軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話  矛盾する剣

新人のリオが真剣試合に挑戦すると聞いて、冒険者たちが割って入った。

「待てよ、新人。いくら木剣でも当たりどころが悪いと死ぬぞ。真剣試合のガルドラットさんは本気で来るから、防御し損ねると再起不能だ。やめとけ」

「――リオの邪魔しないで」

シラハが冒険者たちへ静かに警告する。

手練れの冒険者たちが一瞬、シラハに対して身構えた。魔法を使えるシラハの間合いに入っていることに気付いたのだろう。

ギルド職員の老人が手を叩いて全員の注意を引く。

「お前ら、落ち着け。新人、武者修行が目的だったな?」

「はい」

「ガルドラットさんの奥儀が目当てならやめておけ。お前さんの細腕じゃ威力が出ない」

「奥儀そのものには興味がないです。俺の剣術には取り入れようがないので」

老人が訝しそうに眉を寄せる。

「力試しならそこらの冒険者に挑め」

「いえ、力試しでもありません。違和感の正体を掴みたいだけです」

リオの回答に老人は冒険者たちと共に困惑顔をする。

らちが明かないとみたのか、ガルドラットがリオに向き直って鋭い目で睨んだ。

「手加減はできない」

「構いません。手加減されたら正体が分からない違和感だと思うので」

ガルドラットの強烈な視線を受け流し、リオは観察するようにガルドラットの全身を眺める。

すっと、ガルドラットが木剣を腰だめに構えた。

冒険者たちがざわめく中、リオは鏡合わせのように木剣を腰だめに構える。

ガルドラットが切っ先まで地面と平行に構えるのに対し、リオは切っ先を下げて地面すれすれに構えている。

止めるべきかで揺れていた冒険者たちも、二人が構えを取った時点でもう手を出すべきではないと判断したのか、その場から離れる。

その時、シラハが口を開いた。

「もっと離れて。危ない」

「いや、十分だろう?」

「後二十歩、さがって」

有無を言わせぬシラハの指示に、冒険者たちは困惑を深めながら下がっていく。満足そうに頷いたシラハがリオを見た。

リオは小さく笑って褒める。

「ありがとう。気が利くな」

「どういたしまして」

リオはガルドラットに声をかける。

「では、行きますね」

声をかけた瞬間、ガルドラットの目に憎悪が宿り、飢えた獣のように歯をむいた。気が弱い者が見れば腰を抜かすほどの気迫をぶつけられても、リオは平然とガルドラットの全身を眺めていた。

リオは動かない。ガルドラットも動かない。

ただの睨み合いが続く。駆け引きも何も存在しない、ただの睨み合いだ。

やはりな、とリオは納得しつつ、姿勢を低くした。

すり足で慎重にガルドラットの間合いに入る。

瞬間、ガルドラットが目の前にいた。

横薙ぎに振り抜かれる木剣をリオは急速に後方へと離脱することで逃れる。

リオの足が地面につくより早く、ガルドラットが低く唸りながら踏み込んでくる。

リオは木剣で地面を突いてさらに後方へと逃れた。

リオの足が地面につく。

直後、リオは地面に膝をつくギリギリまで姿勢を低くし、身体強化を限界発動した手で地面を押して大きく横に跳ぶ。

山猫のような奇抜な動きに観客が一瞬リオを見失うが、ガルドラットは正確にリオを視界に捉えて踏み込んできた。

しかし、リオは極端に低い姿勢のままつま先で地面を捉えてさらに跳ぶ。

ガルドラットが追いかけても、リオは木剣で地面を突いて跳躍の方向を変え、巧みにガルドラットの間合いを外し続けた。

完全に逃げに回っているリオに観客たちすら苛立ち始めた瞬間、リオが不意に姿勢を戻して、地面にある何かを蹴る前準備のように脚を後ろへ振りかぶる。

明らかに隙だらけの姿勢。それを見逃すガルドラットではない。

瞬時に距離を詰めようとしたガルドラットだったが、リオが振り抜いた脚から飛び出した一足の靴を見て、一瞬の動揺が走った。

靴はガルドラットの後ろ、棚に置かれた剣へと向かっていた。

「――ッ!」

靴がぶつかっても、リオが剣を奪ったことにはならない。それでもガルドラットは動揺するが……体はリオに向かって木剣を振り抜いていた。

木剣が砕け散る音がする。しかし、リオは後ろに跳んで衝撃を和らげつつ身体強化の限界発動を行なって体を硬化させていた。

歳の割に軽い体のためガルドラットの一撃であっさりと吹き飛ぶが、ほぼ無傷で体勢も崩さずにリオは地面に着地する。

「動揺しましたね」

木剣を振り抜いた姿勢で固まっているガルドラットにリオは指摘する。

この真剣試合のルールからすれば、動揺する必要はない。

ガルドラットが動揺した理由は別のところにあることを、リオはもう見抜いていた。

ガルドラットが木剣を取り落とし、落胆と憤怒と寂寥が混ざった顔を震える手で覆い隠した。

観客の冒険者たちにまで動揺が広がる。なにが起きているのか分からないのだろう。

リオとて、我流剣術を一から組んだ経験があるからこそ、分かっただけだ。

ガルドラットの剣筋の致命的な矛盾。そこを突いたからこそ、この真剣試合で遥かに格下のリオにガルドラットは本質的に負けた。

「――守るための剣筋で、なんで攻め込もうとするんですか?」

ガルドラットの高い実力で誤魔化されてしまっているが、構えは明らかにその場に立ちふさがって守るためのモノだった。

それをガルドラットも理解しているからこそ、守る対象である剣にリオの靴が届くことに動揺した。

しかし、それでもガルドラットは攻め手を緩めなかった。

リオの問いかけに、ガルドラットは無言で背を向け、壁際に設けられた仕切りの裏へと入っていった。

シラハがリオの靴を拾って駆け寄ってくる。

「すごくショックを受けてた」

「何か事情があるんでしょ。騎士剣術を使うのに騎士だったことはないなんて言ってたし、守りの剣術で攻め込もうとするし、剣と思考があべこべなんだ」

状況についていけずに混乱している冒険者やギルドの職員を見回す。

この調子では森の奥へ行くお墨付きは貰えそうにない。

「今日のところは帰ろうか。ガルドラットさんも時間が必要だろうし」

リオはシラハの手を取って訓練場を後にする。

訓練場を出る直前、シラハがガルドラットの剣を振り返って小さく呟いた。

「……なんで怒らなかったんだろう」