軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話:琥珀の池*4

「さっきから無礼よ!何様のつもりなのよ、お前達は!」

水でできた女の子は、そう言って僕の前で腕組みをして立っている。……うわあ。ええと、どうしたらいいんだろう、これ。

「こっちの台詞だっつの」

僕が困っていたら、颯爽とやってきたフェイが、ぺちん、と女の子のおでこを叩いた。

「インターリアさんだのトウゴだの、攫おうとしやがってよー」

「侍女が欲しかったの!水の底で私のために働く侍女が必要だわ!ケルピーったらちっとも気が利かないんだもの!役立たず!」

ケルピー、と呼ばれた水の馬はそう言われて、ぷるぷる……と鳴きながら、ちょこんと縮こまってしまった。……気が利かない、というか、ちょっと変な馬ではあると思うけれど、そう言ってやらなくてもいいと思う……。

……僕、この水の女の子、ちょっと苦手だ。

「申し訳ないが、私はカーネリア様の騎士だ。そちらの侍女にはなれん」

それから、インターリアさんがそう言って、カーネリアちゃんを守れる位置に陣取る。すると、水の女の子は透明な頬を膨らませて、透明な瞳でじっとインターリアさんを睨む。

「この私が折角、侍女にしてあげるって言ってるのに?そっちの子より、私の方が絶対に可愛いのに?」

……可愛い、と言われても、水でできた、透明な顔に可愛いも何もあまり無い。強いて言うなら、よくできた造形ですね、というくらいなもので……それって、可愛いとか可愛くないとかそういう話ではない。

そして、インターリアさんはというと、何も言わなかったけれど、水の女の子とカーネリアちゃんとを見比べて……『カーネリア様の方が圧倒的に可愛い』みたいな、そういう顔をして満足げに頷いている。美しき主従愛……だと思う。多分。

「あら、あなたも相当に失礼ね!ぶれいもの、だわ!」

そして、カーネリアちゃんがインターリアさんの前に進み出て、両手を腰に当てて堂々と立つ。

「インターリアは私の騎士よ!終身、私の騎士よ!そして、終身、マーセンさんのお嫁さんだわ!だから、マーセンさんにならインターリアをあげてもいいけど、あなたにはあげないわ!駄目!」

これは、インターリアさんにとってものすごく嬉しかったらしい。なんだかしみじみと嬉しそうに、にこにこと優しい笑顔を浮かべて、カーネリアちゃんを見つめている。よかったね。

カーネリアちゃんとインターリアさんの間に結ばれた強い絆が見えて、水の女の子はちょっとむくれた顔をしている。でも、欲しくってもあの子達は駄目だよ。強い絆で結ばれているし、そうでなかったとしても森の子だ。あげない。

……と、思っていたら。

「じゃあ、そっちの子でもいいわ」

水の女の子が、僕を指さして、言った。

……へ?僕?

「あなた、私の侍女にしてあげる!」

……うん。あの。あのね。ちょっと待ってね。ええと……。

「……色々と、言いたいことはあるんだけど」

頭の中を整理しながら、僕は……とりあえず、聞いてみた。

「僕……女の子に見えるんだろうか」

「……男には見えない、けれど」

……ああ、そう!

「へえ……あなたみたいな男も居るのね!」

そうだよ。悪かったな、男らしくなくて。

けっ、ていう気分だ。フェイが『珍しくトウゴがやさぐれてるぜ……』ってにやにやしている。いいよなあフェイはこういうところで間違われるようなこと、無くてさ!

……身長が低いから?体重が軽いから?声がそんなに低くないから?筋肉が足りない?どうして僕、女の子に間違われるんだろう!

マーピンクさんの時もそうだったけれど、どうして、僕のことを女の子に間違う人がいるんだろうか!目が節穴だと思う!

「……まあ、落ち込むな」

絶対に僕の悩みを味わったことが無いであろうラオクレスが、ものすごく気遣うように、僕の肩に手を置いた。

「その……お前は、精霊になってから特に、だが、そもそも人間の雰囲気ではない。そのせいで、余計に中性的に見えているだけだ」

そ、そうか。人間中退しちゃったせいで、僕は、余計に……。そもそも人間の雰囲気ではない、っていうのは、ええと……ま、まあ、しょうがない。しょうがないことだから、そこの是非はおいておく。

「そうね。元々トウゴ君、綺麗な子だもの。睫毛は長いし、髪の毛はさらさらだし、造形が整ってるし。それが精霊様になっちゃったものだから、なんだか雰囲気が、人間の男っぽくないのよね」

……うう。そういえば前、ライラとクロアさんに揃って『人間の匂いじゃない』ってやられた記憶がある。そうか、そもそも僕は、人間じゃない……。ま、まあ、それは、もう納得していることだけどさ……。森の子達を守るためには、これが一番いいって、納得づくなんだけれどさ……。

「まあ、俺はトウゴが精霊になる前、初めて出会った時にも男か女か迷ったけどな!」

……それはそれとしてフェイには怒っていいかな!いいよな!よし!怒ったぞ!

僕は、すっかりやさぐれた。

すっかりやさぐれた気持ちで、フェイの脇腹のあたりをずんずんつついて抗議の意を示す。フェイは「痛い痛い」と言いつつも半笑いで、僕の頭を撫でてくる始末だ。もっと怒るぞ!

「ところであなた、だあれ?ずっとここに居たの?」

そんな中、物怖じしないカーネリアちゃんが、水でできた女の子にそう話しかける。

「そうよ!ここ半年くらいずっとここに住んでやってるの!」

成程。最近越してきたばかり、と。

「半年?その前には、ここには他に誰も居なかったの?」

「他?……ああ、ここに元々居た奴は追い出したわ。汚らしい、藻の塊みたいな奴でしょ?ちょっと脅かしたら逃げていってね。あーあ、面白かった」

成程。この子、意地悪、と。

「それで……あなた、この『ふーいん』を、守ってるのかしら?」

「は?ふーいん?何それ?」

成程……。この子、特に、カチカチ放火王の関係者ではなさそう、と……。

この子自身は、カチカチ放火王について知らないようだ。もうちょっとカーネリアちゃんが聞いていく中で、『綺麗な宝石だから渡したくない』というような供述が得られた。つまり、封印はさておき、宝石としてこれが好き、ってことなんだろう。それでさっき、腕を伸ばして封印を奪い返そうとしていたんだな。

「でも、それじゃあ困るのよ!ふーいんが解けちゃったら、カチカチ放火王が出てきちゃうのよ!」

「そんなこと言って、私からこの宝石を奪うつもりでしょう!そうはさせないわよ!」

……ついでに、この調子だと、封印を僕らに渡してくれるつもりは無さそうだ。困ったなあ……。

「ええと、要は、宝石が欲しいんだよね」

このままだと封印を調べることもできなさそうなので、僕はそう、声をかけてみる。そして……。

「それならこれと交換、っていうことじゃ、駄目だろうか」

ざっと描いて出した、大きな宝石。それを差し出して、聞いてみた。

宝石は琥珀の色とは真逆の色、って考えて、青っぽい色合いにしてみた。大きさは封印の宝石以上。金細工の飾りも付けて、立派に仕上げました。

「どう?」

まじまじと宝石を見つめる水の女の子に改めて聞いてみると……。

「いいわ!こっちの宝石と交換してあげてもよくってよ」

やった!どうやら、封印を貰い受けることができそうだ!これでカチカチ放火王対策を始められる!

……と、思っていたら。

がしり、と、僕の両手首を、水の手が掴む。

「それから、私、あなたのこと、気に入ったわ!」

水でできた顔が僕に近づいて、そして、うっとりと、目が細められる。その目も、目を覆う瞼も、何もかもが水でできているから、只々透明なだけで……けれど、声は確かに、聞こえた。

「侍女になれないなら執事にしてあげるわ!或いは……そ、そうね。あなたなら、私のお婿さんにしてあげても、よくってよ!」

……プロポーズされてしまった。

「いや、僕、森だから……」

「森ではない」

「森ではないけれど、森の精霊だから……」

ラオクレスにすかさず訂正されてしまったけれど、僕、森……の精霊だ。うん。まあ、半分ぐらいは森だけど。

「そんなのいいじゃない!役目なんて放り出しちゃったって、水の底へ来れば誰も文句は言わないわよ!」

いや、文句を言われるから、とか、そういう問題ではない。僕は僕の意思で森になったし、森を守りたいと思っているし、皆と一緒に居たいと思ってる。

「あと、役目とかそういうの置いておいても……僕、君のこと、苦手だ」

なので……やさぐれている僕は、正直に、言うことにした。

「失礼な子は好きじゃない」

水でできた女の子は、すっかり不貞腐れた。そして『無礼者!』って言いながら、池の中に帰っていってしまった。なんだったんだ。まあいいか。