軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§109 二人目の召喚者 1/26 (sat)

「なんか変な匂いがします」

10層へ降りたところで、小麦さんが、ふらふらと歩いているアンデッドをびくびくと眺めながらそう言った。

それはアンデッドフレーバーだな。ゾンビスメルってやつだ。

俺達も、初めて10層へ来たときは、まさかゾンビに匂いがあるなんて想像もしていなかった。

倒せば消えてなくなるくせに、ウロウロしている間はちゃんと腐臭がするなんて、無駄にリアルな設定は生理的に勘弁して貰いたかった。誰得なんだよ。

「先輩。ふたりともここでオーブを使わせるんですか?」

「そうだな。思ったより早く10層に到達できたし、いっそのこと18層でキャンプするのもいいだろ」

「あそこは今人が多いですから、割と安全かも知れませんしね」

「というわけで、オーブを使用するあいだ、アルスルズには、まわりのアンデッド退治をお願いしようかな」

「了解です」

っと、その前に――

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Name 六条 小麦

SP 8.27 -> 0.27

HP 26.80 -> 27.20

MP 83.60 -> 90.40

STR (-) 10 (+)

VIT (-) 10 (+)

INT (-) 48 (+) -> 52

AGI (-) 28 (+) -> 32

DEX (-) 20 (+)

LUC (-) 41 (+)

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Name 三代絵里

SP 8.26 -> 0.26

HP 36.00

MP 72.80 -> 85.60

STR (-) 20 (+)

VIT (-) 10 (+)

INT (-) 40 (+) -> 48

AGI (-) 20 (+)

DEX (-) 34 (+)

LUC (-) 12 (+)

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俺は、彼女たちが週末までに稼いでいたポイントを、それぞれの適切な場所へと割り振った。

その間に、三好は、オーブの使い方を彼女たちにレクチャーしていた。

「いいですか、こういう感じでオーブを掲げて、『俺は人間を辞めるぞ!』と言いながら使って下さい」

なにやってんだ、あいつ。

「じゃ、先輩。よろしくお願いします」

「ほいほい」

俺は下ろしたバックパックの中から、二つのオーブケースを取りだした。

「こっちが小麦さんで、こっちが三代さんかな」

「え? 私のもあるんですか?」

三代さんが驚いたように言うが、そりゃあるよ。

「クリエイトアローを実現するんでしょ?」

「ええ? 本気ですか?」

「違うの?」

そう言って俺は、彼女たちにオーブをケース毎渡した。

おそるおそるケースを受け取ったふたりは、それを慎重に開けると、中のオーブにそっと触れた。

「ええ!?」

そのオーブカウントに気がついた三代さんは、驚いて声を上げた。何しろその時間は、入ダンの数時間前なのだ。

流石に入ダンしてから後の時間じゃおかしすぎるので、調整しておいたのだ。

「これ、一体どこから……?」

「まあまあ、難しいことは後で考えるとして、まずは使って下さいよ」

「は、はい!」

三好に促された二人は、彼女のレクチャー通りのポーズを決めながら言った。

「「俺は人間を辞めるぞ!」」

いつもの通り、オーブは光になって、彼女たちの中に吸収されていった。

丁度その時、その叫びを耳にしたらしい、9層から降りてきた探索者のチームらしき一群が、歓談を駆け下りてきた。

「あ、あのー、大丈夫ですか? 何かトラブルとか?」

そう声をかけられて振り返った三代さんが、ひっくり返ったような声で返事をした。

「え? ええ!? 今の、聞いてました!?」

「はぁ」

「あ、あはははは、いえいえ何でもないです。別にトラブルとかじゃないですから」

いや、そのごまかし方は余計にうさんくさいよ、三代さん。何か怪しい宗教の儀式かなんかだと思われそうだよ……10層だしな。

やはり少し階段から離れておくべきだったか。

「なんでもないんならいいんですけど。何か困っていたら言ってくださいね」

探索者チームのリーダーっぽい男が、ハーレムパーティの男を見るような目つきで、俺に探るような視線を送りながらそう言った。

確かに女性3人+男1人だけど、実態は単なる荷物持ちなんですよ。

「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」

三代さんが重ねてそう言うと、リーダーっぽい人は、「そうですか」とだけ言って、チームを率いて11層への階段方向に、時々こちらを振り返りながら去っていった。

周りにいたアンデッドの連中は、そのチームにまったく興味を示さなかった。同化薬の効果って、こうしてみると凄いな。

「ああ、恥ずかしかった……」

「これで、もう犬ちゃんを呼べるんですか?」

マイペースな小麦さんが、今あったことを全スルーして三好に聞いた。

「大丈夫ですよ。重要なのはイメージと、あとは格好いいポーズです!」

いや、その後ろのやつ、本当に必要なのか?

三代さんは、三代さんで、ぶつぶつとクリエイトアロー、クリエイトアローと呟いていた。最初はありもんの、ストーンバレットとかを練習したほうが良いような気がするけれど、まあやる気になってるならいいか。

「それで、名前は考えてきたんですか?」

「もちろんです。それはもう、楽しみで、楽しみで、数日前から夜も眠れませんでしたよ! 会社で寝てましたけど」

いや、それ、だめなヤツだから。

GIJから愚痴来るのもわかる気がする。

「じゃあ、早速1匹目を呼びだしてみます?」

「はい!」

少し離れた位置に立った小麦さんは、三好に言われたとおり、格好いいポーズを取った。

三好とは少し違うな。

「イメージは、レンブラントのキリストの昇天です」

小麦さんは両腕を上げて、中空を睨みながら、しばらく集中するように間をおくと、気合いを入れて声を上げた。

「サモン! アヌビス!」

「はぁ?!」

ちょっと待て、アヌビスったら、黒犬の頭部を持った 人(・) 型(・) の(・) 神(・) 様(・) だろ?!

そして広がった魔法陣が、アルスルズを呼びだしたときの倍くらいあった。

「こ、このサイズ……まさか?!」

そうして魔法陣の中央に顕現したのは――

「はー、四つ足だ。一時はどうなることかと思ったぜ」

大きさ自体はカヴァス達と同じくらいだが、少し細面の真っ黒な犬だった。直立した大きな耳にふさふさした垂れ尾、そのくせコートはやや長めのスムースだ。

「先輩。一応、ヘルハウンドの召喚魔法なんですから。いくらなんでも心配のしすぎですよ」

「そうか? グラスたちのこともあるからな、イメージは侮れないぞ?」

カヴァス達の子犬サイズをモフりたい。ただそれだけで、子犬サイズのヘルハウンド?を召喚できてしまうのだ。

召喚は、それを行うもののイメージで、かなりの部分をカスタマイズできることは三好が証明していた。

いやもう、犬頭の人型が召喚されでもしたらどうしようかと思ったぜ。

「失礼なものどもだな。我を地獄犬などと同一視しようとは」

あれ? 空耳かな?

「三好、今何か聞こえたか?」

「いいえ。少ししゃがれたような震えたような、奇妙な発音の声なんか、ちっとも聞こえませんでしたよ?」

俺達は明後日の方を見ながら、アハハハと乾いた笑い声を上げた。

それを聞いた小麦さんが、おそるおそる、召喚したモンスターに話しかけた。

「アヌビス?」

「お前が我の主か。少々頼りなさそうではあるが……仕方がない、我の顎の下をなでる権利を授けよう」

「「「喋った!?」」」

俺と三好と三代さんは、同時に驚いた。

喋る犬とは、おそらく世界初だろう。知能は高そうだが、人権ならぬ 犬権(けんけん) ってあるのかな? シシシシシって笑いそうな権利だが。

「ちょっと驚きましたけど、カニド・ハイブリッドみたいなシルエットで格好いいですよね」

いや、ちょっとなのかよ。

確かにカヴァスたちも、俺達の言葉を完全に理解しているふしはあるが、流石に喋るところまではいかなかった。

もっとも三好のイメージに、犬が喋るって概念がないことも大きいだろう。何しろ子犬は、本当にケンケンって鳴いたのだ。

カニド・ハイブリッドは、犬科の種や亜種などの括りを越えて交配させて作り出された交雑種だ。

狼と犬を掛け合わせた、各種ウルフドッグや、ジャッカルとハスキーを掛け合わせたスリモヴ・ドッグあたりが有名だが、確かにシルエットは精悍で格好いいものが多い。

「ふむ。お前は見る目があるようだ。我の顎の下をなでる権利を授けよう」

そう言って、頭を三好に差し出すと、三好に顎の下をなでて貰って、満足そうな顔をした。

「いや、お前、ただなでて貰いたいだけじゃないの?」

「むっ。失敬な雄だな。貴様は失格だ。なでる権利を与えるわけにはいかんな」

失格って、なんの試験だよ。

「アヌビス。ほら、おいで」

「ほう。それは魔結晶ではないか。我が主はなかなか分かっておられるようだな」

とことこと小麦さんに近づくと、アヌビスは、出された魔結晶をぱくりと食べた。

最初に召喚したときに、食べさせて機嫌を取るといいよと、彼女にいくつか渡してあったのだ。

「ふむ。まるで骨のような、まあまあの味わいだ」

「へー、そういうのってわかるもんなのか。それってスケルトンの魔結晶なんだけど」

「無論だ。我ほどのグルマンであれば、生前の持ち主をあてることなど造作もない」

グルマンって、大食漢って意味じゃないだろうな。

しかし、ちょっと誉めただけで、妙に嬉しそうにしているな。なんだかこいつの扱い方が分かってきたぞ。

「お前の役割は、主を守ることだ。まあ、言ってみれば騎士のようなものかな」

「ほう、騎士か。いいではないか。主を守るというのは、我にとっても重要なことだからな」

「へー、やっぱりそうなのか?」

「ふ、やはり愚かで無知な雄は何も知らんようだな。我々召喚されたものは、主が生きている限りまず死ぬことはない。だが、主が死ぬと共に滅びてしまうのだ。一心同体とはこのことだな」

ああ、やはり召喚されたモンスターは死んでも再召喚できるのか。

何かのペナルティがないとは言えないから、できるだけそれは避けたいが。

小麦さんは、アヌビスの頭をなで回しながら、「じゃあ、アヌビス。これから私を守ってくれるのね」と言った。

「うむ。我に倒せぬようなものは、そうはおらんからな。安心して任せておけ」

アヌビスは、カッカッカッカと、喉に何かが詰まったような音を鳴らして笑った。……笑ったんだよな?

そもそも犬の発声器官で、人間の言葉を話してるってところがヘンなのだ。一体どうなってるんだ。

「じゃあ、小麦さん。2頭目を召喚しましょう。名前は?」

「もちろん決めてあります」

そう言って小麦さんは、レンブラントの昇天ポーズを取ると、大きくひとつ息をして言った。

「サモン! ガルム!」

今度も神話級かよ!

ガルムは北欧神話に登場する、冥界の番犬だ。ポジション的にはギリシア神話のケルベロスと同じだ。頭は1つだが。

展開された魔法陣の大きさは、アヌビスほどではないにしても、かなり大きい。

三好が召喚したときと違うのはステータスの違いだろうか。しかし子犬の時のステータスは小麦さんよりも高かった気がするし、やっぱイメージなのかな?

そうして、魔法陣の中から出てきたのは、今までのように黒一色ではなく、胸元に少し赤黒い毛が生えている大型の犬だった。

「あれが死者の乾いた血を表してるんですかね?」

「たぶんな。しかし、流石に今度は喋らないだろうな?」

「たわけ。我ほど優れたものが、そう何匹もいるはずがないだろう」

そう言ってアヌビスは、ガルムの前に歩いていった。

「ふむ。我の弟にあたるわけだな。仕方がない、我を甘噛みすることを許そう」

いや、そいつは召喚されたばかりとは言え、子犬とは言えないんじゃないのか?

ガルムは困ったように小麦さんを見たあと、おそるおそるアヌビスに近づいて、その首筋をがぶりと噛んだ。

「ぬっ、うぉおおおおおお。待て、ちょっと待て! 折れる、折れるうぅうう!」

子犬の甘噛みのうち、所謂じゃれ噛みは力の加減を間違うことも多いという。そこで反撃されて加減を学習するわけだが……

そもそもガルムは、軍神であるテュールをかみ殺した犬だぞ? 自分から噛まれに行くなんて、バカのやることなんじゃないか?

止められたガルムは、アヌビスをペッと吐き出した。

「くっ、貴様、兄に向かって良い度胸だ。いいか、甘噛みというのは、これくらいの力で――」

アヌビスは、がぶりとガルムの首に噛みつこうとしたが、ガルムはさっと身を引いて、それを躱した。

「おいおいアヌビス。もう諦めたらどうだ?」

「愚かな雄は黙っていろ。これは我々の矜恃と教育の問題なのだ!」

それを聞いたガルムは、さささと小麦さんの向こうへと移動して、彼女の後ろに隠れていた。もっともまるで隠れられてはいないのだが。

「ああいうのを見ると、カヴァス達と同じ種なんだと実感するな」

「そうですか?」

「あいつら、なにか嫌なことを頼まれそうになったり、怒られそうになったら、すぐにお前の向こう側にちょこんと座って嫌ですアピールをしてるじゃん」

「そういわれればそんな気も……」

三好は足下にいるグラスに目を向けた。

カヴァスとアイスレムは、まわりで近づいてくるアンデッドを狩りまくっているが、グラスは足下で三好の直接的なガードをしているようだ。

グラスは、そんなことありませんよ? と言わんばかりに首をふるふると振っている。

「……まあ、かわいいから良いですよね」

そう言って、三好はグラスを抱き上げた。

グラスは、ほっとしつつ、オメーは余計なことを言うんじゃねーよと、俺に向かってガンを飛ばしてきた。

ホントにこいつは俺に対する当たりが強い。他の5頭はそうでもないのになぁ。

その間も、アヌビスがガルムに色々言っているようだが、ガルムは噛まれるのが嫌らしく、小麦さんを中心にぐるぐると追いかけあっている。いずれバターになるに違いない。黒いけど。

「先輩。豚のローストにブールノワールかけて食べたい気分になってきました」

「だよな。レもいいぞ」

「エイの旬は夏ですよ」

地魔法の練習をしていた三代さんが、カヴァスとアイスレムの献身的な活躍の内側に作られた、あまりに平和な空間を見て、「ここって、10層なんですよね?」と呆れたように言った。

残念ながらバターにはならなかった二匹が落ち着いた後、小麦さんが呼びだしたのは、ライラプスだった。

ライラプスはギリシア神話に登場する犬で、どんな獲物も決して逃さないという『運命』を与えられた犬だ。

技能や力じゃなくて、運命ってところが恐ろしい。なにしろ最後は、誰にも捕まらない『運命』を持った狐を追いかけ、相反する運命の衝突を嫌った神様に石にされてしまうのだ。

神様にかかってしまえば、どんな矛盾でも、ゴッドパワーで楽々解決ってなもんだ。

小麦さんと戯れる3匹を見ながら、三好が言った。

「こうしてみると神話シリーズもいいですよね」

「召喚魔法持ちが増えたら、同じ名前の犬が大量に生まれそうだけどな」

「ああ!」

「どうした?」

「先輩! もしかして、ファリニシュを呼び出せば、水をワインに変えられるんじゃ!」

「あのな……」

ファリニシュは、トゥアハ・デ・ダナーンのルグの犬だ。毛皮に水を触れさせると、それがワインになる謎能力の持ち主なのだ。

ただ――

「それって美味いのか?」

「あー、そうか。熟成なんて概念が無かった時代のワインですもんね……いや、でも神々の飲み物ですよ?」

「向こうの食べ物を口にしたら戻って来れない、なんて話は一杯あるぞ?」

「うーん、ダンジョンと地球文化の類似性の話ですよね……やっぱ、やめときましょう」

「それがいい。フィクションには、神様が地球の食べ物でたぶらかされる話が溢れてるしな」

そうして最後に小麦さんが呼びだしたのは――

「サモン! クー!」

クー? そんな犬、神話にいたか?

「三好、知ってるか?」

「犬にかかわるクーって言ったら、クー・フーリンでしょうか?」

「いや、それって人間じゃないの?」

「他には心当たりがありませんね。中央アジアやアフリカみたいにマイナーな地域の神話だったりしたら、絶対分かりませんよ」

そうして呼び出された犬は、今までとはまるで毛色の違うタイプだった。

大きさは、大きいとは言え、ジャーマンシェパードなんかと大差ないだろう。所謂普通の大型犬だ。

「どう見ても黒ラブですよね?」

「なんだそれ?」

「黒のラブラドール・レトリバーです。ほら、垂れ耳で骨太、ショートコートでオッターテイル。まるっきり、そのものですよ」

召喚されたクーは、すぐに小麦さんの所へ行くと、彼女の側に寄り添うようにして立ち、体をこすりつけた。

小麦さんは、その犬を見て、感慨深そうにしゃがんでじゃれていた。

「小麦さん。クーって?」

「クーは、昔、うちで飼ってた黒ラブなんです」

「え、大型犬を飼ってたんですか?」

「はい。ずーっと昔ですけど」

そう言って、小麦さんは立ち上がって膝をはたくと、クーにまつわる話をしてくれた。

「私がまだ小さかった頃、父が英国人の友人から、犬の子供を分けて貰って連れて帰ってきたことがあるんです」

「その時、父はその友人にクーを貰ってくれないかとお願いされたため、それが犬の名前なんだろうと、新しく名前をつけずにそのままクーと呼んでいたんですが――」

「しばらくして、その方が家を訪ねてきたとき、犬の名前を聞いて変な顔をしたんです」

よくよく話を聞いてみると、クーというのは、ゲール語で犬を意味する単語だったらしい。

キャンベルタウン出身のその友人は、犬のことをついゲール語で表現していたのだ。

「自分があげた犬の様子を見に来てみれば、その子犬が『イヌちゃん』と呼ばれていたんですから、そりゃ、変な顔にもなりますよね」

「先輩と同じセンスの人がいましたよ」

「いや、これは偶然だろ? センスというレベルの話じゃないだろ」

全てが明らかになったとき、皆で爆笑したわけだが、すでにクーは、自分の名前がクーだと思っていたこともあって、そのままにしておくことになったのだそうだ。

「クーといって、イヌという意味だと気がつく日本人はほとんどいないだろうからななぁ」

「まあ、考えてみれば、ペスとかペロとか、クオンとかゴウなんて犬は普通にいそうですよね」

「それ全部犬なんですか?」と三代さんが聞くと、小麦さんが首をかしげながら言った。

「ペスはチェコ語で、ペロはスペイン語ですよね。クオンはポルトガル語っぽいですけど、ゴウは……なんでしょう?」

「さすがは、世界を股にかける鑑定家。因みにゴウは中国語です」

「そうだな。フランス語のシアンとか、イタリア語のカーネあたりもいてもおかしくないよな」

「クーは、私が大学へ行って、実家を離れていたときに亡くなってしまったので、あんまり死んだっていう意識がなくって……」

死に目にもあえず、死体も見ていないのだと言う。

それで、今回イヌの召喚という話を聞いたとき、1匹はクーにしようと思ったのだそうだ。

「でも、こんなにそっくりなのが出てくるなんて……」

そう言って小麦さんは複雑な顔をした。

そりゃ小麦さんのイメージだから、そっくりにもなるだろう。

「昔の飼い犬の名前をつけるのは構いませんけど、その子ばっかり可愛がってると、他の従魔が嫉妬しますから気をつけてくださいね」

「え、本当に?」

「アルスルズなんて、平等に扱わないと、すぐにすねますよ」

まあ、そのおかげで入れ替わり影渡りなんて非常識なスキルを使うようになったと思えば、決して悪いことではないのだが……

「失敬な。我はそんな安っぽい従魔ではないぞ」

そう言ったアヌビスの後ろで、ガルムとライラプスがコクコクと頷いていた。

「ま、気持ちの問題だよ」

俺はそう言って、アヌビスの頭にぽんと手を置いた。

「ぬぅ。無能な雄の癖に、気楽に触れおって……」

「そうだ。お前、俺達以外の人間がいるところでは喋るなよ?」

「どうしてだ?」

「いや、どうしてって言われても……地球の犬は、普通喋らないからだ」

「我は地球の犬じゃないぞ?」

「まあ、そこは色々と問題があるんだよ。主様からのお願いってやつだ」

それを聞いてアヌビスは、小麦さんの方を向いた。

小麦さんが頷くのを見て、アヌビスは仕方なさそうに言った。

「そういうことならやむを得んな」

そういってアヌビスは、そっぽを向いた。