軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【21】お小さい方々

見習い代表にエラ、その補佐にレンが決まってから、ティア達は夕食の後の自由時間を利用して作戦会議をするようになった。

一人で戦うと意気込んでいるロスヴィータも、この会議には参加していた。

『ロスヴィータちゃんが一人で戦うにしろ、皆と戦うにしろ、情報は共有したほうが良いと思うんです』

というエラの説得に、ロスヴィータも思うところがあったらしい。

そのやりとりを聞いたレンは、「やっぱりエラを代表にしたのは正解だったな」としみじみ頷いていた。

作戦会議は共通授業の教室で行われる。

何回かすると慣れてきたもので、それぞれ椅子を動かして円形になるように座り、全員が揃ったところで、エラが話を切り出した。

「それでは、今日も情報共有を始めましょう」

現時点では魔法戦の日時、場所、時間、対戦相手のことは、ある程度分かっている。

その上で、追加の情報がある者は報告をして全員で共有するのが最初の流れだ。

今日は追加の情報はなかったので、続いて今日の各々の活動の報告。

ティアの場合、「空を飛ぶ練習をオリヴァーさんとしたよ! 楽しかった!」である。

中にはユリウスのように「ククッ、蔵書室で本を読んでいただけだ」で済ませる者もいるが、それでもこの報告は大事だ、とレンが言っていた。

『それぞれ何ができるようになったか共有しとかないと、作戦が立てられないだろ』

とのことである。

これは、ハルピュイアであるティアにはなかった発想だ。

(だって、誰がどんなお歌を歌えるかなんて、気にしないし……その時の気分でなんとなく歌うし)

そもそも作戦会議自体が、ティアには割と新鮮だ。

授業とは違う、見習いだけの作戦会議。なんだかワクワクするのは何故だろう。

十二人全員の報告が終わったところで、エラがユリウスに言った。

「えぇとですね、戦力の確認にあたって、ユリウス君」

「くくっ、言いたいことは分かる。俺の契約精霊だろう」

「はい。ユリウス君は上位精霊と契約していると聞きました。精霊の力は魔力を帯びているので、魔法戦でも有効のはずです」

そういえば、そんな話もあったなぁ、とティアは思い出す。

確かここに来たばかりの頃、食堂でユリウスとロスヴィータが揉めていたのだ。

精霊を使うのは良くないとか、どうとか。

案の定、エラの発言にロスヴィータがピクリと眉を動かした。だが、今は腕組みをしたままギュッと唇を曲げて黙っている。

エラが言葉を続けた。

「ユリウス君の契約精霊について、教えてもらえませんか?」

「ククッ、クックックッ……」

「クックックッ、クルルックー!」

クツクツと笑うユリウスに鳴き声を重ねたら、真顔で凝視された。

エラが「今は駄目ですよ」とやんわり言ったので、ティアは口を両手で塞ぐ。

精霊とは、言うなれば魔力の塊のような生き物だ。魔法生物ではあるが、深淵から生まれた魔物とは違う。

下位、中位、上位に分かれていて、上位精霊は上位種の魔物に匹敵するほど力が強い。また、人や動物の姿をとり、意思疎通もできる。

魔物と精霊は、基本的に友好関係とは言い難い。精霊は魔力の塊なので、精霊を食べて魔力を補充することで延命しようとする魔物が多いからだ。

ただ、ハルピュイアが歌を捧げて風の精霊に力を借りるように、共存関係になることもあるにはある。

(ユリウスの契約精霊は、どんな精霊なんだろ)

ユリウスはいつもつけている指輪に、指先で触れた。

その指輪にはめられた赤い宝石に、精霊が宿っているらしい。

「……確かに俺は上位精霊と契約している。炎霊だ。だが、魔法戦で使うつもりはない」

「理由を訊いてもいいですか?」

エラの質問に、ユリウスは暗く笑った。

「ククッ……手の内を明かす趣味はない」

「えぇ〜、そろそろお手伝いさせてくださいよー、 ユリウス坊ちゃん(、、、、、、、、) 」

どこからともなく響いた声に、教室がシン……と静まりかえる。

ユリウスが口元に手を当てて笑った。

「ククッ、クックックッ……」

「いや、お前、笑って誤魔化せると思うなよ。『今のは腹話術だ』とか言わないだろうな?」

レンが早口で突っ込むと、またどこからか声がした。

陽気な女の声だ。

「腹話術! 知ってますよ、わたし知ってます! お口を動かさずに喋るやつです! 坊ちゃんが腹話術! 坊ちゃんが腹話術!」

「………………アグニオール」

ユリウスがボソリと口にした名前は、おそらくたしなめるためのものだったのだろう。

だが、女の声が、嬉しげに弾んだ。

「あっ、わたしを呼びましたね? 呼びましたね、ユリウス坊ちゃん!」

ユリウスの手元の指輪がピカピカと赤く輝く。

その光が指輪からポロポロとこぼれ落ち、大きく膨れ上がって人の形となった──ただし、大きい。

「ジャジャーン! 呼ばれたから飛び出ました! 炎霊アグニオールです! 初めまして、お小さい方々!」

光が消えると、そこから真紅の髪を持つ若い娘が現れた。年齢は二十代半ばぐらいだろうか。肉感的な体に、毛皮をたっぷりとあしらった服を着ている。

お小さい方々、という発言も納得の大柄な女だ。

見習い魔術師の女性で一番背が高いのがセビルだが、それよりも更に高い。ローズ以上、オリヴァー未満ぐらいだ。

真紅の髪の女──炎霊アグニオールは、椅子に座るユリウスを背後からギュムギュムと抱きしめ、頭に顎をのせる。

「呼ばれたら飛び出るものですよね! わたし知ってるんですよ! えっへん! さぁ、どうぞ褒めていいですよ、ユリウス坊ちゃん!」

「………………」

いよいよユリウスから、笑いが消えた。無表情だ。

誰もがポカンとしている中、エラがぎこちなく挨拶をした。

「えぇと、アグニオールさん。はじめまして、私はエラ・フランクと申しま……」

「知ってますよ! 知ってますよ! エラ! こっちがロスヴィータちゃん、ルキエ、ゾフィー、ティア、セビル」

「ちょっと、なんでアタシだけ、ちゃんづけ……!?」

ロスヴィータの文句をよそに、アグニオールは実に楽しそうな態度で、一人一人を指差して名前を呼んでいく。

「こっちが、オリヴァー、ローズ、ゲラルト、レン……あっ、あなたがユリウス坊ちゃんと同室のフィンですね!」

アグニオールはドスドスと革のブーツを鳴らして、フィンに詰め寄る。体が大きいだけでなく、動きもいちいち大きいのだ。

同じ長身でも、オリヴァーの移動よりずっとうるさい。

「うちのユリウス坊ちゃんが、いつもお世話になってます!」

アグニオールはフィンに突撃し、ギュムギュムと抱きしめると、キャアキャアとはしゃいだ声をあげた。

「小さい! 可愛い! 小さい!」

「ひぃぃぃ、ユリウス〜〜〜〜〜!」

アグニオールの下で、フィンが悲鳴をあげる。

フィンはこの中で一番小柄なので、体の大きなアグニオールに抱き締められると、すっぽり隠れてしまうのだ。

その光景に、ローズがモジャモジャヒゲを弄りながら、どこか楽しげに言った。

「そういえば、上位精霊って人間以外の姿にもなれるんだろ? 動物にもなれるのかい?」

「見たいんですか? 見たいんですね? いいですよ、いいですよ!」

「やった! モフモフしてるのがいいなぁ」

「はい、モフモフですよ! 存分にモフモフしてください!」

おそらくローズは、アグニオールが動物の姿になれば、この状況が少しは収束すると思ったのだろう。

だがティアは、それ絶対悪手だと思った。ハルピュイアの勘は当たっていた。

真紅の髪を持つ女の姿が光に包まれ、変形する。

──太い四つ足に真紅のたてがみの、巨大な獅子に。

巨体の女性に抱きつかれているフィンの図が、巨大な獅子に押し倒されているフィンの図になった。

傍目には、子どもが襲われているようにしか見えない。

「さぁ、お小さい方、存分にモフモフしてください!」

「わぁぁぁん、助けてぇぇぇぇ……!」

巨大な獅子にじゃれつかれ、フィンが悲鳴をあげる。いよいよ可哀想だ。

そんな中、レンがボソリと言う。

「……赤い獅子……かっけー」

「だよな? カッコイイよな!」

レンの呟きに、ローズが満面の笑みで同意する。

真紅の獅子が、ユラリと頭を持ち上げた。

「今、カッコイイと言いましたね? 褒めましたね? そうでしょう、そうでしょう、もっと褒めていいですよー!」

そう言って真紅の獅子はレンとローズを押し倒し、二人はギャァッと悲鳴をあげた。