軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

94.

腐敗貴族たちを一掃し、エステラという優秀な人材を確保したミシェルは、王城に急造した執務室で次なる計画を練っていた。

大量の書類仕事は片付いたものの、強硬策をとった反動は確実に存在する。

既得権益を奪われた残党たちが、復讐のために暗殺者を放ってくる可能性は極めて高い。

これまでも幾度となく命を狙われてきたが、今回は敵もさらに必死になるはずだ。

「ということは、俺が二十四時間ずっとお前に張り付いて、護衛してやる必要があるな」

隣でふんぞり返っていた皇帝ギデオンが、ここぞとばかりに分厚い胸板を叩く。

しかし、ミシェルは書類から目を離さず、氷のように冷たい声で即答した。

「馬鹿なのですか、貴方は。四六時中寝食を共にするボディガードは、同性である女性を雇うのが基本です」

「ふ、ふふ。わかっている。俺と離れたくないくせに、照れ隠しというやつだな」

ギデオンが盛大に勘違いをし、嬉しそうに見えない尻尾をパタパタと振る。

ミシェルは呆れ果てて小さく溜息をつき、ぷくっとわずかに頬を膨らませて彼を完全に放置した。

「都合のいい解釈は放っておくとして。このゲータニィガ王国には、無能な貴族が多い反面、なぜか腕っぷしだけは強い平民が多いのです」

「やけに馬鹿と脳筋が多い国だな」

「ええ。身分制度のせいで燻っている、腕の立つ女性冒険者を登用しに行きますよ」

ミシェルは素早く書類をまとめると、次なる目的地である冒険者ギルドへ向かおうと立ち上がった。

常に先を見据え、最短距離で効率的に動くのが彼女の信条である。

しかし、その華奢な肩を、ギデオンの大きな手がガシッと掴んで引き留めた。

「まあ、待て、ミシェル」

「なんですか。一刻も早く戦力を確保しなければ」

「次から次へと仕事を進めるのはいいことだ。しかし、カイウスのことを忘れていないか」

ギデオンの静かな指摘に、ミシェルはハッとして足を止めた。

振り返ると、部屋の隅でエステラに抱かれた三歳のカイウスが、ミシェルの背中をじっと見つめている。

ここ数日、ミシェルは国の立て直しと粛清に奔走するあまり、カイウスとゆっくり遊ぶ時間を全く作れていなかった。

カイウスの大きな瞳には、構ってもらえない寂しさがはっきりと浮かんでいる。

「あ。完全に頭から抜けていました。ごめんなさい、カイウス」

ミシェルは慌てて駆け寄り、膝をついてカイウスの小さな手を握った。

冷徹妃らしからぬ、ひどく焦ったような表情である。

「いーよー」

カイウスは首を横に振り、ミシェルを困らせまいとするかのように、へらっと無理な愛想笑いを浮かべた。

手のかからない、聞き分けのいい子供の反応。

だが、その様子を見ていたギデオンが、どっこいしょと重い音を立ててしゃがみ込んだ。

そして、大丸太のような腕でカイウスの小さな頭をぽんぽんと優しく撫でる。

「いい子ちゃんぶらなくていいんだぞ、カイウス。好きな時に、好きなだけ甘えるのだ」

「ぎでおん」

「我慢していると。本当に甘えたい時に、その人はもういなかったりするからな」

ギデオンの低い声には、覇王としての威圧感ではなく、深い哀愁が漂っていた。

血塗られた過去の中で、彼自身が何かを失い、後悔してきたことを滲ませるような、ひどく優しい響き。

その言葉に、カイウスの瞳からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。

「みえう、あそぶ。おしごと、やだ」

カイウスは小さな両腕を伸ばし、ミシェルの首にぎゅっとしがみついて泣きじゃくった。

初めて見せた、子供らしい本気のわがままである。

ミシェルはふにゃっと目尻を下げ、愛おしそうにカイウスの背中をトントンと叩いた。

そして、隣で不器用に笑うギデオンを横目で見つめ、小さく唇を綻ばせる。

「仕方ありませんね。ボディガード探しは、この子にお昼寝の絵本を読み聞かせてからにしましょう」

冷徹妃のスケジュール帳に、国家の行く末よりも優先される三歳児との時間が、しっかりと刻み込まれた瞬間であった。