軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

S20 転落

何かがおかしい。

その違和感はかなり前からあった。

けど、それをはっきりと意識したのはつい最近だ。

それまでは無意識のうちになんとなく感じているだけだった。

何かが、おかしい。

けど、何がおかしいのか、それがわからない。

違和感が付きまとうのに、その正体がわからない。

俺はその違和感の正体を、何が何でも解き明かさなきゃならなかった。

そう、後悔することになった。

父上に呼び出されて部屋に向かう。

このところ父上はいつにも増して忙しそうにしている。

俺も関わっていることのため、話はよく聞いていたが、どうやら戦場から勇者が死んだという噂が流れ、市井の間にも広まってきているらしい。

もう、ユリウス兄様が死んだ事実を隠すのも限界だった。

そこで、神言教会は正式に勇者の死亡を発表するようだ。

そして、それと同時に新勇者の発表も。

つまり、いよいよ俺も勇者として人々の前に立たなければならなくなるわけだ。

今日呼び出されたのは、そのことについてだろう。

疑問なのは、俺と一緒にスーが呼び出されたことだ。

俺の隣にはスーが並んで歩いている。

わざわざ学園を休ませて、スーを俺と一緒に呼び出したのは、何の用があってだろう?

スーも何も聞かされていないようだ。

疑問に思っていると、部屋の前に到着した。

まあ、会えばその内容もわかるだろう。

扉をノックする。

「シュレインです」

「うん?入るがいい」

「失礼します」

俺は扉を開けて中に入る。

スーも無言でそのあとに続く。

「どうした?」

父上は書類に何かを書きながら聞いてくる。

いや、それを聞きたいのは俺の方なんだけど。

「いや、呼び出したのは父上ではありませんか。ご要件は何です?」

「うん?私は呼んでいないぞ?」

は?

そう思った時には、既に事態は動いていた。

俺は確かに疑問の声を上げたはずだった。

それなのに、その音が外に出ることはなかった。

風魔法の一種、消音の効果が俺の周りにかけられていた。

俺が対応する暇も与えないほどの速度での魔法構築と発動。

そんなことができる実力者は限られる上に、今この場においてそれが可能なのは、俺のすぐ隣にいるスーをおいて他にいなかった。

何を?

声を出しても周りの空気にその音はかき消されてしまう。

この魔法の厄介な点として、俺の音を消すのではなく、俺の周りの音を消すという抵抗のしようがない状況を作り上げることができるというものがある。

発動してしまったら最後、術の構成に無理矢理干渉しない限り、俺の声は外に出ない。

混乱する俺に、追い打ちをかける事態が起こる。

スーが、父上を撃った。

驚きに目を見開く。

何が、どうして?

スーが使ったのは光の魔法。

俺が最も得意とする魔法。

その光線が、父上の額を撃ち抜いていた。

「きゃああああ!兄様!何をなさるんです!?」

同時に悲鳴を上げるスー。

俺は頭が混乱しすぎて真っ白になる。

「何事だ!」

勢いよく扉が開かれ、サイリス兄様とその護衛の甲冑騎士が部屋に入ってくる。

「兄様が父上を!」

「なんだと!?血迷ったかシュレイン!」

違う!

俺じゃない!

なんで、どうして!?

そう叫んでも声はかき消される。

「衛兵!シュレインが国王陛下を襲った!」

俺とは反対に、よく通る叫び声でサイリス兄様の言葉が城中に響き渡る。

「シュレインを捕えろ!」

サイリス兄様の言葉に動く甲冑騎士。

剣を抜き放ち、振り下ろしてくる。

俺は混乱しながらも、普段の鍛錬が功を奏したのか、咄嗟に自分の剣を抜いて応戦した。

その俺の剣が、甲冑騎士の剣によって両断された。

ありえない。

いくら咄嗟のことで強化もなにもかけていない状態だったとはいえ、勇者である俺が持つ剣が、そこらのなまくら同様に簡単に切れるわけがない。

それなのに、俺の剣は半ばで真っ二つに分かれていた。

目まぐるしく変化する事態に思考が追いつかない。

その隙を甲冑騎士は見逃さなかった。

返す刃が俺を切り裂く。

すんでのところで半歩後ろに下がったおかげで、致命傷にはならなかった。

けど、袈裟斬りに切られ、重傷であることに変わりはない。

次の攻撃が来たら、殺される。

「よう。いいザマだな勇者様」

甲冑騎士が嘲るような声を出す。

兜に遮られてその声は若干くぐもっているが、それでも聞き間違いのない声だった。

「お、前。ユーゴー、か?」

「正解だ」

兜を脱ぐ。

そこには、スキル失い、失墜したはずのユーゴーがいた。

「ユーゴー。わざわざ正体を明かすな」

「いいじゃんかよ。冥土の土産ってやつだ」

甲冑騎士の中身がユーゴーだと知っていたかのような態度のサイリス兄様。

事実知っていたようだ。

だが、なぜ?

「知りたいか?このお兄さまは王座が欲しい。俺はテメエと岡に復讐したい。両者ともにテメエが邪魔だったわけだ」

「な、んで。次の王はサイリス兄様のはずだ」

「ところがどっこい。あのくたばった王様は次期国王をテメエにしようと画策してたわけだ。テメエを勇者だと発表する前に次期国王として発表しちまえば、勇者として戦場に気軽に赴くこともできなくなるって考えてな!」

「そんな下らんことで、この私の王座が奪われてたまるか!」

ユーゴーの言葉に、思わずといった具合に苦みばしった叫びをもらすサイリス兄様。

その叫びも、新たに張り巡らされていた消音によって、俺たち以外には聞こえないようにされている。

俺は、その消音を発動させた術者を見る。

「兄様。残念ですが、ここで死んでください」

いつもの口調なのに、その声はまるで別人のようだった。

いつもの平坦なくせにやたら熱のこもった声とは真逆、まるで、蔑むかのような冷淡な声だった。

「スー、どうして?」

「兄様、私は真実の愛に気づいただけです。そのためなら兄様を殺すことも厭いません」

おかしい。

明らかに今のスーはおかしい。

俺は鑑定を発動させる。

そこに、『催眠』『洗脳』『魅了』という状態異常が表示されていた。

「ユーゴー!お前の仕業か!?」

「お?気付いた?気付いちゃった?そうだよ。俺の仕業だ。どうだ?奪われるやつの気持ちは?悔しいだろ?俺も味わったからよーくわかるぜー!ギャハハハハ!」

「今すぐスーを元に戻せ!」

「戻せって言われてはいそうですかって戻すかよ。バカじゃねーの?」

目の前が真っ赤になる。

だが、俺の体は俺の意思に反して動いてくれない。

「もうすぐ衛兵が来るな。じゃあ、お前にはそろそろ退場してもらおうか」

ユーゴーが剣を構える。

「させません!」

そこに、エルフの小さな体が割り込む。

ユーゴーの体に風の衝撃波が当たり、吹き飛ばす。

「オォーカァァー!!」

「逃げますよ!」

怨嗟の声を上げるユーゴーを無視し、先生は駆け出す。

俺の体を、誰かが担ぎ上げる。

「ハイリンスさん」

「俺も訳がわからなくて混乱している。だが、今は生き延びる事を考えろ!」

俺を担いで走り出したハイリンスさんに言われ、俺は自分の傷に治療魔法をかける。

迫る衛兵を先生の魔法が吹き飛ばす。

あちこちで兵士同士が争っている姿が見られた。

「一体、何がどうなって?」

「反乱です」

「反乱?」

「はい。主犯はサイリス第一王子とユーゴーくん。ですが、その罪をシュンくんに擦り付けて、あたかも自分たちが反乱を鎮めたということにするつもりなんです」

先生の説明に血の気が引く。

「今戦っているのはレストンくんの部隊です。彼が時間を作ってくれている間に逃げます」

そして、俺たちは城から脱出した。

城から脱出して向かったのは、一件の家だった。

「ここでレストンと落ち会う予定です。その後、この国を出奔します」

「待ってくれ先生!ユーゴー、あいつをどうにかしないとスーが!」

「ダメです」

「先生。今あいつをどうにかできればこの騒ぎも落ち着くはずだ。さっきは不覚を取ったけど、傷も治ったし、城に戻ってあいつを捕まえれば」

「ダメです」

「先生!」

「教会が新勇者を発表しました。その名前は、ユーゴー・バン・レングザンド」

「は?」

「この件、教会すらもグルなんですよ」

俺は思わずよろけていた。

ハイリンスさんに肩を支えられる。

「どうして教会までこんな馬鹿げたことに加担しているのか、エルフ殿は心当たりはあるか?」

「おそらく、ユーゴーくんの洗脳が教会内部にまで浸透していると考えるのが妥当でしょう」

「バカな。洗脳の類は一瞬で効果が切れる。こんな事態を引き起こすほどの効果はないはずだ」

「はい。普通ならそうですが、例外があります」

「例外?」

「最上位スキル七大罪シリーズ『色欲』です。このスキルの洗脳効果は、他のスキルの比ではありません。ユーゴーくんは、このスキルを持っていると見て間違いないでしょう」

七大罪シリーズ?

そんなスキルがあったのか。

俺が確認したスキルの中に、そんなものはなかった。

つまり、10万のスキルポイントでも取得できないような、異常なスキルってことか。

「とにかく、どこまでユーゴーくんの手が伸びているかわかりません。この国はもうダメだと思ったほうがいいでしょう」

「そんな…」

俺が絶句しているところに、レストン兄様と懐かしい顔が揃って家に入ってきた。

「シュン、無事だったか?」

「殿下、お久しぶりです」

「立派になられましたね、殿下」

レストン兄様と一緒に入ってきたのは、かつて俺とスーの侍女として働いていたアナとクレベアだった。

エルフの血が混じっているため、未だに若い姿を保つアナに比べ、クレベアはだいぶ老けたように見える。

それなのに、俺の窮地にこうして駆けつけてくれたようだ。

けど、俺は、絶望した。

「アナ、お前もか」

「はい?」

「お前も、ユーゴーの手駒か!」

鑑定されたアナのステータスには、はっきりと『催眠』『洗脳』『魅了』の文字があった。

俺が叫ぶのと同時、アナの目が据わる。

高速で構築される魔法。

俺はそれを遮り、手刀でアナを昏倒させる。

さらに、治療魔法で状態異常の解除を試す。

が、アナのステータスから状態異常を表す文字が消えることはなかった。

「クソッ!まさかアナまで!」

レストン兄様が悔しげに拳を握る。

「まずい。囲まれている」

ハイリンスさんの言葉に家の外を見てみれば、数多くの兵士が家を取り囲んでいた。

「強行突破しましょう」

先生の言葉に頷く一同。

「シュン、俺の剣を使え」

レストン兄様から剣を渡される。

「これは?」

「王家伝来の神剣だ。戦闘は専門外の俺が使うより、勇者であるシュンが使ったほうがいいだろう」

「わかりました。ありがとうございます」

ハイリンスさんを先頭に、包囲に突っ込んでいく。

それと同時に、隠れていたレストン兄様の部隊が奇襲を仕掛ける。

「今だ!」

包囲を突破する。

けど、その先にも別の部隊がいた。

そして、それを率いているのは、

「シュン。往生際が悪いですわよ」

「カティア…」

前世からの親友が、俺の前に立ちはだかった。

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「ユーゴー、貴様わざと逃がしたな?」

「なんのことかな?」

「惚けるな!奴が生きていたら、どんな不都合が出るかわからんのだぞ!」

「知るかよ」

「貴様!」

「オメー、何勘違いしてんだ?」

「何?」

「オメーも所詮駒の一つなんだよ。何偉そうに俺に指図くれちゃってるわけ?」

「何だと!?」

「別にオメーなんかいつでも殺しちゃっていいわけよ。そこらへん、理解しとけや」

「お、前」

「こんな程度で済ませて、俺の気が済むわけねーだろ。あいつらにはもっともっと苦しんでもらわなきゃな」