軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森は生きている

護衛の騎士を伴ってサラとレベッカが火災現場に到着すると、既に数名の木こりと自警団が待機しており、現場周辺の確認作業をしていた。

「みなさま、お疲れ様です」

レベッカが馬を降りて挨拶をすると、全員が一斉に帽子を取って頭を下げた。

「オルソン子爵令嬢。妖精のお力で狩猟場を再生していただけると伺いましたが、それは本当でしょうか?」

木こりを統率しているらしき中年男性が話しかけてきた。

「ええ本当よ。完全に元通りというわけにはいかないけど、狩猟大会に支障が出ない程度には何とかできると思うわ。ウォルト男爵からも、どの部分を重点的に再生すればいいか計画表をもらってきているわ」

昨日の晩餐の後、侯爵とウォルト男爵は狩猟大会のために必要な再生計画を立案し、指示を書き込んだ図面を用意していた。今朝になって指示図面を受け取ったサラとレベッカは、再生する位置、木の種類、どの程度の樹齢にまで育てるかなどが詳細に記入されていることに驚いた。木こりたち向けに枝打ちの指示までされていたのだ。

『これを一晩で用意するとか、ウォルト男爵はタダ者じゃないわ』

「男爵様の指示であれば間違いありませんね。我々も昨夜からこの周辺を見て回りましたが、燻っている木などはありません。完全に鎮火しているようです」

「それは良かった。火の気があると森の妖精たちは怖がってしまいますからね」

レベッカは木こりに図面を見せ、指示された箇所を丁寧に確認していく…というフリをしながら、実際には後ろに立っているサラとポチが『ふんふん』と頷いていた。ミケは退屈そうにサラのポニーテールをよじよじと登ったり下りたりを繰り返していたが、それでも話は聞いているようだ。

「だいたい分かったわ。申し訳ないのだけど、少しだけ離れていてもらえるかしら? あまり沢山の人がいると妖精が仕事しにくいから」

このレベッカの発言は、嘘でもあり本当でもある。妖精には個性があるので、いたずらをして注目されるのが大好きな妖精もいれば、人前に姿を現したりするのが苦手な妖精もいる。

レベッカとサラが指示された場所の中心に立つと、護衛、木こり、自警団の面々は距離を置いた位置に下がった。

サラはすかさず風属性の魔法で囲って音声を遮断し、光属性の魔法でレベッカの周囲を無駄にキラキラと輝かせた。すると妖精たちも面白がって、一緒に光の玉を周辺に飛ばし始めた。

レベッカの髪にじゃれついて、結い上げてあるピンを抜くいたずらっ子の妖精もいる。気が付けばレベッカの豪奢なブロンドは風でふわりと巻き上がり、なんとも幻想的な雰囲気になっていく。

『プロジェクションマッピングを駆使したテーマパークのアトラクション?』

この風景を前にしても相変わらずサラの思考は残念であったが、それくらい冷静である方が重要でもあった。また、遠くからこの様子を見ている人々は、今まで見たこともない光景を目の当たりにして完全に固まっていた。

こうして場の雰囲気を作り上げたサラは、最初に燃えずに微かに生き残っていた木々や雑草を木属性の魔法で一気に再生させた。その光景は成長記録の動画を何倍もの速さで再生しているかのようである。

「おおおおおっ。まだ森は生きていたのか!」

周囲からはどよめきが上がったが、防音障壁に遮られてサラとレベッカの耳には届かなかった。

生き残った植物は再生させたものの、完全に燃えてしまった木や草花も多い。そこでポチにお願いして、再生させたばかりの雑草を若木に変換し、計画表に沿った場所へと次々に植林していった。

すべての若木を植林し終えると、ポチがサラの左肩に腰を下ろした。

「木は植え終わったけど、木属性の魔法だけで大きくするのは難しそう」

「どうして?」

「水や養分が足りないんですって」

「あぁ。なるほど」

そこでサラは土属性と木属性の魔法を融合し、養分となる土の作成を試みた。しかしポチは『この土は十分に熟れていない』と指摘する。

「じゃぁ私の出番ね!」

今度はミケが右肩に着地して伸びをするような仕草をした後、くるんっと宙返りをした。ミケはサラが作成した土の時間に干渉することで、土の熟成を進めていく。

「ポチぃ、これくらいでいい?」

「うんいい感じ~」

妖精の2匹はサラの目の前でじゃれあうように、森の土地を肥沃なものへと変えていった。

『あれ、そういえばこの辺の木はアカマツだったよね?』

ふと思い立ったサラは、木属性の魔法を発動して目の前にあったアカマツを一気に成長させ、ついでに松茸を採集した。

『どちらも菌類なのに、松茸と麦角菌では随分と扱いが違うんだから人間って勝手ね』など高尚なことを考えつつも、『ひとまず焼いてすだちかけて食べようかな』といった思考が、あっさりとサラの脳内を支配した。

ちなみに、すだちはあとでポチにおねだりして変換してもらうことになる。

「サラー。まだ魔力は大丈夫そう?」

ポチは心配そうにサラの顔を覗き込んだ。

「これくらいなら全然平気。っていうか本当に魔力減ってる?」

「えっとサラ…あんまり言いたくないけど、今くらいの魔力を引き出したら『普通は』上位貴族でも倒れちゃう人の方が多いと思うわよ」

「そうなの?」

レベッカの鋭い指摘にサラはたじろいだ。これにはミケも同意する。

「サラの魔力はどんどん大きくなっていくのに、普通の属性魔法だとサラは自分の魔力すら消費しないんだよね。ドラゴンみたいに周りの魔素をどんどん集めて魔法を発動しちゃうから、私たちが時々使ってあげないと魔力を意識しなくなっちゃいそう」

「サラなら、そのうちブレス吐きそうよね」

「うんうん。アクラ山脈を消し飛ばせそうな勢いで吐くよね」

「待って、私はそんなことしないからねっ!!」

失礼な2匹の指摘を無視し、サラは植林した若木をあっさりと木属性の魔法で成長させ、予定していた森の再生は終了した。

なお、所要時間は1時間足らずであったことから、『ちゃちゃっと終わらせる』が有言実行であったことは間違いないだろう。