作品タイトル不明
106.
グレースの所有する、鑑定眼を使った、適性検査が行われる。
それを、口悪く言う保守派大臣たちもいた。
「鑑定眼持ちを置いたらしいぞ、あの冷血な妃気取り」
大臣達は集まり、誰にも聞こえないように会話する。
私室にこもってしか、上司の悪口が言えなかった。
それくらい、ギデオンとミシェルが恐ろしいのである。
「鑑定眼があれば、あの妃はもう用済みなのではないか……?」
「そうだ、加護なしのクズより、鑑定持ちSランカーのほうが有用なはず」
「保守派に働きかけ、妃の不要性を訴えるのはどうだろうか。さしものギデオン皇帝も、多数からの意見には耳を傾けざるをえないだろう」
なるほど……と皆がうなずく。
彼らにとっての頭痛の種は、ギデオンおよびミシェル。
ギデオンはまだ武力だけで、頭が弱い。
御しやすいのがどちらかは明白である。
ミシェルを排除すれば、また我らの天下。
ギデオンなど脳みその残念な筋肉だるま。
「さて……何か言い残すことはありますか?」
数日後。
ミシェルの執務室にて。
保守派大臣たちは、ミシェルの執務室に集められていた。
大臣たちは滝のような汗をかいている。
彼らの前に座るミシェルの手には、録音用の魔道具が握られていた。
「と、盗聴器なんて……ぷ、プライバシーの侵害だっ!」
「ふむ、だから?」
全員がミシェルの目を見やる。
冷たいまなざしにまるで動揺は見られない。
彼女は本気で思っているのだ。
プライバシーを侵害してるが、何か問題があるのかと。
「ぎ、ギデオン皇帝陛下におかれましては、ど、どうお考えかっ!」
年配の保守派大臣が、ギデオンに尋ねる。
そのギデオンはというと、ミシェルの横に立っていた。
彼は大臣をひとにらみする。
「ミシェルはこの国の皇妃。皇妃とは俺の半身だ。その半身の言葉はすなわち、俺の言葉と同義」
ギデオンはゆっくりと、年配の大臣のもとへ近づく。
彼の方が大臣よりも……というより、この場にいる誰よりも背が高い。
そして、その鋭いまなざしから発せられる、強烈な圧に、大臣達はおののく。
極寒の地にいるような錯覚に襲われ、また、目の前には凶悪なモンスターが居るような気さえしてきた。
ぺたり……と大臣がその場に膝をつく。
血の気は完全に引いており、刃向かう意志は完全に砕かれていた。
「とはいえ」
ギデオンはしゃがみ込み、ぽん……と大臣の肩を叩く。
「下々の悪口を理由に、いちいち斬首していては、皇帝が狭量と思われてしまう」
「へ……?」
「それにおまえ達が、ぶつくさ文句を言いながらも、仕事をしていることもわかっているさ」
「へ、陛下……!」
ギデオンは立ち上がると、全員に向かって……微笑む。
「今回の件は、ミシェル、どう裁く?」
「陛下のお気に召すままに」
ミシェルは書類に目を落として、仕事に移っている。
もはやこの会話に、何の興味もなさそうだ。
「だ、そうだ。ならば俺が言おう。貴様らの企みについては不問とする。だが今日のことは忘れるな。よいな?」
「「「は、はい……!」」」
大臣達は皆、泣きながらギデオンに感謝し、部屋を出て行く。
その表情からは、国家への反逆心はなかった。
むしろ、ギデオンが最近優しい、大人になられた……と口々に言う。
誰も居なくなった頃合いを見て、ギデオンがため息をついた。
「ミシェルの計画通りになったな」
そう、全ては事前に決めておいた、プラン通りなのだ。
馬鹿な大臣どもの首を切るのではなく、脅し、助けることで、帝国の忠誠心を高める。
「恐ろしい女だ」
「ありがとう、褒め言葉として受け取っておきます」
「ふっ……何を言う。褒め言葉ではないか」
「はいはい」