軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【20】動力源

ダーウォック奪還作戦の準備期間である五日間、ティアは自分なりにできることを準備した。

歌詠魔術や新型飛行用魔導具の訓練をしたり、それとなく庭園を探って地下に繋がる道がないか探してみたり、大人達の会話に聞き耳を立てて情報収集をしたり。とにかく色々だ。

あの子──フィーネの居場所に繋がる地下室探しは、ユリウスに頼んである。

ユリウスはいつもの彼らしく、クックックと笑い、「頼まれなくても」と答えた。

それを聞いた炎霊アグニオールが、指輪の中から『でも、頼まれると嬉しいですね、ユリウス坊ちゃん!』と元気に口を挟んだが、ユリウスは黙殺した。

新型飛行用魔導具もギリギリで調整が終わり、ダーウォック遠征に持っていけることになった。

新型飛行用魔導具は跳躍用の短い羽と、飛行用の長い羽の二種類が搭載されている。手元のレバーで切り替えができる仕様だ。

使う時はまず、跳躍用の羽を起動して高く飛び上がり、そこから飛行用の羽に切り替える。

はじめの内は切り替えのタイミングが掴めなかったが、一日練習すればすぐできるようになった。オリヴァーとの合体飛行と違い、一人で飛び回れるのなら、できることは格段に増える。

飛行用魔導具の持続時間が短いという欠点は変わらないが、また一歩前進したという確かな手応えがあった。

出発日の前日は、見習い全員で空き教室に集まり、ちょっとした宴会をした。

ローズがハーブティーを淹れて、オリヴァーが料理を作って、ゲラルトがそれを手伝って、ゾフィーは「こんな日のために、とっておいたんだよぉ」ととっておきのお菓子を出してくれた。

あとはいつも通り、他愛もないことを喋るだけの時間だ。それでも、仲間達の「がんばれ」の気持ちが嬉しくて、ティアはいつもより沢山歌った。

* * *

帝国の北東に位置するダーウォックへは、馬車に乗って移動する。

大型の幌馬車は、財務室が外部機関へ商品を卸したりする時に使うもので、今回もカモフラージュのために魔導具を詰めた箱が積み込まれている。

用意された馬車は二台。

ティアと同じ馬車に乗っているのは、指導員のヒュッター、同じ見習い魔術師のレン、セビル、ルキエ、そして、守護室や討伐室の魔術師が数名だ。その中に、いつも世話になっている守護室のオットーの姿もある。全員、ローブは身につけていない。〈楔の塔〉の魔術師であることを隠すためだ。

イクセル王子は、もう一つの馬車の方に乗っていて、そちらには〈楔の塔〉の最大戦力であるメビウス首座塔主が同乗している。

メビウスはかつて、ティアの羽を切り落とした因縁の相手だ。

今のティアは髪色が違うとは言え、なるべく顔を合わせないようにした方が良い。故に、違う馬車になったのは幸運だった。

(それにしても、馬車ってすごく揺れるなぁ。これをずっと我慢するなんて、人間って大変)

馬車の中は長椅子が左右に固定されていて、そこに座る。中央に空いた空間は積荷置き場だ。

一番端の席に座るティアは、馬車の振動に合わせて喉を鳴らした。

「ピョフペッポッ、ピョフペッポッ」

隣に座るルキエが、呆れの滲む半眼でティアを見る。

「……それ、何の主張なの?」

「振動に合わせて、発声練習。こんなに揺れてちゃ、お歌、上手に歌えな……ピャウッ!?」

ガタン、と大きく馬車が揺れた拍子に舌を噛み、ティアは涙目で口を押さえる。

地上に生きる生き物とは、なんと不便なのか。こんなに苦労しないといけないなんて。

両手で口を押さえていたら、今度はバランスを崩して、椅子からコロンと転げ落ちそうになった。

口を押さえたり、腕を突っ張って体を支えたりと一人忙しいティアに、ルキエが言う。

「まぁ、この辺りは往来が少なくて、道の整備が充分ではないものね」

なるほど、道が平らに整えてあるほど、馬車の揺れは少なくなるのだ。

〈楔の塔〉周辺は辺境のド田舎である。整備が行き届いているはずもない。

また、馬車が大きくガタンと揺れた。再び転げ落ちそうになったティアの腕をセビルが横から掴む。

ちなみにセビルの反対の手はレンを掴んでいた。

お喋り大好き美少年のレンだが、今はとても静かだ。馬車酔いしているらしい。

「うぇぇ……振動、きっつ……おぇ」

「わたくしに言わせれば、この揺れはまだマシな方だぞ。この馬車、車輪に魔導具を使っているな?」

セビルの言葉にルキエが頷く。

「えぇ、振動を吸収する魔導具の車輪を使ってるわ」

青白い顔のレンは、「魔導具使っても、これかぁ……」と息も絶え絶えに呻いた。

ティアは馬車酔いこそしていないが、このままだと尻が痛くなりそうだなぁと思う。

ふと思いつき、ティアはルキエを見た。

「ねぇねぇ、ルキエ。わたしだけ飛行用魔導具で、先に飛んで行っちゃ駄目かな?」

「駄目に決まってるでしょ。飛行用魔導具は消費魔力が激しいんだから」

「ぺぺポー……」

ティアが唇を尖らせていると、セビルがふと思いついたような顔でルキエに訊ねた。

「ルキエ、飛行用魔導具には、魔力を溜め込んだ石を取り付けて、そこから魔力を使っているのだったな?」

「えぇ。現代魔導具の大半は、そういう仕様になってるわ」

「わたくしは常々思っていたのだが、使用者の魔力を吸って、動力源にするわけにはいかぬのか?」

その疑問は、以前ティアも考えたことだ。

ハルピュイアであるティアは、人間よりも遥かに魔力量が多い。

だから、その魔力を魔導具の動力源にすれば、長時間の飛行も可能なはずだ。

だが、使用者の魔力を使う案について、ルキエは明確に否を突きつけた。

「魔導具って、一般的な魔術より燃費が悪いのよ。魔術の消費魔力と比べて、魔導具はおよそ二倍から十倍……効果によってはそれ以上と言われているわ」

一般的に魔導具の威力があまり高くないのは、これが原因だ。

更に言うと、魔力を溜め込む石等の媒体は、基本的に使い捨てである。

セビルの曲刀に仕込んだ火竜の鱗のように、都度魔力を装填して再利用できる物は貴重なのだ。

「飛行魔術は、魔術師が詠唱して行使するにしても消費魔力が激しいの。バレットさんぐらい長距離飛行できる魔術師なんて、そうそういないわ」

飛行用魔導具は消費魔力が多い。

だから管理室のカペル室長は工夫を重ね、魔力を溜め込む媒体に、使い捨ての物と再利用できる物を併用することで、効率化を図っているらしい。

淡々と説明するルキエに、ぐったりしていたレンが力無く挙手をして訊ねた。

「そういうのってさぁ……魔力量が多いけど魔術使うのが下手な奴向けに、使用者の魔力で賄える魔導具とかってないの? 需要ありそうじゃん」

「使用者の魔力を吸う魔導具を作って……あんたみたいに魔力量の少ない奴が、うっかり触ったら危険でしょ」

確かにルキエの言う通りだ。

ティアみたいに魔力量に恵まれている者はいいが、そうでない者が魔導具に触れて、大量の魔力を吸われてしまったら、命に関わる。

故に現代魔導具は、起動時に使用者の魔力を少量使用するだけで、後は内蔵された魔力で動く仕組みになっているらしい。使用者の魔力を大量に吸う魔導具は、作ることを法律で禁止されているのだ。

レンは青白い顔のまま、少し考え込んでいた。そして、慎重な口調で訊ねた。

「一応、技術として、あることにはあるのか? ……魔導具で、使用者の魔力を使う方法」

もし、レンの言う方法が可能なら、飛行用魔導具をティアの魔力で動かせる。

それなら、使用時間が飛躍的に伸びるはずだ。首折り渓谷までだって飛べるかもしれない。

ティアとレンにジッと見つめられたルキエは、少し気まずそうにターバンを弄った。

「……〈楔の塔〉は自治領にあるから、グレーゾーンの魔法技術は見逃してもらえる。 だからこそ(、、、、、) 扱わない技術ってものがあるのよ。これもそう。魔導具職人なら、まず断るわ」

「つまり、そういう技術はあるんだな?」

レンの駄目押しに、ルキエは小さくため息をついた。

「……あるわよ。ただし、それは近代魔導具職人はやらない。やるとしたら、筆記魔術とか魔導書作りの分野」

ルキエの言葉の意味が分からず、ティアは「ピヨッ?」と首を左右に傾ける。

「ペフブブ……魔導具の話が、急に筆記魔術と魔導書になった? なんで?」

「筆記魔術は、近代魔導具の前身みたいなものでしょ。魔導書の中には、術者の魔力を消費して術を発動する物もあるし……技術としては、そっちが近いんじゃない?」

なるほどつまり、使用者の魔力を消費する魔導具を、魔導具職人は作らない。

魔導具職人は自分が作った物に対して責任が生じる。故にそういった技術は継承していないのだ──安全面を重要視しないカペル老人ならできるかもしれないが。

(それでも、魔導書作りの技術があれば、できるかもしれないんだ……)

全然別の技術に見えて、細かいところで繋がっている。つくづく、人間の「技術」というものは凄まじい、とティアは思う。

人間の技術の積み重ねには、ある種の執念めいた途轍もなく大きな力を感じる。

それが、人間の凄さでもあり、怖さでもあるのだ──と、ティアが感心していると、周囲を警戒していた魔術師の一人が、ヒュッターに声をかけた。

「ヒュッター指導員、少々よろしいですか……何者かが、この馬車を尾行しているようです」