運動が苦手だった。

その日の放課後、わたしはエルといつものようにカフェで向かい合って座っていた。飽きずに彼は今日も、タルトを二つも食べている。見ているだけで胃が重たい。

隣の席の先輩らしき女子生徒達が、ちらちらとエルを見ては「かっこいい」なんて言っているのが聞こえてきて、本人でもないわたしが何故か、鼻高々だった。自慢の家族だ。

「玉入れと借り物競走はいいとして、全員リレー……どうして全員で走る必要があるの? 代表リレーもあるのに」

「知らん。だっる」

出場競技も決まり、わたしはその三つに参加することになってしまっていた。全員リレーが本当に恐ろしい。面倒臭がりなエルもやはり、体育祭には気が乗らないようだった。

「なんで意味もなく、急いで走らなきゃいけないんだよ」

「本当だよ……エルもたまには良いこと言うんだね」

そう言うと「いつもだろ」怒られてしまった。

「そう言えばエルって、運動神経はいいの?」

「は? 悪そうに見えんのか」

「い、いえ……」

確かにエルのすらりとした手足には、運動なんてしてる気配がないのに、しっかりと筋肉はついているようだった。

彼は魔法の授業だけでなく、普通の勉強だってかなり出来るのだ。さらっと何でも出来てしまうタイプらしい。いや、出来すぎていると言うべきだろうか。

「しかも練習ほとんどないって……どうしよう……」

「さあ」

「そもそもこんな時期に、全員リレーだなんておかしいと思わない? お前のせいで負けたみたいになって、ようやく築き上げたクラスメイトとの友情が壊れてしまったらと思うと怖くて、今日から眠れないよ」

「勝手に起きてろ」

そう言うと、エルはわたしのアイスティーを勝手に飲み干してしまった。色々と酷いけれど、好きだ。

◇◇◇

「ジゼル、とっても可愛いです……!」

「本当? ありがとう」

そしてあっという間に来てしまった、体育祭当日。

わたしはいつも下ろしている髪をポニーテールに結い、気合だけは十分だった。ここまで来たら、とにかく全力でやるしかない。一生懸命やればなんとかなる、なって欲しい。

そしていつも通りエルに挨拶をしようと、大好きな銀色に駆け寄ったわたしは、言葉を失った。なんと肩くらいまであった彼の髪が、短くなっていたのだ。

「えっ、エル、髪の毛切っちゃったの」

「ああ」

「ま、まさか少しでも早く走るために……?」

「バカ言うな」

そう言って、おでこを弾かれた。涙目になりながらも、その姿を見つめる。雰囲気が大分変わっていて、格好良い。なんというか、男の人っぽさが増した気がする。

ただの体育着ですら、最高級の服のように見えてきた。

「短いのもかっこいいね! 似合ってる」

「当たり前だろ」

「あれ、そんなピアス付けてたっけ?」

「ユーインに作らせた」

その耳には、彼の瞳と同じ色のピアスが輝いている。作らせた、ということは魔道具か何かなのだろうか。あれからエルはユーインさんと、定期的に会っているようだった。

とにかく髪もピアスもとても似合っていて、ひたすらに褒め続ければ、エルは見るからに機嫌が良くなっていた。

「ジゼル、おはようございます」

「あっ、クライド様。おはようございます」

「その髪型、とても可愛いですね。よく似合っています」

朝から爽やかなクライド様は、笑顔で褒めてくれて流石だと思った。そして今日は無理せず頑張りましょうね、とも声をかけてくれた。ちなみにクラ……メガネくんも一緒だ。

やがてグラウンドに移動することになり、わたしはエルに一緒に行こうと声をかけた。予想通り勝手にしろと言われたので、勝手に彼の隣を歩いていく。

「ねえエル、わたしの髪の毛も似合ってる? 可愛い?」

「……まあ」

「えっ」

自分から聞いてみたものの、いつものように「知らん」とか「別に」と言われると思っていたのに。驚いて立ち止まってしまったわたしを、もちろん待ってくれるはずはなく。

わたしは慌てて追いかけて、その腕に飛びついた。

「一生、この髪型でいるね……!」

「色々と重い」

そんなこんなで、体育祭は幕を開けたのだった。