軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話  真剣試合

「この依頼を受けるにはまだ早い」

受付の老人はそう言ってリオ達が受けようとした依頼書を突き返した。

規定では受けられるはずだが、何か不備でもあったかとリオとシラハは顔を見合わせる。

老人が杖を片手に立ち上がった。

「別に不備があるわけでもない。まぁ、余所者のお前らには分からんだろうから説明してやろう。ついてこい」

老人が杖を突きながら歩き出す。

「五年前、リヘーランの悪夢って事件があってな。それを引き起こしたテロープという動物が厄介極まりねぇんだ。未熟な奴だと確実に殺される。だから、テロープが出てくる森の奥へ行く依頼を受けるにはガルドラットのお墨付きが必須だ」

言葉通りに訓練場へ向かう老人の背中を追いながら、リオはちょうどいい機会だと気になっていたことを質問する。

「お墨付きを与えられるってことは、ガルドラットさんはそのテロープって動物と戦ったことがあるんですか?」

「それについては触れるな。ガルドラットの考えまでは分からんが、あいつの中で整理がつくまではな」

老人はそれ以上の言及を避け、訓練場の扉を開けた。

途端に、歓声が訓練場からあふれ出した。

場違いに、何かを称えるようなその歓声にリオは老人の背中から横に顔を出して訓練場の中を覗く。

冒険者たちが訓練場の奥に集まっている。ちょうどガルドラットがいる辺りだ。

リオ達のように新米がやってきたのかと思ったが、どうやら事情が違うらしい。

壁に繋がれているガルドラットが木剣を持ち、背後の棚に安置された一振りの剣を守るように立ちふさがっている。

ガルドラットの対面にはギルドの酒場で見たことがある大柄な男が二振りの木剣を構えていた。新入りどころか、このギルドでも上位の冒険者だ。

リオ達もガルドラットに用があるため、自然と冒険者の輪に加わりに行く。

ガルドラットと上位冒険者、実力者同士の試合とあって盛り上がるのも分かるが、周りの冒険者の視線を見るとなんとなく違う気がした。

何よりも、ガルドラットの様子がおかしかった。彼が使うシローズ流にはない構えで、気迫がまるで違う。

木剣を腰だめに持ち、水平に構えている。足を肩幅に開いているがどっしりと構え、自らは動くつもりがないように見える。

ガルドラットが使うシローズ流はカウンターが基本の剣術だが、今のガルドラットの構えは自分への攻撃を無視してでも相手を通そうとはしない仁王立ちの構えだ。

シローズ流の術理に反した構えだが、それ以上にガルドラットの様子はおかしい。

猛禽のような鋭い目に強烈な憎悪を宿し、食い破らんばかりに牙をむいている。

ただの訓練や試合とはまるで違うガルドラットの雰囲気を見て、リオは老人に事情を尋ねた。

「どういう状況ですか?」

「……真剣試合だ」

ため息をついて、老人はどこかやるせなさそうに呟いた。

「ガルドラットの奥にある剣を奪えれば挑戦者の勝ちという単純なルールだ。勝利すれば、奥儀を伝授するとガルドラットが言いだして始まった。ガルドラットがこのギルドに来てから今までの五年間で勝利した者はいないがな」

老人の表情の裏に隠された事情が分からないものの、リオはガルドラットと上位冒険者の試合へ注意を向ける。

リオの目から見て、上位冒険者は相当な実力者だ。精鋭騎士に匹敵する実力に見える。

このレベルの実力者がゴロゴロいるにもかかわらず、五年もの間ガルドラットは剣を守り抜いていることになる。

今のガルドラットの構えが剣を守るためのものだとすれば、シローズ流の奥儀か何かなのだろう。流石にカリルも奥儀までは知らないはずだ。

リオは見逃すまいと二人に注目する。

最初に動いたのは冒険者の方だった。

長短二振りの木剣を持つ冒険者は一瞬でガルドラットへと距離を詰める。短い木剣を防御に回しながら長い木剣での鋭い突きでガルドラットの構えを崩そうとした。

直後、距離を詰めた時の倍以上の速さで冒険者が吹き飛んだ。

地面を転がって受け身を取った冒険者は防御に回していた木剣を見て、降参するように両手を上げた。

リオの足元に折れた木剣の剣身が転がってくる。

一瞬の出来事だったが、リオの目は一部始終を正確に捉えていた。

突きを放ってきた冒険者に対して、ガルドラットは突きの軌道を完全に見切ったうえで自ら間合いを詰め、木剣をフルスイングしたのだ。

冒険者の重心を完全に捉えたその一撃は冒険者を木の葉のように吹き飛ばした。

「やっぱり駄目だったかぁー」

冒険者たちが挑戦者を慰めながらも拍手を送る。

和気あいあいとした空気の中で、ガルドラットは木剣を持つ自分の手を苛立たし気に見下ろして歯を食いしばり、挑戦者に背を向けた。

リオはガルドラットの動きを頭の中で反芻しつつ、訓練用の木剣が置かれている壁に向かう。

ガルドラットの動きは相手の体勢から導き出される攻撃範囲を正確に読み取り、その間隙へと体を滑り込ませていた。重心を正確に捉えていることからもシローズ流に必須の解剖学的な知識とカウンターを行う身体操作の技術や度胸がなければなしえない動きだ。

シローズ流の集大成ともいえる構えと動きではあったが、違和感があった。

リオは木剣を手に取る。

「……ガルドラットさんは大事な剣を守ってると思う?」

いつの間にかすぐ横に立っていたシラハが無表情に問いかけてくる。

リオは首を横に振った。

「思わないな。その質問をするってことはシラハも大事なのは剣じゃないって思うんだろ?」

「大事だったら人に取らせようとしない」

「俺もそう思う」

リオはガルドラットを見る。

ガルドラットは棚に置かれた剣を悔しそうに見つめていた。

リオは木剣を持って冒険者たちの輪の中に入り、ガルドラットの背中に声をかける。

「森の奥に行くのにガルドラットさんのお墨付きが必要なので、真剣試合というのを申し込みます」