軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話:依頼と雷*7

ジオレン家の人達を呼んでから、3日。特に何もなく、僕らは平和に過ごしていた。

その間に僕は多少、乗馬が上手くなった。これで多少、天馬につり合えるようになっただろうか。

「おー、いいじゃんいいじゃん。いつの間にかトウゴ、ちゃんと乗れるようになってるじゃん」

「うん。いい指導者に恵まれたから」

僕の乗馬が上達したのを、フェイは随分喜んでくれた。その横でラオクレスが少しだけ満足げな顔をしている。ご指導ありがとうございます。

僕が天馬から降りて、今日も練習に付き合ってくれてありがとうね、の意を込めて首のあたりを撫でていると、それを見ていたフェイがふと、言った。

「お前、魔力がちゃんと安定したら、こいつら召喚獣にしたらいいかもな」

「え?」

召喚獣?……ああ、そうか。フェイは火の精やレッドドラゴンを宝石に入れて連れて歩いているんだっけ。

「ペガサスだったら移動にも便利だろ?ユニコーンなら、護衛にもなる。丁度いいよなあ」

フェイが火の精を移動に使っているみたいに、僕も宝石から馬を出して、それに乗って移動できたら……確かに便利そうだ。けれど、それって馬としてはどうなんだろう?

……ちょっと心配になって馬を見てみたら、馬は翼をぱたぱたさせながら僕にぐいぐい迫ってきていた。……心配は要らない気がする。うん。ただ、どの馬を召喚獣にするかは、揉めるかもしれない。乗せてもらう馬を決める時にも揉めたし、召喚獣にする、となると、もっと揉めるんじゃないだろうか。

「それは今すぐに、というわけにはいかないのか」

けれど、僕の心配はさておき、ラオクレスは乗り気らしかった。

「こいつの護衛が俺1人では不足だろう。召喚獣が居れば心強い」

……僕はラオクレスが1人居てくれればそれでいい気がするのだけれど、彼としては心配らしい。

「いや、俺もそうしてもらいてえよ。けどさ、魔力の制御ができてねえトウゴが召喚獣なんて使役したら、召喚獣に全部魔力注いで大変なことになりかねねえし……下手すると、こいつの方が召喚獣の方に連れていかれかねねえし……」

「成程……」

フェイとラオクレスの話を聞きつつ、どういうことになるのかまるで理解ができなかった。けれどとりあえず、今の僕が召喚獣を持つのは駄目らしい。

「まあ、トウゴの場合、画材さえあればある程度のことはなんとかできるからなあ……」

「……逆に、画材を取り上げられた場合と、絵を描く余裕がない時にはどうしようもないということになる」

その通りです。

僕は絵さえ描ければある程度のことは何とかなりそうなんだけれど、逆に絵が描けないとなると、何ともならない。うん。

「じゃあとりあえず、画材没収を防ぐために、『とりあえず武器っぽいもの』は用意しとけ。な?剣……は無理だろうから、短剣とか。後は、召喚獣はまだにしても、召喚獣を十分入れておけそうなくらいの魔石とかな。とりあえず相手が『こいつの武器を没収したぞ』って安心できるような奴」

「うん」

本当だったらこういうことを考えたくはないんだけれど、どうやらフェイもラオクレスも、警戒は強めているらしい。僕としても、ジオレン家の人達がまた来るかもしれないな、という気はなんとなくするので、素直に頷いておく。後でフェイクの武器を用意しておこう。

「だが、根本的な解決にはならない。可能な限り早く、召喚獣を用意すべきだ」

「そうなんだよなあ……ってことで、俺としてはトウゴに早く、魔力の制御を頑張ってほしいんだけどな?」

「分かってるよ」

僕としても、そうしなきゃいけないな、という気持ちはある。けれど、一番強い封印具を着けている分にはとりあえず制御できてしまうから、絵を描く分には困らない。なので今のところ、そこで止まってしまっている。……いや、もうちょっと頑張るけれど。

「トウゴが召喚獣を持つとしたら、やっぱりペガサスとユニコーンか?お前の魔力だったら何匹でも召喚獣にできそうだけどな」

「そんなにいっぱいはちょっと……」

「ユニコーンの軍勢とか居たらカッコいいじゃん。一気に20頭くらい出してさ、前線に並べて、こう……」

「そういう状況になる前に馬に乗って逃げればいいから1匹でいいよ」

「その場合でも足止めができる召喚獣が居た方がいい。ドラゴンを持っていれば威嚇にもなる」

「あ、それでいいじゃん。お前もドラゴン出せよ。な?赤はトウゴっぽくねえけど、なんかこう、もうちょっとふわふわした色の奴、出せば?ピンクとか」

「ピンクはなんか嫌だ」

それからしばらく、フェイとラオクレスと一緒に召喚獣談議をしたけれど、僕にはこの世界の生き物のことがよく分かっていないので、今一つ実感が湧かなかった。

……次に町に出た時には、モンスター図鑑みたいな奴を買ってこよう。

そうしてその日の夜。

なんだか寝付けなくて、ベッドの上でごろごろしていた。

ラオクレスはというと、寝ている……訳じゃなさそうだった。窓の方を向いて横になっているから顔は見えないけれど、多分、起きてる。僕が起きていることにも気づいているだろう。

でも話しかけるのも何か躊躇われる。どうしようかな、と思ってまたごろごろしていると。

「……靴を履いておけ」

ラオクレスがそう言った。

僕が言われた通り、靴をちゃんと履いて……その中に携帯用の水彩道具もちゃんと入っていることを確認して、更に、『何かあった時のことを考えると偽の武器もあった方がいいだろ』というフェイのアドバイスで作った僕の『偽鞄』を持つ。

『偽鞄』は、鞄というより、ウエストポーチ、というか、ワーキングベルト、というか、ホルダー、というか……そういう奴だ。

フェイが用意してくれた大ぶりなナイフが1本と、描いて出した水晶の結晶が2つ、セットしてある。これが僕の武器……に見えるといいな。

それから一応、メモ帳みたいな大きさのスケッチブックと鉛筆も。それから更に、非常食っていうことで、飴も。更に、これがフェイクの鞄だって思われないように、財布代わりの革の小袋が入っている。小袋の中には金貨3枚と銀貨7枚、あと銅貨が5枚くらい入っている。(これ、ハムを買いに行った時のおつりだ。)

以上を装備して、さあ来い、と身構える。その時にはもうラオクレスもきちんと剣と盾を装備していて、窓際でじっと警戒していた。

……すると。

窓の外が急に、明るくなる。

夜だというのに、一瞬、真昼のような明るさになって、目が眩む。

そして、一瞬眩んだ目をもう一度開けてみると……。

「……速い」

窓を破って入ってきたらしい大きな鳥が、ラオクレスに剣を突きつけられていた。

速い。

けれど、それで決着、という訳にはいかなかった。

また、大きな鳥が飛び込んでくる。ラオクレスは1つ舌打ちすると、僕に向かって飛んできていた鳥を盾で防ぐ。鳥は盾にぶつかって、その場で墜落してしまった。

ラオクレスはまた盾を振り回して、最初に剣を突き付けていた方の鳥を盾で殴った。するとその鳥もその場で伸びてしまう。そうか。盾って、鈍器になるんだな。

……そうして鳥2羽が気絶してしまうと、その鳥2羽は、ひゅん、とどこかに吸い込まれるように消えてしまった。

「そこか!」

ラオクレスはそれを見ると、窓の外へ身を乗り出すようにしながら、そこらへんに置いてあった燭台を手に取って、投げつけた。

すると窓の外から悲鳴が聞こえる。重い真鍮でできた燭台がぶつかったなら、さぞかし痛かっただろうと思う。

……そうこうしている間に、レッドガルド家の護衛の人達が庭に出てきたらしい。窓の外が一気に騒がしくなる。

ラオクレスは剣を収めることなく窓の外を見て、警戒し続けているけれど……ちら、と僕を見てちょっと手招きしたので、僕も窓の外を見に行く。

窓の外では、何人かの人達がレッドガルド家の護衛の人達に囲まれているところだった。

そしてその人達の中に、見覚えのある金髪の頭を見つける。

「あ、サントスさんだ」

領主の息子の人がわざわざ来たのか。もしかすると、さっきの鳥はあの人の召喚獣だったのかもしれない。

僕が窓の外を見下ろしていると、サントスさんは顔を上げて、僕らを見上げた。見られていることに気づいたらしい。彼の額からは血が出ている。……多分、ラオクレスが投げた燭台がぶつかったんだと思う。痛そうだ。

サントスさんは僕らを睨んで、大きな声を上げた。

「おい!下りてこい!」

「断る」

ラオクレスがばっさり切って捨てる。うん。僕も下りたくない。というか、彼はどうしてこの状況で僕らが下りていくと思ったんだろうか。

「なんだと!?こいつがどうなってもいいのか!?」

……けれど、サントスさんはそう言うと、サントスさんの護衛らしい人の1人を捕まえて、その人の喉にナイフを当てた。

「……あいつは何をしているんだ」

「さあ……」

どうして自分の味方を敵の人質にしたのかな、と僕らは不思議に思いながら、彼の手元を見る。……すると、どうやら彼が人質にしているのは、女性の戦士らしい、ということが分かった。暗くて顔はよく見えないけれど。

僕らとしては、唐突なサントスさんの行動に、ちょっと困るしかない。味方を人質にし始めた時点で、レッドガルド家の護衛の人達も、ちょっと困り始めている。これはどうしたものかな、と。

……けれど、サントスさんは一切気にせず、僕らにだけ向けて、こう言ってきた。

「こいつはインターリア・ベルシュ。……聞き覚えのある名だろう?かつての同僚だもんな?共にゴルダの領主様を殺した仲だもんな?」

僕の横で、ラオクレスが硬直するのが見えた。

「なあ?バルクラエド・オリエンス」

僕の知らない名前で呼ばれた彼は、目を見開いて、瞬き一つせず、ただ硬直したまま……サントスさんと人質の女性とを見ていた。

まるで、彫像になってしまったみたいに。

ラオクレスは動かない。レッドガルド家の護衛の人達も動けない。僕も動けない。

これはどういう状況なんだろう、というのは……なんとなく、分かる。分かるから、動けない。

多分、今、人質にされている人は……騎士だったラオクレスの同僚だった人なんだろう。

彼にとって大切な人なんだと思う。それは、血の気を失ったラオクレスの顔を見れば分かる。

「ほらほら、どうした?こいつの命が惜しければ、さっさとそのガキを連れてこい!さあ!オリエンス!」

呼びかけられたラオクレスは、ぎゅ、と、剣を握りしめた。……その手は細かく震えている。

「おい。こいつの命とそのガキの身柄、どっちが大切なんだ?僕らは別に、そのガキを殺すつもりはない。ただ、いい暮らしをさせてやるだけさ。何を躊躇うことがある?お前がそのガキを連れてくれば、全員が幸せになるぞ?」

「……黙れ」

ラオクレスは絞り出すような声でそう言ったけれど、動揺しているのは痛いほどに分かった。

「オリエンス!さあ、そのガキを連れてこい!こちらへ来るんだ!そうすればベルシュは解放してやってもいいぞ!」

「インターリア……!」

僕らの視線の先で、女性もまた、僕らを見ていた。……いや、その女性はずっと、僕じゃなくて、ラオクレスだけを見ている。

ラオクレスはその女性と、サントスさんの視線、それから、レッドガルド家の護衛の人達の視線に晒されて……ぎゅ、と、唇を噛みしめた。

そして。

「インターリア!俺を恨め!俺は俺の主を守らねばならない!」

彼はそう、言ってしまった。

「な……おい、正気か!?こ、この女がどうなってもいいのか!?この女は奴隷だ!ジオレン家の所有物だぞ!?僕が命令すればこいつは死ぬんだ!」

「ああ、構わん!殺したければ殺すがいい!」

慌てた様子のサントスさんに、ラオクレスは吠えるように言い返す。けれど、その手は震えているし、その目はじっと、サントスさんと、人質の女性とを見ている。

……その時だった。

「ああ、構わん!殺せ!かつての同胞の足枷となるくらいなら一思いに殺されてやろう!」

人質の女性はそう言って笑うと、サントスさんの手からナイフを奪い取った。

「エド。あなたの新たな人生に……あなたの新たな主君に、祝福を!」

そしてその女性は、ナイフを自分の喉に向ける。

「ま、待って!」

たまらず、僕は叫んでいた。

ずっと黙っていた僕がいきなり大声を上げたからか、皆が驚いたように僕を見る。

「……行くよ。ちょっと待ってて」

僕はそう言ってから、ちょっと窓の下を覗いて……飛び降りるのは無理だな、と判断して、部屋を出る。

「お、おい!待て!」

ラオクレスが追いかけてきたけれど、僕は走って客間を出て、階段を下りて、玄関から出て、庭へ回り込んだ。

……するとそこでは、どうしていいものやら困った人達が居て、やっと下りてきた僕を見る。

「……なんだ?僕と一緒に行く気になったか?」

多分、一番困惑しているであろうサントスさんの前に出ると、彼はあからさまにたじろいだ。

「うん」

なのでそう返事をすると……彼はぽかん、とする。

「僕を連れていきたいなら連れていけばいいよ。だからその人のことは離して」

「おい、何を言っている!」

僕の肩を、後ろからラオクレスが掴む。部屋着のままの僕の肩に触れた彼の手は、随分冷えていた。

「ラオクレスも一緒に行く?」

なので僕は、そう、声を掛けた。すると、ラオクレスもまた、ぽかんとする。

「その、できれば一緒に来てくれると、心強いんだけれど」

……ぽかんとしていたラオクレスはすぐ、我に返ったように尋ねてくる。

「……正気か?」

「うん」

「一生飼い殺しかもしれないぞ」

「そうはならないと思うよ」

「俺は……買いかぶられているのかもしれないが、決して、強くはない。俺1人で全ての問題を解決できるわけでは」

「だから一緒に来てくれると嬉しい。僕も、1人で全部の問題を解決できるわけじゃないから」

僕がそう言うと、ラオクレスは戸惑って、迷って、困って……俯いて、それから、頷いた。

「……借りは返す」

「うん。じゃあ、休憩込みで6時間のモデル」

よし。交渉成立だ。これでラオクレス描き放題。これなら十分お釣りがくるよ。

さて。僕はやっと、サントスさんに向き直る。

「サントスさん。あなたはあなたの望み通り僕を連れて帰ればいい。その代わり……そこで僕がどうするかは、僕が決める」

サントスさんは、少し怯えたような顔をした。けれど僕は一々配慮しない。

「僕を連れていく?やめる?どうする?」

改めて聞くと、サントスさんは……意を決したように、声を上げた。

「連れていけ!」

「行ってきまーす」

僕らを心配そうに見ているフェイとお兄さんとお父さん、それからメイドさんや護衛の人達に向けて手を振りつつ、僕らはジオレン家に向けて出発したのだった。