軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話:変な生き物とたけのこ監視隊*4

「今度は何を描いている?」

「管狐」

「……それは何だ?」

「ええと、竹の筒の中に入るのが好きな生き物、らしいよ」

ラオクレスに説明しながら、僕は管狐の絵を描いていく。

……管狐について、僕が知っていることはそんなに多くない。先生の家で読んだ本が知識のほぼ全てだ。

確か、先生の家で読んだ本によれば、『管狐』というものは、狐というか、妖怪というか、まあ、そういう生き物らしい。

それで、管狐を扱う一族に憑く……らしい。うん。そう考えるとちょっと怖い気がしてきた。

でも、管狐は人に使われる生き物らしい。その一族のお手伝いをしてくれる、みたいな内容が書いてあった気がする。

……けれどまあ、狐だ。要は、狐だろう。竹筒に入るくらい小さくて身軽ですばしっこくて、それで、人の役に立つ生き物。で、狐。

あと、竹筒だけじゃなくて、マッチ箱に入る、みたいな言い伝えもあった気がする。あと、1匹が64匹だか75匹だかに増える、みたいなことも書いてあった。……分裂するんだろうか?

先生の家の本には挿絵があまり無かったから、『管狐』も僕の想像でしかない。あんまり詳しくないから、かなり想像が入る。鳳凰より入ってる気がする。

「うーん……管狐って、どういう生き物なんだろうか」

「……よく分かっていないのにそいつを召喚獣にするのか」

ラオクレスが『よく分からない』みたいな顔をしているけれど、うん。

よく分からなくても、管狐を出したい理由がある。

まず、凄く大切な問題なんだけれど……『隠れるのが得意なやつ』は、すごく重要だと思う。

思い出されるのは、フェイが召喚獣の入った宝石を捨てさせられていたところだ。僕もあの状況になったら困る。ああなる前に助けを呼んだり、或いは、ああなってしまってから助かるために動いてくれるやつが居ると、とてもいいと思う。

……ただ、どんなに隠れるのが得意な召喚獣でも、ちょっと問題がある。

この世界の召喚獣って、宝石に入っているから。

フェイも、宝石を捨てさせられていた。要は、『宝石が武器だ』と分かっているからだ。だから、召喚獣の存在自体を隠しておく事はできない。つまり、何か危険な状況になった時、召喚獣に隠れて何かやってもらおうとするなら……ええと、フェイが宝石を捨てさせられた時みたいになる前に召喚獣を出して、隠れていてもらって……っていうことになる、のかな。

……現実的じゃないよなあ。できれば、牢屋に入れられてしまった後にも一緒に居てもらえるような奴がいいんだけれど。なら、フェイが靴の中にナイフを隠しておいたみたいに、宝石を靴の中に入れておけばいいんだろうか?それ、召喚獣としては、嫌じゃないんだろうか……?

……ということで、考えれば考える程『隠れるのが得意な生き物』の条件が難しくなっていく。宝石に入っている以上、『隠れる』より先に『隠しておく』のが難しいからだ。

だから、宝石じゃないものに入っていてくれる生き物がいれば、とても隠しやすいと思う。隠れてもらうのもいいけれど、僕が隠しておきやすい生き物だと、もっといい。

だから、宝石じゃなくて竹筒に入っていてくれる管狐はピッタリじゃないかと思ったんだけれど……。

「……狐って信仰の対象なんだよ」

「そうなのか」

うん。お稲荷様とかあるから。管狐っていうか狐って、ある意味、神話の生き物でもあるんじゃないかと思う。

「あと、尻尾が9本ある狐が居た気がする」

「9本か」

……長生きした狐って尻尾が分かれるんじゃなかったっけ。力が強い狐だっけ。あれ?それ、猫だっけ……。

あと、いい狐は尻尾が9本。うん。そんなの、どこかで読んだ気がする。つまり、尻尾が9本の狐を描けば、強くていい狐が出てくるんじゃないだろうか。強くいてくれる分には管狐自身の安全が守られていいことだし、いい狐が出てきてくれたら仲良くやれるだろうし……。

「それから、狐火っていうのがあったはず」

「狐が火を熾すのか」

「火っていうか、火の玉……?」

土葬の墓地で燐が発火していたものが狐火だって言われるようになった、っていう説もあるけれど、でも、少なくとも伝説の上では、狐は火を使う。はずだ。多分。……少し自信が無くなってきた。

「あと、白い」

「……白い狐なのか」

管狐って白い狐じゃなかったっけ。うん、確か、そうだった気が……。

……あと、管狐って何を食べるんだろうか。やっぱり油揚げ?少なくとも、竹の実とかじゃあなかったと思う。ええと、多分狐って雑食、だよね……?

とりあえず、そういうことで管狐を描いた。

白くて、小さくて、すばしっこそうで、尻尾が9本あって、多分神通力とかが使えて、筒の中に入るのが好きな生き物。もしかしたら、狭いところが好きなのかもしれない。

それから、人に頼まれて仕事をしてくれるやつで、気の良い生き物で……。うん、そんなかんじだ。

「可愛らしい生き物なんだな」

「ええと……僕の願望が入っているのは多分、否めない」

なんというか、『憑りつかれる』とか、そういう怖いやつではない管狐に出てきてほしい。うん。完全に僕の願望だけれど……。

それから……僕の想像が、正しく『管狐』になっているのかは、怪しいけれど……。

仕上げの直前に、竹を伐採した。1本なら切っても大丈夫だ。多分、その内また生えてくるし。

「ここで切って筒にしてほしい」

「ああ」

切るのはラオクレスがやってくれた。小ぶりな斧を鋭く振って、竹をあっさり切断してくれる。断面は滑らかだ。ラオクレスに頼んでよかった。

そうして竹筒ができたので、管狐が入るところもできた、ということになる。一応、どんな竹筒が気にいるか分からないので、幾つか用意しておくことにした。でも、すごい竹の竹筒だから、きっとどれかは気に入ってくれるんじゃないかな。

それから念のため、宝石も準備しておく。水晶と、エメラルド。

……エメラルドは、ほら、竹と色が似ているから。なんとなく。

そうして僕は、管狐を描き上げた。どんな生き物が出てくるか、ちょっと不安な気持ちもあったけれど、それ以上に、未知の生き物が出てくるのが楽しみだった。

……そうして、画用紙の中で白い尻尾がふわふわ揺れたように見えた、次の瞬間。

大きな尻尾を振りながら、小さな狐が出てきていた。

「……管狐?」

僕が尋ねると、その狐は僕の手の上で胸を張った。ついでにふわふわの尻尾を見せびらかすように大きく広げる。うん、尻尾は9本ある。このせいで、この狐は体よりも尻尾の方が大きいような、そういう狐になってしまっている。

尻尾と体がちょっとアンバランスで、そこがなんとなくかわいい。

「ええと……うわ、ちょ、ちょっと待って!ど、どうしたんだよ」

けれど、流石に慌てた。だって管狐が、僕の手からするする登っていって……僕のシャツの袖の中に、潜り込み始めたから。

まさかそんなことあるだろうか、と思ったんだけれど、実際、僕の袖の中に入ってしまった。ええと……袖の中に入れる大きさだった?小さな体だったとはいえ、流石に、袖の中に入られたら袖がいっぱいになりそうな気がするんだけれど……。

……でも、僕の腕にはふわふわした感触があるのに、袖がパツパツになっていたりすることはなかった。うーん、やっぱり不思議な生き物だ。

それから一頻り、僕は管狐のおもちゃにされていた。

シャツの袖の中を通って、シャツの中を通って、シャツの裾から出てきた。

次に僕の脚を伝って地面に降りて、そのまま僕のズボンの裾から入って、僕の脚をくすぐりながら登ってきて……そして、僕のお腹とベルトの間から、出てきた。

「……流石に、そこから出てくるのって無理があるんじゃないかな」

どう考えても管狐の体が通る隙間じゃなかったと思うんだけれど、不思議なことに、管狐はその隙間を通り抜けてきた。最終的にまた僕の手の上に戻って来て、そこで尻尾を振り始めた。

うーん……どうやら管狐って、狭い隙間に潜り込む才能があるらしい。もしかしたら、体が液体になってたりするのかもしれない。そこはまあ、ファンタジーの生き物だから納得するしかない。

「君の住処を用意してみたんだけれど……どれがいい?」

それから僕は、管狐の前に竹筒や宝石を並べてみることにした。

すると管狐は、迷うことなく竹筒の中で一番小さな奴に潜り込んでいってしまった。

「……どう見ても、体が収まりきらない大きさの筒だったはずだが」

「うん……筒ならどこにでも入れるのかもしれない」

ラオクレスと僕が揃ってみていると、小さな竹筒の中から尻尾だけがぴょこんと飛び出して、ふわふわ揺れた。うーん、どういう仕組みなのか、さっぱり。

……結局、管狐は竹筒1つと、宝石1つを選んだ。けれど、その上で、入るのは竹筒にしたらしい。今は見事に竹筒の中に納まってしまっている。

どうやら、竹筒の他に宝石も欲しかったらしい。なんだろう。竹筒は別荘みたいなものなんだろうか。

「出ておいで」

けれど、僕が呼びかけると竹筒から出てくる。そして、僕のシャツの袖の中へ入ってきた。

……うーん。

「もしかして、竹筒よりも、袖の方が好き?」

僕が聞いてみると、管狐は袖から飛び出してきて、まるで『そうだ』と言わんばかりに元気よく、こん、と鳴いた。

そうか。管狐って、『こん』って鳴くんだなあ。うーん、想像通りすぎて、ちょっとびっくりした。

「ええと、でも僕の袖の中にずっと入っていられると、くすぐったいので……」

どうやら管狐は、ある程度の筒状の何かなら何にでも入る、らしい。けれど、僕の袖の中に居られると、こう、くすぐったいので……普段は宝石か竹筒の中に入っていてもらうことにしよう。

それから僕は、管狐の食事の用意をした。

狐は雑食だったはずなので、とりあえず、果物と竹の実を用意した。あと、油揚げ。描いて出した。

……すると、特に問題なく全部食べた。ただ、竹の実だけは一口齧って『なんだこりゃ』みたいな顔をしていたので、多分、気に入る味じゃなかったんだろう。それを見た鳳凰が『美味しいじゃないか』みたいな不思議そうな顔をしていたけれど、まあ、好みは人それぞれだ。うん。

それから僕は急に眠くなってきたので、大人しく寝ることにした。多分、魔力切れだ。だからいつも通り、ハンモックの上で寝る。

「おやすみ」

僕が寝ると、鳳凰が飛んできて僕の横に収まった。

更に、僕のシャツの袖の中に管狐が潜り込んでくる。

どっちもちょっとくすぐったかったのだけれど……気づいたらもう、僕は意識を失っていた。

……ハンモックの上で寝たはずだったのに、気づいたらベッドの上に居た。

そして、僕の上には管狐が丸くなって寝ていて、横には鳳凰がやっぱり丸くなって寝ている。

どうやら僕は、ハンモックからベッドへ運ばれたらしい。

どうしてだろう、と思いながら窓の外を見れば、答えはすぐに分かった。

……森の木の葉っぱから、雫が落ちては輝いている。地面に積もった落ち葉がしっとりと濡れている。

つまり、雨上がりだ。

外に出てみると、雨上がりの森の清々しい香りがした。気分よく深呼吸していると……僕はふと、妙な光景に出会ってしまった。

「……集まってるね」

雨上がりの森の中。生えたばかりの竹の傍。馬達が……それも、天馬じゃなくて、一角獣ばかりが集まって、竹の周りをうろうろしている。

これは一体、どういうことだろう。

一角獣達の行動を見守っていると、唐突に一頭が嘶いた。

ひひん、と鳴きながら、その一角獣は誇らしげに角を掲げる。

「……あっ」

そこで僕は分かった。一角獣達の目的が何だったのか。何故、一角獣は誇らしげなのか。

……一角獣達は、どうやら地面を探っていたらしい。

掲げられたその角は、土に汚れていたけれど、何より……。

その角の先には、たけのこが刺さっていた。

「竹の管理をしてくれていたんだね」

僕が一角獣を撫でると、一角獣はいっそう自慢げに角を掲げてくれた。

どうやら彼らは、この森の危機を察知したらしい。それで、雨上がりに生えてきていたたけのこを見つけて、早期発見して、そのまま掘り起こしてくれたんだろう。

これはすごい。とても助かる。僕とラオクレスだけじゃ、竹の管理に不安があった。最悪は絵に描いて原状復帰しようと思っていたけれど、やっぱり、手を入れて管理できるならそれに越したことは無いし……。

僕は改めて一角獣達に向き直って、お願いすることにした。

「……今後も君達にたけのこの監視のお手伝いをお願いします」

ひひん、と、馬達は頼もしげに嘶いた。うん。これで心配が1つ減った。どうもお世話になります。

その日の内に、僕はレッドガルド家へ行った。フェイに召喚獣の報告をするためだ。

「へー。変わった生き物出したなあ」

フェイは鳳凰と管狐を前に、好奇心に目を輝かせながらしきりに彼らを観察していた。

「なんというか、お前っぽいな」

「そうかな」

僕は鳳凰みたいに立派じゃないし、管狐みたいに身軽でもないけれど。

「ま、気が合うみたいでよかったぜ。これでお前も、ある程度は安心だな」

「ラオクレスはあと2匹くらい出した方がいいって言ってるけれど」

僕がそう言うと、僕の後ろに居たラオクレスは『当然だ』とでも言いたげな顔で頷いた。どうやら彼は、鳳凰と管狐の2匹だとちょっと不安らしい。

「ま、それはお前の封印具が完璧に外れてからにしようぜ。まだ最後の段階が残ってるわけだしさ」

「うん」

魔力の制御は、確実に上達している。けれど、召喚獣を増やすなら、制御に何も心配がなくなってからの方がいいだろうな、という気はしていた。

「けれど、とりあえずこれで、ある程度は、安心、と……」

……フェイは何故か繰り返してそう言って、それから僕をじっと見て……言った。

「なあ、トウゴ。お前、パーティとか、興味ねえ?」