軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第139話 婚約解消と烈風の魔法

僕ははっきり言ってシズカが好きでは無い。では嫌いかと言うとそうでもない。

苦手意識があるだけだ。

いないものとして扱われる、無視される、侮蔑の言葉をかけられる。

どれが一番辛いだろう。

僕の経験ではいるのにいないものとして扱われるのが一番辛かった。

無視とは違う。無視はいる事を認識しながら、いないものとする事である。無視する側にもある程度の緊張感が出る。

いないものとして扱われるとは無視の上の段階。本当に空気のようになる。道端の雑草だ。僕がいるのに認識がされていない。

それなら侮蔑の言葉をかける事は?

いる事を認識してくれて、こちらに働きかける行為だ。

シズカに侮蔑の言葉をかけられながらも、救われていた自分がいた。思えばひどい環境だ。

シズカの特徴は好奇心旺盛な事だ。興味がある事に近づくと、シズカが納得するまで離してくれない。

大いなる好奇心の為せる 業(わざ) だ。

またシズカの完全なる実力主義者の考えは力の無いものには堪える。

行き過ぎると選民思想にも繋がりかねない。

魔法が使えない平民だって楽しく生きている。それは有意義な人生だと思う。

それを否定しかねない考えに僕は賛同できない。

ここは相容れない考えと思っているが、そんな考えの大人はごろごろいる。

血筋だけで威張る奴より完全なる実力主義者のほうがマシである。

自己中心的な行動や考えも、強すぎる好奇心と他人への感受性が低いからなんだろう。

シズカはこちらが理を話せば考えることはしてくれる。

簡単にいえば僕にとってのシズカは、貴族にしてはマシであり、それなりに聞く耳を持っていると言う事である。

ただ、ガンギの婚約者のため、仲良くするとガンギの怒りがこちらに向くと言う事だろう。

それがシズカと距離を取りたい理由である。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

現在、普通の学生生活を続けている。

変わった事といえば、最近のヴィア主任の興味はダンジョンでのレベルアップについてであった。

自ら実験体となり、データを集めている。

当然、サイドさんも実験体としてダンジョンに行きモンスター討伐を実質している。Dランクモンスターのオーガばかり倒しているそうだ。

僕とミカはダンジョンで蒼炎を撃っている。

今度行われるダンジョン外の実験では、晩年のソフィア・ウォレールが作った魔法と蒼炎を同時に使うことが予定されていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

明日が休みの10月12日【白の日】。

今日もシズカはおとなしかった。こちらの調子が狂ってくる。シズカは唯一僕に声をかけてくれるクラスメイトだ。

明日は休みだから誘ってみるか。

「シズカさん、明日は用事ある?」

「特に無いわね。今はお父様がどういう対応を取るのか気が気でないの。沙汰を待つ罪人の心境よ」

「ならさ、気分転換に明日ミカとダンジョン行かない? シズカも魔法をぶっ放してストレス解消しようよ」

「アキさん、ありがとうね。でも今回は遠慮しておくわ」

僕のダンジョンのお誘いを断るほどとは……。

早く落ち着けば良いなと思った。

ミカと冬の長期休みをどうするか話し合っていた。

西のカッターに行こうかと話が出ている。エルフ排斥運動がどの程度かも見てみたい。

ヴィア主任はお留守番だね。

ミカがとても明るくなった。僕に対しての怯えが完全に無くなっている。

そのミカの怯えが僕がイラついていた原因だろう。このままの関係が続くと良いな。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

10月19日【無の日】

日中はミカと2人でセンタールの街に繰り出した。

僕は久しぶりにミカを着せ替え人形にして楽しむ。目の保養になるね。

服を5着ほど購入し、帰宅した。

不在中に来客があったそうだ。

来客者はシンギ・ファイアールとベルク・ファイアード。

僕の父親とシズカの父親である。

滞在しているのは僕たちが入学試験の時に泊まった宿なので、できれば宿までご足労願いたいと伝言があった。

どう考えてもシズカの件と思いながらも宿に向かう。少しだけ気は重い。

宿の受付で自分の名前を伝えると部屋まで案内される。

案内された部屋には父親のシンギとシズカの父親のベルク・ファイアード、担任のシベリー、シズカの4人がいた。

公爵家の宗主とファイアード3人衆である。

僕は呼ばれた理由がわからないが入室して挨拶した。

「アキです。私が不在の時に自宅まで来られたようですが、何か御用でしょうか?」

シンギが満面の笑みで迎えてくれた。

「これはアキ殿、わざわざすいません。今回、少し立て込んでおりましてな。アキ殿に質問させていただきたい事がありまして」

質問? なんだろう?

「僕が分かる事ならお答えしますよ」

「現在、アキ殿はBランクダンジョンを2つ制覇なさっております。あと2つの制覇については何かしらの計画はございますでしょうか?」

計画か。行き当たりばったりだからな。

「今のところ、いつまでにと言う期限は区切っておりません。パーティのメンバーからは年齢もあるから注意してねと言われております。漠然とですが7〜8年程度までを目処にしてますけど」

続けてシンギが質問する。

「失礼ですが、Aランク冒険者になり、封印のダンジョンを制覇する事はどの程度の自信がございますか?」

「自信がどの程度と言われると困りますが、僕には制覇をするという意志があるだけです」

横からベルクが声を挟む。

「それは制覇する自信がないと言う事と思って良いですかな」

「ぼくは自信が有るとも無いとも言っていません。制覇をする意志があると言っているだけです」

僕の言葉にベルクが怒声を上げる。

「詭弁を弄すな! 自信が無いことを適当な言葉で誤魔化すな!」

「自信があればできるのですか? 自信がなければできないのですか? そんな事はありません。自信があってもできない事もあり、自信がなくともできる場合があります。成し遂げるか失敗するかを 別(わ) けるのは意志の力です」

僕はベルクからシンギに顔を向けて言葉を口にする。

「ですから先程、僕は制覇をする意志があると言ったのです」

ベルクはまた怒声を上げる。

「何を申しておる!」

シンギはベルクに手のひらを見せ、言葉を制する

「ベルクもう良い。アキ殿はこちらからの答えられない質問に誠意を持って答えてくれた。成し遂げるか失敗するかを 別(わ) けるのは意志の力か。なるほどそうかもしれんな」

シンギは言葉を噛み締めるように発した、

「なら、アキ殿の意志の力を信じ、心に希望を持ち続ける事が大事な事だな」

晴れやかな笑顔になる。

「ありがとう。これで吹っ切れたよ」

シンギは全員の顔を見渡してから話す。

「それではガンギ・ファイアールとシズカ・ファイアードの婚約は無かったものとする。以上だ」

僕のダンジョン制覇とガンギとシズカの婚約に関係があるのか?

なんでだろうと少し思ったが、もう僕には用事が無いようなので 辞(じ) させてもらった。

あとは勝手にやって欲しい。

ただシズカの願ったように婚約解消になりそうな事は良いことなのかもしれない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

その夜、夢を見た。蒼炎が人の形になって僕に話しかけてくる話だ。

とても楽しい会話をしたと思うのだが、起きると朝露のように消えて思い出せない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

次の日の学校でシズカはとても喜んでいた。昨日は、僕が現れるまでは結論が出ないまま罵り合いに発展していたそうだ。

それが僕が現れて質問に答えただけで、あれほど婚約破棄に慎重だったシンギ・ファイアールがあっさり婚約解消を認めてしまう。

僕はシズカからはお礼にデートしてあげると言われたが丁重にお断りさせていただいた。

【10月23日】

今日はダンジョン外で蒼炎の魔法と晩年のソフィア・ウォレールが作った魔法である烈風の併用実験である。

烈風の魔法は単体で使うとそよ風程度の風が吹くだけ。普通の火魔法と併用すると、強くなっていく風に火が消されてしまう。今のところ全く役に立たない魔法だ。

いつもダンジョン外で使用している場所に来た。ここも穴ボコが酷くなっている。

最初の蒼炎の一発目は烈風とは併用させない。どこまで蒼炎の炎が大きくなるかわからないからだ。

一発目の蒼炎の魔法を撃つ。相変わらず蒼炎は喜んでいる。僕はいつもの事ながら一緒に喜ぶ。いつでも楽しい感情になるのは良いもんだ。

念の為、もう一回蒼炎の魔法を撃ってから烈風との併用を試みる。

実験の用意ができた。

僕の横にはヴィア主任が並ぶ。タイミングを合わせて呪文の詠唱を始める。

【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】

【風は愛、火と 目合(まぐわ) い激しく狂え、烈風!】

蒼炎が的にぶつかり広がる時に蒼炎の周囲に風の流れが現れる。蒼炎を包むような風が、ドンドンと蒼炎と混じり合っていく。通常の蒼炎の半径は3メトルほどであるが5メトルほどに広がる。蒼炎の回転も速くなる。持続時間は1.5倍ほどになった。

確かに烈風は蒼炎のために開発された魔法である事が確認できた。

僕は魔法が消えたあとを見ながら晩年のソフィア・ウォレールの気持ちに思いを馳せていた。