軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 奇襲作戦

矢が放たれる。

視線を強引に矢へと持って行かれる感覚。

リオは破るようにして木窓から大通りへと飛び出した。

身体強化を限界発動。愛用の剣を腰だめに最高速で邪神カジハに迫る。

足音を消し、魔力を発散せず、それでも高速で迫るリオにカジハは気付けていない。

しかし、カジハも罠が発動したこと自体は理解したのだろう。大きく飛び退いた。視線を矢に固定された状態でも、矢から距離を取れば自然と視界が広がる。

視界の端にリオを捉えたか、カジハが笑みを浮かべる。

「予想の範疇だ!」

カジハがさらに後ろに飛び退いてリオから距離を取りつつ、固有魔法を発動する。

民家の壁が突然変形し、長い棒状に突き出てカジハの手に収まった。

カジハは民家の壁から作った棒を両手で持ち、視界の端に捉えたリオへと大振りで振りぬく。

元々が壁だっただけあって、棒の長さも太さも質量も莫大だ。細身のカジハがこれほどの質量を振り回せるのも、魔力との親和性の高さからくる身体強化の効果の高さゆえだろう。

だが、リオには通じない。

「消えろ」

瞬間的に身体強化を限界以上に引き上げた喉から、余剰魔力を吐き出しながら愛用の剣で突きを放つ。

硬いガラスを突き破るような感覚が突き出した剣の切っ先から伝わってくる。

直後、カジハが振りぬいていたはずの棒が消失し、民家に壁が戻った。

ちらりと民家の壁の状態を確認したリオは最後の一歩を大きく踏み込み、カジハへと剣を振り被る。

魔法斬りは完全に想定外だったのだろう。カジハは驚愕に目を見開き、リオが振り被る剣を見つめていた。

だが、驚愕していようと国をも滅ぼした邪神だ。反撃に移るのは早かった。

カジハが左足を引き、さらに固有魔法の発動を試みる。リオの剣を視界に収めて固有魔法を発動することで変形させるつもりらしい。

リオはカジハの視界を認識すると同時に横へ跳び、カジハの視界から愛用の剣を退避させる。

カジハがリオを視界に収めようとさらに一歩後ろへ下がったその瞬間だった。

鈴の音が大通りに木霊する。

清涼感のある鈴の音はリオとカジハの間を通り抜け、双方から闘志をかき消した。

唐突に戦意を喪失したカジハが戸惑いに脚を止める。

それはほんのわずかな隙だった。

だが、この隙を生み出すために、リオはこの場所までカジハを追い込んだのだ。

「――よくやった、小僧」

声と共に石畳の下からコンラッツが飛び出し、カジハの真後ろを取る。

蟻の穴一つない石畳の下から現れたコンラッツは鞘に入っていた神剣オボフスを抜き放った。

リオが魔力を内にとどめるのと同様に邪気を操作して地下水路に隠れていたコンラッツの邪気が一気に膨れ上がる。

その邪気は殺気となってカジハに叩きつけられた。

鈴の音が拭い去ったはずの殺意をただ一人持ち続けるコンラッツは神剣オボフスでカジハを頭から両断する。

抵抗も感じさせず、神剣オボフスはカジハの胴体を縦に斬り裂いた――はずだった。

コンラッツが顔をしかめ、手首を返して神剣オボフスを斜めに跳ね上げる。

カジハの右半身が上下に二分割され、重力に引かれて倒れていく。

「くっ――」

コンラッツが焦りの表情を浮かべる。

リオも異変に気付き、カジハの左半身に刃を向ける。血が一切出ていない。それどころか、断面が黒い何かに覆われて内臓が一切見えない。

半分しかないカジハの顔がにやりと笑った。

――生きている。

リオは魔力を声に乗せ、カジハへ叫ぶ。

「しつこい!」

何らかの魔法で延命しているとみて魔法斬りを試みようとしたリオは愛用の剣を構えたまま硬直する。

陽炎のような魔力の塊がカジハへぶつかっても、魔法の核が膨れ上がる気配がしなかったのだ。

カジハの笑みが深くなった直後、その姿が掻き消えた。

カジハの右半身を刻んでいたコンラッツが苦い顔をして神剣オボフスを鞘に納め、振り返る。

コンラッツの視線の先、大通りにカジハが無傷の状態で出現した。

「ふふふ……あははは!」

カジハが額にかかる茶髪をかき上げて夜空を仰ぎ、こらえきれなくなったように大笑した。

「ははは! お見事! 頑張った! はらはらしたよ! シュベート国を滅ぼした時と同じ素晴らしい高揚感だった。まさか、魔法を斬るとは! あははは!」

片手で腹を押さえ、カジハは体を真っ二つにされた時ですらしなかった苦しそうな表情で目尻に浮かんだ涙をぬぐった。

「邪気を完全に抑えるのも予想外だった。まるで気付かなかったよ! 神器の首輪エレッテリ、神弓ニーベユ、邪剣ナイトストーカー、神剣オボフス、それぞれの能力を使って効果的にここまで追い詰めた。君たちは頑張った! でも、足りなーい! あははは!」

膝を打ったカジハはリオを指さす。

「剣術の才能がまるでない君がひたすらに鍛錬し、唯一の技、魔法斬りを編み出し、いま、この戦場に立っている。だが、敗因は君だよ。君が役割を果たしきれなかった。それが敗因だ。実に無様だな」

煽るカジハに、リオは目を細めてじっと観察を続けていた。

作戦は失敗した。そして敗因がリオにあるというのなら、魔法斬りを使う場面だったことになる。

カジハの延命は魔法で行われていたのは疑いようがない。

カジハが何をしたのか。延命の方法に思い至ったリオは指摘する。

「固有魔法で延命した。ただし、固有魔法の核をさらに固有魔法で別の場所に融合した?」

「ご名答! まぁ、分かるよね」

延命する魔法ならカジハの身体に核があると思い込んだリオは、見当違いの場所を斬っていたことになる。

だが、種が割れたなら対策できる。

リオは剣を腰だめに構え、体でカジハの視線を遮ることで剣を保護する。

コンラッツをちらりと見て、リオは小さく呟いた。

「神弓ニーベユであちこちに矢を撃ち込んで強制的に足元を向かせれば、俺が魔法を斬れる」

「小僧……。あれだけ煽られて、ずいぶんと冷静だな」

「俺に才能がないことなんて知ってる。今さらどうでもいい。目的を見失う方がよっぽど無様だ」

「ふっ」

コンラッツが小さく笑い、鞘に納めたままの神剣オボフスの柄をリオの前に差し出した。

何のつもりかとリオがコンラッツに視線で問いかけた矢先、カジハが笑い声を上げる。

「何の策を弄するのか知らないが、時間切れだよ!」

言葉と共に、カジハの後ろ、ホーンドラファミリアと邪霊の群れがせめぎ合う戦場が隆起した。

大地が盛り上がり、危機を察したホーンドラファミリアの武闘派たちが即座に退避を優先して左右に分かれる。

闘争本能に支配されていた邪霊たちは反応が遅れ、盛り上がる大地に足を取られて転倒し、互いにもつれ合う。

何が起きたのか、隆起し終えた地面を見て察する。

何のことはない。カジハが固有魔法で消失させた防壁が元に戻っただけだ。

だが、防壁が戻っても状況は悪化した。何故なら、防壁の内側に邪霊が多数残され、ホーンドラファミリアの武闘派たちは陣形を崩されてしまっている。

崩れた陣形を縫って、邪霊たちがこちらに走って来ていた。防壁で退路を塞がれた邪霊たちはイチかバチか、カジハの横をすり抜けてサンアンクマユを脱出するつもりなのだ。

脱出した先ではおそらく、避難中の住人や衛兵隊の背後を突く形になる。

コンラッツが声を張り上げた。

「全軍、追撃! 邪霊を掃討し、撤退しろ!」

コンラッツの命令に武闘派たちは一切の疑問を挟まず速やかに撤退に移った。

カジハが意外そうに武闘派たちを見た後、コンラッツへ視線を戻す。

「諦めるのは意外だなぁ。しかし、闘志を失っているようにも見えない。まだ何か企んでいるのかな?」

カジハの質問に答えず、コンラッツはリオに神剣オボフスの柄を押し付けた。

「――くれてやる」