作品タイトル不明
13話:琥珀の池*5
「さて、問題はこいつをどうするか、だよなあ……」
早速、交換してもらった封印の宝石を眺めつつ、僕らは相談する。
「封印を強化することはできなくもないみたいだけれど」
「あー、お前とゴルダの精霊様がやってたやつかあ。……ちょっとやってみてもらえるか?」
フェイが場所を譲ってくれたので、早速。
……魔力を足すかんじにやってみた。多分、上手くいった、と思う。
「成程なあ……」
フェイは一つ、頷くと……。
「……酔った」
そう言って、倒れてしまった!
「相変わらずの魔力敏感肌だね」
「うるせー……」
「別に悪いことじゃないと思うけれど。現に、フェイが敏感肌なおかげで色々分かってるし、助かってる」
ぐったりと寝っ転がりつつも僕を小突いてきたフェイの手を捕まえてぷらぷら振ってから戻しつつ、一応、ちゃんと言いたいことは言っておく。フェイはフェイ自身が魔力敏感肌なのを気にしているようだから、悪いことばかりじゃないんじゃないか、っていう気持ちを込めて。
「まあ……役に立つってんなら、いいけどな」
やがてフェイは、よっこいしょ、と起き上がって、水を飲んで、よし、と気合いを入れた。
「よし!んじゃあ、改めて見てみっか!」
封印に向かって行くフェイは、とても勇ましい。
……うん。
また酔って倒れた時のために、ベッド、用意しておくね。
ということで、僕はベッドを用意した。昼寝でも夜寝でも具合がいいように、天蓋付きのやつ。……池の中から水でできた女の子がチラチラ見てくる。天蓋付きのベッド、欲しいんだろうか。
……けれど、折角用意したベッド、必要ないかもしれない。
「おおおー!こりゃあいい!すっげえいい!」
フェイが、すこぶる元気だから。
……そう。なんと、フェイの酔い止めが見つかってしまったんだよ。
「なー、トウゴ。しばらくこいつ、借りてていいか?」
「うん。どうぞ」
……風の精。
風の精が、フェイの酔い止めに役立っている、らしい!
「要は、自分より魔力の少ない生き物がいると、そっちが魔力を吸ってくれる、っつう理屈だよな。知恵熱の時に自分より小さい子供達に来てもらうのと同じだ」
風の精はフェイの首の後ろにくっつきながら、なんだか嬉しそうに羽をぱたぱたさせている。
どうやらこの風の精、フェイよりも魔力が少ないものだから、フェイの中に溢れてしまう魔力を吸ってくれる、らしい。
……じゃあ風の精が魔力酔いしちゃうんじゃないか、と思ったのだけれど、そこは流石、『精』だった。風の精や火の精といった生き物達は、魔力を使って生きている、魔力でできた生き物だ。だから魔力が無いと簡単に死んでしまって、そういう理由で、安定して魔力がもらえる召喚獣になりたがるやつが多い、らしい。
ついでに、その魔力を使って自分を作り上げていくし……要は、魔力が余ったら、すぐにそれを消費してしまえる、ということ、らしい。
「……羽が増えてる」
「お。トウゴとおそろいだな、こりゃ」
風の精はフェイの首の後ろにくっついてのびのびと体を伸ばしつつ、徐々に2対目の羽を生やしているところ、らしかった。どうやらこの風の精、魔力を吸って、それで自分の体を成長させているらしい。……成長に費やすにしても、羽、なのか。そっか。まあ、羽が4枚あるって、中々いいよね。安定して。
「あとは私が傍に居ればかんぺきかしら!」
「おう!やっぱり成長期の子供ってのも魔力酔いに効くよなあ!」
更に、フェイの傍にはカーネリアちゃんが控えている、という万全の体勢。カーネリアちゃんも丁度成長期だから、魔力をたっぷり吸って育っているところ、らしい。そういう子供が近くに居ると、フェイとしてはやりやすくていいみたいだ。
「いやあ快適だ!これ、ずっと調べてられるぜ!」
「時々休んでね」
「時々は、な!」
……そういうわけでフェイはすこぶる元気なのだけれど、その、ちょっと心配になる。
ええと……時々、ラオクレスを派遣するね。そしてラオクレスに『寝ろ』ってやられてしまえ。
ということで、僕とライラは琥珀の池の風景を描いたり、目を輝かせて封印を調べるフェイを描いたり、カーネリアちゃんとインターリアさんが寄り添う姿を描いたり……そうこうしている間に夜になってきたのでご飯の支度をしたり、それでもずっと封印を調べているフェイのところにラオクレスを派遣したり、ラオクレスがちょっと面白そうに「寝ろ」って言いつつフェイを捕まえて連れてくるのを拍手で出迎えたりして過ごした。
「いやー、順調に亀の歩みだな、こりゃ」
そして、夕食に連れてこられたフェイから報告を聞く。
「分かってきたことが無い、ってわけじゃあねえんだけどよ。でも、かといって、全貌が見えてるわけでもねえ、っつうか」
ちょっと気まずげにそう話すフェイは、夕食のスープ(食材は僕が出した。それをクロアさんが煮込んだ。とても美味しい。)を食べつつ難しい顔をしている。
「えーと、とりあえず、いくつか分かったぜ。まず、ここから一定範囲以上に動かさない方が良さそうだ」
「まあ、封印だもんね」
どうやらこの封印、やっぱり動かすとよくないらしい。霊脈の上に封印がある、なんて話もあったくらいだし、土地の力って大事なのかもしれない。
「それから、この輪っか。これ、外すと駄目だな。というか、封印の解き方か、こっちは」
「宝石についてる輪っかが封印の要、ってこと?」
「おう。これが外れると封印を解く方向に魔法が動く。そういう仕組みらしい」
そっか。じゃあ、この輪っかは外さないようにしなきゃダメなのか。
「……で、多分だけどよ。このでかい宝石の中に、カチカチ放火王の一部……本当に体の一部なのかもしれねえし、単純に魔力の一部とかなのかもしれねえけど、そういうもんが封印されてる、と、思われる」
僕の頭の中では、カチカチ放火王が召喚獣よろしく宝石の中から出てくる場面がイメージされている。
「問題は、封印をカチカチ放火王ごと潰す方法があるのか、っつうことなんだよな。宝石の中にカチカチ放火王の一部があるなら、宝石をかち割ってやりゃあ、召喚獣と同じように……いや駄目か。召喚獣だって、宝石が割れたら死ぬか還るか選べちまうもんな。えーと、カチカチ放火王の場合、還られちまったらむしろ復活されるのか……?」
更にフェイはぶつぶつと呟きながら考え事を始めてしまった。スープが零れそうなので、そっとフェイの手からフェイのカップを受け取って、安全な場所に置いておくことにした。
……そして、真剣に思考の海へと沈んでいくフェイを見て、僕は、思った。
絵を描いてる時の僕を周りの人が見ている時、こういう気分なのかなあ、と。
……ちょっと心配になるね、これ。
フェイが考え続けている間に悪戯心がむくむくし始めたらしいクロアさんが、スープをスプーンで掬ってフェイの口元に持っていったら、フェイはそれを食べた。クロアさんはこれに小さく歓声を上げて、続けてスープを飲ませてみたり、パンを千切って与えてみたり、と、フェイで遊び始めた。
更に、カーネリアちゃんがそれに参加し始めて、やがてライラもフェイに給餌して『フェイ様ったら、トウゴみたい』とくすくす笑う。……え?僕もこうなってるの?いや、まさかね……。
……あ、でも、描いてる途中にライラがパンで僕の唇をつんつんやってくることはある。そういう時は大抵、パンにかじりついて、パンを咥えながら作業を……進めてないな。あれ?僕、描いてる途中に出されたパン、どこに置いてるんだっけ……あれ?つまりやっぱり、僕、ライラに給餌されている……?
そして。
夜更け。もう、月が高く昇ってしまった頃。
「頃合いか」
寝床の準備や見張りの準備を終えた僕とラオクレスは、満を持して、フェイのところへ向かう。
ご飯の途中で研究に戻ってしまったフェイは、女性陣によってスープとパンを完食させられたらしい。満足げな女性陣ににこにこ眺められながら唸っているフェイの前に僕らは立つと……。
「寝ろ」
「寝ろ!」
「うわっ、な、なにすんだ!うわうわうわ、おいおいおい、運ぶなって!運ぶなってば!」
フェイを捕獲して、ベッドへ運び込む!いつもやられてるからお返しだ!
……そうして、ラオクレスに持ち上げられて運ばれて、ベッドの中に放り込まれてしまったフェイを見て、僕はなんとなく、達成感に満たされる。満足。
翌朝。
起きたらもうフェイが封印の宝石の前で唸っていた。
「おはよう」
「ん?ああ、おはよう。……あ、そうだ!お前らなあ、昨夜はよくも、寝かしつけてくれたな!」
「いっつもやられてるからお返し」
「俺よりはラオクレスが自主的にやってることの方が多いし、それ以外だと俺よりもライラの方がトウゴの捕獲回数、多いだろ……」
そうかもね。まあ、それでも僕はフェイを捕獲してベッドに放り込む。
「ま、いいけどよ。おかげでぐっすり眠って頭スッキリだし」
「それは何より」
フェイは昨日にもまして精力的に、封印と向かい合っているらしい。宝石の輪の模様を分析し始めたり、流れている魔力を解析したり。
……魔力の流れを見るような、すごく繊細な作業をするときだけ、フェイの首の後ろから風の精が退けられる。風の精はちょっとだけ不満げにふわふわ飛び回るのだけれど、フェイが集中している邪魔はしたくないらしくて、ちゃんと大人しく、上空をふわふわしているか、或いは僕の所に戻ってきてふわふわじゃれるか、そういう風に過ごしていた。
そうこうしている間に他の皆も起きてきて、朝ご飯の時間になって……。
……そうして、琥珀の池での2日目がスタートした。
のだけれど。
「……んっ?」
朝ご飯から3時間くらいした頃。フェイがふと、声を上げた。訝し気な、それでいてちょっと焦ったような声は、少し離れて絵を描いていた僕らにも届く。
「どうしたの?」
フェイに何かあった、ということは確かなようなので、スケッチブックを閉じて、フェイの近くへ寄っていく。
……すると。
「いや……なんか、急に、魔力の流れが、変わった」
努めて冷静でいようとしているらしくて、フェイはそれほど、慌てていないように見える。けれど、確かな焦燥がそこにあるっていうことは、じんわり伝わってきた。そしてそれが、あんまりよくないことだ、っていうことも。
「……復活する?」
僕がそう、聞いてみると……フェイは、小さく頷いて、応えた。
「かもしれねえ」
フェイの緊張に強張った顔を、つ、と、汗が伝っていくのが見えた。