作品タイトル不明
21話:何度でも楽園を*5
アージェントさんはさて置き、僕らはその日もなかよし魔物ふれあい広場を見て回った。
……2日目ともなれば少し落ち着くかな、と思ったけれど、1日目同様の賑わいぶりで、ソレイラのお祭り共々、人がたくさん居る状態だ。
当然、妖精カフェも満席……だと思ったのだけれど、何故か木の下の一席だけ空いていたので、そこに僕ら4人で入ることにした。
「てぃあーめ……ふぁーたてぃーえ……」
レネは目をきらきらさせて、飛び回る鸞やフェニックス、氷の小鳥達を見上げている。フェニックスがぽふんと火を吹いて粉糖を飴に変えた時なんて、それはそれはものすごい興奮ぶりだった。
タルクさんはというと、表情に出るお方ではないので(そもそも顔どころか手足も見えない人なので……)レネのような興奮ぶりではないのだけれど、それでも、きょろきょろと辺りを見回していたり、鸞2羽が空中でお茶を注ぐパフォーマンスをするのを見てぱちぱちと拍手をしていたり、楽しんでくれているらしかった。
『楽しめていますか?』
聞かなくても分かるけれど、念のため、そう、筆談で聞いてみる。するとレネは、何度も頷いて、『とても素敵です!』と走り書きして見せてくれた。そしてまたすぐ、氷の小鳥達がタルクさんの飲み物の中に氷の結晶を浮かべていったのを見て歓声を上げた。
お楽しみいただけているようで、何よりです!
「あ、今は展示される気分なんだね」
続いて、魔王の展示コーナー。……魔王は気まぐれだし自由だから、展示されていてもすぐどこかに行ってしまうんだよ。昨日はなんだかそこらへんで普通に買い食いして食べ歩きしていた。道行く人々が『あれはなんだろう……』って不思議そうな目で見ていた。
けれど、今の魔王は展示されている気分らしくて、スペースに設置された椅子の上にちょこんと座っている。……ただし、どこで買ってきたのか貰ってきたのか、お菓子の袋を抱えて、それを器用に尻尾でつまんでは食べているけれど。更に、時々それを、近づいてきた人に『まおん!』と鳴きつつ、分けてあげているけれど。
「……まーおう?こにににーわ」
レネは魔王を見てにこにこすると、そう言って魔王をふにふにつついた。魔王はレネのことをちょっと覚えているみたいなので、すぐに懐っこく、まおんまおん、と鳴く。
更に魔王は、お菓子の袋から1つ、クッキーを尻尾で取り出して、それをレネの口にふにふに押し当てる。レネがちょっとびっくりしながらもクッキーを食べると、魔王はまおーんと鳴いてご機嫌だ。美味しいものがあったら誰かに分ける、っていうのが最近の魔王のマイブームらしいよ。
タルクさんも布の端っこを魔王に近づけてコミュニケーションを図っている。
……あ、魔王がタルクさんの端っこでじゃれ始めている。タルクさんの布は魔王にとって、猫じゃらしみたいなものなのかもしれない。
それから一緒にふわふわ試着コーナーでふわふわを着て「ふりゃー!」とのお言葉を頂いたり、馬の広場で馬と戯れていたら、『もうこの子が男でもいいや!』と割り切ったらしい一角獣がレネを角で掬い上げて乗せて、悠々と歩きだすのを見て周りの人達から歓声が上がったり。(一角獣も天馬も、基本的には人を乗せないから、人を乗せるのは多分、なかよし魔物ふれあい広場では初めてなんじゃないかな。)
……あと、今日も、骨と鎧の騎士団はラオクレスとの手合わせを公開することにしたらしい。
皆で骨と鎧の騎士団の剣舞を鑑賞して拍手していると、がしゃどくろがラオクレスを引っ張ってステージ上に連れていく。
「まあ待て。折角だ。お客人にもご参加いただこうじゃないか」
けれど、二度目ともなるとラオクレスもちょっと余裕が出てきたらしくて、にやりと笑うとすぐ、タルクさんを手招きした。
「ここの騎士達は、中々強い。楽しめるぞ」
そしてそんなことを言う。うわあ、格好いい……。
僕がラオクレスの言葉を書いてレネに見せて、レネがそれをタルクさんに伝える。……するとタルクさんは一つ頷いて……ひらり、と。文字通り、本当に、ひらり、という言葉が相応しい様子で、ステージ上に降り立った!
多分、観客の皆さんからは、タルクさんも『一風変わった魔物』だと思われてるんじゃないかな、と思う。だって、透明人間か布かよく分からない人だし。……昼の国の人達の多くは、夜の国の人達を知らない。魔物と同じに見えると思う。
……だから、これから夜の国と交流を広げていこうとするなら、こうやって魔物への抵抗をなくしてもらう催しって必要だったなあ、と、気づかされる。
尤も、僕がそんなことを考えている間にも、そんなことを考えていないであろう騎士達の試合は始まっていて、2対多数の戦いが繰り広げられていた。
……見ごたえがある。すごく。
骨と鎧の騎士団の、ある程度人間の形をしていながらも繰り出される、全く人間らしからぬ動き。
タルクさんの、人間離れしたひらひら感の中から鋭く剣が振り抜かれる、緩急溢れる動き。
そしてラオクレスの、人間の、人間たる美しさと力強さを目いっぱい詰め込んだような、堂々とした動き!
これらが全部、ステージ上で目まぐるしく繰り広げられる。……これが楽しくない訳が無い!
最終的には、ラオクレスが一本貰ってしまっていたけれど、タルクさんは上手く立ち回って無傷。とにかく綺麗な試合だったから、最後の骨と鎧の騎士の剣をタルクさんが弾いた後、観客の盛り上がりはすさまじかった。いやあ、いいもの見たなあ。
……と、いうように、なかよし魔物ふれあい広場を見て回って、その後はソレイラの町の南側で行われているお祭りも覗いて、レネと一緒に買い食いしてみて……。
そうして1日、楽しんだ。僕、お祭り2日目だったのだけれど、1日目同様、楽しめてしまった……。
すっかり楽しんだら、レネは僕の家に泊まっていく。タルクさんはいつも通り、ラオクレスの家に泊まるみたいだ。タルクさん、どこから出したのか、夜の国のお酒らしいものの瓶を抱えて、意気揚々とラオクレスの家に向かって行った。飲む気なんだろうなあ。
僕とレネは僕の家で順番にお風呂に入って、寝間着は僕のを貸して、それで……ええと、同じベッドで寝ることになった。
……いや、抵抗が無い訳じゃないんだけれど。でも、レネはこういうもんかな、と、思ってしまっている、というか、レネと一緒のベッドで寝るのを恥ずかしがるのは今更だよな、というか……。
「とうごー」
そして、僕がどう思っていようが関係なく、レネは、するんと僕のベッドに潜り込む。
「んっ……レネ、ちょっとひんやりするね」
「ひにゃり?」
「うん。ひんやり」
夏場だし、一緒に寝てたら暑いだろうなあ、と思っていたのだけれど、案外、そうでもなかった。レネはちょっとひんやりと感じるぐらいの温度で、触り心地がいい。くっつかれた最初だけ、ちょっとびっくりしたけれど。
「あの、レネ、大丈夫?僕とくっついていて暑くない?」
「みゅー?ふりゃー!」
……そしてレネはレネで、僕とくっついていると『ふりゃー』らしいので、まあいいか、と思うことにした。
それぞれ、いい具合の温度、かつ、いい具合の温度好みでよかったなあ。
朝起きて、僕とレネは2人まとめて管狐と鳳凰にくすぐられて起きて、朝食を摂って、それから……ラオクレスの家に向かった。
いつもならラオクレス、起きている時間なので、こんこんとドアをノックしてみる。……返事が無い。
ちょっと不安になりつつ、どんどん、とノックをしてみると……今度は気配が動いた。
「今出る!」
「あ、はーい。ごゆっくり」
ラオクレスの声が聞こえてほっとしている間にも、中でちょっとばたばたした音がして、そして。
「……すまん。今起きた」
「……珍しいね」
寝起きの、なんとなく無防備で隙だらけのラオクレスが出てきた。う、うわあ……描こう。
「たるくー?」
そしてタルクさんはタルクさんで、レネの呼びかけに慌てて出てきたらしくて、なんかこう、布がよれよれしている。それを見てレネが笑っている!
「夜の国の酒というのは、強いな……。いや、俺にとって強すぎた、というだけだったのかもしれないが。タルクはタルクで、昼の国の酒でああなった」
「成程……」
僕はラオクレスとタルクさんを描きながら、一つ勉強。どうやら、僕、夜の国のお酒は飲まない方が良さそうだぞ、と。あ、でも、レネには昼の国のお酒を飲ませてみたい……い、いや、そういうこと、考えちゃ駄目だよな。うん……。
「あらおはよう。ちょっとお寝坊さんだったかしら?」
「うん。ラオクレスがね」
身だしなみを整えたラオクレス達と一緒に、まずは本部へ。こちらは今日も完璧なクロアさんがくすくす笑いながら出迎えてくれた。
「ラオクレスが?珍しい」
「……お前も夜の国の酒を飲んでみれば分かる。あれはほとんど睡眠薬だ」
「へえ。なら今度、試させてもらおうかしらね」
ラオクレスは苦り切った顔で、クロアさんは余裕の表情だ。……なんとなく勝手なイメージだけれど、クロアさん、睡眠薬を使っても眠らないような気がする。うん、いや、あくまでもイメージだけどさ。
「ところで、トウゴ君。結界に異常は無い?」
そしてクロアさんは、そんなことを聞いてきた。
「うん。特には。……何かあった?」
「いえ……昨日、アージェントがこの辺りをうろついていたでしょう?フェイ君からも目撃情報が来たのよ。……ね?」
クロアさんが後ろを振り返りつつそう言うと……フェイが奥から出てきた。
「あれ、フェイ。どうしたの?」
「ん、いやあ、昨日、祭りと仲良し魔物ふれあい広場を見物に来てたんだけどよ、そこでアージェントがうろついてんの見つけたから……ちょっと心配になって、今日は朝からこっちに来てる」
そっか。フェイもアージェントさんを見た、っていうことは……ええと、僕らがお祭りを見ているあたりの時間だろうか。そっか。アージェントさん、まだうろうろしてたか。
「何か目的があったのかな」
「そうだなー……うーん、確かなことは何も言えないけどよ。まあ、警戒は必要だよな」
うん。それは分かるよ。今のアージェント家には、気を付けないといけない。王家を狙っているとは言っても、王家と仲良くしている貴族連合を襲わない理由にはならないから。
「それからさ、アージェントが入り込んでる、っていうのは、森の結界としてはどうなんだ、と思って」
「あ、うん。それは仕様」
続いて、結界の説明。ええと、僕が分かる範囲で、だけれど。
「魔物は弾くようにしているけれど、その、人間は……よっぽど酷いことをしようとしている、とかでもない限り、弾かないようになってると思う」
「それは……いいのかあ?」
「いいというか、しょうがない、というか。ほら、だって、何一つとして悪いことを考えていない人って少ないし、どこで線引きしたらいいのかも難しいし。それに、人間なら、何か問題を起こした時には騎士達が対処できるかな、と思って」
「まあ……それもそうか。うん。そうだなあ……」
森の結界って、結構、フィルタリングが難しい。人を通さないように、とか、特定の人以外を通さないように、とか、森の魔物以外の魔物を通さないように、とかは結構何とかなるのだけれど、人の思考でフィルタを掛けるのは、相当難しい、というか、エラーがものすごく起きる、というか。
ほら、人の考えって千差万別で、しかも複雑で、線引きが難しいからじゃないかな、と思う。魔物は、『森の魔力を持つ魔物』だけを通すようになっているんだと思うんだけれど、人間だとそうはいかない。都会派の人だって悪い人ばかりじゃないし。
「だから、アージェントさんがうろうろしているのは、仕様です。逆に、ルギュロスさんはもう魔物になっているみたいだから、森の結界で弾いたみたいだけれど」
「成程な。……逆に言うと、アージェントはまだ人間、ってことか」
そうだね。そういうことになる。
……さらに言うと、ルギュロスさんはもう魔物、っていうことでもある。
「まあ、そういうことならいいわ。結界は無事。アージェントが潜り込むのは、彼が人間である以上仕方ない。ルギュロスは通さない。後は、騎士団達で存分に警戒しておきましょう」
そこで、ぱん、と手を打って、クロアさんがそう締めた。
そうだね。ひとまず、アージェントさんについてはこれで。というか、これ以上はどうしようもない、というか。
「警戒は続けましょうね。ルギュロスは確実に、森を襲いに来たんだわ。それが、結界で弾かれてしまって、断念せざるを得なかった。……けれど、2度目の挑戦を諦めるかどうかは、また別の話よ」
「うん」
……正直なところ、どうしてルギュロスさんが森を狙いに来たのかは、分からないんだよ。
確かにソレイラはレッドガルド領で、レッドガルドは貴族連合のリーダー的存在で、そして、貴族連合は王家と和平関係を結んでいるから、だから、王家を潰して所領や権力を得ようとしているアージェント家としては、確かに、ソレイラは敵なんだろう。
……けれどそれだったら、レッドガルドの町だって襲う意味があるし、何なら、オースカイアでもジオレンでも、貴族連合の土地はどこでも襲えると思うんだ。
というかそもそも、貴族連合を襲うぐらいなら、王家の直轄領を襲いに行った方が良いと思うんだよ。それが、どうして、ソレイラを……?
ソレイラに何かある、んだろうなあ、とは、思う。
結界装置はあるし、精霊も、まあ、一応居るし。王様だって、ソレイラを滅ぼすように、魔王の使いから言われていたらしいし。
ただ……それにしたって、どうして、とも、思う。
ソレイラをすぐにどうこうしなきゃいけないならまだしも、そうでないのなら、ソレイラを今すぐに狙わなきゃいけない理由は無いはずだ。それこそ、王家を滅ぼして、国を乗っ取ってからの方がいいんじゃないかな、と、思うのだけれど……。
うーん……ルギュロスさんが何を思ってソレイラに来たのかが、分からない……。
その日は妖精達のダンスがあったのでそれを鑑賞して、ラオクレスがアリコーンに乗って流鏑馬の剣バージョンみたいなことをやるのを鑑賞して、お祭りの様子をひたすら描いて、レネが魔王とつつき合いをしているのを描いて、騎士達の警邏の様子を描いて、フェイがレッドドラゴンを出して空を飛んでみせているのを描いて、本部の受付嬢になっているクロアさんを描いて、妖精カフェで裏方に徹していたライラを描いて……とりあえず、色々描いた。
「……描いたな」
「うん」
そうして、辺りは夕暮れてきて、その頃には僕のスケッチブックはお祭りの絵でいっぱいになっていた。満足。
「まあ、見て回った限りでは、変なモンは無かったよなあ……」
「積み荷まで確認したが、不審物は無かったな」
そして、警戒も続けていたのだけれど、そちらも問題なし。平和だ……。
……と、思っていたら。
「トウゴー!」
妖精カフェから、リアンがすごい勢いで駆けてきた。
「手紙!」
そして、リアンが手渡してくれたのは……手紙、というか、メモ書き、みたいだ。
薄紫の上品な便箋に、綺麗な文字で、でも走り書きしたんだろう文字が並んでいる。
『父が、そちらへ向かったようです。ご迷惑をおかけしなければ良いのですが。追伸、ふにふにまおーん!』
……その下には、今日の日付と朝の時刻、ラージュ姫のサインがあった。
「……ふにふにまおーん、とは」
「ああ、それ、ラージュ姫と取り決めしておいたんだよ。手紙が本物だっていう証明のために合言葉を書いてくれ、って言っておいた。合言葉はアンジェが決めた」
……そっか。何も言うまい。リアンがしっかり者で僕は嬉しいし、アンジェが魔王と仲良しみたいで僕は嬉しい。うん。
「えーと……国王がこっち来てる、って?」
「今朝のことらしいな。ということは、早ければ今晩にも到着するか」
「そっかー……来るなって言っておいたのによお……」
フェイもラオクレスも、苦い顔をしている。
ええと……王様には、言ってあったんだよ。『王家が繋がっていることになると何かと厄介なので、来ないでください』って。だからラージュ姫もオーレウス王子も、なかよし魔物ふれあい広場には来ていない。
「それでも……来るんだなあ、あの王様はよお……」
……そして、王様は我慢できなかったのか、それとも何か考えがあったのか、こっちに来ている、と。困った王様だ。
「どうしよう。大福、用意しておいた方が良い?」
「そうだなあ……大福よりも兵士とかが必要かもなあ……」
「ふく?らいふく?」
「うん。大福。レネも食べる?」
王様が来るなら準備とかが必要だろうか、とか、色々と考え始めて、僕は早速、大福を描くべく、画材を取り出して……。
そんな時だった。
「至急、応援を頼む!町の外で魔物が暴れてる!」
そんな声が聞こえてきたので、僕らは慌てて、町の外へと向かう。
町を抜けて、森を抜けて……壁を飛び越えて結界を抜けたら、そこには。
「ほーら言わんこっちゃねえーっ!」
……ソレイラからほど近い位置。王家の印のついた馬車が、魔物に襲われている光景があった。
あああ……!