軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話  トリグ

「しばらくここに入っていろ」

町の隅にある小さな建物の中、木の格子がついた部屋に入れられたリオは部屋を見回す。

粗末ながら木の椅子や机があり、鉄格子がはまっているものの小さな窓もある。

続けて入ってきたシラハが同じように部屋を見回し、無言で椅子に座った。

シラハも同じ部屋にいれている以上、何らかの罪に問われているわけでもないようだ。もしくは、罪人と判断する根拠がないか。

魔玉について調査しているという王家の騎士たちは紳士的に振舞っている。犯罪の容疑者への態度とも思えない。

状況はいまだにわからないが、魔玉をばらまいているリィニン・ディアとリオ達を混同している様子もない。

どこまで事情を知っているのか分からず警戒しっぱなしのリオはひとまず椅子に座って騎士に声をかけた。

「それで、俺達に何の用ですか?」

「すまないが、隊長が来るまで話ができない。窮屈だと思うが待っていてほしい」

「わかりました」

「リオと二人きり……」

「シラハ、いまボソッとなに言った?」

相変わらずマイペースなシラハに呆れつつ、リオはどうにも落ち着かずに足を組む。

愛用の剣も神剣オボフスも、ここに入れられる際、オッガンに没収されてしまった。旅に出てから片時も離さなかった剣が手元にないと、落ち着かない。

リオの様子を見て、騎士が苦笑交じりに声をかけてくる。

「剣がないと不安かな?」

「えぇ、まぁ」

「一端の剣士だね。少々特殊な造りの剣だったようだけど、我流?」

「そうです」

質問の内容からして、魔法斬りや神剣オボフスについて知らないようだ。

この調子で情報を引き出そうかとリオが口を開きかけた時、一人の中年男が入ってきた。

中年男を見て、騎士が立ち上がる。

「隊長、件の二人を拘束しまし――酒飲んでます?」

「まぁね。ほら、情報収集とかすると飲まされちゃうからさ。親しみやすいおっちゃんで通ってるから、こういう時は役得――じゃねぇ、困っちゃうよな」

「トリグ隊長……」

リオたちの手前、グッと何かを呑み込んだ騎士が口ごもる。

トリグ隊長と呼ばれた中年男は騎士の肩をトントンと叩いた。

「ご苦労さん。今日のところはおっちゃんが見張っておくから、お前らは休め。何なら、土産物を見てくると良い。ここらの工芸品は女の子に喜ばれるぞー」

「そんな状態の隊長に見張りなんて任せられるわけがないでしょうが」

「あぁ……。お前、まだ二年目だもんなぁ。おっちゃんのだらしないとこしか見てないもんなぁ。でもほら、命令書作ったから従いなさい」

騎士に命令書を押し付けたトリグはそのまま酔っ払いとは思えない軽い足捌きで騎士の背後を取り、背中を押して部屋から追い出した。

丁寧に扉に鍵をかけたトリグは髪を掻きむしりながらどかりと椅子に腰を下ろす。

「さってとー。ごめんね、こんなとこに放り込んじゃって。聞きたいことも知りたいこともたっくさんあるんだけども、先におっちゃんの話を聞いてもらおうかな」

ワイン瓶に直接口をつけて中身を飲んだトリグは机に肘をつく。

「そもそも、おっちゃん視点だと妙なことばっかりなんだよ。ロシズ子爵家の領地におっちゃんみたいな無派閥が派遣されたって時点でもう嫌な予感しかしなかったわけ。あ、こりゃあ反乱か何かの前触れの暗闘かな、ってね。でも蓋を開けてみたらロシズ子爵家は協力的ときた。もう背筋ぞわぞわよ?」

乾いた笑い声を上げたトリグは再びワイン瓶に口をつける。

唇を湿らせるようにぺろりと舐めたトリグはリオを見た。

「上からの命令は少年少女を生きたまま捕らえて、王領に連れてくること。そこで別部隊へ引き渡し。その引き渡す部隊ときたらオルス伯爵派ときた。おっちゃん、無派閥だからこそ生き残りに必死でさ。こういう時に勘が働くのよ。あ、こらあかんと」

頬杖を突いたトリグがワイン瓶をくるくる回す。

「君たちみたいな若い子、しかも組織に所属しているわけでもない子には分からないかな」

「派閥とかはよく分からないです」

グループ的なものは想像がつくが、国の上層部で貴族同士が騎士まで巻き込んでどんな派閥を作っているのか、リオに分かるはずもない。

トリグは「だよなぁ!」と酔っぱらいのテンションで笑いながら説明してくれた。

「オルス伯爵ってのは良心的で平民にも心優しく接するってなかなかできたお人でね。ロシズ子爵家ともそういう点では足並みそろえてた。規律を重んじる杓子定規な法律派と良心派で分かれる貴族派閥で、オルス伯爵もロシズ子爵も良心派だ。で、騎士にもその派閥に与してるのが多々いるわけな」

トリグはリオの顔を眺めながらそう前置きし、床を指さした。

「貴族領に騎士を派遣する場合、人選には政治的な意味ができちまう。同派閥なら調査にも手心を加える、あるいは味方だとの表明で、対立派閥なら厳密に調査する、戦争も辞さないってな」

「トリグ隊長は無派閥、なんですよね?」

「そう。それが大問題」

ワイン瓶をテーブルに置いたトリグがリオに身を乗り出す。

「無派閥を送る意図は、王家は中立を貫くってこと。なのに、なぜか君たちを良心派閥の騎士に引き渡せという。同派閥のロシズ子爵家が直接君たちを捕らえて引き渡せば済むことなのに。――君たち、どこの派閥の何者だい?」

すっと目を細めてリオを観察したトリグは、すぐニカリと白い歯を見せてリオから距離を取った。

「と、正体は気にはなるけど、問題の本質は別なんだなぁ、これが」

ワイン瓶を再び手に取ったトリグは中を覗き込みながら、続ける。

「お偉方の争いは責任を取る奴がいないと終わらない。君たちが何者であれ、引き渡したとなればおっちゃんは争いに巻き込まれることになる。後ろ盾のない無派閥のおっちゃんなんていつでもポイできる便利な駒になっちゃう。勘弁願いたいわけよ」

そう言って、トリグは空になったワイン瓶を枕に机に突っ伏した。

「だからおっちゃん、今回のお仕事失敗しまーす。減給は覚悟するけど、命令書も作ったし、部下に累は及ばんでしょ。あぁ、やだやだ。おっちゃんのお仕事ってこんなんばっかり。便利に使うんだからさぁ。おやすみ!」

まくし立てるように言いきって、トリグは本当に寝息を立て始めた。

リオはトリグを見つめて呟く。

「騎士って大変だなぁ……」

「リオ、迎えが来てる」

「迎え?」

いつの間にか立ち上がっていたシラハに耳打ちされ、リオは後ろを見る。

壁から猫の前足が生えていた。

神剣オボフスを使って壁を透過したチュラスが手招いているらしい。

リオはトリグを見る。

あえてリオ達を逃がすことで罪に問う作戦も疑ったが、神剣オボフスを没収したのはオッガンだ。リオたちを嵌めるとは考えにくい。

リオ達を嵌める気があるのなら、いくらでも罪をでっち上げられる立場なのだから。

「リオ、早く」

シラハが壁を抜けていくのを追いかけて、リオは直前で脚を止める。

「酒飲みを装うなら、酒の臭いをさせた方がいいですよ?」

トリグに声をかけて、リオは壁を抜ける。

「――加齢臭が強くて気付かなかった」

おどけたトリグの寝言が聞こえた気がした。