軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22話:何度でも楽園を*6

「王の護衛の騎士だけじゃあ足りてねえ!加勢するぞ!」

フェイはそう言って、すぐさまレッドドラゴンと火の精達を全員、魔物の群れへ向かわせる。

ラオクレスはアリコーンに乗って真っ直ぐ魔物の群れの中へと突っ込んでいった。

そこで改めて、観察する。

……王家の馬車に乗っているのは、まあ、恐らく、王様。馬車を護衛している王城の騎士の人も数人居るけれど、魔物の数に負けている。

そう。馬車を襲おうとする魔物は、数が多い。

10や20じゃきかない数の魔物が、そこに居る。小さいのから大きいのまで色々だけれど……それぞれが、王の馬車を狙っているみたいだ。王城の騎士の人達は、それをなんとか退けるのに精いっぱいらしい。

けれど、戦況は一変する。何故なら、僕らの石膏像、ラオクレスが突撃していったからだ!

「退け!」

ラオクレスが一声叫びながら魔物の群れにつっこんでいくと、魔物達は気色ばんだのも一瞬、すぐに慌てて道を空けた。

……いや、だって、アリコーンに乗った石膏像だよ。そんなのがすごい速度でつっこんできたら、そりゃあ、退くよ。うっかり轢かれたら大事故だって見ればわかるんだから。

ラオクレスは魔物の群れを分断すると、アリコーンをUターンさせて、すぐにまた、魔物に向かって駆けていく。駆け抜けざまに剣で薙いで、いよいよ馬車に迫ろうとしていた魔物を仕留めた。

「逃げるんなら追わねえぞ!ほら、とっととどっか行っちまえ!」

更に、フェイがレッドドラゴンと火の精達を従えて、魔物の群れの真ん中……馬車のすぐ傍に降り立った。

レッドドラゴンが、ぎゃう、と、吠える。ぎろり、と緋色の目が魔物達を見下ろして、魔物達はそれに怯んだ。

魔物達は、じり、と、馬車から離れる。馬車を守るのは、煌々と明るい火の精達と、力強さの具現みたいなレッドドラゴン。そして仁王立ちしているフェイだ。見て、劣勢を悟ったんだと思う。魔物達は次第に、じりじりと、後退していって……。

……けれど、何か、声みたいなものが聞こえた。

声……いや、音じゃなかったんだけれど、でも、僕は確かにそれを感じ取った。感じ取ると、ぴくり、と思わず反応してしまうような、音ではないけれど空気を伝ってくる何か。そういうものが、空気を走る。

途端、じりじりと後退していた魔物達は、びくり、と身を竦ませて……その場で踏みとどまる。それ以上後退することなく、じっと、フェイ達を見据えて、身構える。

まずい、ということは分かった。フェイの召喚獣達は強いけれど、多勢に無勢、というやつだ。ハッタリと迫力で一旦退けただけの魔物達が、もう一度襲い掛かってきたなら……フェイが危ない。

「お願い!助けて!」

だから僕も加勢する。

鳳凰は既に僕を運んでいるので、まずは管狐に出てきてもらって……更に、つい一昨日仲間になった魔物達にも出てきてもらう。首が3つある犬と、二足歩行の牛と、あと、ハルピュイア。

……彼らは、僕が呼び出してすぐ、王様を襲う魔物達の方へすごい勢いでつっこんでいった。すごい。やる気だ。

すると……敵の動きに乱れがあった。

ぎゃう、とか、ぐるる、とか、そういう魔物達の声が上がる。ちょっと困惑したような声は、きっと……つい一昨日まで仲間だったやつが、森の子になってしまっていることへの困惑、なんだと思う。

そして、そんな困惑を向けられながらも迷いなく、僕の魔物達は馬車を囲む魔物達を蹴散らしていく。そうすると、フェイ達も勢いを取り戻して馬車から魔物を遠ざけ始めるし、ラオクレスも駆け回って、見事に魔物を封じ込めることに成功している。

……そして。

「な、なんだ……一体何なのだ……」

「王様、こんにちは。こっちです」

王様が、大きく化けた管狐に引きずられて、馬車から出てきた。出てきた王様は僕が保護。

「これは一体……?何故、こんな所に魔物が……」

王様を連れてきてくれた管狐を褒めつつ撫でると、管狐は、こん、と元気に鳴いて嬉しそうに僕の袖の中へ潜っていった。やめてやめて。くすぐったいよ。

そうして、王様が無事に保護されたので、僕はそのまま、森の方へ撤退していく。フェイとラオクレスも、残っていた城の騎士の人達を連れて撤退してくる。

森の結界の中まで逃げてしまえば大丈夫だ。魔物が結界には手出しできないっていうのは知ってる。僕は、パニック状態の王様を引きずるようにして結界へ近づいていって……。

ぱっ、と、鮮血が飛ぶ。

僕の頬に生温いものがかかる。

……そして、僕が引きずっていた王様は、首筋を大きく斬り裂かれていた。

影から伸び出た大鎌によって。

「王様!」

「あ……ああ……ああ」

首筋を斬り裂かれて血を流す王様は、呼びかけてみてもうわ言を零しながら意味も無く手足を小さく動かすだけだ。元よりパニックだったからか、もう、真っ当な理性は期待できないみたいだった。

「トウゴ!……くそっ!」

フェイが僕を呼んで、すぐさま、僕のところへ飛んできた。そして、フェイは懐から短剣を取り出すと、それを王様の影に突き立てる。

ぎゅっ、と、悲鳴のような、そういう音が聞こえた。同時に、王様の影から、どろり、とどす黒い血のようなものが流れ出す。な、なんだこれ。

「……逃がしたか」

「フェイ、今のは……」

「分からねえ。多分、前に見た奴と同種のやつだ。魔王の使い、だったか?刺したけど手ごたえがそんなに無かった。多分、まだどっかに居やがる」

フェイは油断なく周りを見回して、それから、ちら、と王様を見た。

……王様は、首筋を斬り裂かれて血を流している。血はどんどん流れていて、このまま放っておいたら危ないっていうことは僕にも分かった。

「とにかくトウゴは国王の傷、治せ!できるか?」

「やってみる」

だから、僕は早速画材を出して、王様を描き始める。傷の無い状態で、血色も良くて……っていう、そういう絵を。

「……くそ、どこから出てきやがる」

僕が絵を描いている間も、フェイはじっと油断なく周りを見回して、さっきの影のやつを警戒している。

やがて僕らに追いついてきたラオクレスも、じりじりと警戒しながら結界に向けて後退し始めた。

そうだ。あと少し。あと少しで、結界だ。結界の中に入ってしまえば、森の子じゃない魔物達はそこでシャットアウトできる。まずは、結界の中に入れればいいんだけれど……。

「うわ、くそ」

今度は、ぱっ、と、フェイの頬から血が飛んだ。フェイは咄嗟に首を傾けて重傷を回避したみたいだけれど、それでも、頬に走った赤い線が僕を動揺させる。

「フェイ」

「トウゴは絵に集中しろ!こっちは大丈夫だ!」

フェイがそう言うから、僕はもう一度、王様の絵に集中する。フェイだって危ないけれど、王様だって、急がなきゃ死んでしまう。王様の命は何としても、僕が繋ぐ。この人が死んでしまったら、悲しむ人が居るから。

……そうして、フェイとラオクレスが戦う中、僕は撤退しながら王様を絵に描いて、首を治す。

なんとか、上手くいった。ちゃんと描けた。よかった。

……ラージュ姫に感謝だ。王様が大福をもぐもぐやっているシーンが無かったら僕、今まで王様をそんなに描かなかっただろうし、そのおかげで今、王様を手早く描いて治すことができた。

「治った!」

「よ、よし!なら撤退だ!」

フェイは影から伸びてくる大鎌を短剣一本でなんとか退けて、慌ててこっちに逃げてくる。火の精とレッドドラゴンが壁になって、フェイが撤退してくるのを助けている。

「殿は俺がやる!お前達は先に行け!」

ラオクレスが城の騎士の人達や、うちの壁の兵士達を逃がしながら、最後尾をやってくる。僕は王様を三つ首の犬に運んでもらって、僕自身は鳳凰に運んでもらってなんとか撤退。

「くそ、あの影から出てくるやつさえ居なけりゃ、どうとでもなるのによお……」

フェイも火の精に運んでもらいつつ、悔しそうにそう言う。まあ、とりあえず撤退できれば十分だと思うけれど……確かに、今後のことも考えるなら、ここで影の大鎌使いはやっつけておいた方がよかった、のかもしれない。

とにかく今は、王様を含めて全員が結界の中へ避難することが先決だ。僕らは全員、どんどん結界の中へ飛び込んで……無事、撤退完了した!

どうやら、僕らは国王暗殺を食い止めることができた、らしい。結界の外では魔物達がこっちに向かってくるのだけれど、僕らはそれをある程度余裕をもって見守って……。

ばちん、と音がして、結界が魔物達を弾く。

弾かれた魔物達は、怯えて逃げていくか、はたまた、震えながらも結界ごしに僕らを見つめて大人しくなってしまうか。大体そんなかんじだ。

「へー。結界に弾かれた奴って、こうなるのかあ」

「フェイ。待って。弾かれようとしないで。駄目だから。フェイは結界に触っても弾かれないんだから」

フェイは結界が作動する様子を見て興味深そうに結界を眺めているけれど、今はそれどころじゃないってば。

「まあ、とりあえずはこれでなんとかなった、か?このまま魔物に囲まれ続けてるとちょっと面倒だけどよ……」

「魔物は結界に触ってくれれば、大体は戦意喪失してくれるみたいだから、それを待てばいいと思う。無理に戦う必要は無いよ」

ひとまずはこれで休憩、っていうことでいいと思うよ。気は抜けないけれど、それだけだ。

あとは森の結界に任せて、魔物達が戦意喪失してくれるのを待つのが一番いいと思う。下手に出ていって怪我をするのもよくない。そもそも、フェイは既に怪我をしているんだよ。

「ねえ、フェイ。ここ、怪我してる」

僕は、ずっと気になっていたフェイの怪我を指摘する。

「ん?ああ……さっき斬られたとこか」

するとフェイは、頬のあたりを触って、それから指にべったりついた血を見て、うげ、と呻いた。

「うわ、今までちょっとぴりぴりするぐらいだったのに、一度意識しちまうと痛くなってくるんだよなあ……」

うん。それ、分かる分かる。怪我って見ると余計に痛くなるんだよ。あと、興奮状態だとそんなに痛くない。僕も、紙で指を切ってしまうこと、よくあるけれど、絵を描いている間は痛くないんだよ。不思議と。描き終わって休憩してると、痛くなってくる。

「治すね」

「おう。悪いな」

フェイの顔ならたくさん描いてきているから、いくらでも描ける。調色もばっちり。

それからフェイだけじゃなくて、他の人達の怪我も治した。皆、軽傷だったみたいで何より。

「それにしても……」

フェイは、治った頬のあたりをハンカチで拭いて血を落としつつ、ちら、と後ろを振り返る。そこには、すっかりぐったりした様子の王様が居る。

「魔物の狙いは、国王、だったのか?」

「狙いの一つではあった、みたいだけれど……」

今回の襲撃、森を襲いに来たっていうよりは、王様を襲いたかったように見える。その位置がたまたま森の近くだった、っていうだけかな。

「国王を殺したかったのか……いや」

フェイはちょっと険しい表情で、ふと、呟いた。

「国王が魔物でなくなった時にも、影から出てきた奴が、居たよな」

うん。居た。

僕が思いだしつつ頷くと……フェイは、言った。

「あいつ……『勇者の血を貰い受ける』って、言ってたよな」

フェイは、結界の外を見る。

攻防があった位置……王様が首を斬り裂かれて出血したあたりだ。

「血……が、目当て、だった、のか?」

フェイにつられて僕もその辺りを見てみる。

……けれど、不思議なことに、そこにはもう、血が落ちていなかった。

土に染み込んでしまったのか、それとも……。

……その時だった。

「……え?」

何か聞こえた気がして、僕は振り返る。けれど、後ろに誰かが居る訳でもない。

「トウゴ?どうした?」

「ううん……何か、聞こえた気がして」

フェイには特に何も聞こえなかったらしくて、首を傾げている。おかしいな、と思いつつ、僕は辺りを見回して……。

「……んっ」

ちり、と、体が痛む。ひりつくような痛みと、それから、熱。

なんだろう、と思う間もなく、熱と痛みはどんどん広がっていく。

「お、おい、トウゴ?」

「わ、わかんない……なんだか、熱くて、痛い」

何がなんだか分からなくて、上手く説明できなくて、ただ僕は、体の異変に困ることしかできない。

フェイもラオクレスも心配してくれるのだけれど、でも、どうしていいのか分からなくて……。

……そして。

『手に入れたぞ。手に入れたぞ!』

今度こそ声が聞こえて、僕は、はっとする。周りの人達には聞こえていないみたいだけれど、魔力敏感肌のフェイは何かがあることに気づいたらしくて、きょろきょろしている。

『今こそ、封印を打ち破る時!』

更に、低く太く、地を揺るがすように声は続いて……同時に。

ぼう、と、背後から、音が聞こえた。

「と、トウゴ!お前、羽が……!」

僕は、フェイの声をどこか遠く聞きながら……振り返って、自分の背中の確かな異変を、確認する。

……羽が、燃えていた。