軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話:琥珀の池*1

森に帰った僕らは、ゆっくり休むことにした。

ということで、まずはお風呂。

……ほら、龍に頼んで巨大な水の腕を出して操ってもらった時のやつ。あれ、立派な温泉になって、町外れの温泉として人気のスポットになってるんだよ。

なので、まずはそこでのんびりお湯に浸かって疲れを取る。

「屋根のないところで複数人と風呂、っつうのはどうなんだ、って思ってたけど……まあ、身内だけなら湯船に浸かっちまえばあんまり気になんねえなー」

フェイは温泉に皆で入ることに抵抗があるタイプらしいんだけど、それはそれとして、温泉は気に入ってくれたらしい。ちなみに今日の温泉は、他人とお風呂に入るのは嫌、っていうフェイの為、そしてよくよく考えてみたら羽が生えているから人前で服を脱げない僕の為の、貸し切り露天風呂。

……この世界では、貴族は公衆浴場とは無縁っていうことらしくて、日本式の温泉スタイルが嫌っていうお客さんは結構多いらしい。そういう人達のために、ここの温泉施設では貸し切りできる小さな温泉も揃えてあるみたいだ。ちょっと贅沢なかんじでいいね。

「ラオクレスはこういうの、抵抗無い方か?」

「まあ……元々公衆浴場を使うことはあったしな。それに、そもそも犯罪奴隷になっていれば大抵のことには慣れる」

一方のラオクレスは、温泉への抵抗はないタイプらしい。

この世界にも銭湯みたいなものはあって、入浴したい時はそういう所に行くそうだ。勿論、タライとお湯で清拭して終わり、っていうことも珍しくはないらしいけれど、お湯が出てくるシャワーが贅沢品とはいえ存在するこの世界だから、まあ、入浴文化はそれなりにあるみたいだ。

……ラオクレスの場合は、奴隷歴がそれなりに長かったから、もっととんでもない入浴をしたことがありそうだ。騎士の人達も川での水浴び、してたし。

「しかし落ち着かねえなー……いや、お前らと一緒に素っ裸、ってのはもういいや。けどなあ……」

そしてフェイは、そんなことを言いつつ……塀を見つめた。

塀。竹垣、というか。要は、温泉同士の仕切り。その向こうでは今、クロアさんとライラとラージュ姫が温泉を堪能中。時々、彼女らの話す声が聞こえる。なんだか楽しそうだ。

「……塀の向こうは、美女の入浴だろ?」

うん。

「……落ち着かねえよな」

まあ……うん。

「あれ、そういえばお前、クロアさんの裸婦画は描いたことあるんだっけか」

「十数枚は描いた」

「じゃあ見慣れてるかあ……」

「いや……そういうものでもないんだけど」

ほら、描く時は、描くぞ、って思ってるし、描写するものを画面にどう表現するかに集中してるし……ええと、意識がそういう風にならないっていうか。うん。そういうかんじ。

なので……別に、裸婦画を描いたことがあるからと言って……慣れるわけでは、ない!落ち着かないものは落ち着かない!僕だって落ち着かないんだよ!

「はあ、いいお湯だったわ」

温泉を出てロビーでジュースを飲んで待っていると、そのうち女性陣が戻ってきた。

「心なしか肌がすべすべするみたい。温泉っていいわねえ」

クロアさんは湯上りのほんのり桜色の肌でにこにこご機嫌だ。……ちょっと落ち着かない。

「あれ、トウゴいいもの飲んでるじゃない。それ、どこに売ってるの?」

「通りがかった妖精がくれた。はい、ライラの分」

「わあい、ありがと。……よくよく考えたらあんた相当とんでもないこと言ってるわよね。なによ、通りがかりの妖精にジュース貰う、って……」

ライラは僕からジュースを受け取りつつ、難しい顔をしている。そんなライラは湿った髪をまとめて結っていて、その、なんとなく落ち着かない。

「随分と羽を伸ばさせて頂きました。やはりソレイラは素晴らしいところですね。はあ、王城に戻るのが少し億劫です」

ラージュ姫はこの後また王城に戻ることを考えて、ちょっと憂鬱らしい。そして、ラージュ姫は普段、シャツは第一ボタンまできっちり留めるタイプの人なのだけれど、今は一番上のボタンが外れていて、その、やっぱり落ち着かない!

落ち着かなかったけれど、ジュースを飲み終わった頃になるとソレイラの人達が『あれ、トウゴさんじゃないですか!こんにちは!めずらしいですね!』と寄ってきてくれたので、それどころではなくなった。

そして更に『良かったらこれどうぞ!』と、色々また頂き物をしてしまったので、やっぱりそれどころじゃなくなった。

……あの、お供えだけでも十分です!でもありがとう!

それから町の方へ戻って、妖精カフェ。戻ってきた目的は休憩だけれど、もう1つ、妖精に台座の模様を見てもらう、っていうことについてもちゃんとやらなきゃいけないよね。

……ということで、妖精カフェに、入ったんだけれど。

「おお、骨が働いてるぜ……」

フェイが唖然としているのも無理はない。妖精カフェでは、骨の騎士団員達がエプロンを付けて働いていた。

最近の妖精カフェでは、骨の騎士達の一部がカフェ店員として働いている。ええと……戦うよりもケーキを運ぶ方が好きな骨達が居たらしいんだよ。それがこの間の、なかよし魔物ふれあい広場で発覚したものだから、折角だしそういう骨達には妖精カフェで働いてもらうことになった。

……ちなみに、リアンとカーネリアちゃんとアンジェだけでも、それなりに妖精カフェは回せてしまうらしい。3人ともすっかり慣れてしまったし、彼らの召喚獣達も居るので。けれど、骨達と一緒の方が何かと安心なので、結局は、骨ウェイター骨ウェイトレスの皆さんと一緒にホネホネ妖精カフェをやっているわけだ。

「いらっしゃいませ!ごちゅうもんをどうぞ!」

そして、僕らが席に着くと、アンジェがぴょこん、とやってきた。カフェのエプロンドレス姿がすっかり板についたなあ。

「ええと、じゃあ、欲張りセット5人前とブドウのアイスクリーム2人前お願いします」

「はーい!……だって!」

アンジェは僕らからの注文を、横に居る妖精にそのまま伝えると、妖精がにこにこしながら厨房の方へ飛んで行った。それをアンジェも追いかけてぱたぱた走っていって……そして、アンジェがアイスクリームのお盆を持ってやってきて、その後ろから骨の騎士達が列になって、欲張りセットを運んでやってきた。

……ちょっと壮観。

「よっしゃー!食うぞー!」

ちなみに、注文の内訳は、ラオクレス以外が全員欲張りセット。そしてラオクレスとフェイにブドウのアイスクリーム。

……つまり、フェイは欲張りセットのケーキもアイスクリームもどっちも食べる。自棄食いの構えだ!

「……ということで、読めない文字があってよお。一応、妖精達にも見てもらいてえな、って思って持ってきた」

それから僕らはお菓子とお茶でのんびりさせてもらって、その後。妖精カフェが閉店した後、アンジェにそう聞いてみた。

……オーディエンスが大分いっぱいだ。オーディエンスは主に妖精と骨達。全員でひしめき合いながら、僕らのテーブルの上、僕のスケッチブックを覗き込んでいる。

そして、骨の1人に抱き上げられて、他の骨や妖精達におされてしまわれないように保護されているアンジェは、僕のスケッチブックを覗き込んで、首を傾げる。

「妖精さんの字じゃ、ないみたい……」

あ、やっぱり?うん、まあ、駄目元だったので……。

「でも、見たこと、あるの……」

「えっ」

……駄目元だったけれど、その、もしかすると……もしかする?

「あの、見たことって、どこで?」

「森に来てから、だと思う。それで……ええと……」

アンジェが一生懸命思いだそうとしている傍ら、カタカタカタカタ、と、骨の騎士達が、動き出した。

「ん?」

どうしたのかなあ、と思っていたら、妖精達も何かに気づいたみたいでぱたぱたしゃらしゃら、何か騒ぎ出す。

……おや?これは……。

「あの、ちょっと待ってね」

アンジェは騒がしい妖精達の言葉を聞いて、そして……。

「あの、妖精さんはこの文字知らないけれど、でも、骨さんは、知ってるみたい」

……こっちは予想外だった!

どうやら、骨の騎士達には封印の宝石の台座の文字が読めるらしい。そうか、この文字、魔物の文字だったのか。道理で見たことがある、っていうわけだよ。

ほら、一度、マーピンクさん関係の時、骨の騎士達と筆談で意思の疎通を図れないかと思って試したことがあった。けれどあの時は、魔物の文字と人間の文字は違うらしい、ということが分かってそれきりで……その時にがしゃどくろが書いてくれた文字が、この文字だったんだ。

うわ、ちょっと悔しいな。僕だって思いだせたかもしれないのに思いだせなかったわけだから……うーん、まあ、今分かったんだからいい、っていうことにさせてもらおう。

「えーと、つまり、地名が書いてあるわけじゃない、と?」

カタカタ、と骨達が頷く。

「場所の特徴だけが書いてある、と……」

カタカタ、と骨達が頷く。

「で、これがソレイラなのは間違いねえ、ってことだな?」

カタカタ、と骨達が頷く。

……うん。

まあ、なんというか……骨達との意思の疎通は、概ね、こんなかんじだ。

僕ら、彼らとの共通の言語を持たないから、細かい意思の疎通がものすごく難しいんだよ!

骨の騎士達は、台座の文字が読めるらしい。

……ただ、読める、とは言っても、彼ら、読んだ内容を僕らに説明するのに、難がある。

そう。僕らは、文字を読んでもらうことはできるのだけれど……その内容を教えて貰うのが、ものすごく難しいんだよ!

「おおー……お前、絵心あるなあ」

「中々いい絵だ……これは岩山、かな?じゃあ、ゴルダのことかな」

ただ、中には絵心のある骨も居るので、彼らには絵を使って説明をしてもらえる。素晴らしい。

「絵、上達したなあ。やっぱアレか?トウゴの見てて覚えたのか?」

フェイが何故か嬉しそうにそう聞くと、絵描きの骨の騎士はカタカタ頷いた。

「よかったなあ、トウゴ!なんかよく分かんねえけど俺は嬉しいぜ!」

「うん。僕も、なんかよく分かんないけど嬉しい……」

……骨の騎士が僕を見ていて絵を描くことにした、っていうのなら。それで、更に、絵を上達させた、っていうのなら……なんだか、それ、ものすごく嬉しいことだなあ。

そうして、骨の騎士達に頑張ってもらって、時々妖精とアンジェにもあれこれ教えてもらって……なんとか、2つ目の封印の場所だけ、取り急ぎ教えてもらうことにした。

「ええと……池?」

「……どこだ、ここ。全然分かんねえ」

……ただ。

教えてもらえたのだけれど……その場所を、僕らは、知らなかった!

とりあえず、整理しよう。

骨の騎士が描いてくれた絵は、池。その中心にバツ印。つまり、ここに封印がある、ってことなんだと思う。

……池の周りには、明るいオレンジから暗い茶色までの、色んな色の岩……いや、違うか?ちょっと光沢があるような描かれ方のような気がする。じゃあ、金属だろうか?ということは、銅……?

うーん……。

とりあえず、色々と片付いた暁には、僕は、骨の騎士達を対象にした絵画教室を開きたい。

僕らは全員揃って『ここどこだろう』とやっていた。

「周りに、岩か、銅か、そういう具合のものがゴロゴロしている池、だろ?うーん……結構絞られそうなんだけどなあ、どっかの秘境とかじゃねえの、これ。全然聞いたことねー」

フェイは頭を抱えている。

「……分からん」

ラオクレスも腕組みしながら唸っている。

「そうねえ……少なくとも、王都直轄領じゃないと思うわ、これ。私、見たことないもの。アージェント領でもないわね」

クロアさんは結構絞ってくれているけれど、それでもよく分からない。

「王家直轄領では、ない、と、思います。幼い頃はよく父に連れられて各地を巡りましたが、このような場所があるとは聞いたことがありません」

ラージュ姫もそう言って首を傾げている。この国に一番詳しいであろうラージュ姫でもこれなんだから、結構、難しい、かもしれない……。

とりあえず、ラージュ姫に絵のコピーを持って帰ってもらってオーレウス王子にも聞いてもらうことにして、ついでにフェイのお父さんにも聞いてみようか、なんて話をしていた、その時だった。

「アンジェー、妖精がお前のこと、呼んでるみたいだぞ……って、皆集まってんのかよ」

「何?何?皆で集まってどうしたの?なんだか楽しそうだわ!私も混ぜて頂戴!」

あんまり楽しくないのだけれど、リアンがてくてくやってきて、カーネリアちゃんがぴょこぴょこ跳ねるようにやってきたので、ちょっと場所を開けて2人を混ぜてあげる。どうぞどうぞ。

リアンは適当に僕の横に座って、カーネリアちゃんはお礼を言って更にその隣に座って、2人は僕らの輪の中央に置かれた絵を見て……。

「あら?みんな、ジオレンに行ってきたの?」

カーネリアちゃんが、そんなことを言った。

「……ジオレン?」

「ええ!だって、ここ、ジオレン領でしょう?もう、王家に接収されたみたいだけれど!」

そうなの?という気持ちを込めてラージュ姫を見てみると、『はい』というようにラージュ姫が頷いた。そっか。ジオレンさんの投獄騒ぎがあったあたりで、ジオレン領は王家直轄領になった、っていうことか。結構最近の話だなあ。

「ここ、琥珀の池でしょう?時々、インターリアが連れていってくれた場所だわ!」

「……琥珀の池」

なんだかぽんぽん話が進んでいくので、僕らはぽかんとしながらカーネリアちゃんの話を聞く。

「ええ!私達はそう呼んでたわ!あのね、大きな琥珀の塊がたくさんあるの。そういうのは座って本を読んだり、お昼ご飯のバスケットを置いたりするのに丁度いいの。もちろん、小石みたいに小さいのもあるから、拾って帰るのにも丁度いいわ。……あっ、今日着けてるリボン!これの結び目の飾りは、そこの琥珀よ!」

カーネリアちゃんは嬉しそうにそんなことを話して聞かせてくれる。確かに、カーネリアちゃんの蜂蜜色の髪に飾られたリボンの結び目には、琥珀の飾りがついている。素朴ながらきらきらして綺麗な宝石の色は、茶色がかった明るいオレンジ。……成程。骨の騎士が描いてくれた絵は、岩でも銅でもなくて、琥珀……。

「ちなみに、この池って、どこらへんにある?」

「ええと……よく分からないわ。でも、インターリアなら知ってるはずよ!だって、インターリアが連れていってくれてたんだもの」

成程……。

いよいよ掴めた確かな手掛かりに、僕らはなんだか俄然、やる気が湧いてきた。

「ジオレンの屋敷を朝一番に出て、馬で走って、お昼前に着くの!そこでおやつ時まで過ごして、それからまた帰って、こっそりお部屋に帰っておけばお父様にもお兄様にも気づかれなかったのよ!……まあ、だから、レッドドラゴンさんだったら、もっと早く着けるんじゃないかしら。そういう距離だったわ!」

そこまで言ったカーネリアちゃんは、『インターリア呼んでくるわね!』と言って立ち上がって、早速、フェニックスに掴まって飛んで行ってしまった。

「……すげえなあ」

「うん。すごい」

そして取り残された僕らは……只々、思う。

カーネリアちゃん。君は……君はとっても、素晴らしい!あと、インターリアさん!ありがとう!