作品タイトル不明
8話:半分取材旅行*7
「よし。ここで1つ、仮説を立てるぞ。……ずばり、歴代『勇者』諸兄が行ってきた『魔王封印』は、『夜の国の封印』だった!んでもって、カチカチ放火王は……全く関係ない!」
うん。
……そういう仮説にならざるを得ないよね。
だって……ここにあるのって、夜の国と昼の国を繋ぐ祭壇、なんだから……。
「多分、ここに強い光の魔力を流すとこれが作動するんだろ?えーと……」
フェイはそんなことを言いつつ、祭壇を眺める。
「あー、はいはいはい。これなら分かるぜ。うんうん。大体合ってる。これ、夜の国とこっちを結ぶ門を開くための祭壇じゃなくて、門を閉じるための祭壇だ。これが起動すると、夜の世界からこっちの世界に向かう魔法を無力化したり、誤魔化したり、捻じ曲げたりしちまえるみたいだ」
……よく分からないけれど、ジャミング、っていうことなのかな。その装置だ、と。うん。
「そう考えると、色々と説明がついちまうよな。まず、夜の国を度々封印してたのは、歴代勇者。これは正解だろ」
うん。それは間違いないと思うよ。夜の国の人達が攻めてきて、いよいよ大変になってきたら勇者はここに来て、ここで夜の国の門を閉じてしまう、と……。
「……で、これがここにあるってことは、初代レッドガルドがここに一枚噛んでる」
「うん」
それはそうだ。この祭壇は、初代レッドガルドさんの日記に残っていたものだし……そもそも、当時のこの世界に、夜の国の人は初代レッドガルドさん以外居なかった訳だから、彼が何かしなかった限りは、ここにこういうものがある理由が説明できない。
「……ということは、だ」
うん。
「カチカチ放火王の情報、どこにもねえな!」
うん。そういうことに、なる……。
「カチカチ放火王って、最後に封印されたの、いつだあ……?」
「さあ……」
……もしかすると。カチカチ放火王って、ものすごく、とんでもない年数、封印されていた、のかもしれない。それこそ、最初に封印されてから今まで、一度も封印が解けていない、とか、そういうレベルで。
「前提からして、違うかもしれないね。もしかしたら、カチカチ放火王の封印って、一度も封印され直していないのかも」
「だとするとまた色々と……うわー、どうすんだこれ!何をしたら正解なのかがまるで分からねえ!」
うん。手がかりは何も無いのに、でも、何かが起こることだけは確実だ。
「ゴルダの封印の前に1つ封印がありそうってことは分かってんだ。なんとか、それがどこなのか調べねえと……」
……嫌だな、これ。焦るばっかりで、何も進まないって、すごく嫌だ。早く、橙色の宝石の封印がどこにあるのかを見つけないと……そこが酷い被害に遭う。
ソレイラの森みたいなことは、もう二度とごめんだ。だから、なんとかして、情報を……。
「……結局、壁画の『魔王』って、どっちなのかしら」
僕らが悩んでいたら、ライラがふと、そう言った。
「私、前回見た時、『あんまりまおーんっぽくないわね』って思ったのよ」
……僕ら全員、ライラを見つめてしまう。ライラはこの場の全員に見つめられてちょっとたじろぎながらも、続けて話してくれた。
「だからさ、その……もしかして、この絵を描いた人は『魔王』を想像で描いたんじゃないか、って思ったのよね」
……うん。
「でも、王家は『初代勇者』なんでしょ?なら、もうちょっと色々伝わっててもいいんじゃないかしら、っても、思ったんだけれど……その、まあ、そもそも『初代勇者』の称号すら、初代レッドガルド様から奪ったかもしれない、とか、色々考えてたじゃない?その辺りとか思いだすとさあ、ますます……」
ライラは、自分の中の考えを言葉にまとめきれない、というように言葉を途切れさせると……色々とまとめることを諦めたように、言った。
「……あの壁画、気にならない?」
……うん。
シンプルな提案ながら、確かに気になる。
というわけで、王城の中に戻ってきた。王城の裏手の『封印の地』よりもこっちが有力な情報になりそうっていうあたりが、なんか、こう……期待外れ、って言ったら言い方が悪いかな。でもそんなかんじだ。
「うーん……まあ、よくある御伽噺を壁画にした奴だよなあ、ってかんじだけどな」
フェイは壁画を見ながらそんな感想を呟いているけれど、この壁画はすごいんだぞ。画面構成がすごく上手いと思うし、色の使い方も場面ごとに違っていて……例えば、勇者が森の中に居る場面では影に緑の反射光を柔らかく入れることで森の空気を表現しているし、勇者が湖に居る場面では光が薄青くて影も暗い紺色で、全体的に青っぽい。勇者が魔王を倒すところは強い光が暗い空を照らしてコントラストが激しい描かれ方をしている。
壁一面に、順序ごとに絵が描いてあって、その場面の違いはそのまま、色合いの違いなんだ。色合いが変わっていくから、『ああ、ここで場面が変わってるんだな』って分かる、というか。うん。とにかくこの壁画はすごいんだ。
「『魔王』の姿は……まおーんじゃないわよね、これ」
「うん」
まあ、壁画の素晴らしさはさて置き……描かれた内容について。
『魔王』は、間違いなく、うちの魔王じゃない。黒くて不定形でふにふにの、あの愛嬌のある生き物じゃないし、空一面を覆う魔王、ってかんじでもないし。
「……じゃあこれ、何かしら」
「……カチカチ放火王とも違う気がする」
けれど、カチカチ放火王とも、似ていない。
カチカチ放火王の、揺らめくようなあの姿。その中でも分かるあの禍々しさ。そういった様子とは大分かけ離れた……『とりあえず、怪物っていったらこんなかんじ』みたいな、そういう絵が壁には描いてある。
「まあ、絵師は直接魔王を見なかった、ってことなのかしら」
「うん……でも、ある程度、勇者本人から監修は受けられると思うんだけどな」
なんというか、魔王とカチカチ放火王、2種類の『魔王』を知ってしまった今となっては、この壁画、なんだろう、という感想になってしまう。
立派な絵だし、素晴らしい絵だし……でも、よく分からない絵だ。
「……1つ手掛かりになるのは、『勇者の子孫の血』がカチカチ放火王の封印を解くカギになっている、っていうことだと思う」
1つ、思いだしたついでに喋ってみる。
「あー、国王の血のことだろ?」
「いや、そうじゃなくて……」
フェイが首を傾げるのを眺めつつ、他人事じゃないんだぞ、と思いつつ……。
「……フェイの血の可能性も、あるよね?」
そう言ったら、フェイが、そういえばそうだったなあ、みたいな顔をした。
「俺も血、流しちまったんだっけか。傷がねえからすっかり忘れてたけどよー」
うん。ざっくりいってたよ。見ているだけでこっちまで痛くなってくるような傷だった。僕ははっきり覚えてるんだからな。
「ということは、もしかして、カチカチ放火王を封印したのって、初代レッドガルドさんなんじゃないかな」
ということで、僕がそう言ってみると、フェイは、確かに、と呟いて考え込んで……それから、慌てて両手を振って、撤回。
「いや、やっぱナシだ。ナシ!だってよお、初代レッドガルドが出てきたのって、夜の国が初めて進出してきた時だぜ?で、多分その時が初代国王の誕生の時だ。城の建設はその後だけど、壁画は残ってる。ってことは……初代が夜の国を封印した時には、カチカチ放火王は既に封印されていた、って考えた方がよくねえか?」
まあ、筋は通る。そうだね。城の壁画がある以上、カチカチ放火王の封印は、城の建設よりも前……だと思う。いや、壁さえあれば壁画は後からでも描けるけれど、それにしたって初代レッドガルドさんがやった、とは言い切れない程度には、色んな可能性が生まれてしまう。
「……あの、フェイ様。変なことを言うようだけれどさ」
そこで、ライラが珍しくも、小さく控えめに挙手しながら、フェイに話しかけた。
「その、初代レッドガルド様の奥方様の方が『勇者』って可能性は、無い?」
「……ご先祖様って、確かに、じいちゃんだけじゃなくてばあちゃんの方も居るのか。いや、でも、流石にそれは……そんな女傑が居たのかあ?ホントに?カチカチ放火王を封印した挙句、得体の知れないドラゴンと結婚しちまう女傑が?」
フェイはライラの説に懐疑的なんだけれど、僕としては結構納得がいく内容ではある。
「うん。ありそう。ほら、あの人、結構活動的だったし、初代レッドガルドさんの手を引っ張って森の中探検してたし。アプローチも、最初は奥さんの方からだったし」
「見てきたように言うなっつの」
そう言われても、森の記憶に残ってるんだよ。快活に笑う綺麗な女性と、その女性と片言の古代語でなんとか話そうと頑張る初代レッドガルドさん。懐かしいなあ。
「戻ってこーい!トウゴー!戻ってこーい!」
「戻ってきなさーい!」
う、うわ、両側からほっぺ伸ばさないで!びっくりした!
僕がびっくりさせられたことへの謝罪は無かった。フェイにもライラにも『当然のことをしたまで』みたいな顔をされた。遺憾のい。不満のふ。そして閑話休題。
「初代の日記さあ……後半部分、その、恋愛日記になってんだよな。どうやら、この世界の女性と知り合って、恋に落ちたらしくて、で、結構すったもんだあって結婚してるんだけどよ」
うん。ちょっと知ってる。少なくとも、2人が森でデートしている場面は僕……じゃなくて、森の記憶にあるから知ってる。
「初代の妻がカチカチ放火王を封印した、っていう可能性はさておき、その女性が当時の王家の姫君、って可能性は、結構高い気がしてきたぜ。そう考えると、妻の実家に夜の国の封印の装置を置いたって理屈は分かるんだよな」
「それならむしろ、初代レッドガルドさんが王になっていた方が自然だと思うけれど」
「いやいやいや。だって、ドラゴンと人間の婚姻だぜ?子を成せるか分からねえし、代々封印を守るなら、血筋が絶えなさそうな奴らに任せなきゃならねえ。それが王家だったなら納得だし、それが王家に『なった』、っていう理屈でも、十分納得だ」
成程。責任感の強かった初代レッドガルドさんの行動として考えると、王家を『勇者』っていうことにして、代々夜の国の封印を任せた、っていうのは納得がいく。
「まあ……だとしても、だから何だ、って話ではあるな!結局、カチカチ放火王の伝説ってどこから始まってんだ!?本当にあったのか!?なんかつい最近、ぽっと生まれたんじゃねえだろうなあいつ!」
そうして遂に、フェイが限界に達したらしい。うん。そうだね。手がかりが無くて手詰まりで、どうしようもないこのかんじは、今のフェイみたいに『うがーっ!』てなるに値するものだと思うよ。僕はやらないけど……。
「いや、それは無いだろう。俺は絵に詳しいわけじゃあないが、王城の壁画はそれなりに古いものに見える。少なくともその時代には既に、カチカチ放火王の伝説はあったと考えた方がいい」
「いやいやいや!あの壁画自体がでっち上げの可能性もあるだろ!?『夜の国を封印しました』よりは『魔王を倒しました』の方が箔が付く!王家の偉業を壁画にするなら、多少の創作は挟むだろうさ!ってことで、そもそもカチカチ放火王なんて存在しなかったと考えてもいい!」
うーん……確かになあ。
伝説があるからといって、古くにそれが実際に起きたとは限らないし、そもそも、カチカチ放火王が本当につい最近、封印ごと生まれていたとしても矛盾はない。
ほら、なんだっけ。世界5分前仮説、だっけ。先生が言ってた。
この世界がつい5分前に生まれていたとしても僕らにはそれを認識することができない。なぜならば、その5分前に、僕らは過去の記憶ごと生み出され、歴史も数千年数億年分のものが記録として生み出されたから。
……うん。まあ、それでも矛盾はないよね。無いとは思うけれど。
「となると……アージェントを逃がしたのは間違いだったか」
「まあ……多分、あいつ、直接カチカチ放火王かカチカチ放火王の手下から話を色々聞いた結果、色々情報持ってたんだろうからなあ……」
この世界が5分前に生まれた、という案を棄却するとなると、いよいよ、アージェントさんが色々知っていたのが惜しまれる。
もっと色々聞いておくべきだったかなあ。アージェントさんのことだから、何かまだ隠していたとしてもおかしくはないんだよな。うーん……。
「……ま、しょうがねえ。2つ目の封印は、当初の予定通り探すっきゃねえな」
当初の予定……うん。ぶらぶらあちこち巡って、片っ端から探知機で探す、っていう。そうだね。それしか無い気がしてきた。
「幸い、ゴルダの山の中に3つ目の封印は見つかったんだ。……逆に、最終地点が王家の裏手じゃなくなっちまった、っていう点で一歩後退でもあるんだけどよ、ま、それもある意味では前進だ。……アージェントがそこだけ嘘ついてた可能性も高いしな。やっぱあいつ信用できねー」
フェイはそう言って虚空を睨んで舌打ちする。あんまり物事が前進していないし、疲れもあるんだろうし……今日のフェイはちょっといらいら気味だ。
「まあ、一度森に帰りましょう」
パン、と手を打って、クロアさんがそう言う。それに、フェイはちょっと何か言おうとしたみたいだけれど、優しいクロアさんの笑顔を向けられて、更に、クロアさんの長く細い指がフェイのおでこをつん、とつついたら、フェイも文句は言えなくなってしまった。
「それで、少し休憩。カチカチ放火王がいつ2つ目の封印を破るか分からない状況ではあるけれど、だからと言って、無理したって何にもならないわ。しっかり休まなきゃ駄目よ」
「……でもよー」
「勿論、休憩の時間は無駄にしないわ。念のため、森の妖精達にも台座の文字を見てもらいましょう。なら、そのための時間を休憩に当ててもいいんじゃない?」
うん。それがいいと思う。
フェイは台座の模様について、妖精の文字じゃない、って言っているけれど、それでも、妖精が何か知っている可能性はあると思う。
「……分かった!くそ、なんかなあ、思ったように進まなくて、イライラすんだけどよ……イライラしててもしょうがねえもんな。よし!」
フェイはいつもの笑顔を浮かべると……宣言した。
「休むぞ!んで、俺は妖精カフェで甘いもん大量に食う!」
「賛成!」
フェイの宣言に全面賛成だ。
上手くいかない時には甘いもの。元気になるためにはアイスクリームと良き友人!よし!