作品タイトル不明
109.
訓練の後、グレースはミシェルの部屋へと足を運んだ。
ミシェルはその悩ましげな表情から、ただごとではないと思い、話を聞いてあげることにした。
グレースは武力はもちろん、鑑定眼を持ち、この帝国にとってなくてはならない存在なのだ。
絶対によそに逃すわけにはいかない。
「実は好きな奴ができちまった……ってなんだいその顔」
ミシェルは心底どうでも良さそうな表情を浮かべた。
はぁ、とため息をついて、詳しい話を聞いてあげることにする。
教え子の中に気になる男の子がいる。
できれば付き合いたいのだが、つい、意地悪をしてしまうのだそうだ。
「困った……ってちょっと、話聞いてるのかい?」
「聞いてますよ」
仕方なく、という言葉は飲み込むことにした。
いちおう本人は真剣に悩んでいる様子だったからだ。
……悩みのレベルは小学校レベルではあったが。
「好きなら意地悪せず、好きだとストレートに伝えるべきでは?」
至極真っ当な意見を述べるも、グレースの表情は晴れず、「それができたら苦労しないよ」と情けない声を発する。
ミシェルは首を傾げる。
「わかってないですぅ」
執務室の扉が開くと、副官のティル、および宮廷医のフローラが入ってきた。
「お前は何をしてるのです。自分の仕事は終わったのですか?」
「はひん」
はいなのかいいえなのかわからない。
だが、ミシェルがサボりを許さぬ性格であることくらい、ティルは把握してることだろう。
なら仕事は終わっているはずだ。
「嫌われたくないなら意地悪しなければいい」
「わかってないなぁ、ミシェル様は。人は思ってることと逆の行動をとってしまうもんですよぅ」
ミシェルはティルの言ってることが、さっぱり理解できなかった。
フローラは苦笑いしている。
「まあいずれにせよ、今のやり方続けてても結ばれることはないわよ」
「ど、どうすれば……」
「気があることをアピールするしかないんじゃない。地道に」
「それができたら苦労しないっつの……」
「その子にだけ笑顔を向けるとか、褒めてあげるとか。とにかく、好きアピールをしてみるのはどう」
「そ、そんなことしちゃ好きってばれちまうじゃあないかっ」
……ミシェルは頭痛を覚えた。
付き合いたいのだから、好きということが伝わっていいではないか。
何を照れてるのだろうか、この女は。
「わからないですね、さっぱり」
「じゃああんたはギデオンに好きって言えるの?」
フローラからの指摘にたいして、今までのミシェルだったら公務だからとか、別にできるけど、とか。
そういう言葉で返していた。
ミシェルは口を開き、しかし、閉じてしまった。
……なぜだか、恥ずかしいという感情が湧いてきたのだった。
「ミシェル様も乙女の顔すんのな」
グレースがにかっと笑う。
それは同志を見つけ、喜んでいるものの顔だった。
……同類扱いされることが、非常に不服だったミシェルは、グレースを無視して仕事に取り掛かる。
「ふんふん、帝国女性軍に春到来……ってあれ? てぃるには? てぃるには春がこないのですかっ」