軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 調整

厨房を借りたいと申し出ると、宿の主人は快く許可してくれた。

「たまにいるんだよ。故郷の料理が食べたくなったって客。流れ者の多い町で、事情があって帰れない人も多いから、貸すことにしてる。薪代は貰うぞ」

「分かりました。今のうちに払っておきます」

「あぁ、確かに受け取った。客に出す料理を作ってからだから、一刻ほど後に来てくれ」

手際よく野菜を切っている料理人を横目に、リオとシラハは部屋へと戻る。

厨房から宿の主人と料理人の話し声が聞こえてきた。

「駆け落ち先で彼女の手料理とは贅沢っすね」

「それくらい余裕がねぇと駆け落ちなんて続けられねぇよ」

違うんだよなぁ、とリオはため息をつく。戻って否定しようかと悩んだが、結局何も言わずに部屋に戻った。

否定すると逆に信憑性が増す噂もあるものだ。

節約のために二人で一部屋に泊まっているのも誤解を招く原因だな、と思いながらリオは部屋の扉を開ける。

「時間が余ったし、剣の整備でもしておこうか」

自分のベッドの横に置いてある荷物を手に取り、リオは愛用の剣を鞘から抜く。

度々実戦で使っているものの、手入れを欠かしていないため新品同様の光沢を放つ刀身を調べる。

明日はいよいよ、テロープが出現する森の奥地へ向かう。そのための準備は怠れない。

些細な違和感も見逃さないように剣を調べながら、リオはシラハに声をかける。

「シラハは剣を新調した方がいいかもな」

「……なんで?」

母から渡されているレシピ本をおさらいしていたシラハが首をかしげる。

リオは刀身を布で拭き始めながら答えた。

「ガルドラットさんに助言してもらってただろ。動きが見違えた分、体や動きに合わせた剣を新調した方がいいと思ってさ」

リオ自身、ガルドラットの助言を受けた後は剣速が段違いに速くなった半面、剣の重量に振り回される場面が多々あった。

リオは柄を短く握るなどで対応しているが、元々の筋肉量が少ないシラハは剣の重量問題を解決しにくい。

「身体強化で補えるならいいんだけど、そこのところはどうなの?」

リオの質問に、シラハはちらりと自分の剣を見る。

シラハの剣はオッガン監修のもと作られた特注品だ。新調するとしても一度、オッガンに見せることになるだろう。

「ちょっと重いけど、魔法で対応する」

「軽くする魔法なんてあったっけ?」

「ない。でも、魔法は使い方次第」

「そうか。シラハがいいなら別にいいや」

結局は本人次第だと割り切って、リオは剣の柄巻きを外しにかかる。

シラハが興味を示してリオの手元を覗き込んだ。

「なにしてるの?」

「柄巻きをほどいてるんだよ。変えれば握りが安定するかもしれないだろ」

今は耐久性に優れた獣のなめし革を巻いてある。それを解いて、買っておいた組み紐に変えるのだ。

組み紐はなめし革に比べて摩耗しやすい欠点があるが、水を弾かないため汗や血で滑りにくい。

てきぱきとなめし革を外すリオを見て、シラハが自分の剣を見る。

「……私の剣には柄に何も巻いてない」

「当たり前だろ。彫刻が滑り止めを兼ねてるんだから」

シラハの剣はこの世界の一般的な剣と同じく柄に滑り止めの彫刻が施されている。もっとも、その彫刻は魔法陣になっており、シラハが魔力を流し込むことで魔法を発動できる仕組みだ。

リオの剣は村でカリル達が相談して作ったもので、予算の兼ね合いやリオの我流剣術に合わせてある。我流剣術の発展に合わせて多少の変更もできるように柄は木で挟んで補強し、組み紐やなめし革で固定と滑り止めを行う形になっていた。

「東の方の剣の作り方らしいよ。使う鉄の量も柄の分を減らせるから予算に合わせるにはこっちの方がよかったんだってさ」

おかげで、握りを変更することもたやすい。

興味深そうにリオの柄巻きを観察していたシラハは、リオを横目に見た。

「面倒そう」

「まぁ、服と同じで使っているうちにくたびれてきちゃうから整備の手間は増えるけどさ」

シラハの身もふたもない感想に苦笑しつつ、リオは組み紐を手に取る。

「大事なものなんだから、いつも自分に合わせて調整したいだろ」

リオが「大事」と発言した瞬間、シラハは真面目な顔でこくこくと頷いた。

「分かった」

「分かるじゃなくて分かったなのか」

共感を求めていたリオはシラハの返事に戸惑う。

組み紐を柄に巻いていく。ひし形の空間ができるように組み紐を捻って滑り止めの効果を高めていく。

シラハは柄巻きをじっと見つめて呟いた。

「綺麗」

「装飾も兼ねてるんだよ。今回は組み紐だから色でも楽しめて、いいだろ」

愛用の剣を褒められてちょっと得意になるリオを見て、シラハは小さく笑った。

「明日、時間があったら服を買いに行きたいね」

「……予想がつくけど一応聞くぞ。なんで服を買いに行きたいんだ?」

「リオを調整する」

「俺は剣じゃないっての!」

ツッコミを入れつつ、リオは自分の服を見下ろす。

村で生活していた頃に町へ出かけた父が買ってきた服だ。自分の趣味ではないのはもちろん、やや古くなってきている。

村での財政事情では服も高級品だ。たとえ古着であっても選り好みできない。

だが、今はリオもシラハも自分でお金を稼いでいる。依頼で稼いだお金であれば自分たちが自由に使っても問題ない。

「買いに行くか」

「ちゃんと選ぶ」

「自分で選ぶよ! シラハに任せたらどんな風にされるか想像がつかないけど、嫌な予感しかない」