軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話:安心と信頼の*5

「……俺に勲章、とは」

「嫌かな?」

「いや、名誉なことだとは、思っている、が……何故」

ラオクレスはすごい。混乱していても、ちゃんと喋る。えらい。

「まあ……至極端的に言ってしまえば、罠を張るためだ」

そして、容赦なく、更にラオクレスを混乱させる言葉がやってきた!

「このままにしておくと、アージェントがどこを襲い始めるか分からん。もし敵がアージェント以外の何者かなら、尚更だ。なら、こちらでその機会を用意してやってもよいのではないか、ということで、昨夜、貴族連合と合意してな」

あ、夜の間も会議してたんだ。お疲れ様です。

「そこで、まあ……ただ『ルギュロス・ゼイル・アージェントが国王を害そうとしたため収監中である』と発表するだけでは華が無いのでな。折角、国民の心持も明るくなったところだ。何か、華やかな話題も1つ添えたい、ということになって……」

「だとしても、何故、俺が。……昨日の事件で働いたことについて勲章を、というのなら、俺ではなくフェイや、或いは……ラージュ姫でもいいはずだ」

ラオクレスはちょっと逃げ腰だ。ちょっと面白い。

「いや、何。ラージュを英雄の位置に据えるには、無理があると踏んだのでな」

そんなラオクレスの質問は、あっさりと否定されてしまった。

「王家が開いた集会で、王家の兵士が人々を襲った。原因は鎧の魔物だと分かったとしても、王家への不信感はぬぐい切れないだろう。そんな中で、王家の人間を『英雄』として褒め称えるわけにはいかない。そんなことをしては、『王家の人間の評判を上げるために仕組まれた茶番劇なのではないか』と疑われるだろう。フェイ・ブラード・レッドガルド氏についても同じことだ。貴族の印象を良くするためと謗られかねん」

成程。ちょっと嬉しいニュースも欲しいけれど、王家や貴族連合に関わる嬉しいニュースだと、王都の人々にとってちょっと遠い出来事だから、っていうことか。

その点、ラオクレスはゴルダで大人気だし、ゴルダは特に貴族連合に入っていないし、そして何より、ラオクレスは昨日の事件で誰よりも輝いていた!『英雄』として称えるのにぴったりだ!

「如何だろうか。無論、無理にとは言わないが……王都に明るい話題を齎すためにも、是非、受けてくれると嬉しい。貴君はゴルダの英雄としても名高いらしい。そのような人物に勲章を贈れるのなら、私としても誇らしく思う」

オーレウス王子がそう言うけれど、ラオクレスは相変わらず、遠慮がちというか、困惑しているというか……そういう様子だ。

あと、顔が渋い。ものすごく渋い顔だ。……僕には分かる。というか、フェイにもクロアさんにもライラにももうバレていると思うけれど、ラオクレスのこの顔は、『照れています』っていうことなんだよ。

僕がわくわくしつつラオクレスを見つめてみたところ、ふい、と、あからさまに目を逸らされてしまった。けれどラオクレスが目を逸らした先には、やっぱりわくわく顔のライラとクロアさんが居るんだよ。

「ま、そういうことだってよ、ラオクレス」

更に、ラオクレスの肩にフェイが腕を回す。思いっきりにやにやしつつ。

「折角だし貰っとけ貰っとけ!勲章の授与があれば王都の民の、王都に対する印象は明るくなる。王家が貴族でもなんでもない騎士を表彰すれば、民衆の覚えもいいはずだ。つまりこれは、多くの人を助けるためなんだぜ?そして、多くの人を救う英雄の役に正にぴったりの人物像!お前が受けなきゃ誰が受ける!?」

フェイがそう言うと、ラオクレスはますます渋い顔になる。照れてる照れてる。

「……英雄なんて、柄じゃないが」

「かもな。でもまあ、ラオクレスはゴルダの英雄であり、森の騎士でもあるんだろ?なら、森の騎士団の評判向上のためにも、勲章の授与は悪くねえとおもうけどなあ。それに、トウゴ守るのにも箔はあった方がいいだろ?な?」

フェイはそう言ってにやにやにまにま、ラオクレスを見つめる。

……そして。

「……まあ、そういうことなら」

ラオクレスはため息を吐きつつ、ものすごく渋い顔をして……遂に頷いた!

そうして、ラオクレスの勲章授与の計画が始まった。

これはもう、王家の人達と貴族連合の人達が話し合って決めることだから、僕らの出番はない。ただ、そわそわするラオクレスを描いて記録しておくことぐらいしかすることが無い!

「……ってことで、式典の日程は『ちょっと間を置きつつ、そんなに離れないように』ってことらしいぜ。限度いっぱいまで王都の民の意識を引っ張りつつ、飽きたり忘れたりしないぐらいの日程で勲章授与式を実施、って方針だ」

「うん」

「ついでに数名、王都の技師や職人にも勲章を贈るらしいぜ。そうした方が王都が盛り上がるだろう、ってことだってさ」

「うん」

「ま、国王は反対してるらしいけどな。『そんなに勲章を授与したら勲章の価値が下がる!』だってよ。いいじゃんなあ、勿体ぶって生まれる価値なんざ、捨てちまえば……」

「うん」

「……トウゴ、お前、絵、描くの、飽きねえなあ」

「うん」

……フェイは気晴らしがてら、僕の所に来て話していってくれるし、それを聞いていないわけではないのだけれど……やっぱり、絵を描くのに夢中なんだよ、僕は。

「今描いてるの、こないだのダンスパーティのやつか」

「うん」

今描いているのは、魔物と人間たっぷりのダンスパーティの絵だ。平和で楽しいあのダンスパーティのスケッチがたくさん残っていたから、それをうまく描き起こして、1枚の絵にしているところ。ちゃんと仕上げて画廊に飾りたいんだ。

「……いいじゃねえか。柔らかくって、優しいかんじで。魔物っぽくねえ雰囲気がすごくいい」

「……うん」

絵は、水彩で描いてる。夜のダンスパーティの絵だから、しっとりと艶のある油絵がいいかな、とも思ったのだけれど……シャンデリアの光を増幅させて、窓の外の夜空にはたっぷりの星を配して、全体的に明るくて柔らかい、光源たっぷりの絵にしてみた。だから、全体的に明るくて、滲んで、ふわふわしている。

……『魔物っぽくない』絵にしたかったんだ。優しくて賑やかで柔らかい絵にしたかった。

だって、この場で踊っていた魔物って、そういうやつらだったから。

「……よし。あとは完全に乾くまで、ちょっと休憩」

「お。休憩か!なら散歩でも……」

「いや、もう一枚の方を描くので」

「……お前、本当に、飽きねえなあ……」

そしてダンスパーティの絵を描き終わったら、そわそわラオクレスの絵を描き始める。同時進行でやると、一度にたくさんの絵が描けるんだよ。うーん、あとは、羽だけじゃなくて、目ももう1対あったら、本当に同時に2枚の絵が描けそうなのに……。

「あと、この絵は完成しても画廊に飾ってやるなよ?」

「駄目だろうか」

「そわそわしてるラオクレスの絵なんて飾ったらラオクレスがなんか不憫だろうが!」

そうか。駄目か。じゃあ画廊に飾るのはやめておこう……。

……その代わりこっそり、僕の家の二階に飾ろう。スペースが無かったらクロアさんの家の壁をお借りしよう。そうしよう。

それから2日、僕らは王城にお邪魔していた。ご飯が3度、キッチリした時間に出てくるものだから、その……絵を描いていてもタイミングが悪くても、問答無用で絵を中断するしかなくて、そういう点は、絵を描くのに不向きな環境だった。

けれど、王城には珍しいものがたくさんあったし、やっぱり、大広間の壁画は何から何まで勉強になるし……差し引きでプラスになるくらいには、王城は絵を描くのにいい環境だったと思うよ。

「トウゴー!お帰りなさーい!」

そうして、ちょっと久しぶりに森へ帰った。すると、カーネリアちゃんがフェニックス諸共飛びついてきて、危うく転ぶところだった。

危なかった。羽を出してバサバサやってバランスを取っていなかったら、転んでいた。そしてきっと、僕の後ろにそれとなく待機していた馬に受け止められて、そのまま馬転がしされるところだったに違いない。危ない危ない。

「結構長かったな」

「あ、うん。ごめんね、リアン。結構長く空けてしまった」

僕らが王城に居た間、リアンとアンジェとカーネリアちゃんを森に残していたから、ちょっと心配だったんだけれど……。

「いや、別にいいよ。俺達だって生活していくくらいできるし」

リアンはちょっと、ご機嫌だ。

……うん?

「えーと、3人は、インターリアさんのところに居たのでは……?」

確か、僕らが留守にする間、子供達はマーセンさんとインターリアさんのところに居ることになっていた、はず、なのだけれど……。

「あら、駄目よ!しんこんさんのお邪魔はしちゃ駄目なんだわ!『自分のけつは自分でふけ』なのよ!子供だからって、お世話になりっぱなしじゃいけないわ!」

カーネリアちゃんは堂々と、そう言って胸を張る。その言葉、どこで覚えてきたんだろう……。

「……ってことで、俺達3人、俺達の家で暮らしてた。案外、なんとかなったよ」

……どうやら、カーネリアちゃんの断固拒否によって、3人は3人だけで生活していたらしい。そうかあ、それでリアンは、ちょっとご機嫌だったのか。色々なことを自分達でやれるっていうのは楽しいだろうし、何より、カーネリアちゃんも一緒だったみたいだし……。

「大丈夫?あなた達、ちゃんとご飯は食べたの?」

「大丈夫よ!私だって、お芋を茹でたり、オムレツを焼いたりするくらいできるんだから!パンやチーズやハムを切るのは、リアンがやってくれたわ!」

「トウゴおにいちゃん!私、サンドイッチ作れるようになったよ!」

「或いは、町に買い物に行くペガサスについでに何か買ってきてもらうこともできるし。それに、風呂も自分達で沸かせるし、洗濯だって自分達でできるんだからな」

どうやら、子供達は子供達で、いつの間にか随分と逞しくなっていたらしい。そっか。彼らだって、成長するんだもんなあ。

「……な、なんで頭撫でるんだよ」

「なでなでしてくれるの?わあい」

「くすぐったいわ!トウゴ!羽で撫でられたらくすぐったいわ!」

……思わず撫でてしまった。子供は成長が早い。すぐに色々なことができるようになって、すぐに大きくなっていくんだなあ、と思ったら、なんだか、こう、感慨深くて……。

それから数日、僕らは森でのんびり過ごした。

久しぶりに馬を洗濯してみたり、そのついでに馬達に羽を食べられそうになったり。(目の前で揺れている柔らかそうな葉っぱっぽいものがあったら食べてみたくなるらしいよ、彼ら。)

もうすっかり夏の陽気になって暑くなってきたからもう大丈夫だろうと思って森の遺跡の方へ行ってみたら、予想外なことに、この暑さにもかかわらず、鳥の子達におしくら鳥饅頭されてものすごく汗をかいたり。

あまりにも汗をかいたのでそのまま水晶の湖に行って水遊びしていたら、龍にいつにない勢いでいじめられたり。……龍は、僕が羽が生えた報告に来なかったことで拗ねているらしいよ。でも、だからっていつもいつも、こういうことしてこなくってもいいんじゃないかな……。

僕はそのまま、龍の機嫌を良くするために一晩一緒に過ごすことにして、浴衣一枚で足だけ水に浸けつつ絵を描きつつ、龍を背もたれにさせてもらったり(龍はこれがお気に入りらしくて、これをやると何故か機嫌がよくなる。)、町で買ってきたお酒を水晶の盃に入れて提供してみたり、悠々とお酒を楽しむ龍を描いてみたり。

たくさん描けて満足。

他にも、森の比較的外側の方の生き物達の様子も見てきた。春に生まれたばかりの兎の子達を抱かせてもらったり、鹿の角の生え代わって抜け落ちたやつをプレゼントしてもらったり。

僕が森の精霊だからだと思うのだけれど、こういう野生の動物達は、僕を怖がらない。なので僕は存分に彼らの様子を眺めることができて……。

「捗る」

「そうね。捗るわ。……あんたの隣に居ると、普通だったら観察できないものまで観察できちゃうのよね」

僕とライラの絵が、捗った。いや、依頼で『動物の絵』っていうのがあったからさ。うちの馬達や鳥や龍も動物なんだけれど、もうちょっと素朴なやつの方がいいかと思って、兎とか鹿とかを描くことにしたんだよ。彼ら、僕に対しては警戒心が無いし、僕が連れてきたライラについてもそんなに警戒しないから、描きやすいんだ。

兎と鹿の絵を描いて依頼の絵を完成させてしまって、眠くなってその場で昼寝していたら、いつの間にか僕の周りに兎達が寄ってきて一緒に昼寝していたし、その様子をライラに描かれていた。……ライラぁ。

「あ、もうちょっとそのまま。あと5分だけ!あと5分だけ!」

まあ、描く人として、僕もライラの気持ちは分からないでもない(分からないことも多いけれど)ので、諦めてそのまま、動かずにいる。

「……ライラ。僕、暇なんだけど」

「もうちょっとだけだから!あ、そうだ!じゃあ話し相手になるからさ!だからもうちょっと!」

抗議してみたら、ものすごく必死な声でそう言われてしまったので、やっぱり諦めて動かない方針で行こうと思う……。しょうがないから、僕のお腹にすりすりやりながらすっかり安心しきって眠っている子兎を眺めていることにした。毛の流れとか、実際に見ないと今一つ分からないものもあるから、こういう観察は無駄にならない。

「ねえ、トウゴ。ちょっと聞きたいんだけどさ」

有言実行。ライラは話し相手になる、と言ったのを早速守ってくれるらしい。兎達を起こさない程度の声量で、話しかけてきた。

「あんたって、森のこと、森から離れてても分かるの?」

「あ、うん。ある程度は」

ライラの素朴な疑問に答えると、ライラは、ふうん、と言いながら、首を傾げる。

「それって、どういうことが分かるの?」

「ちょっと東側の木が元気ないな、とか、ソレイラに新しく引っ越してきた人が居るな、とか、今日のお供えも美味しそうだな、とか、兎の一家に子供が生まれたな、とか。壁の近くの木苺が町の子供達に採り尽くされてるな、とか、今一本木が切り倒された気がする、とか……そういうかんじ」

一例をざっと挙げると、ライラは……複雑そうな顔で、言った。

「……ってことは、私が落ち葉焼いたりしてるのも、分かるの?」

「あ、うん。ちょっと熱いなって」

「熱いの!?」

「い、いや、あくまでそういう気分になる、っていうだけだけどさ」

ライラが慄いてつい大きな声を上げてしまったものだから、僕の周りで寝ていた兎達はびっくりして、飛び起きてしまった。大丈夫だよ、という気持ちで撫でていると、その内落ち着いたみたいでまた元の位置に戻ってきたけれど。

「……っていうことは、その、これから森で煮炊きとかしない方がいい?」

「ううん。森に火を放つとか、そういう話になってきたら別だけれど、そうじゃなかったら大丈夫だよ。大体は僕がちゃんと感覚を切り離せばいいだけだし」

以前、竜王様率いる部隊が森の町を襲った時。あの時は、結界と自分が繋がっているような感覚だったけれど、今はちゃんと切り離せるから大丈夫。結界を殴られても痛くないし、森の中で焚火があっても熱くない。

「ふーん……なんか、あんたって大変よねえ……」

「うん。全くだよ。昼寝してたらモチーフにされてるしさ……」

「それはごめんって!ほら、もう終わったから!動いていいわよ!」

ライラのお許しが出たので、やっと動ける。よいしょ。

「……まあ、だから、楽しいよ」

「へ?」

改めて座り直しながら、ライラにそう言ってみると、ライラがきょとん、とする。

「森の中や森の町で、人間やその他多くの生き物達が生きて暮らしているのをぼんやり感じながら過ごすのって、案外悪くないんだよ。寂しくないけれど静かなんだ。それに、この森は優しい生き物でいっぱいだし。そういう生き物達だけで、のんびり優しく生きていけるのって、すごく幸福なことだと思う」

風にさわさわ木の枝葉が揺れて、それがなんとなく気持ちいい。風をいっぱい浴びて伸びをすると、昼寝で少し火照っていた体がすっと冷えて丁度いい。

「……なんていうか、あんたってさ、人間離れするの、嫌がってなかったっけ?」

そうしたら、ライラにそんなことを言われてしまった!

「まあ、森っぽくなるのは嫌だけどさ……え?これ、森っぽいの?」

「ま、いいんじゃない?視野が広いってのは大人になるってことだと思ってるし。あんたの場合、視野が広すぎる気もするけどさ」

「え?森っぽい?また僕、森っぽくなってる?ねえ」

ちょ、ちょっと待ってちょっと待って。ふんふん鼻歌を歌いながら家の方へ帰っていくライラを追いかけつつ、僕は、『僕って森っぽいのか否か』を聞くことにした。

……結果として、『精霊っぽい』と言われてしまったけれど。

何なんだ、精霊っぽい、とは。

そして、翌日。

「おーい、トウゴー」

レッドドラゴンに乗ったフェイが、やってくる。それを見て、ひたすら薪割りしていたラオクレスは、ちょっとそわそわが増した顔になる。

「勲章の授与式の日程、決まったぞ!」

僕の横で、ラオクレスがそわそわしている。そわそわラオクレスだ。こんなそわそわ具合も、最近ではすっかり見慣れてしまった。ラオクレスはずっとそわそわしているんだよ。

「一週間後!王都の広場で!……ってことで、まず間違いなく誰かが何かを仕掛けてきそうだけどよ。出席、してくれるか?」

フェイが差し出してきた封筒は2通。

1通は、ラオクレス宛のもの。そしてもう1通は、僕宛てだ。

なんでも、来賓として、僕に出席してほしい、っていうことらしい。少し緊張する。けれど……。

「出席するよ」

「おお!そう言ってくれると思ってたぜ!」

当然、出席するよ。だって……。

「なにせラオクレスが目立つ絶好の機会だもんな!」

「うん!」

「おい、トウゴ。フェイ。いい加減揶揄うのはやめろ」

折角のラオクレスの晴れ舞台だ!特等席で見せてもらって、描きたい!絶対に描く!