軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

錬金術師という生き物

サラは魔石の技術革新について『すべてを隠しておくことは難しい』と考えた。単純に自分が便利に使えば絶対にバレるからなのだが、技術を小出しにすることでこの技術革新を軟着陸させる方法を模索する目的もあった。

転生者とはいえ、魔石についてはほぼ素人だったはずのパラケルススは、かなり核心に近いところまで迫っている。そう考えれば、同じようなことを考える人は他にもいるはずだ。

「ねぇアリシアさん、本来の目的は音の出る箱を使い捨てにしないことよね?」

「そうですね」

「だったら、魔力を補充できる魔石として、純度の高い魔石だけを使って商品化しない?」

「それは構いませんが、魔力の補充はどうしますか?」

サラはしばし考えこむ。

「あの箱で音を記録するのに使っているのは風属性の魔石よね?」

「そうですね」

「再生するたびに少しずつ魔力が失われるのよね?」

「その通りです」

「では完全に魔力を失って記録が失われる前に、少しだけ魔力を残した状態まで魔力を消費したら、それ以上再生できないようにできる?」

「うーーーん、少し時間をもらえれば可能だと思います」

『リミッターは付けられそうね』

「音が記録されている魔石に魔力を供給する魔法陣を隠匿して仕込むことはできる?」

「大掛かりな魔法陣が必要なので、箱の内部には難しいかと」

「では逆に、音のなる魔石を取り外して、魔力補充の魔道具にセットして魔力を補充するような仕組みにするのはどう?」

「魔力持ちの人が触れば補充できるようにするのですか?」

「それでも良いけど、魔石から魔石に魔力を移す道具っていう方が受け入れられやすいと思うの。当分の間は魔力の指向性について発表はしないつもりだから、同じ属性の魔石なら補充できるってことにすればバレにくいんじゃないかな」

「なるほど」

アリシアはアイデアを書き留めて、魔法陣のざっくりした設計をイメージする。

「一般に販売するのは厳しそうですが、商会に箱を持ち込んでもらって魔力を補充するのが良さそうです。商会の従業員に、魔道具を使って魔石から魔力を補充する方法を教えれば対応可能にできると思います」

「そうね。でも、『魔力を補充できる魔石』という存在は隠せないわ。これに関しては絶対に問い合わせが来るでしょうし、下手をすれば王室から技術の公開を求められることになるのではないかしら」

「あぁそれは間違いないでしょうね」

すると、サラはアリシアに向かってニヤリと笑った。

「じゃぁ、そろそろアリスト師にご登場いただきましょうか」

「へ?」

「アリシアさんが『錬金術師』として堂々と発表するのよ。問われる前に先んじてこちらに都合の良いことを発表しておくの。『魔石には微量に他の属性の魔力が含まれているため、その魔力が反発して補充できない』ってことと、『純粋に一つの属性の魔力のみが含まれている魔石であれば、同じ属性の魔力を補充できる』ってことを」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

アリシアは素っ頓狂な声をあげて驚いた。

「で、でも、その純粋な魔石をどうやって作り出すのかが問題になりますよね?」

「そうでしょうけど『極めて純度の高い魔石のみが、魔力の補充を可能にする』って開き直っちゃえば良いと思う」

「通用するでしょうか…」

「疑う人はいくらでも出てくるでしょうし、パラケルススさんのように研究を進める人も出てくるでしょう。だけど純度の高い魔石を人工的に作り出せるって考えつく人なんてそんなにいるかしら? なんならパラケルススさんの研究資料を適当に引用しましょうよ。出典として彼の研究と言ってしまえば、それ以上は追及しにくいのではない? 錬金術師には神様みたいな人なんでしょ?」

「そうですが…」

なおもアリシアはぐちぐちと言い訳を並べる。

「アリシアさんはこの発見を自分の名前で発表したくないの?」

「そんなわけありません!ですが、私はアカデミーも出ていない小娘に過ぎず、錬金術師ギルドに登録しているわけでもありません」

「あら。たった5年でアリスト師は随分と丸くなってしまわれたのですね。それなら構いません。別の錬金術師の方をテオフラストスさんに紹介してもらえばいいだけですから」

サラが突き放したように言い放つと、アリシアが目をうるっとさせてサラを見つめた。

「サラお嬢様は意地悪ですぅ。そんなの絶対イヤに決まってるじゃないですかぁ」

「だったら覚悟を決めるしかないでしょう? それとも音のなる箱を使い捨ての高い魔道具のままにしておく?」

「うー、それももったいないのでイヤです」

だんだん、アリシアが駄々っ子のようになってきた。

『まぁ、これはこれで可愛い。まだ17歳だしねぇ』

「私の予想でしかないけど、多分アリシアさんがアカデミーや錬金術師ギルドに論文を提出しても、すぐには注目されないと思うの。商会の商品が注目されるようになったら、じわじわ来るんじゃないかなって思う」

「確かに私の論文ならそんな扱いでしょうね」

「うまくすれば注目されないままでしょうけど、その確率は極めて低いと思うわ」

「はぁ…サラお嬢様、8歳で確率とかあっさり言わないでくださいよ。私はそんなに数学得意じゃなかったんですから」

「あら、錬金術師なのに意外ね」

「錬金術師がみんな数学得意だと思ったら大間違いです」

アリシアは深くため息を吐いた。

「わかりました。アカデミーに論文を出します。錬金術師ギルドには父がいるのでやめておきます。少しでも父に見られるタイミングは遅らせた方が良いです。じゃないと、乙女の塔まですっ飛んできますよ?」

「わかる気がするわ」

アリシア以上に 暴走した錬金術師(マッドサイエンティスト) なテオフラストスが乙女の塔にやってくることを想像すると、サラも背筋にゾクリとしたものが走った。

『確かにバレるのは少しでも遅い方が良いわ』

だが、サラとアリシアの期待はとてもあっさりと裏切られることになる。この二人はアカデミーにおけるアリスト師の評判を過小評価し過ぎていた。

アリシアの論文はあっという間に錬金術師たちの間で評判となり、他領からも乙女の塔を訪れたいという手紙がどっさりと届けられることになる。

当然テオフラストスにもすぐにバレた。しかし、あまりにもしつこく訪ねてくる父親にキレたアリシアがサラに依頼して乙女の塔にもゴーレムを配置したため、連日ゴーレムにお姫様抱っこされながら追い出されるテオフラストスの姿が目撃されることになる。

一方、追い出される側のテオフラストスもタダでは起きない。ゴーレムをペタペタ触りまくって関節などの動きを観察し、会話パターンを確認するなどご満悦である。

なお、この様子を横で見ていたアメリアは、『よく似た父娘だな』という素直な感想を抱いた。