軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話:何度でも楽園を*8

「……う」

次に目が覚めたら、ベッドの上だった。ちゃんと、体の方に意識があった。よかった、僕と森は離れた別のものだ。大丈夫大丈夫……。

……けれど、体が痛かった。うつ伏せになった僕の背中から首、お尻の方にまで、ずきずきひりひりとした痛みが広がっている。これ、知ってる。火傷の痛みだ。

「あ、トウゴ!トウゴ!目が覚めたのね!」

元気な、かつ心配そうな声が聞こえたなあ、と思って目を開けると、ぼんやりした視界に、カーネリアちゃんのオレンジ色が映った。

「フェニックス達!さあ、どんどんトウゴを治してあげて!とっても痛そうだわ……」

……そして、意識してみると僕の太腿のあたりにふんわりした重みがちょっと乗っかっているなあ、と気づく。多分、フェニックスだ。それから、頭の横に鳳凰の尾羽が見えるし、両脇にもふわふわするものがあるから、多分、鸞だと思う。

あったかいなあ、と思いつつ、鳥達の感触を味わっていたら……ぽたり、と、僕のお尻のあたりに何かが注がれた。

「ひゃ」

「トウゴ、大丈夫よ。今、みんなが涙で怪我を治してくれるわ!」

カーネリアちゃんの言葉を聞きつつ、ああ、そういうのあったなあ、と、ぼんやり思いだす。

どうやら、フェニックスに鸞2羽、そして僕の鳳凰が、僕のために泣いてくれているらしい。ぽたぽたと落ちてくる涙が僕の体にぶつかると、そこの痛みがすっと引いていく。

「ありがとう……」

声を出してみたら、声が酷く掠れた。体は痛いし、熱っぽいし、風邪の時みたいだ。

「いいの。いいのよ。こういう時のために、この子の涙はあるんだわ」

「トウゴおにいちゃん、げんきだしてね……」

僕がぼーっとしていたら、カーネリアちゃんの後ろからアンジェも出てきた。更に、熱っぽい僕の頬を冷ますように、氷の小鳥がぴいぴい鳴きながら飛んできて寄り添ってくれる。ひんやりして気持ちいい……。

「あ、トウゴ。火事の方はクロアさんとフェイ兄ちゃん達が始末つけてるし、とりあえず安心して寝てていいってさ」

リアンの声も聞こえる。そっか。安心して寝てていいのか。

なら、お言葉に甘えて、もうちょっとだけ……。

何度か微睡んで、何度かぼんやり起きて、また微睡んで、を繰り返した。

ぼんやり目を覚ます度、熱っぽくて、怠くて、意識がはっきりしなかった。

けれどぼんやりした意識の中で、近くにいつも誰かが居てくれているのは分かった。

フェイが椅子に腰かけて、のんびりと、かつちょっと寂しそうに僕を見ていたり。

ラオクレスが椅子の上で腕組みして、じっと、不動の姿勢でぼんやりしていたり。

クロアさんが僕の手を握ってみたり、僕に意味も無く肌掛けをかけ直したりしてくれたり。

リアンとアンジェとカーネリアちゃんがやってきては、枕元に花を飾ってくれたり、フェニックスがまた僕のために泣いてくれたり、ついでに妖精達がお見舞いしてくれたり。

レネが泣き出しそうな顔で僕の横に潜り込んできて、一緒に昼寝していったり。何故かライラもレネに引っ張り込まれて一緒に昼寝していたり。

他にも、フェイのお父さんとローゼスさんがお見舞いに来てくれたり、ソレイラの人々が僕に祈りを捧げてくれたり、ラージュ姫が駆けつけてくれたり……色々。

とろとろした意識の中、彼らに見守られていることは分かった。快復を望まれていて、それが暖かくて、優しくて、だから僕はまた安心してとろとろ眠って……。

……目が覚めたら、僕は仰向けだった。背中はもう痛くなくて、うつ伏せになっていなくてもよくなったんだなあ、とか、誰かが僕をひっくり返して寝返りを打たせてくれたんだなあ、とか、そんなことをぼんやり思う。

それから、隣があったかくて、もう片方の隣がちょっとひんやりした。なんだろう。柔らかくっていい匂いがして、気持ちいい。

なんだろうなあ、と思って左を見てみると……ライラが居た。

更に、右を見たら、レネが居た。

ええと……横に。僕の、すぐ横に。

つまり、僕の、ベッドの中に。一緒に。

「うわ」

「とうごっ!?」

びっくりして声を上げたら、それで目を覚ましたらしいレネが飛び起きて、僕の顔を覗き込んでくる。

上から覗き込まれるような格好になるので、僕はレネの顔を見上げることになるのだけれど……頭上にレネが居ると、なんだか、星空を見上げているような気分になる。綺麗だなあ。

「とうご、とうご……」

そして、星空から雨が降ってきた!

レネの目にはみるみる涙が溜まっていって、それがぽたぽた、落ちてくる!

「ん……ん?え?あ、と、トウゴ!?あんた、起きたの!?」

「起きた……」

そして、ライラも僕の横で目を覚ます。ライラは起きてすぐ、ベッドからさっと抜け出した。

「あの、レネが!レネが誘うもんだから!こう、あんたの横で寝るとあんたに魔力とか分けられてあんたがちょっと元気になるって、レネが言ってたから!だからベッドに入ってたんだからね!べ、別にやましいことなんかしてないから!」

「あ、うん……」

ライラがものすごく慌てている様子が可笑しくて、起きて両側を固められていた驚きはどこかに飛んでいってしまった。

とうごー!と泣きながら僕にくっついてくるレネの背中をぽんぽん軽く叩きながら、僕はなんだか落ち着いた気持ちになって……そして、ふと、聞いてみた。

「ちなみに僕、今回は何日寝てた?」

「5日よ」

……ライラからの発表を聞いて、ああ、3日をオーバーしてしまったなあ、という気持ちと、まあ、この程度で済んだなら……っていう気持ち、そして、『いやいや、ちょっと待て、火傷して気絶して5日昏睡って結構まずかったような気がするぞ!』っていう気づきとで、僕は黙らざるを得なかった。

そうか……5日……。

……改めて考えると、結構、長かった、なあ。

「良かったわ、トウゴ君、無事に目が覚めて……。本当に、本当にびっくりしたんだから……」

「うん……今、僕もびっくりしてるよ……」

それから皆が呼ばれてきて、すごい速さで集まった皆に、僕はびっくりしている。

そして、僕のベッドの周りは随分賑やかになった。ついでに、窓の外も賑やかだ。馬が詰めかけているし、鳥が窓にびったり張り付いているし。あと、龍。なんと、龍も僕の様子を見に来たらしくて、時々、鳥を退かしては窓から僕の様子を見ている!びっくりだよ!

「トウゴ。覚えているか。お前は大火傷を負って、今にも死にそうな状態だったが」

ラオクレスがとてつもなく渋い顔でそう聞いてきたので、ちょっと記憶を手繰る。……うん。覚えてる。

「覚えてるよ。それで、龍が雨を降らせて僕に着いた火を消してくれて、それから、フェニックスが涙で傷を治してくれた、んだよね?」

ちら、と窓の外を見ると、龍は僕を見て、ふう、とため息を吐くような素振りを見せた後、ふわふわと帰っていった。ありがとう。

それから、こちらにもありがとう、とフェニックスを撫でると、フェニックスは、ぴるるるる、と嬉しそうに歌う。フェニックスの歌は元気が出る歌だ。心なしか、また体調が良くなったような気がする。

「なー、トウゴ。体調はどうだ?」

「うん……ちょっと熱っぽいかんじ。体が重くて怠い。けれど、それくらいだよ。元気なうちに入ると思う」

それから、フェイに聞かれてそう答えると、フェイは口をへの字にしてしばらく僕を見つめていたのだけれど……やがて、僕の頭をわしわしやりながら、言う。

「お前さあ、死んでてもおかしくないくらいの傷だったんだからな?だから、その、無理するなよ」

うん。大丈夫だよ。……こんなに皆に心配してもらったんだから、無理なんてできないよ。

「ええと、僕が寝ている間のこと、聞いてもいいだろうか」

「おう。まあ、大したことはねえけどな」

では早速、僕が寝ていた間に何が起きていたかを教えてもらう。……ほら、魔力切れ由来の気絶はもう何十回もやっているから、気絶から起きた後の諸々の処理は得意なんだよ、僕ら。

「まず、あのでっけえ怪物が消えたあたりから、だよな。龍が雨を降らせて、それで、お前の背中の火が消えて……何よりも先に、カーネリアちゃんとフェニックスを連れてきて、お前の怪我を治してもらった。とにかく、お前の火傷、酷くて……」

そこでフェイは一度、言葉を切って、何かを言おうか言うまいか迷ったように視線を彷徨わせて……。

「……ほんと、良く生きてたよ、お前さ」

フェイが、へにゃ、と弱った顔をしながら、また僕の頭をわしわしやる。

……フェイが傷の説明をしなかったくらいだから、きっと、僕の傷、ものすごいことになっていたんだろうな。

僕はただ、痛くて熱くてとんでもなかった記憶しか無くて、傷口は一切見なかったから、あまり酷い記憶は無いのだけれど……フェイにはとんでもないものを見せてしまった、のかもしれない。ちょっと申し訳ないな。

「ま、とりあえずそれでお前がなんとか生きていられるぐらいにまで回復したから、ひとまずお前を家まで運んで……そこから先はカーネリアちゃんとリアンとアンジェに任せちまった。ま、皆で治してくれたんだよな」

「それはなんとなく覚えてるよ」

フェニックスが涙を零して僕を治してくれたことも、子供達が僕を励ましてくれたことも、なんとなく覚えてる。すごく暖かくて、落ち着いたことも覚えてる。

「……で。一方その頃、ってやつだな。まあ、なかよし魔物ふれあい広場は中止になった。あんなことがあって、森がどうなるか分からなかったしな。ただ、魔物達を責める人は居なかったぜ。つくづく、来場者達には怪我が無くてよかった」

ああ、そっか……。中止になってしまったのは、その、すごく残念だ。来場していた人達は何も悪いことをしていないのに。

でも、そういうもんだよな、とも思うし、そういう理不尽はよくあることだ、と思うし、それはそれとして、でも、ものすごく残念だし、漠然と悔しい。

……まあ、とりあえずは、怪我人が居なかったみたいで、それはよかった。

「その後は、森の騎士団と一緒に森の焼けた個所を見てた。……つっても、ほとんど見られなかったな。魔力の残滓と瘴気が酷くて、居られたもんじゃねえ」

瘴気、っていうと……魔王の残り香、みたいなやつなのかな。ええと……整備し直さなきゃいけないかな。片付けもしなきゃいけないし、動物達の様子も見に行かなきゃいけない。後で見に行こう。

……焼けてしまって荒れ果てた森を見るのは、その……結構ショックが大きいだろうから、覚悟して見に行こう。

「で、あとは王家と協力しながら文献調査だな。あの化け物は一体何なのか、っつうのを調べてて……」

フェイはそう言って……ちょっと考えてから、言った。

「ああ、そうだ。えーと……お前が気絶しちまった直後に、国王陛下を一発ぶん殴っといた」

……うわあ。

「それ、不敬罪では……」

「不敬どころではないがな……」

ああ、そっか、傷害罪……?いや、それにしても、フェイが……?フェイが、王様を、ぶん殴った……?

「いいんだよ。不敬罪についてはもう、レッドガルドは国のもんじゃねえから。貴族連合は独立したからな!独立しちまえば国王をぶん殴れる!へっ、どんなもんだ!」

フェイがちょっとやさぐれているのを珍しく思いつつ、ちょっと記憶に引っかかるものがあったので手繰って……。

……ああ、そっか。王様の血で、封印が解けちゃったのか。

今回の諸々の原因が王様だったなあ、ということを思い出した。

「ほんとによお、王城で大人しくしてりゃあよかったのに、わざわざ森に遊びに来て、それで取っ捕まって首切られて血ィ流して、その血でなんかの封印解除の儀式だったんだろ!?多分!」

「うん。多分」

「身勝手にもほどがあるだろ!あんなのがああいうことしやがったせいで、それで、トウゴは……」

……ああああ、フェイが、フェイが、ものすごい形相だ!レネが隣で「ふりゃめ、えるーら……すきゃーめ……」と呟きつつ、怖々フェイを見つめている。そうだね。今のフェイは正に、赤いドラゴン、っていうかんじだ。

「そうだね。ええと、僕のことは置いておくにしても……王様の血で、魔王が復活してしまったわけだし……」

そうだよなあ、と思いつつ、頷く。王様がこっちに来なければ、血が出なくて、その血を元に封印を解いた魔王が現れることもなかったわけだし、そうしたら森だって燃えなかっただろうし……。

……という、話を、したところ。

「……魔王?やっぱりあれ、魔王、だったのか?」

……あれ?

フェイ達の反応が……その、なんか、鈍い。

「え、あの、魔王、だよね?あ、勿論、ふにふにしてない、まおーんとも鳴かない、そういうやつだけど」

「お、おう。そりゃ分かるぜ。ふにふにのまおーんは今、俺の膝の上に居るからな」

いつの間にか、魔王がフェイの膝の上に乗っている。まおん、と鳴いて、ちょっと不満げだ。ええと……ごめん、同姓同名の『魔王』の話をしているからかな。でもちょっと我慢していてほしい。

「森を焼いた方の魔王が魔王だっていう証拠は何かあんのか?」

疑わし気なフェイがそんなことを言ってきたので、思わず、言う。

「森を焼いた方の魔王って、喋ってたよね?」

「は?」

……あ。

「……もしかして、皆、聞こえてなかった?」

「待て。トウゴ。お前は何か聞いたのか」

そ、そういうことか……!

「……という風に、森を焼いた方の魔王が言っていました」

「な、成程なあ……『手に入れたぞ、手に入れたぞ、今こそ封印を破る時!』ってのと、あと、宣戦布告、かあ……」

どうやら、あの魔王の声、僕にしか聞こえていなかったらしい。

「……ねえ、そういう風に、言ってたよね?」

僕がそう確認してみても、皆、首を傾げるばかりだ……。

「それ、人間には聞こえねえ言葉だったんじゃねえの?」

「そ、そんな、僕を人間じゃないみたいに言わなくても……」

「……まあ、精霊様よねえ、あんた」

そ、そうだけど……。

……い、いや、ちょっと待って!

もし本当に、僕にしか、魔王の声が聞こえていなかった、としたら……!

「みんな、あれが魔王だって、気づいていなかったの!?」

「そうね、トウゴ君が言って、今、確証を得たわね」

なんてことだ!

「魔王の宣戦布告は、人間達に届いていない!?」

「そうだな」

あんまりだ!

魔王は折角蘇って、堂々と、人間達に恐ろしい宣戦布告をして……なのに、宣戦布告は伝わっていないし、正体すら分かってもらえていなかったなんて!

人々は魔王を怖がるどころか、そもそも、魔王が魔王であることすら分かっていなかったなんて!

その……魔王が、かわいそうじゃないだろうか!