軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話:依頼と雷*6

「とりあえず、中へどうぞ。立ち話じゃあアレだってことで、うちを会場にしたんですから」

フェイは貴族が相手でも、あまり態度が変わらないらしい。多少丁寧だけれど、それ以上にフランクなかんじだ。

それに対して、ジオレン家の人は多少、むっとしたような顔をした、かもしれない。

「ああ、俺は今、レッドガルド家の次男坊じゃなくて、トウゴ・ウエソラの親友としてここに居るんでね。ま、気楽にやりましょうってことで……いいよな?トウゴ」

「うん」

少し緊張していたのが、フェイの言葉で解れた。

「よし。じゃ、ご一行様ご案内だ。『トウゴ・ウエソラの親友の家』へようこそ。歓迎しますよ」

フェイはそう言ってウインクしながら少し芝居がかった礼をして見せる。こういうのが決まって見えるからすごい。

フェイが家の中に入っていくので、僕も入ることにした。

……のだけれど。

「ラオクレス?」

僕についてこなかったラオクレスの顔を見上げたら、彼はじっと、ジオレン家の人達を睨みつけていた。

「……何でもない」

けれどそれも1秒くらいのことで、すぐに彼は僕の後ろについてくる。

……何かあったんだろうか。少し心配だ。

何はともあれ、こうしてジオレン家の人達との話し合いが始まった。

「まず確認だが、君はレッドガルド家と契約した召喚術師というわけではないのだな?」

「はい」

契約もしていないし、そもそも僕は召喚術師じゃないです。何だろう、召喚術師って。

「なら、ジオレン家と契約することになってもレッドガルド家に対する裏切りになるわけではない、と」

「まあ、多分」

僕が答えると、ジオレン家の領主の人の方が、にんまり笑った。……フェイに向かってちょっと勝ち誇った顔をするのは止めて欲しい。腹立たしいから。

「僕がレッドガルド家と契約していないのは、レッドガルド家に問題があるわけじゃなくて、僕に問題があるからです」

なので僕はちゃんと言う。僕ならまだしも、誤解だけでフェイを馬鹿にされるのは我慢ならない。

「問題?」

「契約して、真っ当に仕事としてやっていく自信が無いから、契約は待ってもらっています」

他にも理由は色々あるのだろうけれど、まだはっきり言葉にできないものばかりだし、この人達相手にはっきり言葉にしたいとも思わないから、とりあえずこれで。

……ただ、なんというか、ジオレン家の領主の人は、とても……うーんと、何と言うか、ポジティブ、だった。

「そんなもの!レッドドラゴンを召喚した君なら、我々は実力不足だなどとは思わない!多少若いが、実力があればその程度を気にする必要もないだろう。どうだ、是非、我が家と契約し、ジオレン家の術師になってくれないか?」

「そのつもりはありません。僕はまだ経験不足ですし、そういう人が欲しいなら、僕より適任が居ると思います」

とりあえず、ちゃんと断る。

大人の『君ならもっとできるよ』を『自信が無いので』とか『経験不足ですから』とか『僕より適任が居ますよ』でのらりくらりやるのは慣れている。

「ふむ……しかし君は、レッドガルド家にレッドドラゴンを授けたのだな?」

「出したドラゴンが偶々、フェイを気に入っただけです」

「しかし、それならば我らの為にもレッドドラゴンを召喚してもらうこともできるだろう?レッドガルド家の前ではドラゴンを召喚し、我らジオレン家の前ではそれをやらない、というのにはどういう理由がある?」

「あの時は、僕とフェイを助けてほしかったからドラゴンを出しただけです。それで、あなた達にはそういう理由がない」

こっちも、本当の事を説明しながら断っていく。

……本当に、僕はレッドドラゴンを『授けた』わけじゃない。僕はただ、緋色の竜を描いただけで、それで竜が出てきてくれて、僕らを助けてくれて……そしてフェイを気に入って、フェイの召喚獣になる事を決めたらしい、っていうだけだ。

そして、この人達をドラゴンが気にいるか、っていうと……うーん、多分、気に入らない。うん。

「理由が無ければレッドドラゴンは召喚しないと?ならば正式に我々からの依頼という形でお願いしたいのだが」

「……やめておいた方がいいと思います」

この人達はドラゴンに好かれる人達じゃないだろうなあ、と思うので、正直にそう言った。ここで嘘をついても、誰も幸せにならない。

「ほう。それはレッドガルド家の息子に従えられるドラゴンを、我らが従えられないとでも言いたいのかな?」

……当然のように、ジオレン家の領主の人はちょっと気に障ったみたいだけれど。

「そうですね」

「な……」

僕はちゃんと、正直に言うことにした。絶句された。ごめん。

「ええと……サントス・ラド・ジオレンさん」

領主の人の方が絶句しているので、『ご子息』の方を向く。

彼は彼のお父さんと同じように、金色の髪にオレンジがかった茶色の目をしているのだけれど、その目は僕を憎々し気に睨みつけている。

それにちょっと居心地悪く思いながらも、でも、ちゃんと聞きたいことは聞こうと思う。

「あなたはレッドドラゴンを召喚獣にして、何をするつもりなんですか」

すると彼は一瞬、面食らったような顔をした。

「……何を、だと?」

「うん」

まさか、召喚獣にしてそれでおしまい、って訳じゃないだろうに、と思いながら答えを待っていると、サントスさんはしどろもどろに答え始めた。

「そんなものは……そもそも伝説のレッドドラゴンは存在しているだけで価値がある。だから、存在しているだけでいい。僕の後ろに、な」

「……ドラゴンは飾りじゃないけれど」

「飾っておくだけで終わらせる気は無い。護衛代わりには丁度いいだろうし、実戦に使わずとも、レッドドラゴンなら威嚇だけで十分だろう」

「ああ、そういう……」

「……それともまさか僕が『町を焼き払う』などと言うとでも思ったのか?」

「流石にそれはちょっと」

その発想は無かった。でも、そうか。確かにレッドドラゴンが居れば、町を焼き払うことくらい、できてしまうのか。

でも、うーん……この人、レッドドラゴン『で』何をするかは言ってくれるんだけれど、レッドドラゴン『と』何をするかは言ってくれないんだな。余計に渡したくなくなってきた。

「……それとも、何だ?僕にはレッドドラゴンを渡さないと?そいつには渡したのに?」

僕が渋い顔をしていたのか、サントスさんは苛々と、不機嫌そうな顔になった。

「渡しても、あなたはドラゴンと上手くやれないと思うから」

なのでやっぱり正直に答えてみたら、彼は激昂して立ち上がってしまった。

「無礼な奴め!この僕が、レッドガルド家の無能に劣るだと!?よくもそんな口が利けたな!」

「おうおうおう、その無能本人を前によくもまあ、そーいう事言えるよなあ、お前……ちょっと落ち着けって」

サントスさんが拳を振りかざしたのを見て、フェイも立ち上がってその腕を掴んで止めてくれた。

「貴様……!」

「落ち着け。席に着け。できねえなら放り出すぞ。トウゴは争い事、嫌いなんだからな」

フェイの方がサントスさんより背が高い。見下ろすみたいにしてフェイが凄んだら、サントスさんは少し冷静になってくれたらしく、席に着いてくれた。よかった。

「……ふむ。どうやらこのままでは埒が明かないようだな」

そこでようやく、領主の人の方も話し始める。

「我々は君に対して、依頼を出す。レッドドラゴン、またはそれに準ずる魔物の召喚だ。それ以上のことは求めない」

つまり、ドラゴンがこの人達と仲良くやれなくても、それは僕の仕事じゃない、と。そういうことか。

「どうだろうか。悪い話ではないだろう。報酬も前々から従者が提示していたものを払おう。成功報酬はまた別途支払う」

僕、報酬は別に要らないんだよな。だから特に魅力に思えない。困ったな。どう言って分かってもらおう。

「できれば我が家と契約を、と思ったが、君が望まないならその話はまた追々ということにしてもいい。だが、何にせよ、レッドドラゴンを召喚できるような少年が何の後ろ盾もなく居るべきではないと思うがね」

「……そうですか」

あなた達みたいなのが来なければ、後ろ盾も必要無いんだけれどな、と思ったけれど、やっぱり言わないでおく。

代わりに、どう言ってお断りしようかな、と悩む。事前にもうちょっと考えておけばよかった。でもまさか、こんなに早くお断りを心に決めることになるとは思わなかったんだよ。

僕が悩んでいたら、それを何か勘違いしたらしい。ジオレン家の領主の人は、言った。

「悩む気持ちも分かる。レッドガルド家に義理があるのだろうからな。義理立てしなければならないような気持ちになるのはよく分かるとも。だが、義理立てする気持ちだけで自分の成功を手放すべきではない」

義理、と言われると、確かにそうかな、という気もする。

僕は、フェイに義理がある。それ以上のものもあると思っているけれど、レッドガルド家に対して義理があるから、レッドガルド家の損になるようなことはしたくない、と思っているのは確かだろう。

でも……。

「ここで我らの依頼を受けてくれるならば、王城への取次もできる。我らは歴史こそ浅いが、力は確実に、レッドガルド家よりもあると自負している。トウゴ君。君の成功の為だ。この依頼を受けなさい。どうか、君のその才能をこんな辺境で潰さないで貰いたい。どうだろうか?」

……うん。

そう言われるのは、嫌なんだよ。

「お断りします」

悩むことなんて無かった。正直に言いたい事だけ言えば良かったんだ。

「……それは、ジオレン家との契約を、か?」

「全部です。あなた達と契約はしない。依頼も受けない。ドラゴンは出さない」

喋るのは得意じゃない。だけれど気持ちはちゃんとここにある。

「何だと!?無礼な奴め!」

「無礼なのはどっちだ」

僕が睨み返したら、僕を睨んできたサントスさんは少し怯んだような顔をした。

「……後悔することになるぞ。そんな態度で、この世界で生きていけると思っているのか?」

「帰れよ。僕、あなた達と話すことはもう何も無い」

もう会話をする気は無い。僕は彼らを睨む。

……すると、フェイが1つ、手を打った。

「だそうだ。とりあえず今日はもう帰ってくれ。正式なお断りはこっちから書状で送る」

「なんだと」

「しょーがねえだろ。トウゴが乗り気じゃねえんだから。それともなんだ?トウゴを無理矢理攫ってくか?それこそ取り返しのつかねえことになるぞ?」

フェイがいつも通りの態度でそう返すと、ジオレン家の人達はますます怒ったような顔をする。

「……それとも、居座るか?なら貴殿らは客人ではなく敵だ」

更に、フェイは態度を変えて、そう凄む。その手は、フェイの左胸に着けられたブローチ……レッドドラゴンが入っている宝石に、掛けられている。

「……必ず、後悔するぞ」

そして、ジオレン家の人達はそう言って僕らを睨んで……席を立って、帰っていった。

「……トウゴ、お前、ちゃんと怒るんだなあ」

「え?……うわ」

ジオレン家の人達が帰ってしまった後で、僕はフェイに頭を撫で回されていた。ぐしゃぐしゃと。遠慮なく。

「なんか嬉しいぜ。お前、ぽけらん、としててさあ、怒ったりしないもんだと思ってたから」

「……うーん」

掻き回された髪を、頭を振って戻しながら、僕はちょっと、考える。

さっきまでの僕の言動は……うん。

「言い過ぎた気がする」

ちょっと、自己嫌悪に陥りそうだ。もっとやりようがあっただろう、と。

「そうか?俺はあれで良かったと思うぜ?な、ラオクレス?」

「そうだな。どうせならもっと言ってやってもよかったと思うが」

そんなこと言われても困る。あれ以上、言う事はそんなに無かったし、僕の言葉にも限度はあるし。それに、もっと言いようはあったと思うし……。

「……ま、いいや。とりあえず今日は、トウゴが怒った記念ってことにしようぜ!」

「いいよ、そんなの記念にしなくて……」

「いいじゃねえか!とりあえず飯!食おうぜ!で、寝ちまえ!な!嫌な事あったら食って寝るに限る!」

僕が色々と嫌な事を考えるより先に、フェイが僕を引きずっていく。

僕は食堂に引きずられていきながら……まあいいか、と、思うことにした。

うん、とりあえず、これで一旦、落ち着けばいいな……。

その日はレッドガルド家でまたもご飯をたっぷりご馳走になって、満腹になって眠くなりながらお風呂も借りて、体が温まってますます眠くなって……寝ることにした。

「おやすみ」

「ああ」

ちなみに、今日もラオクレスは同室だ。もうお断りはしたんだから、別室でもいいんじゃないかな、という気はしたけれど……。

……ラオクレスは、何かを警戒するように、じっと窓の外を見ている。

これは……まだ、終わりじゃない、ってこと、だろうか?

次の日、僕は森へ帰ることにしたのだけれど、止められた。

……僕を止めたのは、フェイではなく、フェイの家族でもなく……ラオクレスだった。

「あと5日はここに居ろ」

「え?」

ラオクレスがこういうことを言うとは思わなかった。なんというか、とても意外だ。

「何かあった?」

「あのジオレン家の連中を警戒した方がいい」

ラオクレスがそう言うなら、そうなんだろうけれど……なんというか、重ね重ね、意外だ。

とりあえず、フェイからの許可はあっさり出た。『何なら50日ぐらい居ろよ』ということだったので、それは遠慮した。一気に10倍にしないでほしい。

そして僕は、ラオクレスの絵を描かせてもらうことにした。

のだけれど。

「……あの連中だが」

モデルをやりながら、ラオクレスは、そう、話し始めた。

「見覚えがある」

「え?」

どういうことだろう、と思ったら。

「あのサルド・ロエ・ジオレンという奴は、俺が殺した元領主の補佐を務めていた男だ」

……どうやら、世間って狭いらしい。