軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§162 金枝篇 閑話 2/14 (thu)

「いやー、あんなことが起こるんですねぇ……」

駅から自宅への道を歩きながら、三好が言った。

「事実は小説よりなんとかってやつだな」

「まったくです」

俺たちは、17時2分のつくばエクスプレスに飛び乗って、代々木八幡へと帰還した。

19時過ぎに約束があったので、長居をするわけには行かなかったのだ。

とりあえず、口頭で概要を告げた後、後で詳しいレポートを送りますと言って、そこを辞した。

概要を聞いた佐山さんは、特につくば市で起きている魔結晶の消滅事件の話を聞いて茫然としていた。

この件で忙殺されていて、TVも新聞も見ていなかったのだそうだ。

円環を巡る 理(ことわり) については、昨日やった実験で、すべての実を収穫すると、しばらくして花が咲き実が生りなおされることがすでに確認されていた。

収穫しないで放置したら、それが防げるのかどうか、これからやってみますとのことだった。

理を巡らせたり、木を再生させたりしなければ、これ以上の消滅事件は起こらないはずだと彼にアドバイスしておいた。

「予想もしない展開だったけどさ、悪いことばかりじゃないと思うんだ」

「良いことってなんです?」

「これで、魔結晶の研究方向が、がらりと変わるかもしれないだろ?」

「ああ、先輩が言っていた物性方面から研究するよりも、直接利用の研究をするべきなんじゃないかって、あれですか」

「まだ電気にする方法は思いつかないけどな」

「耳かきでろー、ですもんね」

三好がクスクス笑いながら、両手を鷲爪のような形にして、魔法使いの真似をした。

「うっせ」

「だけど、このことが公になったら、農研機構が魔結晶の弁済を迫られるんじゃないですかね?」

「そこは俺たちが考えることじゃないさ。それにれっきとした事故だし、ばれたって保険が利くんじゃないの?」

「そんな保険、ありますかね? あの壁は補償対象だと思いますけど」

まあ、状況証拠しかないからと、テキトーな話をしながら、ふたりで事務所へと入った。

「あ、お帰りなさい」

ドアを開けると、ダイニングから鳴瀬さんが立ちあがって、迎えてくれた。

もし遅くなっても構わないように、留守居をお願いしておいたのだ。

「どうもすみません。お仕事に関係ないことを頼んじゃって」

「いえ、私も逃げてきた口なので、丁度良かったというか……」

てへっという顔で、鳴瀬さんが舌を出した。

「逃げて?」

「ええ、実は――」

新しく回ってきたプロジェクトの出資の件で、振興課からレディキラーの雨宮さんを筆頭に人がやってきて、いろいろと引っ掻き回しているのだそうだ。

「そういうのって、振興課の仕事だったんじゃ?」

「まあそうなんですけど――」

うちの基金が飛んだ件で、あおりを受けたプロジェクトらしく、振興課としても無しにするわけにはいかず、苦渋の選択でダンジョン管理課に押し付けたようだった。

セーフエリアと受験対策の件で、ただでさえ忙しかったダンジョン管理課は、それの相手をするのにリソースを割かなければならなくなって、てんやわんやに拍車が掛かっているのだそうだ。

「いや、それで人員が一人逃げてきたら、余計にダメなんじゃ……」

「いいんですよ。あの人たち私がいると、余計に面倒なことを言い出すんですから。もう吉田課長なんか、ジメっとしながら、青筋立てちゃって……」

どうやら、鳴瀬さんがDパワーズの基金を止めさせたみたいなみたいな話にまで発展しているそうだ。完全に間違いとは言えないので笑えないのだが。

「お疲れ様です」

「ほんとにお疲れですよ。私も散々嫌味を言われちゃいましたから。出世できなくなったら責任取ってくださいね」

その話を聞いた三好が、早速突っ込んでいた。

「鳴瀬さんならいつでも、弊社でお迎えしますよー」

「……過労死しそうだからやめときます」

ちろりとこちらを視線を向けた鳴瀬さんは、小さくため息をついてそう言った。

「ええ?」

おかしい、ブラックからはもっとも遠い会社を目指しているはずなんだが。

それに――

「暴走気味の俺たちの手綱を握ってくれそうなんだけどなぁ」

「自覚があるなら、暴走しないでください」

「世間がそれを許してくれないんですよ」

「カッコつけてもだめです」

笑ってそういった彼女は、バッグから小さな包みを取り出した。

「というわけで、これをどうぞ」

「え? これって、もしかして?」

「最近、私が担当しているパーティのおかげで、大変忙しい目にあっている同僚の皆さんに差し入れしたついでですから」

「うっ……では遠慮なく」

俺はもらった包みのリボンをほどくと、袋の中身を確認した。

すると、そこには鮮やかな色のついた丸いチョコレートが、きれいに包装されて詰まっていた。

おお、本日2個目のチョコゲット!

「へー、懐かしいですね」

「アソート品で申し訳ありませんけど」

「とんでもない。マーブルは美しいお菓子ですよ。いわばチョコの芸術品ですね」

「さすがにそこまで言うと、パティシエの皆さんに怒られますよ」

「なんでも、水色に透明なメルヘンな世界なんだそうです」

とある飛行機の運転手が、昔そういっていたのを思い出して言った。

俺は、水色の粒を一つ摘まんで口に入れた。

北谷には、こういうイベントはなかったから、なんだかずいぶん久しぶりだ。たとえチロルとマーブルでも、なんだか気にかけてもらっているという気分になれて、そこはかとなくうれしいものだ。男ってのは単純なのだ。

「ああ、そういえば、もうひとつご報告が」

「いい話ですか?」

鳴瀬さんは「どうでしょう」と首を傾げた。しかしまあ、悪い話でもなさそうだ、いわゆる「どうでも」いい話ってやつだろうか。

「Dパワーズさんがやってらっしゃるブートキャンプの地上施設の反対側に、新しいブートキャンプのサービスが入居しました」

「へー」

「代々木ブートキャンプとか仰ってましたね」

「なんという二番煎じ感」

「先輩。ブートキャンプそのものが、パロディと言うか、二番煎じみたいなものですからね?」

ブートキャンプは、新兵のための厳格な規律に則った軍事訓練キャンプを意味するスラングで、一般名詞みたいなものだ。

ナップル社のソフトウェアにだって、名前としてつけられている。

「そういわれりゃ、確かにそうだな」

「考えても見てくださいよ。キャシーあたりが対抗して、元祖ブートキャンプとか、本家ブートキャンプとかの、のぼりを立てたらどう思います?」

「……死にたくなりそうだ」

「でしょ?」

絶対に許可するなよと、念を押しておいた。

こいつには、面白そうですねと、許可しちゃいそうなところがあるのだ。

「どうやら、スポーツ界周辺が業を煮やして立ち上げたようですね」

「業を煮やしてって、うちはもともと探索者のためのキャンプだと銘打ってますけど」

探索者でないスポーツ選手が応募しても、当選するはずがないのだ。

いろんなところから来る要望という名の圧力を、全スルーしていたら、こんな事態になっているとは。しかしこれって――

「効果あるんですかねぇ?」

と三好が首をひねっている。

ちゃんと探索をした場合、長期的にはステータスの上昇に伴う効果があるだろうが、探索じゃなく、スポーツの練習だけだというのなら、設備の整った地上でやったほうが効率がいいだろう。

「慣れないことをやって、記録を落とさなきゃいいけどな」

なにしろ来年にはオリンピックがあるのだ。

根拠なく、スポーツ科学から逸脱した練習方法にするのはどうかと思わないでもなかった。

「最近探索者からスポーツ選手に転職しようと考える方も多いみたいですよ」

先日放映された渋チーの記録会の映像を見て、もしかして自分もいけるんじゃないかと、非公認の記録会や部活なんかに参加する人も増えたのだとか。

たった数日しかたっていないのに、なんだかんだ言って、TVの影響力ってのはまだまだあるんですねと鳴瀬さんが笑った。

「探索者が減っちゃうかもしれませんよ? 笑ってていいんですか?」

「そこは大丈夫です」

なにしろ、基盤は探索によるステータスの上昇だ。

仮にスポーツ選手に転向したからといって、探索を止めてしまうわけではなさそうだった。どちらかと言えば、スポーツ界の方に影響が大きそうだ。

「そういえば、なんだか大きな荷物が届いていますよ」

「荷物?」

「奥の部屋へ運んでもらいましたけど……こちらが伝票です」

俺は鳴瀬さんが差し出してきた伝票を受け取ると、差出人を確認した。

三好は、奥の部屋へ荷物を見に行ったようだ。

「斎藤さん?」

「先輩、これ、ほんとに大きいですよ。いったい何でしょう?」

「伝票には楽器って書いてあるぞ」

「楽器?」

その時、事務所の呼び鈴がなった。

「どうせ、斎藤さんだろ?」

そう言って立ち上がりかけた俺に、三好が待ったをかけた。

「先輩、ちょっと待ってください」

「なんだ?」

「いえ。私が出ますから」

「そう?」

珍しく三好がそういうと、玄関に向かって行った。

不思議そうな顔をしていた俺を見て、三好が念話を送ってきた。

(先輩。なんだか素人のお客さんが、カヴァスの毒牙にかかったみたいです)

(なんだそれ? まさかなにかの営業なんかじゃないだろうな?)

確かに訪問販売の営業はうざい。だが、失神させて拉致されるほどのことじゃない。

もっともカヴァスの毒牙にかかるってことは、敷地内に侵入したってことなのだが……

(いえ、そういうのとは違う感じです。芸能方面なんじゃないですかね、これ)

(なにそれ。フォーカスってやつ?)

(そういったセンだと思います。先輩が出たら夜に男性の家を訪れる瞬間をゲットされるところでしたね)

なんとまあ、斎藤さんも出世したもんだ。

だけど、その人たちを田中さんに引き渡すわけにはいかないよな。

「やー、ししょー、お久しぶり」

「その呼び方はやめような」

つい、タヌタヌーとか言いそうになるだろ。

「で、今日は?」

斎藤さんは、目を回したふりをして、周りの人たちに訴えかけた。

「聞きました? 相変わらず情緒がないですよね! ここは、ちょっとくらい、無駄で軽妙なトークが入るところでしょう?」

「ええ? そういうもんなの?」

相も変わらず、三好は微妙であいまいな表情をしている。例の「知らんがな」のサインだ。

「もう、仕方ないなぁ。はい、これ」

「なに?」

斎藤さんが差し出してきた包みの中には、10センチ四方くらいのかわいらしい箱が入っていた。

「ほら、一応お世話になってるから」

「おお、先輩、モテモテじゃないですか」

「よせよ」

そう言って箱を開けると、その中には、コイン型のチョコレートがいくつか入っていた。

「へー、手作りっぽいですよ?」

へへーんと斎藤さんが胸をそらしている。

「いや、これはあれだな――」

コインの表面には、見事な弓と矢のレリーフが刻まれていた。

「――ホワイトデーまでには弓をよこせという催促に違いない」

「ちょっと。それって酷くない!?」

「すごく斎藤さんっぽいですねぇ」

「三好さんまで!」

そういえば、来月に内々の選考会みたいなのがあるとか言ってたっけ。

「仕方がない。じゃあ、次の斎藤さんのお休みにでもオーダーに行こうか」

「うーん、なんだか素直に喜べないんだけど……ま、いいか。じゃ、決まったら連絡するね」

「はいはい。でさ、あのでっかい楽器ってなに?」

「そうだ! それで来たんだった!!」

「あっちに置いてあるよ」

斎藤さんがそこへ向かって行くのを見て、鳴瀬さんが行った。

「ええっと、芳村さん。お客様もいらしたみたいですし、私はこの辺で」

「あれ? もし時間が大丈夫でしたら、ご飯を食べて行ってくださいよ」

「え? 時間は大丈夫ですけど……いいんですか?」

「もちろんです。斎藤さんが何かやりそうですし」

「何かって……」

鳴瀬さんは、苦笑を浮かべてそう言った。

「ししょー! これ重いんだから、手伝ってよー!」

「はいはい」

そうして設置されたのは、YAMAHAのCPL-685だった。

「電子ピアノ?」

「そうそう。事務所が練習しろって送りつけてきちゃって」

ちょっと本格的に弾かなきゃいけなかったからって理由で、最上級の電子ピアノとは。

確かにタッチが重要なら仕方がないのだろうが……中古のアップライトにKORGあたりの消音器つけた方が安くない? 取り扱いは面倒なのかもしれないけど。

「練習? って、事務所が送り付けて来たのをここへ送りつけてきていいのかよ」

「いや、だって、うち狭いし。ここなら、広いでしょ?」

いや、広いでしょって、そういう問題なのか?

「それに、丁度よかったし」

「丁度いいって、何が?」

「まあまあ、ちょっと聞いてよ」

なにがなんだかわからないうちに、彼女はピアノの前に座ると、曲を奏で始めた。

「うぉ、これは……」

「ショパンのエチュードですね」

「彼女って、女優さんでしたよね?」

鳴瀬さんが、こっそりと耳打ちしてきたから、頷いて答えた。

「これは、女優さんが片手間にやってましたってレベルじゃないですよ」

アイドルの中には、子供のころからピアノを習ってきて、コンサートでちょっとそれを弾いたりする人もいるようだが、確かにこれはそんなレベルじゃない。

プロのピアニストと比べても、なんら遜色がないだろう。

二分弱の曲を弾き切った斎藤さんに、俺たち3人は思わず拍手をしていた。

彼女は椅子から静かに立ち上がり、ちらりと鳴瀬さんに目をやった後、俺に向かって行った。

「で、なんで私はこんなことができるわけ?」

◇◇◇◇◇◇◇◇

時間も遅くなりそうだったから、俺たちは先に食事にした。

それほど凝ったものを作る時間もなかったから、作り置きを取り出しているように見せかけつつ、デパ地下の総菜で適当に盛り付け、これも作り置きのシチューメインにバゲットを添えておいた。

超手抜き、中食シリーズだ。

鳴瀬さんは、さっきの斎藤さんの言葉に興味をひかれながらも、食事が終わると礼を言って帰って行った。

斡旋された仕事の顛末として、食事中に話しておいた、つくばの事件についての報告書をまとめるつもりだと言っていたが、気を利かせてくれたのだろう。

空気を読める女ですからと冗談めかして言っていた。

「で、さっきの話だけど、練習したんじゃないの?」

「練習どころか、ピアノに触ったこともなかったんだよ? それが先生の試演を一度見たら、なんとなくできそうな気がして……」

「弾いてみたら、弾けちゃったってこと?」

彼女はこくりと頷いた。

彼女のステータスは、去年の12月21日の段階で、INTが30、AGIが25、DEXが50になっていたはずだ。

当時の三好との考察では、世界チャンピオン級のDEXなのだ。もちろん探索者を入れても、だ。

AGIで先生の動作を完全にとらえて、INTで解析&記憶して、DEXで再現してしまったということだろう。

しかし、それをどうやって説明したらいいのだろうか。

「別に困ってるわけじゃないんだよね?」

「全然。むしろ助かってるんだけど……訳が分からなすぎて、気持ち悪い」

斎藤さんが、日ごろは見せない真剣なまなざしで、じっと俺を見つめて行った。

「芳村さんが何かしたんでしょう? だって、他に考えられないもの」

何か危ないセリフだが、以前、御劔さんにも同じことを言われたっけ。

「斎藤さん、去年ダンジョンで遊んだ時に言ってたでしょ。思ったとおりに体が動くし、台本もすんなりと頭に入ってくるようになったって」

「そういうのと次元が違う気がするんだけど」

「いやいや、おんなじだよ」

「先生の動作を完全にとらえるとらえて記憶できるところは、台本を覚えるようなものだし、それを再現できるのは、自由に体が動くことと同じでしょ?」

「うーん」

「ほら、劇場で他人の演技を見て、セリフを全部覚えられたり、それをそっくりに真似られたりするじゃない?」

「まあ、それくらいなら」

出来るのかよ!

自分で言っておいてなんだが、北島マヤじゃあるまいし、普通そんなことができるはずはない。

斎藤さんも順調に人類の範疇から逸脱してきてるなぁと、俺は内心苦笑した。

「それと似たようなもんじゃない?」

「うーん」

「いずれにしても、斎藤さんが御劔さんに付き合ってダンジョンでスライムを叩きまくった成果なんだから、胸を張って自分の能力だと思っておけばいいんじゃない?」

「ううーん……ヨシ! たったあれだけでこうなれたんだから、実は私には才能があった! ってことで!」

「いいんじゃない」

って、ことでってなんだよと思いながら、あまりのサバサバ感に、俺は思わず吹き出した。

このこだわらないところが彼女の良さなんだろう。

それを見て、三好が笑って立ち上がった。

「せっかくだからコーヒーでも入れましょう」

「いいね」

「そうだ、これを預かって来たよ」

斎藤さんが自分の鞄から何かを取り出しながら「はい、NY直送です」と言って、にやにやしながらそれを差し出してきた。

「NY? って、イベントの関係者……な、わけないよな」

それなら三好に直接送って来るし、そもそも斎藤さんは何の関係もない。

三好が台所から顔を出して、笑った。

「当たり前でしょ。進駐軍の少佐が子供たちにチョコレートを配った日だからじゃないですか」

「現代用語の基礎知識に出てたんだろ? お前のネタの古さも俺とどっこいだな」

「ふっふっふ。先輩よりも1ページほど、私の方が新しいから、私の勝ちですね」

「何の勝負だよ。って、御劔さん?」

イメージ通りのきれいなブロック体で書かれたカードを見て驚いた。そういえば14日まではNYにいたんだっけ。

「クロネコの国際宅急便で昨日届いたから、NY入りしてすぐに買ったんだよ」

斎藤さんが笑いながらそう言った。

NYから発送は、到着まで大体6日~10日かかるらしい。

そういえば、NYのファッションウィークは7日開幕だって言ってたから、丁度そのくらいだろう。

「NYにもクロネコってあるんだな」

「JFKのすぐ近くにあるみたいですよ、国際宅急便。お土産とか持ち歩きたくないから送っちゃう人も多いみたいです」

「へー」

さっそくパッケージを開けると、丁寧につつまれた紫色のケースが現れた。

「へえ、そのパープルのケースは、ヴォージュ・オー・ショコラだ」

「詳しいな。って、斎藤さんには?」

「なんで、はるちゃんが私にチョコレートを送ってくるのよ」

お土産は貰ったけどね、と言いながら、目で私にもクレクレと語っていた。

「はるちゃんも、NYだから結構悩んだんだと思うよ?」

「なんで? 店はたくさんあるだろ?」

「NYで有名なお店のチョコレートは、大抵日本でも買えちゃうんですよ。マリベルも日本に支店がありますし、マストブラザーズもディーン&デルーカで買えちゃいます」

三好がカップを配膳しながらそう言った。

NYで有名なチョコレートとか言われてもよく分からないけれど、最近は、ついこないだも、サロン・デュ・ショコラとかやってたし、世界のチョコレートが日本で紹介される機会も増えてるから、確かに日本で買えないチョコは少ないかもな。

「それで変化球で攻めてきたわけですね」

「変化球?」

「まあまあ、先輩。この緑っぽい粉がかかってるやつあたりを、1個食べてみてくださいよ」

「これか?」

俺はきれいに並んでいるトリュフの中から、三好の指定したひとつをつまみ上げて、口の中に放り込んだ。

「んっ、なんだこれ? 抹茶風味……って、後から来るこれは、まさかワサビか??」

「ショウガとワサビと抹茶で作られてるんですよ、それ」

「まじかよ……でもちゃんとうまいな」

「そりゃそうですよ」

それで変化球なわけか。

斎藤さんが貰っていいと訊くので、どうぞと答えて、三好が入れたコーヒーを飲んだ。

チョコレートが口の中できれいに溶けて、その風味が昇華する。同じわさびでも、 メチャ苦茶(スペシャルドリンク) とは大違いだ。

俺は三好に貰った、チロルチョコの入った包みと、鳴瀬さんに貰ったマーブルの包みをその隣においた。

どちらも義理チョコだろうけど、貰えばうれしいものなのだ。

商業主義に彩られているとはいえ、これも一応聖なる夜か?

ハッピーバレンタイン。明日もいい日になりますように。