軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話:変な生き物とたけのこ監視隊*3

まずい。まずいぞ。鳳凰のご飯を考えずに鳳凰を出してしまった!これじゃあ正に『本棚を買ってから部屋を片付ける』ってやつだ!

「……おい、大丈夫か」

「う、まだ、まだ寝ない……」

しかも、鳳凰を出したせいか、魔力切れっぽくなってきた。でも駄目だ。今寝たら、駄目だ。何日寝ちゃうか分からないんだから駄目だ!ここで僕が寝ちゃったら、鳳凰のご飯が無くなる!

せめて、と思いながら、鳳凰が出て行ったばかりの画用紙に、竹の実を描く。

……前、植物図鑑で見たから、竹の実の形は分かる。竹に実がつくことにびっくりしたから、よく覚えてる。

だから、後は、描くだけ、で……。

「うううう……」

「……おい、召喚獣なら、ある程度は水だけで凌げるぞ。魔石の中に入っていればそれほど体力も消耗しないものだと聞くが」

「でも、出てきて、最初に数日間お腹が空いたまま自宅待機っていうのは、あんまりだ……」

意識がどんどん朦朧としてくるけれど、とりあえず、描いた。

竹の実。6つくらい。それが限界だった……。

なんとか色を塗って、頼むから出てきてくれ、頼むから出てきてくれ、と思いながら仕上げて……そして、画用紙から竹の実がぽこん、と出てきたのを見届けて、僕は、寝た。

うん、おやすみ……。

起きたら、僕の目の前に鳳凰が居た。どうやら、僕と一緒にハンモックの上に乗っているらしい。

ぼんやり眺めていたら、鳳凰はきゅるる、と鳴いて首を傾げて……それから目を細めて、僕の首筋に頭を擦りつけてきた。

「うん、おはよう……」

鳳凰の頭をそっと撫でると、鳳凰はきゅるきゅる鳴いて、くちばしの先で僕の耳朶を甘噛みしてくる。

くちばしはどう見ても尖って鋭くて硬そうなのだけれど、力加減はしっかりできるらしい。痛くはなかった。ただ、くすぐったい。すごく。

「くすぐったいよ」

あんまりにもくすぐったかったので止めてもらった。すると鳳凰はあっさり甘噛みをやめて……それから、羽で僕の首筋をくすぐりにきた。

「こ、こら。駄目だって」

……どうやらこの鳳凰は、中々に悪戯好きな性格らしい。結局、僕はハンモックの上でごろごろしながら鳳凰にくすぐられる羽目になった。うん。馬が変なこと覚えそうだからやめてほしい。

「おはよう。何日?」

「2日だ」

よし、セーフ。

……ラオクレスに会いに行ったら、どうやら、今回の魔力切れは2日で済んでいたらしいということが分かった。

すごいなあ。アリコーンとフェニックスを出した時は6日だったけれど、今回は2日。成長したから、だろうか?それとも鳳凰が僕のお腹の上に乗っていたから?魔力を分けてもらったんだろうか?

まあ、何にせよよかった。あまりずっと寝ていたら、鳳凰がお腹を空かせてしまうところだった。

「ラオクレス。鳳凰は竹の実、食べてた?」

「ああ。お前が出した実なら、この通りだ」

ラオクレスは籠に入った実を見せてくれた。……4つになっている。ということは、1日1つ食べてる、っていうことかな。

「……1日1個でいいんだ」

逆に、1日1個でいいの?竹の実って、そんなに大きくないけれど。鳳凰は僕と同じくらいの大きさがあるのだけれど……お腹、空かないんだろうか。

もしかして、鳳凰にとって竹の実っておやつみたいなものなのだろうか。

「食べる?」

おやつならいいかな、と思って、鳳凰に竹の実を差し出してみた。すると、鳳凰は僕の手から、竹の実をつついて食べ始める。

しっかり竹の実をついばんで食べて、そして、最後の一欠片まで食べてしまうと、きゅるるる、と如何にも上機嫌そうに鳴いた。

……更に、僕の横の籠を、じっと見ている。うん、つまり、竹の実が入った籠、なんだけれど……。

「……もう1個、食べる?」

僕がもう1個竹の実を差し出してみると、やっぱり、食べた。

……結局、残っていた実は全部、鳳凰のお腹の中に入った。

ええと、これは、もしかして……食べたかったのを、ずっと我慢してた?

鳳凰は竹の実を4つ食べると、もういいや、と言うかのように飛んでいってしまった。その後は泉の水を飲んだり、馬達と何か遊び始めたりしている。うん。楽しそうだ。

楽しそうな鳳凰を見ていると、よかった、という気持ちにはなるんだけれど……逆に、今までやっぱり我慢して竹の実を食べていたんだな、と思うと、とても申し訳ない気持ちになる。

「どうした、暗い顔をしているが」

ラオクレスが僕の隣にやってきたので、相談させてもらう。

「……僕がうっかり倒れたら、この子がお腹空かせることになるんだなあ、って」

「だが、基本的に召喚獣というものは、それほど食物を必要としないらしいと聞く。水と魔力があれば生きていけるなら、無理して実を出す必要はないんじゃないか」

ええと、つまりそれ、鳳凰にとって竹の実はやっぱり、おやつ、ってことなんだろうか?

でも、あれだけ食べてたしなあ。……うーん。

「僕の都合で出てきてもらったんだ。なのにお腹空かさせるのは、あんまりにも申し訳ない」

食べたいなら、沢山食べてほしい。勿論、健康管理はしてほしいけれど……でも、僕の都合で食べたいものが食べられないのはあんまりだろう。

「なら倒れないようにしろ……というのは難しい話か」

「うん」

そしてこれからも多分、僕は倒れる。魔力切れになると思う。だって、少なくともまだあと1匹『隠れるのが得意な生き物』は出さなきゃいけないし。そうでなくても、何かあったら魔力切れになるのは間違いないし。

……ということで、僕は、解決策を考えた。

僕が竹の実を描かなくても、鳳凰が竹の実を食べられるようにするには……。

「竹の実が毎日生る竹を生やしたい」

「……そもそも、竹とは何だ。俺は聞いたことが無いが」

「ええとね、こういう植物」

ちょっと描いて見せてみたら、ラオクレスは興味深そうに覗き込んできた。どうやら、彼は竹というものを見たことが無かったらしい。

「これが沢山生えて、風にさらさら揺れてるのは、中々綺麗だよ」

「ほう」

僕は結構、竹林の景色が好きだ。太陽の光が緑色に透けるような、あのかんじ。風が通る度にさらさらさわさわ、良い音がするのもいい。あと、たけのこは美味しい。だから、僕は竹、大好きなんだけれど……。

「ならそれを生やせばいい。果樹は生やせたのだろう?」

「うん、そうなんだけれど……」

そう。竹の実が毎日生るような竹をなんとか描いて生やせば、鳳凰がお腹を空かせることなく生活できるかな、と思ったのだけれど……大きな問題がある。

「竹って繁殖力が凄いらしい」

「……そうか」

ラオクレスは、よく分かっていない顔をしている。うん、そうだと思う。だから彼に竹の脅威を教えなきゃいけない。

「すごく伸びる」

「伸びる……?」

「1日30cmくらい伸びる」

30cm、を手で表現してみたら、ラオクレスが黙ってしまった。

「しかも強い。家の床下に生えたら、家の床が、突き破られる」

……ラオクレスが絶句した。

「それでいて……地下茎で増える。根っこみたいなのを全部掘り起こしてやらないと、駆除できない」

『そんな恐ろしい植物があるのか』みたいな顔してるけど、そうなんだよ。あるんだよ。1日30cm伸びて、床を突き破ってくる、しかもすごい勢いで増えてすごく生命力が強い植物が、確かにあるんだよ。

「それは……この森が、全てその植物になる、ということか?」

「……うん、森が竹林になったら、流石に、申し訳ない」

だから僕は、困っている。

鳳凰のお腹が空くのはかわいそうだけれど、この森が竹で大変なことになるのも大変だ。

「鳳凰がたけのこも食べてくれればよかったんだけれど……」

丁度、近くに飛んできた鳳凰に『たけのこ食べる?』と聞いてみたところ、きゅるる、と鳴きながら首を傾げられてしまった。うん、そうだよね。実を食べるだけであって、たけのこは食べないね。

……まあ、仕方ない。鳳凰を出しちゃった以上、竹の世話もしなきゃいけない。

いざとなったら、竹が消えた森の様子を描けばなんとか原状復帰はできると思うから……うん、森の精霊がいるなら申し訳ないけれど、ちょっとだけ、竹を生やさせてもらおう。

竹を生やすためにまず、大きな石の植木鉢みたいなものを地面に埋める。銭湯の湯舟くらいの大きさのやつ。

そして、その中に竹を生やすことにした。こうすればそこまで大きくは広がらない、と思う。根っこが出てきたらその都度駆除しよう。

そして、いよいよ竹を描く、訳なのだけれど……。

「もしかしたら鳳凰を描くより難しいかもしれない……」

「そんなにか」

だって、竹の実が毎日生る竹、だよ。つまり、架空の竹だよ。鳳凰だって架空の鳥だから、架空の竹ってつまり鳳凰の竹版みたいなものだよ。

それ、どういう竹だよ!

「どうしよう、どういう竹なら毎日実が生るだろう」

「俺に聞くな」

うーん……これは困った。

鳳凰はイメージがすぐに浮かんだから良かったんだけれど、『すごい竹』って、何をどうやったらすごくなるんだろうか……?

……悩みに悩んで、僕は竹を描き始めた。

すごく一生懸命に描いた。ただの竹になっちゃいけない。これはすごい竹じゃなきゃいけない。

鳳凰の為に毎日実をつけて、それでいてどんな竹よりも綺麗で、それから、できれば、あんまり余分に育たないでくれる。そういう竹でいてもらわなきゃならない!

……こんな風に緊張感をもって描き始めたのだけれど、途中から案の定、楽しくなってきた。

うん。竹ってやっぱり綺麗なんだ。

透き通るような緑色。風に揺れる姿はきっと涼しげ。そして、そこかしこに実が生っている。

架空の鳥を描くのと同じくらい、架空の竹を描くのは楽しい。

この竹はすごい竹だ。だから、やっぱり描くのは楽しいんだ。すごい竹なんだから、描いていて楽しくない訳が無い。

「できた」

そうして、竹が生えた。

……生えてしまった。もう後戻りはできない。

ただ……竹は、思いの外、好評だった。

「これが竹か」

ラオクレスは真っ直ぐに伸びる竹を見上げて、感嘆のため息を小さく吐いた。

「……どんな恐ろしい植物かと思ったが、このように優美な植物だったとは」

うん。さっきはちょっと竹の怖さを強調しすぎたかもしれない。

「どうやら、鳳凰にも好評らしいな」

それから、鳳凰は竹を喜んでくれた。竹の周りを飛び回って、それから、竹に生っていた実を1つ、ついばんだ。……嬉しそうだ。

「あれ、馬も好きなのかな」

更に不思議なことに、馬達は竹を見て、寄ってきた。なんでだろう。珍しいからだろうか。

……まあ、気に入ってくれたなら嬉しい。

ただ……この竹は、やっぱりというか、少し不思議な竹だった。

……それは、夜になってから発覚した。

「あれ、蛍かな」

夜、ふと窓の外を見てみたら、竹の辺りが光っていた。ふわふわ、と舞うように光るものは、蛍……に見える、のだけれど、何かが変だ。

気になったので、外に出て見てみた。

……すると。

「竹から、光……?」

それは、竹の枝葉から出ていた。夜風に竹がさわりと揺れて、その度に、ほわり、と、ごく淡い光が溢れては零れる。

それはまるで蛍が舞うようで、それでいてもっと儚くて、幽かだ。……これ、月の光に似ている。

そうだ。これ、月の光なんじゃないだろうか。今夜も空には大きな月が出ているけれど、その月の光が竹に集まって、小さな塊になって零れて落ちてくる。そんなように思えた。いや、ファンタジーな世界に浸りすぎ、だろうか。

……僕は、不思議な光にそっと手を伸ばす。すると、ほわほわと舞う光は、僕の指に触れた途端、溶けるように消えてしまった。

それと同時に、僕の指先が少し、温かくなる。じんわりと。力を貰ったように。

これは……悪くないなあ。

僕が光に触れて元気を貰っていると、気づいた馬達が寄ってきた。

そして、馬達も竹から零れる光を浴びて、嬉しそうにしている。

「気に入った?」

聞いてみると、馬は揃って、ひひん、と鳴いた。うん、気に入ってくれたなら良かった。

翌朝。なんとなく体調もよく、目が覚める。

外に出てみると、馬達もなんとなく機嫌が良さそうに見えた。月光浴が良かったのかな。

「おはよう」

馬に声を掛けながら、竹の様子も見る。

流石に、雨の後という訳でもないから、竹は増えていなかった。よかった。

「早いな」

そこにラオクレスもやってくる。彼は僕より早起きだ。今日も剣の素振りでもしていたのかな。

「竹は……変わりないか」

「うん。多分」

ラオクレスも竹が心配で見に来てくれたらしい。うん、この森が侵食されるかもしれないってなったら、気になるよね……。

「こうしてみると美しい植物なのだが」

「でも、やっぱりよく増える植物だから。ある程度のところで伐採するよ。伸びすぎはよくないらしいから」

「ふむ……惜しい気もするな」

竹について話していると、ラオクレスは少し寂しそうに、竹を撫でた。

そうか。惜しい、よね。確かに。いや、すごくよく伸びるし、むしろ切らないと大変なことになるのは確かなんだけれど……。

「ええと、切った後、活用する方法もあるよ。まっすぐに割れるから、棒みたいにすることもできるし、それで傘の骨とか凧の骨とかにもできるし……」

ラオクレスは『蛸?』みたいな顔してるけれど、ええと、うん。いつか竹を切ったら作ってみようかな。電線も無いこの世界なら、凧揚げは中々楽しいだろうし。

「あと、竹は節のところでうまく切れば、筒ができるんだ。昔はこれを水筒にしたり、これにお米と水を入れて炊いたりしてたらしいよ」

「そうか。聞けば聞くほど奇妙な植物だな」

確かに、他にこんな植物、無いかもしれないね。

……うーん、折角だし、竹を切ったらその筒、何かに使ってみようかな。筆を洗う容器にするのでも面白いだろうし、水筒にしてみてもいい。ご飯を炊いてみても楽しいかもしれない。あ、そうなると米を描かなきゃいけなくなるけれど。

あとは……竹のペン、作ってみようかな。つけペンの一種で、竹でペン先を作るやつがあったと思う。うん、一度やってみても楽しいだろう。

それから……。

「だが、竹はいいが、そろそろ次の召喚獣も決めるべきだな」

あ、竹どころじゃなかった。うん。そうだ。

鳳凰1匹だと不安、っていうことだから……うん、やっぱり、隠れるのが得意なやつは、出したい。

「何がいいかな」

「小ぶりな生き物がいいだろうな。カーバンクルなどは小さいらしい」

カーバンクル、というのは確か、綺麗な赤い宝石をくっつけた生き物だ。猫かリスかよく分からないかんじの。

「妖精の類でもいいかもしれないな。隠れるのは得意だろう。若干、気まぐれらしいが」

妖精……ええと、カーネリアちゃんが僕に似てるって言ったやつか。うーん。それはなんとなく……。

「……まあ、それほど大きくなく、素早く、動きやすい生き物ならいいだろう。何なら、小さいドラゴンでもいい」

「小さいドラゴンって……」

「そうだな。この竹の筒の中に入るくらいの大きさのドラゴンが居てもいいんじゃないか?」

ラオクレスはそう言って笑う。うん、確かに、かわいいかもしれない。竹筒ドラゴン。描けば出せると思うけれど。

……あれ。

そういえば……竹筒に入るのが好きな生き物、というか、妖怪、というか……居なかったっけ。

ええと確か、管狐、とかいうやつ。