軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 待ち伏せ作戦

衛兵宿舎に併設されている物見台の上へと駆けあがったリオは騒ぎが起きている旧シュベート国方面を見る。

戦場は遠かったが、状況は良く見えた。

――防壁が消失しているからだ。

「防壁を視界に入れて固有魔法を発動したのであろうな」

チュラスの推測にリオも頷き返す。

邪神カジハが歩いてきたであろう道が奥へ続いている。防壁を形成していた石材が固有魔法によって変形させられ、道を舗装する石畳になっていた。

改めてみても、リオが今まで見てきたどの魔法より規模が大きく、どこに魔法の核があるのかあたりを付けることもできない。

「チュラス、あの魔法の核がどこにあるかって感知できる?」

「分かるわけがあるまい。中央付近だとは思うが」

感覚に優れるチュラスでもわからないのかと、リオは視線を舗装路に戻す。

道の先から何かが走ってくるのが見えた。

カジハではない。もっと大きな生き物の群れだ。

夜闇に紛れて輪郭もおぼろげなその生き物の群れに目を凝らし、正体に気付く。

邪霊の群れだった。

「……カジハの奴、のんびり歩いてきてたのはこれが狙いか」

濃密な邪気を放出するカジハはおそらく、旧シュベート国における頂点生物だ。

そんなカジハが邪気を振りまきながら歩き始めれば、進行方向にいた邪霊や邪獣が追い立てられる。

邪霊も邪獣も走りやすい道を求め、カジハが固有魔法で切り開いた道を走り、このサンアンクマユへと突っ込む。

だが、妙なこともある。

邪霊や邪獣は攻撃的な衝動の持ち主が多い。チュラスの窃盗衝動のように直接危害をくわえない衝動もあるが、追い立てるカジハに牙を剥かないとは限らないはずだ。

複数の邪霊に歯向かわれても蹴散らす自信があるからこそ、この戦法を取ったことになる。

おそらくは、避難民を後ろから強襲させるために。

「カジハの目標は変わってないね。避難民を追うとすれば、大通りを通るかな」

「待ち伏せる場所は変更せずともよさそうであるな」

リオはチュラスと頷きあい、物見台を飛び降りる。

衛兵宿舎の屋根に着地したリオはチュラスとほぼ変わらない身軽さで素早く地面に降り立ち、下で待っていたシラハと合流した。

「作戦に変更なし。覚悟を決めていこうか」

衛兵宿舎の敷地を飛び出したリオとシラハ、チュラスは通りを一気に駆け抜け、戦場方面へ向かう。

防壁が消失しているため、旧シュベート国の山が遠目に見えた。防壁があった地点にはホーンドラファミリアの武闘派が神器や邪器を携え、邪霊の群れと正面から激突している。

武闘派で鳴らすだけあって邪霊の群れを相手に一歩も譲らない。攻める余裕すらありそうだが、邪霊の群れがいつ途切れるかもわからないため体力を温存しているようだ。

安定した戦いぶりを見せているが、コンラッツが見せてくれた騎士剣術を使っている者は数人しかいない。その数人もコンラッツと同様に老人で全員が邪人だった。おそらくはシュベート国崩壊時からの生き残りだろう。

旧シュベート国の騎士剣術は国が滅んだ際に継承がほぼ途絶えてしまったらしい。

大通りの作戦決行地点に到着し、リオは周囲を見回す。

戦場から伸びる大通りはここで緩やかにカーブしている。周囲の建物に視界が遮られて戦場を見ることはできないが、逆に戦場からここを見透かされることもない。

屋根の上に身をひそめていたイオナがリオ達を見つけて駆け寄ってくる。

「待っていました。こちらはすでに配置についています」

「分かりました。俺もすぐに配置につきます」

足元の石畳を確認したリオはシラハを見る。

「シラハ、気を付けて」

「リオも」

ハイタッチして、リオは魔力を完全に体へ留めて気配を消しながら民家に忍び込む。

大通りにはシラハとイオナ、チュラスが残った。

シラハが邪剣ナイトストーカーを起動して自身とイオナ、チュラスの姿を消す。イオナがチュラスに神弓ニーベユの効果を及ぼし、視界に入れられないようにした。

邪神カジハの固有魔法は視界内の存在に対して効果を持つ。視界に入らなくなる神弓ニーベユは抜群の相性を持つ装備だ。

とはいえ、チュラスは魔玉由来であるため姿を見せなくてもカジハに察知されてしまう。神弓ニーベユの効果は限定的だ。

リオは民家の窓から外を窺う。

作戦上の配置では、大通りの真ん中にシラハが立ち、愛用の剣を構える。リオから見て大通りを挟んだ向かいの民家にチュラスが潜み、二階にイオナが弓を構えている。

魔力を感知できるカジハなら、遠くからでもこの陣形を把握できる。あからさまに罠と分かるこの配置に、リオがいないことにも気付き、どこかに潜んでいることもお見通しのはずだ。

それでも、カジハはその衝動故にこの罠を正面から潰しに現れる。

激戦の振動がリオの潜む民家を揺らす。

リオは息をひそめて窓の隙間から外を注視し、その時を待ち続けた。

激戦の振動が一瞬、止まった。鳴り響いていた魔法の炸裂音すらも消え去り、瞬きの間夜の静寂を町が取り戻した。

大通りを歩いてくる足音が聞こえてくる。すぐに戦場の音に飲まれたその足音の主が邪神カジハなのは察しがついた。

大通りを濃密な悪意が満たしていく。邪獣や邪霊の特徴的な気配、邪気が町を侵食するように大通りに広がっていく。

「あの少年は隠れているのか。本当に、全く気配を感じないね。その程度の才能ということもあるだろうが」

小馬鹿にするような、煽るような、神経を逆なでする丁寧な口調でカジハが声を響かせる。

その声が、作戦開始の合図だった――