作品タイトル不明
121.
ミシェルは聖王国への処遇、今後の流れ、それらをティルとギデオンに指示する。
ティルはメモをしっかりと取り、冷徹妃の命令を、忠実に実行できるようにする。
……一方で。
「ギデオン」
「フッ……なんだミシェル」
「貴方、さっきから私のことばかり見て……メモを取ってないようですが、大丈夫なのですか?」
ミシェルの冷たい視線がギデオンを射貫く。
ギデオンは「問題ない」と自信たっぷりに答える。
ミシェルは「そうですか……」とスルーしてしまう。
ここで、ティルは思い出した。
(そういえば……こないだの会議の時、ギデオン陛下はミシェル様の話を聞き流していたような……)
つまり、この問題ないという発言には、問題しかない、可能性が大いにあった。
「あ、あのぉ~……」
「なんです、ティル?」
(ここで言わなかったら、それこそ、てぃるはミシェル様に怒られてしまうのですぅ~……)
ティルは我が身かわいさゆえの発言をする。
先日の演習前の会議において、ギデオンはその内容をまったく聞いていなかったと。
「ほぉ……軍議を……へえ……そう……」
ミシェルはつぶやくと……笑った。
(ひぎぃい! な、なんておっそろしい……!)
まるで猛獣が牙を剥いている。
そう、想起させるような凄絶な笑みを、ミシェルが浮かべていた。
ギデオンは「なんと美しい笑み……!」と何やら喜んでいる様子。
(この馬鹿皇帝……まさかミシェル様が本当に嬉しくて笑ってる、って思ってるんですぅ!? 馬鹿すぎやしないですぅ!? アホすぎないですぅ!? 間抜けにも程があるですぅ! さすが、 無能の血(ブラッド・オブ・ノアカーター) !)
心の中で罵倒しまくるティルを余所に、ギデオンはうっとりした笑みを浮かべている。
ミシェルは猛獣の笑みを浮かべながら「ティル……?」と話しかけてきた。
(ひぃ! こっちにお鉢が回ってきたぁ……!)
「おまえ、いつまでそこにいるのです。さっさと部屋を出て自分の仕事をなさい」
「はひぃいん!」
残像が見えるほどの速さで、ティルは部屋から退出した。
このあとに何が起きるのか……なんて火を見るより明らかである。
(嵐が来る前にてぃるはさるですぅ~!)
ぱたん、とティルが部屋の扉を閉める。
ティルは振り返らず、真っ直ぐに、部屋から出て行く。
「ひぃ……くわばらくわばら……」
師である賢者ピクシーから習った呪文を唱えて、ティルは部屋から逃げる。
「ちる……?」
「あ、カイウス様!」
ミシェルの義理の息子、カイウスが、てこてこと廊下を歩いていた。
ティルを見つけると嬉しそうに、走ってきて、抱っこを要求してくる。
ティルはカイウスを抱き上げる。
「こんなところで何をしてるですぅ?」
「みえう、ぎでおん、あいにいこーと」
ティルはにっこりと笑う。
「そんなことより、てぃると遊びましょう?」
「うん! ちると、あしょぶー!」
……大嵐の中に、この可愛い王子を、放り出すわけにはいかないのだった。