軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§148 投資案件第1号 2/7 (thu)

北谷(ほっこく) マテリアルの開発部では、真超Dが持ち込んだ素材の解析が行われていた。

いまだ基本的な物性の計測が主体だったが、あわせて何から生じたのかを一緒に入っていたアイテム類から同定する作業も行われている。

最終的には合成が目標になるが、その前にダンジョン産アイテムを利用しての量産が可能かどうかも突き止める必要があるからだ。

「難波、ちょっといいか? ソバでも食いに行こうぜ」

「保坂? なんだよ、コンビニのおにぎりでいいだろ。早いところあれをどうにかしないと、榎木さんピリピリしてるんだからさ」

「いや、その件で、ちょっとな」

難波は芳村が退社した後、チームを纏める立場に立った男だ。保坂といういう話もあったが、保坂は芳村の薫陶を受けすぎていて、使いにくいと判断されたらしかった。

保坂はちらりと課長の部屋がある方を見ると、ドアの方に向かって歩き始めた。

難波はしょうがないなという風にため息をつくと、その後を追いかけた。

「で、いったい何だよ?」

会社を出たところで、早速難波が切り出した。どうせソバなんて方便なのだ。

「実は、芳村さんからメールを貰った」

「は? 社内のアドレスか?」

「いや、俺のプライぺードアドレスだ」

社内のメールアドレスへ来たメールは、会社がいつでも読むことが出来ると、最初から全員に通知されている。だから、プライベートアドレスに連絡があるってことは、会社に見られたくない内容だと考えて差し支えなかった。

「それで? 引き抜きか何かか?」

それを聞いてあっさり難波がそう言ったように、このチームはちょっとした苦境に立たされていた。

基礎研究を突然撤回して応用研究へと走らされたが、それが緒にもつかないうちに、元の基礎研究と似てはいるが、はるかに難易度の高い、未知の物質の解析と同定という作業を振られたのだ。

それが数日でどうにかなるはずもないのだが、どうにも上は焦っている様子で、以前よりも結果を求めるようになっていた。

「いや、違うよ」

保坂は、あまりにあけすけなことを言う難波に苦笑を返しながら、芳村が送ってきたメールの内容を話した。

「モノアイのドロップアイテム?」

「ああ、真超Dのリストにあった気がするんだが」

「あったぞ。なにか、水晶のような材質の丸いアイテムだったな」

「例の液体の正体はそれじゃないかってさ」

「なんだと? 大体、なんで芳村さんが、あれのことを知ってるんだ?」

「三好のところに、うちの会社から依頼があったんだってさ」

「なんだ、芳村さん、やっぱり三好と一緒にやってるのか」

退職した日時が近いのと、その直前で三好が有休を取ったりしていたので、それとなく噂はされてはいた。

「みたいだな。あの二人ってデキてたっけ?」

「よせよ。まあ、チューターと生徒って感じではあったが……そこらへんはどうでもいいだろ」

「なんだよ、せっかく芳村さんを弄れるネタなのに」

保坂は笑ってそう言った。

「それにしても、俺たちも信用が無いな」

「そんだけ焦ってるってことだろ。真超Dに芳村チームがすでに無いことがばれたら、ちょっとした問題になるって話だぜ?」

難波は、そんなあり得ない話を信じたがっているのは、上の方だけだろうと考えていた。

真超Dが提携先のことを調べないはずがないのだ。

「ばかいえ、そんなこととっくに知られてるに決まってる」

「だよなぁ」

空は分厚い雲に覆われていたが、身を切られるような寒さだった昨日に比べれば、日中の気温は幾分緩んでいた。

鮮やかな濃い紺色の 暖簾(のれん) が見え始めると、保坂が、「それで、どうする? 寄っていくか?」と難波に聞いた。

難波は、会社にある二つのおにぎりのことを考えたが、ここまで来たら、暖かいものが食べたい気分になっていた。

彼は無言で頷くと、保坂とふたりで、その暖簾をくぐった。

「それで、あの石ころがどうして液体の素だって分かるんだ?」

注文を終えると、難波がそう切り出した。

「なんでも向こうさんでも同じような実験をしているらしくってさ、そいつはとある条件下で液化するんだってさ」

「とある条件下?」

「それは芳村さんのところでも、企業秘密だろうし、メールには書かれてなかったが……」

「しかし、あのアイテム袋の中で、その条件を満たす何かが起こったというのなら、結構絞り込めそうだ」

難波は興奮したように言った。

「よし、あの袋の中で起こりそうな状況を想定して、温度や湿度、phや、なにかの溶液、片っ端から試してみるか」

ソバが来る前に席を立ちかけた彼を、保坂が落ち着けとばかりに手で制した。

「いや、それ、結構果てしない作業になるんじゃないか?」

「指針が全然無いのに比べたらずっとましだろ」

「しかし、あくまでも芳村さんのアドバイスが正しかったら、だろ?」

「おまえ、何かあの人の恨みを買ってる自覚とかあんの?」

「俺? いや、そんなはずは……」

「じゃ、大丈夫だろ。あの人、基本的にお人好しだから」

「言えてる」

「それにしても、そんな話だけなら、仕事として課長に返信すればいいはずだろ。多少は金にもなるだろうし。なんで保坂のプライベートアドレスなんだ?」

「あの話題になったオーブのオークションが本当に三好のやつの仕業だとしたら、そんなはした金は不要だろうし、なにしろ、芳村さんだからなぁ」

二人は、お互いに目を合わせると同時に言った。

「「課長の仕事を手伝うのが嫌だった」」

そして思わずふたりは吹き出した。

それは、ふたりにとっても、久しぶりに出た、腹の底からの笑いだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

西新宿にある、小田急第一生命ビルの17階では、吉田が自分のスマホでDパワーズのサイトへとアクセスしていた。

岸記念体育館から、職員の安全確保(耐震性の問題)を理由に移転した陸連は、オリンピックスクエアが完成するまで、ここに居を移していたのだ。

「いまだ、1件の当選もなし、か」

Dパワーズのサイトを確認して、来週の分まで通知済みになっていることを確認した吉田の元へは、どの指導者からも当選の連絡は来ていなかった。

「浦辺さん、スポーツ枠って一体どうなんったんです? 陸連には何か連絡がありましたか?」

「いや、なにも」

浦辺は憮然としてそう言った。

「どういうことです? 葉山先生はまだ動いてらっしゃらないんでしょうか?」

「先日お願いしたときは、よっしゃよっしゃで、すぐにでも動いてくれそうな勢いだったんだが……」

「いざって時にあてにならいんじゃ、献金も無駄なんじゃありませんかね」

「むぅ」

陸連からの献金は、浦辺たちの強い主張のもとに行われた。

吉田の発言は、間接的に浦辺たちのやり方が間違っているという主張につながっていた。

「まあ、まあ。Dパワーズは、現在代々木の地上施設を拡張しているそうですから、それを待って、ということではありませんか?」

浦辺と同世代の陸連の男が、訳知り顔でそう言った。

「なるほど! そうかもしれん。地上設備の数には限りがあるから、なかなかレンタルも順番が回ってこないとのことだったが……」

「JDAは、現在のものに続いて、結構大きなダンジョン内地上設備を代々木に建設するそうですが、さすがにそれの完成はまだ先でしょうからね。葉山議員の後押しもあって、現行のレンタルスペースを抑えらえたのでは?」

吉田は、二人の話を聞きながら、どこからどこまでが本当だろうかといぶかしんでいた。

少なくとも最後の推測だけは間違っているだろう。WDAによる管理が確立している以上、許認可で力を行使するわけにもいかないダンジョンには、明確な政治利権がない。つまり、彼らにダンジョンへの影響力などあるはずがないのだ。

この際、スポーツ界におけるパワーゲームはどうでもいいから、なんとか自分の指導している選手たちだけでも押し込めないだろうかと、吉田は考えを巡らせていた。

その時、浦辺の携帯が振動した。

その画面を見た浦辺が、「葉山先生だ」と嬉しそうに言って、画面をスワイプした。

「待ち人来れりってやつかな」

吉田は浦辺の様子を見て、そう呟いた。

「はい、浦辺です。はい、はい……は?」

喜色満面だった浦辺が、微妙な表情になる。一体どうしたんだろう。

「はあ。……いえ、とんでもありません。はい、はい」

その様子を見る限り、いい話だけではなさそうだ。

「わかりました。ご尽力いただきありがとうございました」

そう言って、まるでため息をつくように、通話を切った。

「で、葉山先生、なんですって?」

「ブートキャンプの件ですよね?」

吉田が尋ねると、近くにいた職員も、我慢できないように浦辺に声をかけた。

「あー、ブートキャンプは、ブートキャンプなんだが……」

「どうしました?」

「代々木ブートキャンプらしい」

「代々木? ダンジョンブートキャンプは、確かに代々木で行われていますけど」

「よくわからないのだが、どうやらDパワーズではない、別の会社が立ち上げたブートキャンプに陸連の席を用意したとかおっしゃってた」

「別の会社? それって効果あるんですか?」

「先生によると、ダンジョンブートキャンプを経験した人間が中心となって、一流のスタッフを集めて立ち上げたということらしい」

一流と言っても、我々はすでに一流のコーチ陣なのだ。

それでは足りないからこそのブートキャンプなわけだが、代々木ブートキャンプ? 高田や不破のような実績がないプログラムに、丸ごと乗っかって大丈夫なのか?

「ともあれ、ダンジョントレーニングの準備は整ったわけだ。希望者を陸連の経費で送り込めば、いずれ結果も付いてくる……はずだ」

「はずだ、と言われましても。まるで実績のないプログラムですが、大丈夫なんでしょうか」

「葉山先生は押しておられたが……ともあれやってみるしかあるまい?」

どうせ今のままではダンジョンブートキャンプに当選しないのだ。

なら、別のブートキャンプを実行してみるしかないではないか。ダンジョントレーニングは待ったなしなのだから。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「じゃ、お待ちしています」

俺は、三好が携帯を切ったタイミングで尋ねた。

「なんだ、翠さんか?」

「ええ、もうすぐ着くそうです」

「ふーん。そういや、昨日3次ロットを納品したとか言ってたな。結構なペースじゃないか?」

「今朝も、昨日の分を渡しに行ったみたいですよ」

「そりゃ凄い」

「2月の早い時期は、医学系私大の2次試験が目白押しなんですよ。それに加えて5日には明治の全学部試験が全国6カ所で行われましたし、7日――あ、今日ですね――には青学の全学部試験が全国4カ所で行われているそうです。連日悲鳴みたいなメールが届いてますよ」

「うちにメールを出しても仕方がないだろうになぁ」

「そこは、仕事をしているって証明ですから。手段がないからって、何もしないんじゃ、偉い人に給料泥棒と罵られちゃうんじゃないですか?」

「企業人の悲哀を感じるな」

「ともあれ、毎日でも納品して欲しいそうです」

「しかし、1日100個以上も、本当に作ってるんだな」

このままだと、1000個なんてすぐに到達しそうだ。

「中島さんが、昼も夜もなくフル回転してるみたいですね」

「集中した技術者って、外から見るとブラック化してるのと区別が付かないからな」

「研究してても、コードを書いてても、机の下で寝袋は日常の風景なんて時はありますからね。もっとも本当にブラックでやらされてるのと、自発的にのめり込んじゃってるのは区別して欲しいですけど」

「それをお役所に望むのは無理だろ」

「規制ばっか考えてないで、労働者自身が簡単に通報できる手段と、それを迅速に解決する方法を用意するだけでいいと思うんですけど」

「それが従来のシステムとマッチしないんだから仕方がないさ。日本はやってみてダメだったから修正しようなんて考えると、責任を追及しようとする連中がわんさか涌いてくる社会だから」

「最初から完璧なものを作るのは、必要以上に労力が必要で無駄なんですけどね」

「ま、それでうまく行っている部分もあるから、そこは文化の違いだと割り切るしかないな。願わくば適材適所で使い分けて欲しいとは思うが」

さっきからロザリオが、グラスのいるソファと俺の机を行き来している。

その時俺の携帯が震動した。

「ん?」

そこには新規のメッセージが表示されていた。

『ひまだからなんかたべたい ぐらす』

「三好」

「なんです?」

「お前、ロザリオのPCになにか変なアプリをインストールしただろ」

「F2で、先輩にメッセージが飛ぶようになってます。F3は私ですよ」

「それで、妙に体を伸ばしてたのか」

GPD Pocket2にはファンクションキーがない。

ファンクションは、Fnキー+数字部分に割り振られているのだ。だからロザリオは、Fnキーの上に乗っかったまま、みょーんと体を伸ばして2(一番近い)を押すことになるのだ。

「事実上、F1~F4までしか使えない感じでしたから、そこに機能を割り振っておきました」

「昨夜遅くまで何かやってると思ったら、それを作ってたのかよ」

「てへへ」

F1とF4に何が定義されているのかは気になったが、それは押されたときのお楽しみだそうだ。

それにしても、ペット ポ(・) ジ(・) の連中に、メッセージで使われる日がくるとは、この歳になるまで思いもしなかったぜ。

「しょうがないな」

そういって立ち上がった俺の足下には、早速グラスがやってきて尻尾を振っていた。

こいつは食べ物を貰うときだけは、俺にも愛想がいいのだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇

昼を過ぎてしばらくした頃、翠さんが、初めて見る男性と一緒に事務所を訪れた。

「あれ、今日は中島さんは?」

「どこかの誰かの無茶振りで、変な笑い声を上げながら、日がな一日、半田ごてを振り回してたぞ。曜日も時間も関係なさそうだったな」

翠さんはジト目で俺を睨みながらそう言った。

いや、それ、三好だよね。俺じゃないよね?

「それに今日は、あの変な外人が朝早くからやって来て、"save the world!"とかいいながら、ノリノリで作業してたから、余計テンションが上がってたな」

キャシーのやつ、まだそんなことを言ってたのか。願わくば、20日までがんばって引っ張って欲しいものだ。うんうん。

「そういえば、今朝もキャシーから、『きゃっほー、中島スゲェゼ』って感じのメールが写真とともに送られてきましたよ」

今週のブートキャンプは昨日で終わっているから、今日からまた 常磐(ときわ) ラボ通いを始めたのか。

三好のスマホには、山積みの基板を背景に、キャシーがサムズアップしている画像が表示されていた。

「でもって、これですよ」

画像をスワイプすると、そこには、机の下で寝ている中島さんのものと思われる足が映っていた。

その前で、常磐のスタッフらしき人が、『エティハドかシンガポールか、エミレーツ』と書かれたホワイトボードを掲げていた。

「なんだそれ? 新手の川柳か?」

「そいつは、今回の旅行で一番ハイテンションになっている、 都築(つづき) 縁(ゆかり) ってやつでな。飛行機旅行マニアなんだよ」

翠さんがその写真を見て説明してくれた。

そういや、中島さん以外のスタッフを初めて見たぞ。

「テツの飛行機版? そりゃあ、カネのかかる趣味ですね」

俺はあきれてそう言った。世の中にはいろんな趣味の人間がいるものだ。

「高いシートは、マイルをためて乗る主義らしいぞ」

最近は、飛行機に乗らなくてもマイルがたまるサービスがいろいろあるそうだ。

「じゃあ、それって航空会社の名前なのか?」

「ファーストクラスランキングの上位陣って感じですね。だけど、直通便があるのかな。大抵トランジットで、シンガポールやアブダビやドバイを経由しますから。30時間以上かかりますよ……いいんですかね?」

「さすがにマニアがそれを知らないはずはないだろう。テツの人も、乗るのを楽しむってところがあるから、いいんじゃないか? 巻き込まれるスタッフはどうだかしらないけどさ」

「全然よくない、と思ったんだが、こんなチャンスは2度とないと押し切られたんだ」

翠さんが苦笑しながらそう言った。

いつの時代も、趣味人に巻き込まれる一般人は、とても苦労するものだ。それが新たな目覚めにつながることも、まれにはあるのだが……俺に年越しの大回りは無理だった。

「ただ、深夜便は飯がいまいちだからと、いまだに悩んではいるようだが、エミレーツのA380とかぶつぶつ言ってたな」

「なにかあるのか?」

「エミレーツのA380には、結構豪華なシャワーがついてるんですよ」

「シャワー?! 飛行機に?」

「さすがはアラブ。お金持ちの国って感じですよね。2か所をファーストクラスで共有です」

俺はそれを聞いてふと思った。

「だけどなあ……」

「なんです?」

「小さな個室+共有シャワー? それだけ聞いていると、超豪華な作りの漫喫かカプセルホテルって気がしないか?」

それを聞いた三好が思わず吹き出した。

「確かに、ドリンクのラウンジも、新聞や雑誌のサービスも、映画のデマンドサービスもありますけど」と、けらけら笑っている。

「でも、さすがにそれはあんまりですね。ちょっと的を射ているように聞こえるところが、 質(たち) が悪いです」

「爆笑した時点で、お前も共犯」

「えー」

ファーストクラスなんか利用したことのないもの同士で、戯言を言い合っていると、翠さんが訊いてきた。

「お前らな……それで、あのテンションの高い女は、いったい何者なんだ?」

「あの女性は、うちのダンジョンブートキャンプの教官で、DADから引き抜いてきたというか、借りてきた人なんですよ」

「借りてきた? DADって、大統領直属の機関じゃないのか?」

「おお、翠さんが専門外のことを調べてる!」

「あのな……、これからうちの会社の大きな領域を占める機器の販売先のことくらい私でも調べるよ」

「まあ、ちょっとしたご縁がありまして」

「ご縁ねぇ」

視線の突っ込みに、ハハハと乾いた笑いをあげた俺は、連れの男に話題を移した。

「それで、そちらの方は?」

俺たちのバカ話を、翠さんの隣で一緒に笑いながら聞いていた男のことを尋ねた。

「ああ、すまん。こいつは、榊 大祐(だいすけ) 。私の1年下だから、一応梓の先輩にあたる男だ。榊、こっちのふたりが、お前に投資してくれるかも知れない、芳村圭吾さんと三好梓さんだ」

「よろしくお願いします。榊です」

「いえ、こちらこそ。って、投資?」

「ん? お前らダンジョン関連の基金を作るとか言ってなかったか?」

「あー、ちょっと色々ありまして」

確かに作る予定はあったが、まだ稼働すらしていない。

しかも基金じゃなくなるんじゃないかという話になっているのだ。借りる方にとって見ればあんまり関係のない話だろうけれど。

「実は、大学のベンチャー仲間の懇親会で、うちのことがちょっと話題になってな」

新株発行で、大学へ委任状を取りに行ったことが話題の発端らしい。

当初、株数を10倍にする上に、それをすべて翠さんが出資するというと、あまりいい顔をされなかったらしい。

会社の価値を株数で割ったものが、1株の価値だ。それが額面よりも高くなっているとき、新株を発行されると1株当たりの価値が薄まるのだ。

況や1/10になりますよと言われては、いい顔をされなくても仕方がないだろう。

ところが、それで、融資を受けて会社の資産が、株式総額の100倍になるという説明を受けた瞬間、ふたつ返事で委任状を渡してくれたそうだ。上場も果たしていないのに資産が100倍だからな。そりゃキャピタルゲインが最終目的の株主は議決権など気にしないだろう。

大学関係者は、あまりのことに、つい口を滑らせたらしく、パーティではどういうことだと皆に聞かれまくったそうだ。

「詳細を言うわけにはいかないし、ちょっとバカみたいなビジネスエンジェルと知り合いになったんだという話だけはしたんだ」

バカみたいなって……きっと、バカみたいにお金を持った、の略だよな、そうに違いない。たぶん。

「それで?」

「いい感じに酔いが回ってた先輩に、どっかの金持ちの愛人になったのかと言われた」

「ぶっ」

俺が思わず吹き出すと、翠さんは、笑顔のままで、額に青筋を立てた。

「もちろんぶん殴っておいたぞ? 再現してやろうか?」

「ケ、ケッコウデス」

「ま、100億も投資してくれるんなら、愛人くらいなってもいい、むしろならせて下さいってやつも一杯いるだろうよ。そういう訳でな、紹介してくれと言うやつらが大勢いたんだが――」

「うちは、ユニコーン企業以上でないと相手にしませんからとでも言っておいてください」

「どこの、頭がみっつで胃袋ひとつな怪獣ファンドですか、先輩」

ユニコーン云々は、通信大手のソフトバークが立ち上げたファンドが、日本企業への投資がほとんど無いことを問われた時に言った言葉だ。

キングギドラを彷彿とさせる三好の表現は、もう2年も前に、そのファンドが、ファンド・マネージメントを本業にしている企業を買収したときに、外国法事務弁護士に言われた台詞なのだ。(*1)

もっとも、キングギドラの胃の数がひとつなのかどうか、俺は知らない。

よく覚えているのは、彼らがその三つ目の頭を増やすとき、「ソフトバークは、ソフトバーク2.0への変革を加速させることでしょう」というプレスリリースを出したことくらいだ。

IT業界では、なんちゃらかんちゃら2.0と言われただけで、うさんくさいバズワードフィルターがかかるものなのだが、通信会社がそんなリリースを出したことに、投資方面ではまだ平気なのかねと驚いたものだった。

「もちろん、私も、そいつらの研究が今どうなってるか知らないし、急に言われても無理だと断ったよ。ただ、こいつの研究はお前ら向きだと思ってな」

「俺たち向き?」

「もちろん、うちが投資してもいいんだが、運転資金として振り込まれた金を勝手に投資するのもどうかと思ってな」

「そりゃあたりまえですよ」

俺が呆れたように言うと、翠さんは、はたと何かを思い出したような体で、三好の方を振り向いた。

「それで思い出した。梓もいきなり全額振り込むなよ。銀行が何事かって飛んできてたぞ? すごいぺこぺこしてて、ちょっと気持ちよかったが」

「すぐに、金融商品の勧誘電話が掛かってくるようになりますから、気をつけてくださいね」

「すでに債権だの REIT(リート) (不動産投資信託)だののパンフレットを山ほど置いていったぞ。だが、金を借りようと頭を下げに行ったとき、門前払いされた恨みがあるからな」

そう言って翠さんがにやりと笑った。

銀行も、いきなり支店の口座に100億円が振り込まれたら、そりゃ、何事かと驚くだろう。

常磐医療機器研究所は取締役会非設置だから、とりあえず全社外株主の委任状を取ってしまえば、さくっと新株が発行できる。ほとんど1日で手続きは終わったそうだ。

100%の議決権だから、有利発行もくそもない。それで、会社の口座に9000万を振り込めば新株発行は終了だ。翠さんの株式保有数は6%からめでたく96%になった。

そして不思議なビジネスエンジェルが、90%の株式と引き替えに100億円を投資したことになっている。

最初は46%の予定だったのだが、当の翠さんにアホかと一蹴されたのだ。

誰も反対しなかったのかと聞いたら、「あのな、資産価値が100倍になるってのに、誰が反対するんだよ」と言われた。

俺たちの株式の委任状は、翠さんに渡してあるし、なべて世はこともなしってやつだ。

「それで、どんな研究を?」

俺は、話を元に戻した。

「それがな、内容が斬新すぎて、うちの大学のベンチャーでも手が出せなかったしろものなんだ」

翠さんは、苦笑しながらそう言った。

「斬新?」

「なにしろ失なわれた手足を元に戻そうって研究だ」

「は?」

再生医療ってことか?

しかし地球の再生医療で、手足を生やすなんてことはできない。とするとポーションか?

手足が生えるのは、確か――

「それってランク7以上のポーションを作り出そうって研究ですか?」

俺は信じられないと言った顔で聞いた。

彼はその質問に慣れていたのか、ちょっと苦笑気味の笑顔を浮かべていった。

「いえ、それは違います」

ポーションの効果は非常に短期間の間に現れるが、この研究はそうではないそうだ。

「これは、筑波大学の千葉先生の研究の延長線上にあるんですが――」

そうして彼は、嬉々として説明を始めた。

一般的な脊椎動物では、大きな怪我をすると、その傷を素早く塞ぐために繊維化することで生命を失うリスクを下げる。そうして残るのが傷跡だ。こういう回復を 瘢痕(はんこん) 治癒と呼ぶらしい。

ところが、世の中には、 無瘢痕(むはんこん) 再生というものがあって、傷跡なしできれいに再生する脊椎動物が存在するそうだ。

「うーん。トカゲとかかな? しかしカナヘビも失われた尻尾をそう簡単に再生したりできないし……プラナリア?」

「先輩、いつからプラナリアが脊椎動物になったんですか」

「惜しいです。形はよく似ていますけど、実はイモリなんです」

「イモリ? あの腹の赤いヤツ?」

「はい」

彼の話によると、イモリは怪我をしてもまったく傷跡を残さずに回復するらしい。

それどころか、尻尾はおろか、手足を落としても完全に回復するし、眼のレンズや網膜、脳や心臓の一部でさえも、死にさえしなければいずれ完全に復元されるのだとか。

「手足を切り取っても、約5ヶ月で完全に新しい手足が生えてきます」

「なんじゃそりゃ?!」

「とても脊椎動物とは思えませんね」

俺は単なる思いつきで質問した。

「遺伝子に、なにか特別なところがあるんですか?」

「千葉先生たちも最初はそう考えました。そして、腕の再生時に発現が増える遺伝子を探したんです」

彼は頷きながらそう言った。

「その結果、イモリに固有の想定したような遺伝子は発見されませんでしたが、進化過程で出現したと思われるひとつの遺伝子が見つかりました」

「じゃあそれが、幹細胞の発生を誘発する?」

腕が完全に復元すると言うことは、未分化の状態の細胞が必要になる。

それは一般的には幹細胞だ。しかし脊椎動物の幹細胞の大部分は、生命が発生した後の短い期間にしか存在しないはずだった。

「いえ、幹細胞ではなく、イモリの細胞には脱分化する――つまり未分化状態に戻る――機能があるんです。」

「脱分化?」

「はい。それで先生たちも、最初は、この遺伝子が細胞の脱分化を制御する、核ではたらく転写因子ではないかと予想しました。しかし――」

それが細胞膜に結合する膜タンパク質の遺伝子であっただの、さらにそれは赤血球の一部を構成するものだっただの、彼は夢中になって、専門用語満載で10分くらいしゃべり続けていた。

ポリクロマティック・ノーモブラストに特異的に発現するニューティック・ワンがどーのこうの。

ポリクロマティック・ノーモブラストは、エリソロサイト・クランプを形成するだのなんだのって、それ、日本語にしたら単に赤血球の塊って意味じゃないか? と思わず突っ込みかけた。

「な、梓。理系の男って最低だろ?」

「今、ちょっとだけそう思いました」

中島を擁護したことのある三好だが、さすがにこれには閉口していたようだ。

「あ、すみません」

榊君は、二人の様子に気がついて、熱くなりすぎていたことに気がついて謝った。

この調子でベンチャーのプレゼンをやったら、そりゃ落ちる。出資者の大多数は、プレゼンの内容が理解できないからだ。

「つまり、大まかに言うと、イモリにおいては赤血球で発現する特別な遺伝子――ニューティック・ワンでしたっけ? が機能を発揮して、その結果筋肉の細胞を未分化状態に戻す、脱分化でしたっけ? ってことですよね」

「そうです、そうです」

「そして脱分化した細胞が細胞分裂して、失われた部分を形成した後、骨や筋肉に分化していって、元の状態を回復する」

「その通りです」

榊は満足げに頷いた。

「イモリの 無瘢痕(むはんこん) 再生の仕組みの概要は分かりましたけど、それが榊さんの研究とどう関係するんです?」

「それなんですが――」

ダンジョンには、再生スキルを持ったモンスターは多い。代々木で発見済みのモンスターの中なら、最たるものはトロルだろう。

彼はイモリにおける特殊な赤血球の役割を、そう言った再生スキルを持ったモンスターのドロップアイテムで代用できるのではないかと考えたそうだ。

「いくらイモリが優れているからと行って、まさか人間にnewtic1を組み込むわけには行きませんからね」

そういう彼の笑顔がちょっと怖い。優秀な科学者ってやつはどこかにマッドな雰囲気があるものだが、彼もその例に漏れないようだ。

「有尾両生類になるのは勘弁ですね」

俺はそう冗談めかして言うことで、場の空気をうやむやにした。

ともかく、彼は、その方向で研究を勧めた結果、どうやらマウスの尻尾の不完全再生までは実現したそうだ。

「それはそれで凄いと思いますけど」

「しかし、外形の不完全再生では、使いどころがありません。もうちょっとで何とかなりそうな気がするんですけど――」

なにしろダンジョンのドロップアイテムは希少で高価だ。研究資金も期間もどん詰まりで、いくつものVCの扉を叩いてみたが、どこも首を縦に振らなかったそうだ。

時代はiPSに期待しているし、トンデモな再生医療技術は、倫理問題にも抵触しかねない。

「しかしこれって、iPS細胞研究とどう違うんです?」

患者から取り出した細胞を操作することで、それを多能性幹細胞化したものがiPS細胞だ。

「今のところiPSで、手足は生えてきませんね」

彼はこともなげにそう言った。

そりゃそうだ。筋肉に分化するiPS細胞は作れるだろう。骨に分化するそれも可能かもしれない。しかし、「腕」に分化する細胞を作るのは難しいというより現時点では不可能だろう。

その時俺はふと思った。

「イモリって、掌だけ切り取っても、肘のすぐ下を切り取っても同様に再生するんですか?」

「え? ええ、そうなります」

「今仰られた仕組みで再生が行われるのだとして、腕が長くなったり短くなったりしないってことは、何かが適切なところでアポトーシスを誘発しているってことですよね?」

例えば人間の手は、胎児期に幹細胞から形成される。

始めは大雑把な外観が作られ、後に自然が彫刻刀を振るうかのごとく、指になる場所の隣にある細胞が死滅して指を形作るのだ。このプログラムされた細胞の死滅をアポトーシスと呼ぶ。

「生物学にお詳しいんですか?」

「以前、田沼先生の書かれたUP BIOLOGYシリーズ(*2)を拝読したくらいですが」

「ああ、書かれた時期が時期ですから最新の知見は含まれていませんが、よくまとまったいい本ですよね。薄いのもいい。僕も読みましたよ」

話を聞いていてとても不思議に思ったのは、肘の下で切られたのか、手首の先で切られたのか、どうやってイモリは判別しているのだろう?

ポーションなら、ダンジョンの不思議パワーで片付くが、イモリはそう言うわけにはいかないだろう。

「仰るとおりですが、我々は元に戻る仕組みの研究であって、それ以外の部分で、なにがどのタイミングで、どんなスイッチを押すのかは後回しなのです。強いて言うなら――」

「言うなら?」

「――ミトコンドリアあたりが、その生物の形を知ってるんじゃないでしょうか」

彼は笑いながらそう言った。

「お話はよくわかりました。ともかく、人間の筋細胞を脱分化する物質か、それに変わる何かが見つかれば、もしかしたら再生が行われるんじゃないかと言うことで研究を進めた結果、後少しの処まで来ている気がするということですね」

「非常に大雑把に言えばその通りです。もう少し詳しく説明すると――」

「あ、いや、それはまたの機会に」

「そうですか?」

榊は残念そうに、そう言った。

いや、あの呪文攻撃をもう一度喰らったら、倒れる自信がある。

俺たちは、彼らの飲み物を差し替えて、休憩を装いながら、念話で相談をはじめた。

(どう思う?)

(言ってみれば夢の研究ですよね)

(まあ、普通の人にとっちゃ、荒唐無稽に聞こえるだろうな)

ただし、ダンジョン内のモンスターは、本当に驚くべき速度で再生を行っている。

それを、自分の目で見ていれば、もしかして人間にも応用できるのかもと思っても仕方がないだろう。

それに俺たちは、超回復による神の御業も、目にしているのだ。俺に到っては2回も。

(だけど、私たちは、彼の話を聞いただけで、その研究成果もデータも何一つ見てませんけど)

(お前、データを見せられて理解する自信があるか?)

(あまりにも畑違いですからねぇ……大学の教養レベルじゃだめですよね)

たしかにそれくらいで判断できるレベルなら、なんとかなるかもしれないが、詳細や、期間に関する見通しともなると、まるで判断できるとは思えない。

(この先にしたって、あまりにも専門的になったら、俺たちじゃ判断は難しいかもな)

(ここは外部の専門家に依頼する必要が……って、同一ジャンルじゃ盗まれるかもって嫌がる人がいそうですね)

そこはNDA(秘密保持契約)を結んでとも思うが、生理的な部分まではフォローできない。

それにしても、投資事業に思わぬ敵が立ちはだかったものだ。まさか研究を確認する暇と知恵がないとは。

(世のエンジェルの皆さんは、一体どうやって判断してるんだ?)

(コンセプトを聞いて儲かりそうかどうかで判断するんですかね?)

(ああ、それでユニコーンだの、5年で10倍だの、敷居が高いのか)

つまりは失敗率が高いってことだ。

(でも先輩)

(なんだ?)

(とりあえず翠先輩は信じてますから、ついでに信じちゃってもいいんじゃないでしょうか)

(ついでってな……まあ、しょせんは1億とかだもんな)

(なかなか凄いことを言ってますよ)

三好が笑って、そう突っ込んだ。

いや、だってなぁ……持ちなれない大金を持つと、なんだかそれの価値がよくわからなくなるんだよ。

(いざとなったら、うちのバイオ投資の案件は、翠マネージャーに丸投げするか)

(それは良いアイデアです! 少なくとも私たちよりはましでしょう)

(そうと決まれば、彼女の紹介案件だから、そのままGOでいいな)

(了解です)

そうして、コーヒーのカップをテーブルに置くと、俺はおもむろに、榊さんに必要なものを聞いた。

「それで、具体的に、榊さんの研究には何が必要なんです? お金ってのは、何かを買うためのものですよね? 具体的に何を買いたいんですか?」

「一番お金を喰うのは、ダンジョン産のドロップアイテム――今のところはトロルの皮、ですね」

「回復系のスキルを持ったモンスターは結構いますが、他のアイテムは?」

「とても手が回りません。そういうモンスターのアイテムは、大抵武器や防具の素材になったり、薬になったりするので、研究市場に出まわること自体が少ないんです」

大手企業は、自分のところの契約冒険者に取りに行かせるもんな。

フリーの冒険者がJDAに売却したアイテムが市場に流れるわけだが、そこは資本主義、需要と供給を考えれば、結構な金額になることは想像に難くない。

「では、お金の他には、アイテム類をご用意すれば?」

「え? 投資していただけるんですか?!」

「あなた、何しに来たんですか」

俺は笑いながらそう言った。

彼は信じられないという顔をして、俺と翠さんを交互に見ていた。

「いや、だって……いままでの人って、僕の説明を聞くと、すぐに言葉を遮って、あげくに、それはカネになるのか? なんて聞くんです」

まあ、あの説明を聞かされては仕方ないような気もするが……質問もそれ以外尋ねられる所がないというか、なんというか。

「それで、わかりませんと答えると、大抵お帰り下さいと……ううっ」

彼は感極まったのか、涙ぐんだ。

「翠さーん」

俺は彼女に助けを求めたが、彼女は処置なしとばかりに軽く肩をすくめただけだった。

「じゃ、じゃあ、契約書類は、三好と交わして貰うとして、金額はどうします? 会社にされてるんですか?」

「いえ、まだ正式に会社にはしていません」

「じゃあこの際、会社にしてはいかがです? いいよな、三好」

「そうですね、その方が出資しやすいですし。とりあえず1億くらいでいいですか?」

「いちおく?!」

その話を聞いた榊が驚いたような声を上げた。

いや、バイオ系の企業だと考えれば格安どころの騒ぎじゃないと思うが……

「は、はい。よろしくお願いします」

「よし、話はまとまったな。細かいことは梓に任せればいいだろう」

「了解でーす」

そちらで話が始まったので、俺は少し席を外すと、レストルームに隠れて、保管庫から以前マイトレーヤと行ったときに取得したトロルの皮を4枚と、三好が歓喜していたレッサー・サラマンドラの尻尾を取り出して袋に詰めた。

まあ、あいつも売る気だったみたいだし、いまさらアイテムを売りに出す必要もないだろうから文句はないだろう。袋がコンビニ袋なのはどうかと自分でも思うが。

そうして、事務所側へと戻ると、その袋を榊さんの前に置いて言った。

「じゃ、これはお土産です」

「なんですか?」

「とれたてピチピチの、トロルの皮が4枚と、レッサー・サラマンドラの尻尾が1本入っています。どちらも回復系のスキルを持ったモンスターですよ」

「ええ? レッサー・サラマンドラの尻尾?!」

「あれ、珍しいの?」

「先輩、漢方の超高級素材だって言ったじゃないですか」

「いや、三好がいつまでも売らないから、大したことないのかと思って」

「まあ、いまさら売るのも面倒なので、ここで使い道があるならそれでいいですけど」

それを聞いた榊が「め、面倒って……コンビニ袋って……」と呟いていた。翠さんが「諦めろ、こういうやつらなんだ」と耳打ちしている。

なにしろイモリから出た研究だ、榊もそれには大きな興味があったが、トロルの皮以上に手に入らない素材で諦めていた経緯があったらしい。

ともかく、これで、研究が継続できると嬉しそうだった。

会社の設立に関しては、三好がやってくれるそうだ。大丈夫なのかよと聞いたら、「会社の設立も丸投げで出来るんですよ、すごいですね」と言いやがった。そんなんでいいのかよ。

そうして、彼は、ぺこぺことバッタのように頭を下げながら、翠さんと帰っていった。

「変なひとでしたねぇ」

「うちに変でない人が来たことがあったか?」

「……そう言えばありませんね。類友ってやつですかね?」

ちろりと三好がこちらを見て、そんなことを言った。

「もちろん、類はお前だろ?」

「ええー? 先輩でしょ?」

俺たちは、類を押しつけ合いながら、事務所へと戻った。