軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§080 教官を探せ! 1/3 (thu)

「というわけなんですけど、どなたかいらっしゃいませんかね?」

「芳村さん。私のところは人材派遣センターではないのですが……」

電話の向こうで、某田中氏が困惑したように言った。

またぞろ、捕まえた誰かの引き渡しかと思って電話に出たのに、人を紹介してくれと言われたら困惑もするだろう。

「いえ、普通に募集すると、いろんな国の息のかかった方がいらっしゃるんじゃないかなぁと……」

「それはそうかもしれませんが……今すぐ即答はしかねます。後ほどご連絡させてください」

「わかりました。それではよろしくお願いします」

俺が電話を切ると、三好が呆れたように言った。

「先輩、図々しさに磨きがかかってきましたね。マチュピチュの恨みですか?」

「そりゃお前だけだろ」

俺は別に秘境に用はないぞ。ウユニ湖はちょっと行ってみたいけど。

「それで、先輩。次のオークションですけど、一体何を出品します?」

ああ、それもあったか。オーブ自体は結構溜まってる。

「今あるオーブは、こんなところだな」

--------

収納庫×1

超回復×4

水魔法×6

物理耐性×8

促成×1

危険察知×1

不死×1

生命探知×2

魔法耐性(1)×1

マイニング×5

地魔法×1

暗視×1

器用×1

--------

「結構溜まってますね」

「ゲノーモスの時以来使ってなかったからな。なにか使いたいのとかあるか?」

「今のところ特には。それぞれ鑑定して、結果をまとめておこうとは思いますけど」

「ああ、そうだな。それもあるか」

「今後の我が社の活動を考えると、超回復はキープしておきたいですよね」

「不慮の事故があるからな。一応ポーションも(1)なら結構溜まってるぞ」

「スケルトンのおかげですね。魔結晶は、ちょっと減ってきましたが」

「アルスルズの強化に使ってるもんなぁ……って、まだスケルトンで効果があるのか?」

「直接計る方法がないのでわかりませんけど。今度聞いておきます」

「だな。で、オークションは?」

「とりあえず、マイニングを2個くらい放出しましょう」

現在数多くのパーティが、よってたかって18層に挑んでいるはずだから、今のうちってことだろう。

「そうだな。後は……魔法や耐性や回復系は、支援物資として、ある程度の数をキープしておきたいしなぁ……」

「暇があったら、何かを狙って遠征しますか?」

「だな」

こうして自分自身に置き換えてみれば、軍産のオーブやアイテムが世の中に出まわらないわけがよくわかる。

「促成なんか、面白くないですか?」

三好がタブレットを指さしていった。

ゴブリンの12億分の1オーブだ。三好の鑑定のおかげでその効果も判明した。なんとSP2倍だ。

「取得SP2倍か? ただなぁ……」

SP2倍はなかなかのチートといえる。だがそのペナルティというか反作用というか、そこに大きな問題があるのだ。

「ステータス上限が60に制限されるってのはキツくないか?」

「先輩、今60もある人なんか、ほぼいませんよ」

うん。それは確かに。平均60ったら、SP360。使用50%なら720ってことだもんな。

それで何層まで行けるのかは謎だが。

「だから、結構使えると思いますよ、これ」

どのくらいの階層で苦しくなるのか、正確なところはわからない。しかし、当面は全然問題ないってことだ。その辺は注釈で記載しておけばいいか。

「あと1個は?」

そう言ったとき、呼び鈴が鳴った。

ぱたぱたとPCの元へ走った三好が、その画面をちらりと見て言った。

「先輩。サイモンさんです」

「は? 今頃18層で無双してるんじゃないの?」

「何かあったんですかね?」

三好が応答して、門のロックをはずすと、すぐに玄関のドアをノックする音が聞こえた。

『こんにちは、サイモンさん。今日はどうしたんです?』

『よう、ヨシムラ。アズサのところのブートキャンプって、俺らでも受けられるのか?』

いきなりそう切り出された俺は、軍人が民間の訓練を受けるなよと突っ込んだ。心の中で。

『……軍の訓練があるでしょ?』

『いや、興味があるだろ。なにか独自のノウハウもありそうだしな』

『ええ?』

そのままリビングへと案内すると、三好がコーヒーを用意していた。

『良い豆だな。アズサの趣味か?』

『です。芳村はジャパニーズティー派なんです。それで、ブートキャンプの申し込みだそうですが?』

『まあな。俺達もエバンスでの29層から先は結構やばかったんだ。なにか底上げできる方法があるんなら、藁にもすがりたいってところなのさ』

確かに彼らなら、たっぷりとSPが溜まっているだろう。

だから、強化すること自体は簡単なのだが……面倒も多そうなんだよな。

『あの……うちのキャンプを受講すると、代々木攻略に力を貸す義務が生じるって縛りがあるんですけど』

俺は控えめに、だから無理ですよね? とお断りの電波を発してみた。

『いいぜ。今は特に急ぎの命令もないしな』

しかし、サイモンの受信機はどうやら壊れていたようだ。

『そんな簡単に言っちゃっていいんですか? USのダンジョン資源を掘り起こすとか、あるんじゃないですか?』

『そっちはダンジョン省の管轄だな。DADはもともとThe RINGの救出用に組織された経緯があるから、攻略主体なんだよ』

The RING。

それは米国の大型加速器実験場に発生した、おそらく世界一有名なダンジョンだ。

実験中にそれが発生したことで、稼働中の加速器が破壊され、あわや原発を巻き込んだ大惨事になりかかったらしい。

そのせいかどうかはわからないが、発生したダンジョンは加速器に沿ってリング状の構造をしていた。それで、後に The RING と呼ばれるようになったそうだ。

代々木ダンジョンも、発生時に千代田線を切断して惨事になりかかったが、世界で最も大きな事故が発生したのは、The RINGだろう。

進退窮まった俺は、目で三好にパスを送った。なんとかしてくれ、三好!

彼女は力強く、任せておけと目で応えてきた。頼んだぞ!

『じゃあ、サイモンさん。代わりと言っては何ですけど、鬼教官を紹介してくれません?』

「は?」

俺はサイモンが返事をするよりも早く、思わず日本語で反応した。三好~! おま、何を言い出すんだよ!!

それに気がついたサイモンが苦笑しながら言った。

『鬼教官だと? ヨシムラかアズサが教えてくれるんじゃないのか?』

『私たちが、シングル相手に模擬戦なんかしたら、一瞬であの世行きです』

冗談じゃないとばかりに、三好が肩をすくめた。

『現役でも退役でも構わないのですが、日本語が話せるグッドな人材はいませんかね?』

『ロナルド・リー・アーメイみたいなか?』

『眉が良いですよね! 惜しい人を亡くしました……』

ハートマン軍曹以来、ひたすら軍曹役をやった彼は、今年の4月の中頃亡くなった。それを最初に知らされるのが twitter だというところが、今という時代を象徴している。

『 役所(やくどころ) ほど突き抜けて貰っても困るんですけど、厳しい感じの人が良いんです』

サイモンは、腕を組んで少し考えていたが、何かを思いついたかのように腕をほどくと、薄気味悪くなるくらい良い笑顔でこう言った。

『丁度いいヤツがいる。出身も海兵隊のサージェントだぞ』

『え、現役のですか?』

『今の所属はしらん。最初はそこからDADに出向させられたはずだ』

『ならDAD内でチームを持ってるんじゃ? 引き抜いたりしたら恨まれませんか?』

『そこは大丈夫だ。なにしろ世界で一番怪しいパーティに堂々とスパイを送り込めるんだぜ? 上のほうだって泣いて喜ぶに決まってる』

『あのね……』

『冗談はともかく、そいつはうちのバックアップだから、特定のチームに所属してないんだ。適任さ!』

チームサイモンのバックアップったら、トップエクスプローラーの一角じゃん!

あと、スパイは絶対冗談じゃないよな……

『DADってよそから給料を貰ってもいいんですか?』

『ああ、報酬か。そりゃ出るよな。ううーん、どうかな……まあ、教官やってる間、非常勤扱いにしときゃだいじょうぶだろ』

そんな、いい加減な……それ、その人のキャリア的に大丈夫なのかよ。合衆国の偉い人から怒られるのはイヤだよ、ほんとに。

『わかりました。その話がまとまったら、ブートキャンプの最初のメンバーにサイモンさんを入れておきます』

『いや、うちのメンバー全員でお願いしたいんだが』

『ええ? 主要メンバーは4人でしたっけ? それに教官までDAD関係じゃ、もう自分のところで訓練するのと変わらないんじゃ……』

『だが、プログラムは、そっちで作るんだろう?』

うーんと、悩む俺に三好がけしかけてきた。

「先輩、先輩。教官が決まってないから、まだ誰も募集していませんし。最初の受講者が世界のトップチームなんて、宣伝効果はバッチリですよ!」

「おまえな……」

サイモンは、もう話がまとまったかのように、涼しい顔で、冷めかけたコーヒーを飲み干している。

『わかりました。その話、お引き受けします』

『よし、すぐにそいつに連絡を入れさせる。直接来させればいいのか?』

『連絡をいただければ、JDAの会議室で面接しますから、まずは連絡をするようにお伝え下さい』

三好がそう言って、自分のネームカードを渡した。

就労ビザとかどうするんだろうと、心配もしたが、向こうで良いようにやってくれると信じよう。

信じているぞ、サイモン! ……とても不安だ。

『いや、今日は実りのある話し合いが出来て良かった!』

そういって立ち上がったサイモンが、ふと思い出したように言った。

『そういや、イオリ達が4層分攻略して、25層に到達したそうだぜ? どうも、おたくらから仕入れた水魔法が活躍したみたいなことをニュースで言ってたが……もう少ししたら彼女たちも苦戦し始めるだろうから、そしたら顧客になるかもな』

へー、あの水魔法、チームIの人が使ってたのか。

『じゃあ、俺は18層に戻るから。またな!』

そうして、いきなりやってきたサイモンは、風のように去っていった。

「18層をすぐ近所みたいな感覚で出入りしてんのかよ……」

「トップの人達って、やっぱり凄いんですねー」

「だけど、三好。チームIが水魔法の宣伝をしてくれたようだぞ?」

「あと1個のオーブは決まりですね」

まあ、6個もあるから、1個くらいいいだろ。

応接のテーブルを片付けながら、三好が言った。

「だけど、どんな人が来るんでしょうね」

「あんまりピーキーなオッサンはイヤだな」

「サイモンさんが楽しそうにしてたから、人柄は良いんじゃないですか?」

いや、三好。あの笑顔は、面白いことになりそうだってサインだ。ただし、それはサイモンにとって、なところがミソだ。

「あいつらのバックアップなんだから、能力はあるんだろうが……ま、連絡を待つしかないだろ」

「ですね。というか、その前に、もっともらしいプログラムをでっち上げないと……」

「三好、その方面の知識って?」

「先輩と、どっこいどっこいだと思いますよ」

つまり、俺達はふたりとも、ドシロウトってことだ。

「いっそのこと一日中2層の外周をぐるぐる走らせるか」

「一周、31.4Kmですよ? いくらなんでもぐるぐるは無理なんじゃ……サイモンさん達なら平気かも知れませんが」

「じゃあ、とりあえず一周を全力だ」

「ふむふむ」

「それでな……例えばDEXを伸ばしたいというヤツには、縫い針を1000本くらい用意して、それに糸を通させるとかどうだ?」

「どうだって……それ、バカにされていると思われませんかね?」

「10本くらいならそう思われるかも知れないが、1000本クラスなら大丈夫だと思うんだよ。あまりに作業が単純過ぎて、そのうち思考ができなくなるはずだ。ザ・修行って感じ、しないか?」

「発想がブラックですよ、それ……っていうか、それ以前に実は何の効果もないとかバレたら殺されそうです」

「プログラムを真似されたら、ものすごく笑える状況が生まれるな!」

「先輩……」

「AGIなら死ぬほど反復横跳びさせて、ザ・ニンジャの修行を応用した、とかどうだ?」

「じゃあ、それの合間に、ヨガのポーズを取り入れましょう!」

「ダンジョン内で、そのパワーを体に吸収させる! とか言ってな。いや待て、ジャパンならゼンだろう、ゼン」

「先輩、先輩。青汁みたいなのを合間に補給させるというのはどうでしょう!」

「ナイスだ、三好。効果がありそうっぽい」

そうして俺達は、『恐怖の』ブートキャンプメニューを作り上げていった。

某田中氏へしたお願いは、すっかり忘却の彼方だった。