軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話:世界を尋ねて*5

「夢みたいで不安、なのか」

「……そう。少し、不安になる。この世界はあまりにも、僕にとって都合が良すぎる。全部、僕が見ている夢なんじゃないか、って、思う」

この世界に住んでいるフェイには大変失礼な話だよなあ、と思いつつ、でもちょっと思ってしまう。

今のこの会話ですら全部、僕が勝手に見ている夢なんじゃないか、この世界は実在していない、幻みたいなものなんじゃないだろうか、と。

「そんなの気にしてもしょうがないんじゃねーかなあ」

けれど、フェイはあっさりしたものだった。

「アージェントじゃねえけどよお、仮にこれがお前の夢だったとして、そこには何の問題もねえんだよな。だって俺はこうやって生きて、考えてる。それすらトウゴの夢が創り出したもんだっていうなら、それはそれで構わねえよ。自分が確かに存在してるってことは、自分が一番よく分かってるからな!」

成程。我思う、故に我在り。コギト・エルゴ・スム。うん。分かる分かる。

「……分かっては、いるんだけれどね」

そう。分かってる。そんなこと気にしたってしょうがない。

この世界の全て……この世界の歴史も記憶も全てが、僕がこの世界に来た瞬間に創り出されたものだったとしても、それを知る術はないんだ。世界5分前仮説は否定できない。証明することもできない。

けれど……なんだか、無性に怖い。

この世界が僕に都合の良いようにできているんだとしたら、それって申し訳ない。あまりにも自分勝手な気がする。

そして、この世界が消えてしまうのが、一番怖い。この、僕にとって最高に幸せなこの世界が、脆く崩れ去ってしまったらどうしよう、と、考えるだけで……ものすごく、怖い。

ああ、怖いことだらけだ。ちょっと深く考えたら、足元から地面が消えていってしまうような、そんな感覚がしてくる。ここはどこで、僕は誰なんだ、なんて、考えたって意味が無いのに。

「まあ、仮に誰かが世界を創ったんだとしても、それ、間違いなくトウゴじゃねえよなあ」

……けれど、フェイの声に、僕の意識が引っ張り上げられる。

顔を上げたら、フェイの緋色の瞳が、ちょっと面白がるみたいに細められていた。

「お前、繊細かつふわふわ、だろ?そんなお前が俺みたいな、ガサツかつ情熱的、みたいなの、作れるわけがねえ!」

……あ、うん。

「お前、大人しいからさあ。自分より大人しい奴は作れるかもしれねえけど、逆は、ねえだろ。お前、俺の煩さ賑やかさを再現できるか?いや、できないね!」

「……確かに」

「あと、そうだそうだ。ラオクレスを買った理由!確か、『石膏像を自分で生み出すことはできないから石膏像を買いたかった』んだろ?なら、お前はラオクレスを生み出せねえのに生み出してるってことになるぜ?」

そ、そっか。うん。そうだ。僕がこの世界を創ったかどうかは証明できない。けれど……僕、この世界を創れる技術は、無い!

「この世界に来て、知らないこと、山ほど学んだんだった……」

「だろ?知らないものは作れないだろうが。な?」

「その通りです」

「大体、アージェントが言ってたことだけどよ、『この世界の住人が望まない限りカチカチ放火王は干渉できない』って、あっただろ?それってつまり、この世界は独自の意思を持ってるってことだ!」

……町を行きかう人々も。風に揺れる花も。木の枝から飛び立つ鳥も。

その1つ1つが、絵に描いていて新鮮で、楽しいモチーフだった。

そうだ。僕、この世界の全てを描くことなんてできない。だから……逆説的に、僕がこの世界を創ったわけじゃない、と、言えると思う!

「この世界は確かに、生きて、回って、動いてる!これが全部、トウゴの頭の中の産物だとしたらすごいよな!」

「うん!ありえない!」

自分の頭の能力は自分が一番よく知ってる。そうだ。あり得ない!この世界が僕の生み出した産物っていう可能性は、限りなくゼロに近い!

……フェイに相談してみてよかったなあ。なんだか、不安が大分、縮んだ気がする。

「……それに、まあ、いいだろ。もし、この世界がトウゴの夢でも」

そして最後に、フェイは言った。

「俺は楽しいぜ。ここに生きて、暮らして、お前と話して、楽しい。これが夢だったとしても構わねえ。楽しいことに変わりはないからな」

「……うん」

「ま、楽しいから、折角だしこの世界ごと長生きしてえよなあ!楽しいことは長く続くに限る!」

フェイは真夏の太陽みたいな笑顔を浮かべて、そして……。

「……おっと。もうこんな時間か。やべやべ、そろそろ部屋に戻らねえと……」

時計を見て、慌ててベッドから立ち上がって……中腰の状態で、ぴたり、と止まって……そして。

「いや、折角だ!トウゴ!今晩、泊めてくれ!」

ばふん、と、またベッドに戻ってきた。

「え、別にいいけれど……どうしたの?」

「いやー、レネとライラがやってて羨ましかったんだよなー。狡いぞ、トウゴの親友第一号は俺なんだぞ!」

「なあんだ、そんなこと」

「そんなことってなんだよー」

なんだか、こんなことで騒ぐフェイが面白い。平和だなあ、っていうかんじ。

とりあえず『別に一緒のベッドに入りたいわけじゃないよね』っていう確認をお互いにしたところで、ベッドを一台、描いて出した。王城の皆さん、勝手にベッドを増やしてごめんなさい。退去時にはちゃんと戻していきます。

お互いにお互いのベッドに入って、それからまた他愛もない話をする。なんというか、こういうのって修学旅行とかそういうのを思い出させる。僕には、フェイ程に仲良くなれた友達は学校でできなかったけれど。でも、それなりに喋れる相手と同室になって、他愛もない話をしたりしたんだよ。

「……で、結局レネって、男なの?女なの?一緒のベッドに入ってりゃ流石に分からねえ?」

「いや、それが未だに分からないんだよ……」

「えー、手触りとか骨格のかんじとか匂いとかでなんかわからねえの?」

「手触りとかは全然、分からない。あ、でも、百合の花みたいな匂いがするよ、レネは」

「あっ、もしかして、ライラが最近『レネをベッドに入れておくとベッドがいい匂いになるのよ』って喜んでるの、それか!?」

「レネがポプリにされてる……?」

……と、まあ、そういう、どうでもいい話をしつつ、ふと、思う。

やっぱり、僕があんまり心配したり不安になったり悩んだりしなくて済むのって、僕の周りに人が居てくれるからなんじゃないかな、と、思う。

ありがたいことだなあ。

……と、思っていたら。

こんこん、とドアがノックされる。

「こんな時間に誰だろうか……」

……まあ、何となく分かるけれど。と、思いつつ、ドアを開けてみたら……。

「あ、トウゴ。ちょっといい?」

ライラが、来ていた。……予想外だった。こっちかぁ。

「なんとなく、あんた、落ち着かないんじゃないかと思って、来てみた、んだけれど……」

ライラは、ちら、と僕の部屋の中を見て、ベッドが増えているのを確認して、更にその中から起き上がったフェイが「よお!ライラも来たのか!」と挨拶してくるのを見て……。

「……お邪魔だったかしら」

「いや、お邪魔じゃないよ。ええと、ありがとう」

ライラも気にしてきてくれたんだなあ。ありがたいし、ちょっと照れる。

……と、思っていたら。

「とうごー」

廊下をてくてく歩いて、レネが、枕を持ってやってきた。……うん。

「わにゃ?らいら、とぅやじゃ?」

「あ、ええとね……」

ライラが『翻訳機着けてないし、どう説明しようかしら』みたいな顔をしていたところ、レネは、ぱっ、と顔を輝かせて、にこにこしながらライラの手と僕の手を握った。

「とうご、らいら、いっしょ!」

……成程。レネの語学の勤勉さには頭が下がる。素晴らしい。

「……ライラ、どう?」

「え、あ、うん……その、レネが一緒がいいって言うなら、まあ、一緒でも、いいけど……」

「そっか。じゃあ、皆一緒、っていうことで……」

にこにこ顔のレネと、呆れ顔のライラとを伴って部屋に入りつつ……はた、と気づく。

ベッド、もう2つ出した方がいいだろうか。いや、でもなあ。これ以上、ベッド、部屋に入らないしなあ……。

「一緒に寝る?ええと、それから、フェイも一緒の部屋だけれど、いい?」

レネはにこにこと部屋に入ってきて……そして、フェイを見つけて「わにゃ!?ふぇい!?」とびっくりしていた。予想外だったらしい。

「おっ、レネ!来たのか!……えーと、じゃあ、どうする?」

そしてフェイももそもそとベッドからはみ出しつつ、部屋割りならぬベッド割りを考え始めて……。

「……ライラとレネ、こっちのベッド。で、フェイ、入れて」

……考えるまでもないね。こうなる。僕のベッドをレネとライラに明け渡して、僕はフェイのベッドの中へ。

「おー……男2人でベッドを分け合うってのも、色気のねえ話だけどなあ……」

しょうがないだろ、ライラをフェイと一緒のベッドに寝かすわけにはいかないし、僕と一緒のベッドだと僕が緊張しちゃうんだから!

「ふぇい、すてぃーえ、とうご……ふりゃめえるーら、ぎゅれあでぃーめ……」

レネは3人で寝たかったみたいで、ちょっとじっとりした目でフェイを見ていたんだけれど、でも、まあ、3人で1つのベッドっていうのも狭いので……。

「あ、トウゴ。もうちょっとフェイ様に寄って」

「あの、ライラ。なんで描いてるの?」

「なんかいいのよ。あ、10分で終わらせるから。何なら寝てていいわよ」

……そしてライラは僕らを描き始めた。あの、『なんかいい』って、本当に、何……?

……その日はなんだかいい夢を見た。

ふわふわした桃色のたんぽぽ畑で、レッドドラゴンが丸くなって寝ているところにすぽんと収まって、そこでのんびり絵を描く夢。

僕の絵をライラが覗きに来たりレネが覗きに来たりして、その内、ライラと一緒にたんぽぽ畑のレネをデッサンすることになった。

そうこうしている内に、リアンが僕らを呼びに来て、皆でお昼ご飯……。

……そんな夢を見て、ぬくぬくいい気分で目を覚まして、僕は思った。

夢の中でも夢を見る、って考えるよりは、これが夢じゃない確かな現実なんだと思う方がやっぱり自然だよなあ、と。

この世界は、確かに、ここにある。

「んにゃ……いや、まてまてまて。駄目だって、兄貴。ラオクレスには勝てねえって……」

「そうよ……ラオクレスは一晩かけて、クロアさんに煮込まれたんだから……」

「かーねりゃあ、いんたりゃあ。わにゃ、とりさん、にぇーと、たんぽっぽ……?」

……そして、やっぱり変な寝言は健在だった。

何だろう、僕とレネとライラが同じ部屋で寝る時、なんだか変な魔法が合成されたりしてるんだろうか……。