作品タイトル不明
16話:知らない世界*3
僕らは森に帰って、カチカチ放火王の封印の宝石を眺めている。
「……カチカチ放火王に何を聞いたらいいんだろうか」
「さあ……なんつっても、カチカチ放火王と話ができるの、トウゴだけだからなあ」
ああ、そうだった。カチカチ放火王の言葉が分かるのは僕だけなんだった。……いや、待てよ、もしかしたらルギュロスさんも分かるんじゃないだろうか!
「ルギュロスさん。ルギュロスさん。ちょっといいだろうか」
「何だ」
「ルギュロスさんもカチカチ放火王の言葉が分かりますか?」
期待しながらそう尋ねてみると……ルギュロスさんは嫌そうな顔をしながら、頷いてくれた。
「……まあ、分かるが」
「そうなんだ!なら一緒に質問、考えてほしい。僕らの中だと、カチカチ放火王の言葉が分かるのは僕だけみたいで……」
ルギュロスさんは嫌そうな顔をしていたけれど、でも、ひとまず協力してくれる気にはなったらしい。否定しないから、これは肯定。よし。
……ということで、早速、カチカチ放火王とアージェントさんのあれそれについて話そうと思ったところで、ルギュロスさんがちょっと気まずげに聞いてきた。
「ところで……私に魔封じの処置をする、と契約にはあったが、いいのか」
……あ。そういえばそうだったな。ええと……うーん、ルギュロスさんを見ていて、彼に裏切られる気がしないなあ、と思ってしまっているので、僕としては別にいいかな、と思っているのだけれど……。
「ルギュロスさんとしては、魔封じされちゃってもいいの?」
そう尋ねてみると、ルギュロスさんは呆れたようにため息を吐いた。
「構わん。好きにしろ。……大体、元々そういった契約だっただろう。その程度で信用を買えるなら安いものだ」
そうか。彼、こういうところ、ちゃんとしてるよなあ。真面目な人だ。
「そっか。なら、遠慮なく」
ということで、僕は早速、画材を取り出して……そして。
「……お、おい」
「はい」
「これは何だ!?」
「え?魔封じの処置、ですけれど……」
たんぽぽを生やした。
「何故!私の頭にたんぽぽを生やす必要がある!?」
「そのたんぽぽに魔力を吸い取ってもらっているから、ですけれど……」
「伯父上の頭頂部にたんぽぽを生やしたのは嫌がらせの為ではなかったのか!?」
実用目的だよ。失礼な。流石に僕達だって、アージェントさんに嫌がらせの為だけのたんぽぽなんて生やさないよ。
ルギュロスさんとしては、たんぽぽ、嫌らしい。レネは目を輝かせて『たんぽっぽ!』とやっているのだけれど、ルギュロスさんはたんぽぽを毟り始めてしまった。まあ、毟ってもすぐ生えてくるんだけれども……。
「他に何か無かったのか!?」
「あー、やっぱりアージェントとお揃いだと嫌だよなあ……」
「そういう問題ではない!」
「……じゃあ、別の花にします?」
しょうがない、僕はルギュロスさんが毟ったたんぽぽを束ねて小さな花束にして近くに居た妖精にプレゼントしつつ、また画材を出して……。
「ワタシタベテモオイシクナイヨー」
「何だこの花は!」
「精霊の森の奥に生える喋る花です」
「気味が悪い!」
「キミハワルクナイヨー、アジハワルイヨー、タベナイデネー」
たんぽぽが駄目なら、ということで、喋る花を出してみた。ほら、僕がこの世界に来て最初に話した相手。
「くそ、抜けん!なんだこいつはあああ!」
「ヒッコヌカナイデネー」
……ただ、こちらもルギュロスさんにはすこぶる不評。この花、結構いい奴なんだけれどなあ……。
……ということで。
喋る花は植木鉢に移植して、ルギュロスさんの頭はちゃんと戻して、ついでに喋る花の鉢植えは通りがかった妖精にプレゼントして大層喜ばれて……。
「最初からこうすればよかっただろうが……」
「うん……いや、もう、こういう発想が無かった……」
ルギュロスさんの腕には、僕のおさがりの封印具がくっついている。
僕はもう、封印具無しでも魔力の制御ができるので、封印具は無くても大丈夫。だからそのお下がりをルギュロスさんの腕にくっつけてみたのだけれど……これが予想以上に効果覿面だった。
「くそ、力が入らん……何なんだ、この封印具は……」
ルギュロスさんはぐったりとして、すっかり参ってしまっている様子だった。この封印具、ルギュロスさんには強すぎるみたいだ。
「……やっぱり、ルギュロスさんの魔封じ処理、要らないんじゃないかしら」
「僕もそんな気がしてきた」
……ということで。
結局、ルギュロスさんの封印措置は見送ることにした。だって、ルギュロスさんが今更裏切るとは思えないし、彼、魔力を封印すると、しなしなしょんぼりになってしまうので……。
そうして改めて、ルギュロスさんと一緒に、相談。
「……それで。奴に聞きたいこと、ということだったが、結局は何を聞きたい?」
「アージェントさんが何を考えているのか聞きたい。その欠片だけでもいいから知りたいんだよ。知らなきゃいけないと思う」
「それは何故だ」
ルギュロスさんに聞かれて、少し困る。
知りたい理由。そうだなあ……。
「うーん、知らないのが怖い。取り返しのつかないことも怖い。アージェントさんと対立する以上は、彼のことを知ってからにしたい。それから、一応……ソレイラの人達を守らなければならない、責任ある立場、なので」
「……ふむ。そうか。殊勝なことだな」
ルギュロスさんは少し考えてから、少し楽し気に話し始める。
「伯父上が何を考えてああなったのかは私も知りたいところではある。ああ、無論、殊勝な心掛けなど欠片たりとも持ち合わせてはいないし、お前達の言うよく分からん理論に基づいてでもない。私は私の意思において、伯父上の謀略を暴いてやろうと思っているだけだ」
彼、こういうのが好きみたいだ。ちょっとクロアさんやフェイとタイプが似ているのかもしれない。こういうことを楽しめるって、いいと思うよ。こういう時、僕は只々緊張するだけで楽しめはしないので、ルギュロスさんやフェイやクロアさんが羨ましい。
「となると、奴にそれを聞くべきだろうな。『アージェントとどのような契約を結んだか』だ。……ああ、無論、相手が答えるとは思えんがな」
「うん……そうなんだよなあ」
カチカチ放火王のあの様子を見る限り、あいつ、僕と話すのはそれほど好きじゃないんだと思う。
「カチカチ放火王も、僕らの味方というわけではないので……どうしたら話してくれるだろう。アージェントさんもそうだけれど」
「脅すのが一番だろうな。捕えて、魔法の契約を締結すればいい。そして、相手に確実に契約を履行させるのだ」
「荒業だなあ……現実的だけれど」
ルギュロスさんの話を聞いて、うーん、とまた唸ってしまう。腕組みしながら見上げた空が青くて綺麗だ。もう冬の気配が漂い始めた森の空は、高く澄んでいい色をしている。
「……カチカチ放火王は、最終的には、倒すか、和解するか、どちらかを目指さなきゃいけない相手だと思う。どのみち」
「何を言っているんだ」
そして僕は少しまとまった考えを言葉にすると、早速、ルギュロスさんに呆れたような顔をされてしまいつつ……それでも言うだけは言ってみる。
「なので、カチカチ放火王にまず、和解を求めてみるのがいいかと思って」
そして。
「私の手には余る」
僕は、ルギュロスさんに引っ張って行かれて、フェイとクロアさんとラオクレスとライラが集まってお茶をしているところに連れてこられてしまった。なんだなんだ。
「あら。つまり、私達を頼ってくれるっていうことね?ふふ、嬉しいわ」
クロアさんがくすくす笑うのを見てルギュロスさんは嫌そうな顔をしていたけれど、まあ、概ね正解なんだろう。……多分、僕と1対1で話すのに疲れてしまったんだと思うけれどさ。
「で、トウゴがどうした?」
「魔王と和解しようなどと言い始めた」
「ああ、カチカチ放火王のことか」
ルギュロスさんが憮然とした表情をしている前で、ラオクレスはさらりとそう言って頷いた。ラオクレスの足元には魔王が居る。魔王はラオクレスに対して満足気だ。
「和解?おいおいトウゴ、どうしてそういうことになっちまったんだよぉ」
「カチカチ放火王が僕らの味方になってくれれば、アージェントさんが何を考えているのか分かりやすくていいな、と思ったので。あと、どうせカチカチ放火王のことは、倒すか和解するかどちらかはしないと、この世界が滅んでしまうみたいなので……」
僕がそう言うと、フェイは納得したような面白がるような顔で頷く。
「成程な。和解するっつうのは、ある意味、倒すのと似たようなもんか。確かになあ。完全征服も降伏勧告も同盟締結も、確かにどれだって手段としては正しい」
そう。そういうこと。我が意を得たり、ってやつだ。僕が頷いていると、ラオクレスの足元の魔王も僕を真似して頷いている。まおんまおん。
「……俺としては、『奴』とやらのことも気になるがな。カチカチ放火王を倒してもまだ終わらない、ということなのではないか?」
ラオクレスはまた僕とは違うところからものを見ているので、違う意見をくれた。
「なら、それについて情報を得るべきだろうと思う。トウゴには奴の名とやらが聞き取れなかったらしいが、ルギュロスになら聞こえるのかもしれん。どうだ」
どうだ、とラオクレスに話を振られて、ルギュロスさんは少したじろぎつつ、試してみないことには分からん、みたいなことを答えた。
……もしかしたらルギュロスさん、ラオクレスに投げ飛ばされたのをまだ引きずっていて、ラオクレスのことを少し怖がっているのかもしれない。
「アージェントが情報源だっつうなら、カチカチ放火王だって情報源だ。んで、情報を手に入れねえと、『奴』の対策ができねえ。どのみち俺達は、『奴』の正体ならびにカチカチ放火王陣営の動き方を探る必要がある!なら、カチカチ放火王との和解っつうのも、アリだな!」
「そうね。和平を持ち掛けてみる他に、出せそうな情報を全部出してもらう、っていうのがいいと思うわ。『奴』のことといい、アージェントさんとカチカチ放火王の利害関係といい、分からないことだらけだものね」
「よし。なら大体決まりだな!」
フェイが手を打ったところで、ひとまず方針は決定。
「トウゴとルギュロスがカチカチ放火王に和平を持ち掛ける!他にも、アージェントの目論見と『奴』についてもう一回聞いてみる!それでどうだ!」
「うん。それでいこう」
「私も巻き込まれるのか。ああ、全く……」
ルギュロスさんが少しわざとらしくため息を吐くのを皆で温かく見守りつつ、早速僕らは、カチカチ放火王の最後の封印をどうにかすべく、準備を始めるのだった。
「あ。ところで、フェイ。話が終わるまで、カチカチ放火王のこと、潰さないでね」
「お、おう……いやぁ、でも、なんかあいつ、ぷちっ、てやっちまいたくなっちまう魅力に満ちてるんだよなあ……」
潰さないでね。話が終わるまで、潰さないでね!頼むから!