軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【11】バラバラにならないために

ティアはペヴヴヴヴ……と不満の強い鳴き声を漏らす。

会議室での報告の後、ティア、レン、セビル、ルキエの見習い四人は、「この後のことが決まるまで、こちらの部屋で待機していてください」と集会所の一室に押し込められたのだ。

それっきり、誰も説明に来ない。

留守番をしていた見習い達に会いたいと言っても、大人達は「後で」の一点張りである。

(頭がグチャグチャしてきた……)

幸い、考えを整理する時間はあるらしい。ティアは机に突っ伏し、ペヴヴゥ、ペヴヴゥ……と鳴きながら考える。

(わたしが大嫌いなあいつ……フィーネは、オットーさんの娘で、〈楔の塔カリクレイア〉の契約者……今は、魔物達に捕まっている)

ティアはフィーネをどうしたいか、自分の心に問いかける。

──助けたいとは思わない。だけど、殺してやるとも思えない。

でもきっと、人間達はフィーネを助けようとするのだろう。とティアは理解していた。

人間達にとってフィーネは、古代魔導具の贄にされ、今は魔物に囚われた可哀想な女の子だからだ。

あのフィーネと言葉を交わしても、「可哀想」と思い続けていられるかは知らないが。

(フィンとレーム先生の裏切りは、レンが予想した通りだった…………あれっ?)

ふと思い出す。入門試験で、ティアはあの人狼の──フィンの前で、キャンディを口に含み、ハルピュイアの姿を見せているのだ。

(……そうだ。フィンは、わたしがハルピュイアだって知ってたんだ。多分、フィンの仲間のレーム先生も)

なのに、どうして接触してこなかったのだろう?

自分達と同じように、〈楔の塔〉に潜入している魔物の仲間だとは思わなかったのだろうか。

(んー、んー……なんで、自分以外の魔物がいるか分からなくて、判断に困ったから、とりあえず様子見をしてた……とか? でも、仲間に相談したりはしなかったのかな……)

そこまで考えて、気づく。

おそらく、フィンとレームは、他の魔物と連絡する手段を持っていなかったのではないだろうか?

魔物側の誰かが、「合図をしたら、〈楔の塔カリクレイア〉の契約者を奪え。それまでは潜伏していろ」と命じたのなら、納得がいく。

(でも、フィーネを奪う意味ってあるかな? 壁を消したいんなら、〈楔の塔カリクレイア〉の契約者であるフィーネを殺しちゃう方が簡単なのに……なんで、フィンはフィーネを連れ出したんだろう?)

魔物側にとって、フィーネには、少なくとも生かしておくだけの価値があったのだ。

それが何なのかが、ティアには分からない。

(……魔物達は魔物の王を中心に動いてる。なら、誰かが魔物の王を動かすために、フィーネを餌にした、とか……)

考えることを覚えたハルピュイアは、魔物と人の両方の視点で考える。

ただ、どうにも情報が足りない気がした。できれば、レンとセビルにも相談したいが、ここにはルキエがいるので、自分が魔物であることは伏せなくてはならない。

どう話したら良いだろう。とティアが考えていると、部屋の扉がノックされた。

待ちくたびれていたセビルが、鋭い声で「入れ」と命じる。

「み、皆さぁん……」

気弱な声で扉を開けたのは、大人達ではない。

眼鏡をかけた三つ編みの娘──見習い魔術師代表のエラ・フランクだった。

「ピロロロロ! エラだぁ!」

「お久しぶりです。みなさん、大きなお怪我はないようで安心しました……えぇと、オリヴァーさんは?」

室内を見回すエラに、レンが言う。

「オリヴァーさんは、ランゲの里に残ってる。元気だよ」

その言葉に、エラはホッとしたように胸を撫で下ろした。

先ほどまで苛立っていたセビルも、表情を緩めてエラに椅子を勧める。

「ようやく話の分かる者が来たな」

「えぇと、皆さんは、何をどこまで聞かされてますか?」

エラの質問に、あらかじめ情報共有を想定していたらしいルキエがハキハキと答える。

「〈楔の塔〉が魔物に占領されたこと。〈楔の塔〉は寿命を縮める古代魔導具で、その契約者はオットーさんの娘だったこと。フィンとレーム先生が裏切ったこと。大体これぐらいね」

「上層部は、どうやらわたくし達を除け者にしたいらしい。そのくせ、他の見習い達に会わせてくれぬので、苛立っていたのだ」

「なぁ、エラ。見習いのみんなはどうなってんだ?」

ルキエ、セビル、レンが一斉に喋っても、エラは狼狽えたりしなかった。

ここに来るまでに、ある程度腹を括ってきたのだろう。

「始まりは、ユリウス君が反逆罪で拘束されたことでした……」

彼女は椅子に座ると、堅い顔で話し始めた。

ユリウスの拘束。呪うことを強要されたゾフィー。そして二人を逃すための作戦のことを。

* * *

ユリウスが反逆罪で捕まり、ゾフィーはユリウスを呪うように強要された。

それを阻止し、二人を〈楔の塔〉の外へ逃がそうとした見習い達だったが、〈楔の塔〉上層部に阻止され、その最中に魔物の襲撃が始まった。敵と味方が入り乱れる、大混乱の状況だ。

そんな状況の中、〈原初の獣〉に襲われ、見逃されたエラは考えた。

(今はなんとか生き延びたけど、この後は……どうするのが正解?)

今のエラ達は、〈楔の塔〉の上層部に対する反逆者だ。おそらく上層部は見習い達を拘束しようとするだろう。

ならば、魔物の襲撃のどさくさに紛れて、〈楔の塔〉の外に潜伏するというのも手だ。

……だが、そうすると困ったことが幾つかある。

まず、〈楔の塔〉の情報が入ってこない。そして、遠征中のティア達との合流が困難になる。

また、〈楔の塔〉周辺に潜伏している最中に、魔物と遭遇する可能性もある。

だから、エラは腹を括って、こう提案したのだ。

「避難するにあたって……私から、提案があります」

ロスヴィータ、ゲラルト、ユリウスがエラを見る。

エラは苦渋に満ちた顔で言った。

「今夜の私、全然目立ってないですよね……」

「べ、別に目立ってなくても、エラはアタシの索敵中のフォローとか、色々やってくれたでしょ!」

「あ、えっと、違うんです、ロスヴィータちゃん。そういう話じゃなくて……」

フォローしてくれたロスヴィータに申し訳なく思いつつ、エラは告げる。

「今晩の作戦に、私が参加していたかどうか、大人達は判断できないと思います」

ここ最近のエラは手の手術の経過観察のため、授業を休むことも多かった。だから、見習い達と接触している時間が少ない。

なにより、手術を終えたばかりで、できることもないエラだからこそ、「ユリウスとゾフィーを逃そう作戦」から外された……と大人達に思わせることができる。

「皆さんは〈楔の塔〉を出たら、あえて抵抗せず捕まってください。私は……」

続きを言うのが嫌だな。と思った。

この提案は、エラだけが安全地帯にいることになってしまうからだ。

「……私は、宿舎の方から避難して、今夜の作戦に参加していなかった体を装います。そうして上層部の拘束から逃れて……ティアさん達の帰還を待ちます」

* * *

「すごく複雑な状況で、どうするのが正解かは分からなかったんですけど、一つだけ、思ったんです」

エラは膝の上で拳を握った。

「……みんなが、バラバラになるのは嫌だって」

そう吐露する声は、ハルピュイアであるティアでなくても分かるぐらい、苦しげに震えていた。

〈楔の塔〉を避難した魔術師達と共に行動していれば情報も集まる。何より、帰還したティア達と合流しやすい。

そう考えて、エラは情報収集をしながら、一人で待っていたのだ。ティア達が帰ってくるのを。

「皆さんが帰ってきたら、知恵を借りて……最悪の場合、セビルさんの威光に頼ろうと思ってました。ごめんなさい」

エラが、深々と頭を下げる。

セビルは身を乗り出し、エラの頭を撫でた。

「エラよ、よくぞ耐えてくれた。自分だけ安全な場所に残ることを提案するのは、勇気がいる。不安だっただろう」

ロスヴィータ達は軟禁状態で、どんな目に遭っているか分からない。

上層部が混乱状態で、見習い達の処遇を決める余裕がないから、今はまだ大丈夫かもしれない。だが、明日になったら? 明後日になったら? 自分の提案のせいで、皆が酷い目に遭ったら?

エラはずっと不安だったはずだ。

「ごめんなさい……わたし……みんなの役に立てなくて……できることが何もなくて……」

エラは両手で顔を覆った。眼鏡の下からポタポタと透明な雫が垂れる。

「せめて、みんながバラバラにならないようにするには、どうしたらいいかって、それだけで精一杯でっ……」

ティアはレンとルキエの手を掴んで、エラの元に駆け寄る。そうしてエラの体にピタッとくっついた。

エラが鼻を啜りながら、ティアを見る。

「……ティアさん?」

「エラがいっぱい頑張ってくれたから、わたし達、今一緒にいられるんだよ。バラバラじゃないよ」

レンが苦笑して「だな」と頷いた。

馴れ合いを嫌うルキエもエラの肩を叩き、「……待っててくれて、ありがと」とぶっきらぼうに言う。

エラは声をあげて泣きじゃくった。そこにセビルが声を上げる。

「わたくしもまぜろ!」

そう言ってセビルは、団子になっているティア達と一緒にエラの肩を抱いた。