軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【3】ワクワク魔力量測定

見習い魔術師達の指導員の一人ゾンバルトは、年齢は二十代半ば、整った容姿の金髪の男である。

いつも爽やかに微笑んでいる彼は、今日も白い歯をキラリと輝かせて、見習い魔術師達に言った。

「はい! それじゃあ今日は魔力量測定をします! 本当は入門直後にやるべきなんですけど、ちょっと計測器が故障してて直ったのが最近なんで、仕方ないですね! ハハハ!」

何も面白くないのに、ゾンバルトは何故か爽やかに笑っていた。

ヒュッター先生とは別の意味で胡散臭い男だよな、とレンは思っている。

〈楔の塔〉の見習い魔術師達は、午前中は全員が同じ教室で共通授業を受けて、午後は個別教室でそれぞれに合った魔術の勉強をする。

今は午前の共通授業の時間で、教室にはレンを含めて十二名の生徒が、各教室ごとに三人ずつまとまって、長机の前に着席していた。

ゾンバルトは教卓の上に、大きな丸い水晶に台座を取り付けたような道具を置く。

台座には目盛りがついていて、〇から二五〇の数字が振られていた。

「これが魔力量測定器です。試しに誰か一人、やってみましょうか……じゃあ、はい! 今、目があったエラ君!」

「ひゃっ、はい……っ」

指名されたエラは、砂色の髪を三つ編みにした十代後半の娘だ。いつも灰色のローブを着て、眼鏡をかけていて、大人しい優等生という雰囲気がある。

エラが前に進み出ると、ゾンバルトが笑顔で言った。

「君はリーデングラン魔法技術大学附属校出身だから、こういう機器には慣れっこでしょう?」

「あ、はい、そうですね……」

エラはぎこちなく笑い、視線を足下に落とした。

レンは少しだけ驚く。リーデングラン魔法技術大学、というのはこの帝国における魔法研究機関最高峰の一つである。そこの附属校出身ということは、それだけで優秀な魔術師の卵だ。

おそらく彼女が着ている灰色のローブも、その附属校時代の物なのだろう。

「じゃあ、失礼します……」

エラは控えめにそう言って、水晶玉に手を当てる。

ゾンバルトがうんうん頷きながら、言った。

「おやぁ、なかなか計測が始まらないなぁ。エラ君、もうちょっと魔力を込めてみて」

「は、はいっ、すみませんすみません……っ」

エラはギュッと目を瞑って、唇を引き結んだ。その顔は真っ赤だ。

レンは密かに焦った。

(あれ、魔力を込めるのって、もしかして難しいのか?)

レンは昨日、セビルの魔導具のブローチを借りて使用している。

あれは、ちょっと意識をするだけで簡単に魔力を込めることができたが、あの計測器は違うのだろうか?

レンは魔術に関することは完全に素人なので、その辺りがよく分からないのだ。

もし、自分が上手くできなかったらどうしよう……と密かに焦っていると、エラの手元の水晶玉が輝きだした。

色は青、目盛りの数字は一二八だ。

ゾンバルトが「はい、注目!」と声をあげた。

「水晶玉が青く光ったら水属性。目盛りの数字は最大魔力量を示しています!」

レンはふと気になり、挙手して訊ねた。

「先生、それ、魔力消費してても、最大魔力量分かんの?」

「はい! 大丈夫ですよ!」

ゾンバルトの朗らかな肯定に、レンはしばし閉口した。

早速、前の席の方から計測が始まる。レンは机から身を乗り出し、列を挟んで反対側のオリヴァーに小声で話しかけた。

「オリヴァーさん、朝の訓練控えた意味なくね?」

「良いのだ。最高の状態で魔力量測定に挑めるのなら、俺に不服はない」

「あ、そう……」

それよりも問題はティアだ。魔力を消費しても測定に影響が出ないなら、いよいよどう誤魔化したものか……とレンは密かに考えていたのだが、全くの懸念だった。

むしろレンは、ティアのことを気にしている場合ではなかったのだ。

☆魔力量測定 見習い十二名

【レーム教室】

ロスヴィータ・オーレンドルフ(水:232)

エラ・フランク(水:128)

ゾフィー・シュヴァルツェンベルク(闇:152)

【ゾンバルト教室】

ユリウス・レーヴェニヒ(火:193)

ジョン・ローズ(土:100)

オリヴァー・ランゲ(風:132)

【アルムスター教室】

ルキエ・ゾルゲ(雷:68)

フィン・ノール(土:88)

ゲラルト・アンカー(土:55)

【ヒュッター教室】

アデルハイト・セビル・ラメア・クレヴィング(氷:110)

レン・バイヤー(雷:36)

ティア・フォーゲル(風:96)

更にゾンバルトは、「これが魔術師組合での、大体の目安ですよ」と言って、こう書き加えた。

上級魔術師 130以上

中級魔術師 100〜129

下級魔術師 50〜99

一般人 49以下

「〈楔の塔〉では魔術師組合のような、上級、中級、下級といった区分はありませんが、こう書くと分かりやすいでしょう? ちなみに、何故〈楔の塔〉で、こういった階級がないのかというと、扱う魔術が幅広すぎて審査のしようがないからで……」

レンは愕然とした。見習い魔術師の中で、最も魔力量が少ないのが自分だったのだ。

しかも、二番目に少ないルームメイトのゲラルトですら、一応下級魔術師の区分に滑り込んでいる。

レンだけが一般人なのだ。

見習いだと頭一つ抜きん出ているのが、とんがり帽子のロスヴィータだ。続いて、蛇っぽいユリウス。

この二人は既に、中〜上級相当の魔術の腕前なのだという。

異質なのは、唯一属性で「闇」と判定されたゾフィーだ。

ティアが無邪気に、前の席のゾフィーに話しかけた。

「ゾフィーの闇属性って、なぁに?」

「うひぃ……えーと……うちの家は、ちょっと特殊な家系なんだよぅ……ほら、呪術師だからさぁ……」

「ピヨッ、そうなんだ?」

「うぅ、悪目立ちするより、みんなと同じ感じのが良かった……『わぁ、同じ属性じゃん〜』みたいな会話がしたかったよぅ……」

いつもならこの手の雑談にまざるレンだが、今は黙って俯いていた。

(オレだけ、魔力量が一般人級……出遅れてる……)

レンは密かに落ち込む。

計測器の目盛りを振り切る魔力量を叩きだして、「オレに隠れた才能が!」みたいな展開は流石にできすぎだけれど、それでも、下級相当ぐらいはあるものだと思っていたのだ。

(いや、やっぱ、オレだけぶっちぎりですごくて、流石奇跡の美少年って言われたかった……)

「腐るな、レン」

隣の席のセビルが泰然とした態度で言う。

レンは黒板に記されたセビルの魔力量を確認した。

氷属性。魔力量一一〇。裏切りだ。

レンは頬杖をついて、横目でセビルを睨む。

「魔術は素人なんじゃなかったのかよ……実は隠れて訓練受けてたのかよ……」

「違う。これは家系的なものだ。昔は貴族が魔術に関する技術を独占していたからな。故に貴族や魔術師の名家は、魔力量の多い人間が生まれやすいのだ」

そういえば、セビルは皇妹殿下なのだった。

黒板に記された、やたらと長いゴージャスな名前を眺めて、レンはため息をつく。

「だが、レンよ。忘れていないか? 魔力量は十代が成長のピーク。多少の個人差はあるが、成人すると魔力量の成長は、ほぼ止まるのだ」

「あ」

そういえば、セビルは二十歳なのだった。

普段、あまりそういうことを意識しないから忘れていた。セビルに成人らしい思慮が足りないのが原因だ。反省してほしい。

「だから、私と……あとは、ローズとオリヴァーは、もう殆ど伸びない。エラとルキエもそろそろ止まる頃だろうな」

見習い魔術師の中だと成人しているのが、赤毛でモジャモジャのローズ、自称〈赤き雨〉のオリヴァー、クーデターをやらかした皇妹殿下のセビル。

十代後半が眼鏡のエラと、職人気質のルキエ。

十代半ばがとんがり帽子のロスヴィータ、蛇っぽいユリウス、前髪の長いゲラルト、素性を隠したハルピュイアのティア。

そして比較的若い十代前半が、呪術師ゾフィー、小柄なフィン、そして美少年のレンなのだ。

つまり、レンには伸び代がある。

セビルがニヤリと笑った。

「腐っているより、わたくしをすぐに追い抜かす、ぐらい言ったらどうだ?」

「言ったな。見てろよ。魔力モリモリ美少年になって、見返してやる……ごめん、やっぱ今のなし」

「なんだ。発言を翻すのか?」

ムッとつまらなそうな顔をするセビルに、レンは極めて深刻な顔で言う。

「だって、モリモリは美少年っぽくないだろ!」

セビルが「アッハッハ!」と声をあげて笑ったものだから、レンまで指導員のゾンバルトに注意された。

ゾンバルトは注意をする時も、笑顔で歯が白くて爽やかで、なんだか注意されている気がしなかった。