軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話:開かれた門に回れ右*7

そうして翌日。

僕らは揃って、アージェントさんの家へ向かった。

アージェントさんはフェイが一緒に来た事に驚いたらしいけれど、とりあえず断る理由もないと思ったのか、一緒に通してくれた。

通された先の応接室で、僕はソファに座る。

僕の隣にフェイとクロアさん。ラオクレスは少し離れた位置。……大丈夫だ。皆居るし、僕はちゃんと、言いたいことを言える。

「結論は出たかな?」

アージェントさんはそういいつつ、僕をじっと見る。その視線に気圧されそうになりながら、でも、僕はちゃんと、言わなきゃいけない。

「僕、あなたとすれ違っていると思うんです。多分、僕が望んでいることとあなたが望んでいることは違っていて……」

あなたと僕は違う生き物だって、伝えなきゃいけない。

「だから、その確認をさせてください。僕らが互いに違うものを考えているっていう、確認を」

アージェントさんは意外そうな、不思議そうな、そんな顔をしていた。興味深そう、というようにも見える。或いは、それら全部が演技で、単に煩わしいと思っているだけかもしれないけれど。

「ふむ。確認、か。君の不安を取り除くためなら必要なことなのだろうな。何を確認したい?」

「まず、あなたが僕に何を望んでいるか、です」

僕がそう言うと、アージェントさんは少し首を傾げながら、答えてくれた。

「何を望むか、と言われれば、まあ、絵師として絵を描いてほしいと思っているとも。そして願わくば、広く名を知られる絵師となり、王城に絵を飾るようになり……絵師として成功してほしいとも願っている」

アージェントさんはにっこり笑ってそう言ってくれた。

完全な善意だ。多分。

……だからこそ、僕らはすれ違っている。

「その、僕、絵を売りたいとも、名を売りたいとも、思っていないんです」

僕がそう言うと、アージェントさんは明らかに、狼狽した表情を見せた。

「……売りたいと思わない?」

彼は、『絵を売ってほしい』とは言わなかった。ただ、地位の話や知名度の話しかしていないけれど……どうやら予想通り、アージェントさんは『絵を売る』ことを『当たり前のこと』だと思っているらしい。

多分、絵は売れれば売れる程良くて、それ以外のことってあまり関係無いんだろう。

「僕は1日に1回くらいご飯を食べられて、森の中で暮らしながらずっと絵を描いていられればそれでよくって……別に、売れなくてもいいんです。ただ、絵を描いていたい」

僕がそう言うと、アージェントさんはちょっと、理解が追いついていないような顔をした。真剣に僕の話を聞いているふりをしながら、その裏で、必死に僕の言葉の意味を考えている。そういうかんじだ。

「……それから、もっと我儘を言っていいなら、僕の絵を好きで居てくれる人のために絵を描きたい。だって、僕は絵を描くことが好きで、描いた絵も好きだから。だから、描いた絵を買ってもらえるのは嬉しいんですけれど、でも、売るために描いている訳じゃなくて……絵を評価してもらう方法がお金だっていうだけなんです」

伝わっているだろうか。すごく不安だ。

アージェントさんは思考を巡らせているのだろうけれど、それってつまり、考えてくれているっていうことだろうか。僕の言葉を理解しようとしてくれているんだろうか。

それとも、それより先に、僕をどうしようか考えているだけなのかな。

「それから僕、地位も特に欲しくないんです」

「……それは何故だ?」

何故、と言われると、困る。けれど、僕には地位が必要無い。それは、居心地が悪いからだろうし、地位が無くても幸せに暮らせる方法が見つかってしまっているからかもしれない。

……でも結局は、『地位』が、『評価の塊』だからなんだろう。

「地位を得るっていうことは、評価されるっていうことだと思うんですけれど」

「……そうだな」

「評価って、『ここに居ていいぞ』っていう許可だって、僕の先生に教わりました。僕も、そう思っています」

僕がそう言うと、アージェントさんはまた、僕の言葉を理解しようとし始めた。なので僕は少し待ってから、続きを言う。

「居場所をもらうっていうことは嬉しいことで、ありがたいことです。僕はレッドガルド領に居場所を貰って、それから、フェイの心の中にも居場所を貰って、すごく、居心地がいいんです」

「……そうか。なら、より多くの『居場所』があった方がよいのではないか?」

「でも、どんなに居場所を貰っても、そこに居たいかどうかはまた別みたいなんです。僕……高いところは、あんまり好きじゃないみたいで……地位を貰ってしまったら、多分、得られる評価って、『高いところ』のものばっかりになってしまいそうで、それはちょっと、僕向きじゃないんです」

僕、高いところよりは狭いところが好きだ。隙間に入ると落ち着く。……管狐みたいだな。僕。

「色んな居場所があった方が、いいのかもしれない。あって困るものでもないのかも。でも僕は、それを特に必要としていなくて……『あってもいい』って、『無くてもいい』わけで、つまり、僕は、地位っていうものに魅力を感じていないんです」

アージェントさんの表情にちょっと、焦りみたいなものが見える。それを誤魔化すみたいに、アージェントさんは部屋の隅に居たメイドさんに言って、お茶の準備をしてもらうことにしたらしい。メイドさん達がお茶の準備を進める傍らで、僕は一番言いたいことを言う。

「それから、どうしても、納得いかないことがあって」

「……なんだね」

「あなたがどうして僕を評価してくださったのかが分からないんです」

「……理由は昨日も聞いていたな」

「はい」

「その時の返答では納得できなかった、ということかね?」

アージェントさんの言葉に、頷く。

そうだ。僕はあれじゃ、納得できなかった。

「僕は絵師です。絵を描く人だから、当然、僕の評価は絵の評価なんだと思いました」

僕がそう言うと、アージェントさんは『当然だな』というような顔で頷く。

「でも、あなたからの評価は、絵の評価じゃなかったので……」

「……絵の評価ではなかった?」

多分、ここが一番大きなすれ違いだったんだ。

アージェントさんは、不可解そうな、そういう顔をしている。確かに絵の評価を述べたはずだ、というような。

……でも、僕が聞きたかったのは、それじゃないんだ。

「『どうして僕にこの話をくれたんですか』って聞いた時、僕の絵が他の人にどう評価されるかは話してくれたけれど、絵自体のことは言ってくれなかった。僕の絵の、何が良いと思われたのか、どこが気にいられたのか、分からなかったんです」

そこでようやく、アージェントさんは、僕らの間の齟齬に気付いてくれた。

「それは、ちょっと寂しかった。アージェントさんは僕の絵を見て『これならいける』って思って下さったんですよね。でも、それは僕が聞きたかった『絵の評価』じゃなくて……それって、『絵を売る話』であって、『絵自体の評価』じゃなかった」

僕がそう言った時、アージェントさんの目には明らかに動揺の色が走った。

……多分、昨日言った『僕には重いお話なので』よりもずっとちゃんと、僕の気持ちが、伝わってる。

「『見てると落ち着く』でも『色合いが好き』でも、何なら『よく分からない』でもいいから、絵について何か思ってほしい。絵の先にあるものじゃなくて、絵を見てほしいんです。僕が欲しいのはそういうものなんです」

「あの、もう一度、教えて下さい。アージェントさんは、僕の絵を見て、どう思われましたか?」

アージェントさんはしばらく、黙っていた。優雅にお茶のカップを傾ける様子は余裕たっぷりに見えたけれど、その裏で、何かを必死に考えているようにも見えた。

……僕がどきどきしながら、アージェントさんの言葉を待っていると。

「……アージェント様。その、差し出がましいようですけれど」

そこへ、フェイが口を挟んだ。

「あなた、トウゴの絵、見てないですよね」

アージェントさんが、凍り付いたように固まる。瞬きもせず、じっとフェイを見て……それから、僕の視線に気づいて、僕をちらりと気まずげに見る。

……そっか。この人、僕の絵、見たことなかったのか。

すとん、と納得がいった。それなら、なんというか……まあ、さっきまでの対応も、分かる。必死に考えていたのは、嘘を考えていたからか。うん。だって、見ていないものの感想は言えない。

「きっと、噂だけお聞きになったんですよね。ちょっと珍しい絵を描く絵師が居る、って。それで、それだけでトウゴに声を掛けた」

フェイがそう言っても、アージェントさんから否定の言葉は何も無かった。

ただ、アージェントさんは黙ったまま、時間が流れていって……。

「……だとしたら何だと言うのかね?」

そうしてようやく発された言葉は随分と不機嫌そうで、僕は怯みそうになる。

でも、ここで怯むべきじゃない。

「僕は絵師です。評価は絵に欲しいんです。……そういう評価、そういう居場所が貰えないなら、ここはやっぱり、僕の居たい場所じゃない。だって僕は絵師であって、飾りものじゃないから」

アージェントさんは少し気まずげな眼をした。僕の絵を見ていないことに対して、かな。上手く言いくるめられなかった事を後悔しているのかもしれない。けれど、彼が何か思ってくれたなら、僕の言葉は無駄じゃない。

「あなたが出してくださった条件にあったもの、全部、僕が欲しいものじゃなかったんです。お金でも地位でも、僕、満足できない」

不満というよりは、満足できない。……あれ。これを不満って言うんだろうか?

……アージェントさんは椅子の背凭れに体を沈めると、ちら、とフェイを見る。

「レッドガルド家から何か、吹きこんだのかね?」

「いいえ。特に何も。……ただ、うちの絵師がお話しするにあたって、レッドガルド家の者が1人も臨席しないというのは失礼かと思いまして」

フェイはそつのない受け答えをして……それから、ちょっと表情を崩した。

「ついでに俺の親友が大物の話を断るっていうもんですから、まあ、俺も腹括るかな、と思いまして。こいつ1人で断らせるのもどうかと」

その表情に、僕は元気をもらう。アージェントさんは元気を吸い取られたみたいな顔をしているけれど。

「あの、アージェントさん」

貰った元気を使って、なんとか、僕は伝える。

「やっぱり、今回のお話はお断りさせてください。僕にはあんまりにも重たいお話です。重すぎて、歩けなくなってしまいそうだから」

それからまた、アージェントさんは黙っていた。

……そして彼がもう一度口を開いた時、その声は随分と冷たかった。

「……実に残念だ。君はもっと賢いかと思っていたのだが」

「はい。僕、あんまり賢くないです。あなたが望む形をした生き物じゃないんです」

失望されたんだな、と思いつつも、それがちょっと嬉しい。

失望されるっていうことは、分かってもらえるっていうことだ。僕がどういう生き物なのか……アージェントさんの望む形をしていないっていうことを、ちゃんと分かってもらえたっていうことだ。

だから、嬉しい。

失望される勇気も無かった僕から、一歩前進だ。

……諦めてもらえることって、悪いことじゃない。僕が生きていくためにきっと、必要なことなんだ。僕は望まれたような形にはなれないみたいだから。

アージェントさんは僕の返答がちょっと意外だったのかもしれない。僕が『失望された』ってしょんぼりすることを期待していたのかもしれない。

「覚えておくといい。君程度、幾らでも代わりは居る。君の絵にも大した価値は無い。それを、まるで大物画家ぶったような口を叩くとは。身の程知らずもいいところだな」

最初と言っていることが変わってきたけれど、多分、こっちがアージェントさんの本心なんだろう。

本心を言ってくれるようになったんだから、これも一歩前進だ。

「はい。あなたにとって僕の代わりは沢山居ると思います。僕はそんなに絵が上手い方じゃないと思う。少なくとも、プロとしてちゃんとやって居る人達と比べたら、当然」

僕が答えると、アージェントさんは鼻で笑う。うん。まあ、僕の絵の腕は鼻で笑われる程度だよ。

「だから僕は、『お前の代わりは幾らでもいる』って言う人よりも、『代わりは居ない』って言ってくれる人のところに行きたい」

でも、鼻で笑われるような腕の絵でも、気に入ってくれる人が居るから。そして、僕はそれが嬉しいから。

「なら一生辺境に居るがいい。……後悔するぞ。君は決して成功できん」

「僕は、僕を成功させてくれる人より、僕が失敗した時に一緒に笑ったり悔しがったりしてくれる人がいい」

僕の隣で、フェイがちょっと反応する。

フェイはそっと僕を見て……それから、にんまり、笑った。それが嬉しいので僕の顔も緩む。

それからアージェントさんは、僕を『まるで理解できないもの』を見る目で見て、ため息を吐いた。

「ふん。そんな覚悟で生きていけると思っているのか?」

「生きていけないなら死んでもいいって思っています」

そして僕が答えると、アージェントさんは一瞬、ぎょっとした。僕を見る目が『まるで理解できないものを見る目』から『得体の知れないものを見る目』ぐらいに変わった。なんなら、『人間ではないものを見る目』だったかもしれない。

……そんな目を向けられるのは、別に悪いことじゃない。僕が得体の知れない、人間じゃない何かだって……全く分かり合えない相手だって分かってもらえたんだから、これで正解だ。

「僕は、僕が生きていける場所で生きていたいんです。だから、今回のお話はお断りさせてください」

僕は改めてそう言って、絶対に分かり合えない人へ、深くお辞儀した。

「……ふん。構わんよ。儂とて、成功する気概も無い者に手を掛けてやる暇はないのでな」

アージェントさんは不機嫌そうにそう言って、それから、フェイを睨んだ。

「レッドガルドの倅だと言ったな、お前は」

「はい」

フェイはそれに姿勢を正して、緊張した表情を浮かべる。

「分かっておるだろうな?お前は……」

「あの」

緊迫した雰囲気の2人の間に割って入るように、僕はちょっと、手を挙げた。

「……なんだね」

突然割り込んできた僕に勢いを殺がれたみたいに、アージェントさんはちょっとげんなりした。フェイは、はっとしたような顔をする。うん。緊張が解れたなら、何より。

「その、アージェントさん」

そこで僕は、多分、フェイが言えないことを、代わりに言うことにした。

「僕がこのお話、お断りしても、レッドガルド家に意地悪なこと、しないですよね」

「……は」

アージェントさんはいよいよ、虚を突かれた、みたいな顔をした。

「レッドガルド家を仲間外れにしようとしたりとか、レッドガルド領を困らせようとしたりとか、しないですよね」

僕が続けて聞くと、アージェントさんは、何も言わずに目を見開いている。

「……あの、しないでくださいね?」

心配になって確認してみたら、アージェントさんは……。

「……ば、馬鹿馬鹿しい。一体、何を」

「そういうことする人も居るって聞いていたので……」

確認しておくのは大事だ。ついでに、『僕が断ってもフェイに意地悪なことしないでほしい』っていう要求を伝えるのは大事なことだと思う。うん。

……ふと隣を見たら、フェイがぷるぷるしていた。笑いを堪えているらしい。

「な……おい、フェイ・ブラード・レッドガルド君!これは……」

「いや、申し訳ありません!アージェント様!」

やがて、フェイは笑いながら頭を下げた。ついでに僕の頭も押して下げさせた。なので僕も素直に下がる。

「こいつ、前にそういう話をしたらそれが心配になったみたいで!……おいおい、トウゴ!そういうやっかみ方すんのは三流の奴らだけだぜ?アージェント家みたいな超一流がそういう嫌がらせとかする訳がねえだろ?な?」

「……そっか」

なんだ。そういうことか。心配しなくてよかったのか。

よかった。安心した。フェイもこう言っていることだし、アージェントさんがレッドガルド家に嫌がらせは、しない……のかな。ならよかった。

「それならよかった」

「おう。よかったな。アージェント様の寛大さに感謝しねえとな」

「うん。ありがとうございます」

……アージェントさんは、なんというか、その、困った顔をしていた。うん。

ええと……ありがとうございます。うん。

アージェントさんは黙っていた。ちょっと困った顔をしながら、じっと、一生懸命、僕らを睨んでいた。

ちょっと怯みそうになるけれど、僕は気持ちを変えられないから、真っ直ぐ見つめ返すしかない。

……その時だった。

「そうだ。アージェント様。あなたはトウゴの絵、ご覧になってらっしゃらないんですよね?」

フェイが唐突にそう言う。するとアージェントさんは当然のように不愉快そうな顔をする。まあ、自分の失態を何度も言われたら、ちょっと嫌だろう。

……けれどフェイはそんなアージェントさんを気にせず、ソファの後ろに置いた荷物をごそごそやり始めた。何か不審なものでも出すのかと思われたらしく、周りの護衛の人達が一斉に身構える。……けれど、フェイが出したのは、額縁だ。

「折角だから、ちゃんと見て頂こうと思って。持ってきました!」

フェイが満面の笑みで出したそれは、僕が描いた絵だ。森のやつ。フェイの家に飾ってあった奴だ。

……多分、ここで初めて、アージェントさんは僕の絵を見た。

森を描いた水彩画だから、大して珍しくはない、と思う。『代わりは幾らでもいる』っていうのも正しい。

けれど……ふと、絵を見ていたアージェントさんの表情が、動いた、気がした。

……アージェントさんは結局何も言わなかった。けれど、これで十分だ。

ちょっと表情を動かした。僕の絵を真剣に見てくれた。一瞬でも引き込まれてくれたんだったら、これで十分だ。

……欲しかったもの、貰えてしまった。嬉しい。

僕らはそのままの勢いで、アージェントさんの家を後にした。

そうして宿へ戻って……ラオクレスが窓の外と廊下、クロアさんが室内を何か確認して……そこで、クロアさんが笑い転げる。

「この世で最も賢い嘘は無邪気、とはよく言ったものだわ!本当に!」

どういうことかな、と思っていると、クロアさんは、突然、ぎゅう、と僕を抱きしめた。……えっ。

「あ、あの、クロアさん」

やわらかい。あったかい。おちつかない!

「ふふ、素敵な精霊様ですこと!権威に向かって一直線、開かれた門の前で回れ右して、そのまま帰ってきちゃうんですもの!」

そのままクロアさんは、僕ごとくるくる回り始めた。……この人、大分森っぽくなったなあ。

「……まさか、ああ出るとはな」

ラオクレスは僕を見て、呆れたような、気の抜けたような笑顔を浮かべた。ラオクレスは最初にあった頃よりも柔らかくなった。石膏像っぽくないけれど、これはこれで良い。

「アージェントもあれは予想していなかったと見える。随分と困っていたな」

うん。なんだか困った顔をしていた。もしかしたら、酷いことをする予定だったのかもしれない。だとしたら、ちゃんと『やめてください』って言ってよかった。

「……アージェントさん、レッドガルド領に酷いこと、しないでくれるだろうか」

「いやあ……まあ、目立つような嫌がらせはしにくいだろ。ああ言われちまったらよお……」

そっか。ならよかった。ちゃんと言葉にするって大切なことだ。うん。

「……あれ。もしかして、目立たない嫌がらせはされるってことだろうか」

ところで、さっきフェイが言った言葉を反芻していたら、そこで引っかかった。……いや、まさか、そういうことってある?

「まあ、そうだろうなー……うん」

あるらしい。目立たない嫌がらせはされるらしい。

それはよくない。目立たない嫌がらせってどういう奴かは分からないけれど、それはよくない!

「ま、そりゃあしょうがねえよ。うん。レッドドラゴンが来てくれた時から覚悟してる」

「でも……」

「なーに、お前のせいじゃねえよ!元々アージェント家だって、レッドドラゴンには興味があっただろうしな。やっかんで僻んで、うちを潰そうとしていたって線は十分にある。それがたまたま今回のことが引き金になって顕在化するかもしれねえ、ってだけだ」

……そうか。うん。レッドドラゴンって、やっぱり珍しいんだな。皆が欲しいみたいだ。多分、アージェントさんも欲しいのかな。ドラゴン。

「ってことで、レッドガルド領の警備はしっかりやらねえとな。何されるか分からねえし。クロアさん、なんか思いつくもの、あるかぁ?」

「そうね、社交界で針の筵になる程度ではないかしら?」

「そっか。ならトウゴ連れてきゃ大丈夫だな」

大丈夫じゃないよ。なんで大丈夫だと思ったんだよ、フェイは。

「後は、呪いをかけられるとか?」

「それは精霊様のご加護に期待するっきゃねえなあ」

無理だよ!あんまり期待しないでほしい!

「……ま、後は出たとこ勝負だ。もし色々やられたら、その時はその時。一緒に悩んでくれよ?トウゴ」

「うん。僕にできることなら何でもする」

アージェントさんが何かしてきたなら、その時対策しよう。その時は一緒に悩もう。

うん。きっと何とかなる。今ならなんだってできる気がする。

……あまりよくないことだけれど、何かあるのが、ちょっと、楽しみかもしれない。